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2017年05月23日

印刷会社が印刷用データを無断で利用できないとされた事案

 原告は,被告らが,原告が原告書籍を出版した際に製作された本件印刷用データ(写真データ)を使用して,被告書籍を印刷・製本し,出版したと主張して,被告らに対し,(1)主位的請求として,本件印刷用データの無断使用が,同データに係る所有権の侵害に当たると主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき, (2)予備的請求1として,原告は,原告書籍の出版の際,被告印刷会社との間で,本件印刷用データを原告以外の出版社の出版物の印刷・製本に使用する場合は,原告の許諾を得た上で当該出版社が原告に使用料を支払うこととする旨の本件合意をしたところ,同データの無断使用が本件合意に違反すると主張して,債務不履行による損害賠償請求権に基づき,(3)予備的請求2として,原告は,被告印刷会社が,被告書籍のために本件印刷用データを再利用する場合に原告の許諾を得た上で使用料を支払う旨の不文律に違反して,同データの無断使用をしたことが不法行為を構成すると主張して損害賠償請求を行ったことに対し,被告らは,本件印刷用データに係る原告の所有権,本件合意の存在,慣習法上・条理上の義務又は不文律の存在について争うとともに,抗弁として,写真データの使用について,原告が許諾した旨及び著作権法32条1項が類推適用される旨を主張した事案である。

 大阪地裁第26民事部(平成29年1月12日)は,まず,「本件印刷用データは,原告書籍の印刷・製本のために作成された中間生成物であり,原告と被告印刷会社との間に特段の合意はなされておらず,その使用・収益・処分権は,被告印刷会社に帰属すると認められる」とした上で上記(1)に関する請求を否定した。

 次に,上記(2)につき,「このようなアンケート調査の結果からすると,一般に,印刷・製本契約を締結した出版社と印刷業者との間では,印刷業者は,出版社の許諾を得ない限り,印刷用データの再利用をすることができないとの商慣行が存在していると認めるのが相当である。」「原告と被告印刷会社との間の原告書籍に関する印刷・製本契約では,上記の商慣行にのっとり,被告印刷会社は,原告の許諾を得ない限り,本件印刷用データの再利用をすることができないとの黙示の合意がされたと認めるのが相当であり,そうでないとしても,被告印刷会社は,印刷・製本契約に付随して,原告の許諾を得ない限り,本件印刷用データの再利用をすることができないとの義務を信義則上負うと解するのが相当である。」

 そして,被告出版社についても,「被告印刷会社に本件写真データを使用して被告書籍の印刷・製本をさせた被告出版社の行為は,原告が被告印刷会社に対して有する債権侵害としての不法行為を構成すると認められ,被告出版社は,原告に生じた損害について,不法行為による損害賠償責任を負う。」とした。

 本判決は,被告印刷会社は,「原告に無断で本件写真データを使用したことにつき,原告に対して債務不履行による損害賠償責任を負い(予備的請求1),また,被告出版社は,上記の債務不履行に加担したことにつき,原告に対して不法行為による損害賠償責任を負い(予備的請求1)」と判断したものであるが,原告と被告印刷会社との間で詳細な契約書や明確な合意が存在しなかったため,その当事者間の合意をどう認定するか難しい事案であったと思われるが、日本書籍出版協会の会員社に対するアンケート等に基づき,商慣習ないし黙示の合意が存在したと認定したものであり,注目に値する。

2017年02月02日

犯罪歴に関する投稿記事削除請求事件

 最高裁(平成29年2月1日)は、「事業者が,ある者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは,当該事実の性質及び内容,当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である」という利益衡量論(一般論)を示した上で、本件事案につき、「児童買春をしたとの被疑事実に基づき逮捕されたという本件事実は,他人にみだりに知られたくない抗告人のプライバシーに属する事実であるものではあるが,児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており,社会的に強い非難の対象とされ,罰則をもって禁止されていることに照らし,今なお公共の利害に関する事項であるといえる。また,本件検索結果は抗告人の居住する県の名称及び抗告人の氏名を条件とした場合の検索結果の一部であることなどからすると,本件事実が伝達される範囲はある程度限られたものであるといえる。以上の諸事情に照らすと,抗告人が妻子と共に生活し,前記1(1)の罰金刑に処せられた後は一定期間犯罪を犯すことなく民間企業で稼働していることがうかがわれることなどの事情を考慮しても,本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない。」と判示した。

 利益衡量論(一般論)に関する部分は至極当然のことであり妥当なものであると言えるが、将来的な削除基準を具体的に示しているとは言えない。本件事案は性的犯罪に関する情報であるという特殊性があり、性的被害からの防衛という社会的要請という観点から考えると公益性が相当高いと言え、この性的犯罪に関する情報である点が一定程度重視されたことは間違いないであろう。

 今後も、当該事案においてどのような犯罪に関する情報が問題となっているのか、検索キーワード等による顕出性・頻出性、時間的経過、事案の重大性等、個別事案ごとに判断せざるを得ないものと言える。

2016年04月22日

製造方法に関する均等論が認められた事例

製造方法に関する均等論(平成28年3月25日知財合議判決)

 発明の名称を「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」とする特許権(特許番号第3310301号)の共有者の1人である中外製薬蠅、DKSHの輸入販売に係るマキサカルシトール原薬並びに岩城製薬、高田製薬及びポーラファルマの各販売に係る各マキサカルシトール製剤の製造方法である別紙方法目録記載の方法は、本件特許に係る明細書の特許請求の範囲の請求項13に係る発明と均等であり、その技術的範囲に属するから、その方法により製造した製品の販売等は本件特許権を侵害すると主張して、特許法100条1項,2項に基づき、輸入又は譲渡の差止め及び廃棄を求めていた事案であり、原審は、その方法が本件発明及び訂正後の特許請求の範囲の請求項13に係る発明と均等であることを認め、また、本件発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないと判断して、被控訴人の請求を全部認容したため控訴がなされたものであるが、知財高裁は、その控訴を棄却した。

活性型ビタミンD3の生理作用としては、古くからカルシウム代謝調節作用が知られていたが、細胞の増殖抑制作用や分化誘導作用等の多岐にわたる新しい作用が発見され、角化異常症の治療薬として期待されるようになっていた。しかし、活性型ビタミンD3には血中カルシウムの上昇という副作用の問題があった。被控訴人は、活性型ビタミンD3であるカルシトリオールの化学構造を修飾した物質であるマキサカルシトールが細胞増殖抑制作用、分化誘導作用を有しながら、血中カルシウム上昇作用が弱いことを見いだした。すなわち、下記の左図がビタミンD3(非活性)、中図がビタミンD3の1αと25位が水酸化して活性化したカルシトリオール(1α、25ジヒドロキシビタミンD3)であるが、被控訴人は、カルシトリオールの22位のメチレン基を酸素原子に置き換えることによって、増殖抑制作用が10〜100倍向上し、他方、副作用である血中カルシウム、リンの上昇作用がカルシトリオールよりも著しく弱い物質が得られることを見いだしたものである(弁論の全趣旨)。この物質がマキサカルシトールである。

「控訴人方法は,訂正発明の構成要件A,B−2,D及びEを充足するが,同方法における出発物質A及び中間体Cが,シス体のビタミンD構造の化合物ではなく,その幾何異性体であるトランス体のビタミンD構造の化合物であるという点で,訂正発明の構成要件B−1,B−3及びCと相違する。
そこで,以下,出発物質及び中間体にトランス体のビタミンD構造の化合物を用いる控訴人方法が,訂正発明において出発物質及び中間体にシス体のビタミンD構造の化合物を用いる場合と均等なものといえるか,順次,均等の要件を判断する。」

均等の第1要件(非本質的部分)について

「訂正発明の上記課題及び解決手段とその効果に照らすと,訂正発明の本質的部分(特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分)は,ビタミンD構造又はステロイド環構造の20位アルコール化合物を,末端に脱離基を有する構成要件B−2のエポキシ炭化水素化合物と反応させることにより,一工程でエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖を導入することができるということを見出し,このような一工程でエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖が導入されたビタミンD構造又はステロイド環構造という中間体を経由し,その後,この側鎖のエポキシ基を開環するという新たな経路により,ビタミンD構造又はステロイド環構造の20位アルコール化合物にマキサカルシトールの側鎖を導入することを可能とした点にあると認められる。」
「控訴人方法は,ビタミンD構造の20位アルコール化合物(出発物質A)を,末端に脱離基を有する構成要件B−2のエポキシ炭化水素化合物と同じ化合物(試薬B)と反応させることにより,出発物質にエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖が導入されたビタミンD構造という中間体(中間体C)を経由し,その後,この側鎖のエポキシ基を開環することにより,マキサカルシトールの側鎖をビタミンD構造の20位アルコール化合物に導入するものであるから,訂正発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分を備えているといえる。
 一方,控訴人方法のうち,訂正発明との相違点である出発物質及び中間体の「Z」に相当するビタミンD構造がシス体ではなく,トランス体であることは,前記エのとおり,訂正発明の本質的部分ではない。
 したがって,控訴人方法は,均等の第1要件を充足すると認められる。」

均等の第2要件(置換可能性)について

「控訴人方法における上記出発物質A及び中間体Cのうち訂正発明のZに相当する炭素骨格はトランス体のビタミンD構造であり,訂正発明における出発物質(構成要件B−1)及び中間体(構成要件B−3)のZの炭素骨格がシス体のビタミンD構造であることとは異なるものの,両者の出発物質及び中間体は,いずれも,ビタミンD構造の20位アルコール化合物を,同一のエポキシ炭化水素化合物と反応させて,それにより一工程でエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖が導入されたビタミンD構造という中間体を経由するという方法により,マキサカルシトールを製造できるという,同一の作用効果を果たしており,訂正発明におけるシス体のビタミンD構造の上記出発物質及び中間体を,控訴人方法におけるトランス体のビタミンD構造の上記出発物質及び中間体と置き換えても,訂正発明と同一の目的を達成することができ,同一の作用効果を奏しているものと認められる。」

均等の第3要件(置換容易性)について

「一般に,化合物の反応においては,反応点付近の立体構造が反応の進行に大きく影響することが知られているところ,出発物質であるビタミンD構造の20位アルコール化合物がマキサカルシトールの側鎖の導入に際して反応する水酸基は,トランス体とシス体とで構造が異なるビタミンD構造の二重結合(5位)の位置から遠く離れており,出発物質のビタミンD構造がトランス体であってもシス体であっても,反応点付近の立体構造は同じであることからすれば,当業者であれば,トランス体とシス体の二重結合の位置の違いによって訂正発明のマキサカルシトールの側鎖の導入過程の反応が異なるものと考えないのが自然である。」
 「当業者が訂正発明から容易に想到することができたものと認められる。」

均等の第5要件(特段の事情)について

「均等の法理は,特許発明の非本質的部分の置き換えによって特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れるものとすると,社会一般の発明への意欲が減殺され,発明の保護,奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するのみならず,社会正義に反し,衡平の理念にもとる結果となるために認められるものであって,上記に述べた状況等に照らすと,出願時に特許請求の範囲外の他の構成を容易に想到することができたとしても,そのことだけを理由として一律に均等の法理の対象外とすることは相当ではない。」
「もっとも,このような場合であっても,出願人が,出願時に,特許請求の範囲外の他の構成を,特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認められるとき,例えば,出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとみることができるときや,出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているときには,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことは,第5要件における「特段の事情」に当たるものといえる。」
「しかし,以下のとおり,訂正明細書中には,訂正発明の出発物質をトランス体のビタミンD構造とした発明を記載しているとみることができる記載はなく(訂正明細書中に,トランス体のビタミンD構造を出発物質とする発明の開示がされていないことは,争いがない。),その他,出願人が,本件特許の出願時に,トランス体のビタミンD構造を,訂正発明の出発物質として,シス体のビタミンD構造に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認めるに足りる証拠はないから,控訴人らの主張は理由がないというべきである。」
「控訴人らのその余の主張によっても,均等の第5要件の特段の事情があるものとは認められない。」

2015年12月16日

実用品(幼児用椅子)の著作物性

平成27年4月14日知財高裁判決は、下記のように判示し、実用品(応用美術品)についても、著作権が成立する可能性があることを示す画期的な判断を示した。今後の実務に与える影響は大きいと言えよう。

「著作権法が,「文化的所産の公正な利用に留意しつつ,著作者等の権利の保護を図り,もって文化の発展に寄与することを目的と」していること(同法1条)に鑑みると,表現物につき,実用に供されること又は産業上の利用を目的とすることをもって,直ちに著作物性を一律に否定することは,相当ではない。同法2条2項は,「美術の著作物」の例示規定にすぎず,例示に係る「美術工芸品」に該当しない応用美術であっても,同条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては,「美術の著作物」として,同法上保護されるものと解すべきである。したがって,控訴人製品は,上記著作物性の要件を充たせば,「美術の著作物」として同法上の保護を受けるものといえる。
応用美術は,装身具等実用品自体であるもの,家具に施された彫刻等実用品と結合されたもの,染色図案等実用品の模様として利用されることを目的とするものなど様々であり(甲90,甲91,甲93,甲94),表現態様も多様であるから,応用美術に一律に適用すべきものとして,高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず,個別具体的に,作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである。」

2015年06月22日

プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する最高裁判決

プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する最高裁判決

 本年6月5日、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する知財高裁大合議判決を破棄する判決が下されました。

 「願書に添付した特許請求の範囲の記載は,これに基づいて,特許発明の技術的範囲が定められ(特許法70条1項),かつ,同法29条等所定の特許の要件について審査する前提となる特許出願に係る発明の要旨が認定される(最高裁昭和62年(行ツ)第3号平成3年3月8日第二小法廷判決・民集第45巻3号123頁参照)という役割を有しているものである。そして,特許は,物の発明,方法の発明又は物を生産する方法の発明についてされるところ,特許が物の発明についてされている場合には,その特許権の効力は,当該物と構造,特性等が同一である物であれば,その製造方法にかかわらず及ぶこととなる。したがって,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても,その発明の要旨は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として認定されるものと解するのが相当である。」
 「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,そのような特許請求の範囲の記載を一般的に許容しつつ,その発明の要旨は,原則として,特許請求の範囲に記載された製造方法により製造された物に限定して認定されるべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。」

 いわゆる物質同一説の立場を取ったものと理解できることから、今後の知財実務に与える影響はかなり大きいと思われます。

2015年04月30日

応用美術につき判示した裁判例

応用美術につき判示した裁判例(平成27年4月14日知財高裁判決)

「応用美術は,実用に供され,あるいは産業上の利用を目的とするものであるから,当該実用目的又は産業上の利用目的にかなう一定の機能を実現する必要があるので,その表現については,同機能を発揮し得る範囲内のものでなければならない。応用美術の表現については,このような制約が課されることから,作成者の個性が発揮される選択の幅が限定され,したがって,応用美術は,通常,創作性を備えているものとして著作物性を認められる余地が,上記制約を課されない他の表現物に比して狭く,また,著作物性を認められても,その著作権保護の範囲は,比較的狭いものにとどまることが想定される。」
「以上に鑑みると,応用美術につき,他の表現物と同様に,表現に作成者の何らかの個性が発揮されていれば,創作性があるものとして著作物性を認めても,一般社会における利用,流通に関し,実用目的又は産業上の利用目的の実現を妨げるほどの制約が生じる事態を招くことまでは,考え難い。」
「著作物性が認められる応用美術は,まず「美術の著作物」であることが前提である上,前記a⒝鬚里箸り,その実用目的又は産業上の利用目的にかなう一定の機能を発揮し得る表現でなければならないという制約が課されることから,著作物性が認められる余地が,応用美術以外の表現物に比して狭く,また,著作物性が認められても,その著作権保護の範囲は,比較的狭いものにとどまるのが通常であって,被控訴人主張に係る乱立などの弊害が生じる現実的なおそれは,認め難いというべきである。」
「 被控訴人製品は,控訴人製品の著作物性が認められる部分と類似しているとはいえない。」

2014年12月26日

ドライバレッジ自炊事件

平成26年10月22日知財高裁判決
(ドライバレッジ自炊事件)

事案の概要
本件は,小説家,漫画家又は漫画原作者である被控訴人らが,控訴人ドライバレッジは,顧客から電子ファイル化の依頼があった書籍について,著作権者の許諾を受けることなく,スキャナーで書籍を読み取って電子ファイルを作成し,その電子ファイルを顧客に納品しているところ,注文を受けた書籍には,被控訴人らが著作権を有する原告作品が多数含まれている蓋然性が高く,今後注文を受ける書籍にも含まれる蓋然性が高いから,被控訴人らの著作権(複製権)が侵害されるおそれがあるなどと主張した事案。

控訴人ドライバレッジによる複製行為の有無(争点1−1)について
 控訴人ドライバレッジは,独立した事業者として,営利を目的として本件サービスの内容を自ら決定し,スキャン複製に必要な機器及び事務所を準備・確保した上で,インターネットで宣伝広告を行うことにより不特定多数の一般顧客である利用者を誘引し,その管理・支配の下で,利用者から送付された書籍を裁断し,スキャナで読み込んで電子ファイルを作成することにより書籍を複製し,当該電子ファイルの検品を行って利用者に納品し,利用者から対価を得る本件サービスを行っている。
 そうすると,控訴人ドライバレッジは,利用者と対等な契約主体であり,営利を目的とする独立した事業主体として,本件サービスにおける複製行為を行っているのであるから,本件サービスにおける複製行為の主体であると認めるのが相当である。

 控訴人らは,本件サービスにおいて,「特定の」書籍の所有者(処分権者)による書籍の取得,送付がなければ,およそ書籍の電子ファイル化などすることができないことから,利用者による「特定の」書籍の取得及び送付こそが,書籍の電子ファイル化にとって「不可欠の前提行為」であり「枢要な行為」にほかならず,利用者は本件サービスを利用しなくても,利用者自ら書籍を電子ファイル化することが可能であって,控訴人ドライバレッジは,利用者自身が実現不可能な複製を可能としているのではないし,利用者が取得していない書籍や取得し得ない書籍を電子ファイル化しているものでもないから,控訴人ドライバレッジの行為が複製の実現について「枢要な行為」ということはできず,控訴人ドライバレッジは複製行為の主体ではない旨主張する。
 しかし、、、利用者が複製される書籍を取得し,控訴人ドライバレッジに電子ファイル化を注文して書籍を送付しているからといって,独立した事業者として,複製の意思をもって自ら複製行為をしている控訴人ドライバレッジの複製行為の主体性が失われるものではない。

 控訴人らは、、、本件サービスにおいて,書籍の調達,送付行為が持つ意味は大きく,利用者が,書籍の電子ファイル化を「管理」しているのであるから,スキャン行為の主体は利用者であって,控訴人ドライバレッジは利用者の「補助者」ないし「手足」にすぎず,控訴人ドライバレッジの複製行為の主体性は阻却される旨主張する。
 しかし、、、利用者が控訴人ドライバレッジを自己の手足として利用して書籍の電子ファイル化を行わせていると評価し得る程度に,利用者が控訴人ドライバレッジによる複製行為を管理・支配しているとの関係が認められないことは明らかであって,控訴人ドライバレッジが利用者の「補助者」ないし「手足」ということはできない。

 以上によれば,本件サービスにおける複製の対象,方法,複製物への関与の内容,程度や本件サービスの実態,私的領域が拡大した社会的状況の変化等の諸要素を総合考慮しても,控訴人ドライバレッジが本件サービスにおける複製行為の主体ではないとする控訴人らの主張は理由がない。

著作権法30条1項の適用の可否(争点1−2)について
 著作権法30条1項は、 峺朕妖に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする」こと,及び◆屬修了藩僂垢觴圓複製する」ことを要件として,私的使用のための複製に対して著作権者の複製権を制限している。使用することを目的とする」る者が複製する」ことを要件として,私的使用のための複製に対して著作権者の複製権を制限している。
 そして,前記2のとおり,控訴人ドライバレッジは本件サービスにおける複製行為の主体と認められるから,控訴人ドライバレッジについて,上記要件の有無を検討することとなる。しかるに,控訴人ドライバレッジは,営利を目的として,顧客である不特定多数の利用者に複製物である電子ファイルを納品・提供するために複製を行っているのであるから,「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする」ということはできず,上記,陵弖錣魴腓。また,控訴人ドライバレッジは複製行為の主体であるのに対し,複製された電子ファイルを私的使用する者は利用者であることから,「その使用する者が複製する」ということはできず,上記△陵弖錣盞腓。
したがって,控訴人ドライバレッジについて同法30条1項を適用する余地はないというべきである。

2013年07月14日

ブラウザキャッシュによる複製が争われた事案

「控訴人は,平成21年6月11日,同年7月17日及び同月18日の本件各アクセスの際,被控訴人がブラウザを使って本件プログラムにアクセスし,本件プログラムの複製物を被控訴人のコンピュータのハードディスクにブラウザキャッシュとして保存したことは複製権侵害であると主張する。
しかし,原判決13頁で認定したとおり,控訴人は,平成21年1月16日,被控訴人事務所において,被控訴人の取締役である A の面前で,被控訴人のコンピュータのブラウザに,本件ウェブサイトのURLを入力し,A をして本件ウェブサイトにアクセスさせ,本件プログラムにより表示されるトップ画面を閲覧させるなどしているのであるが,その際,被控訴人のコンピュータのハードディスクに本件プログラムの複製物がブラウザキャッシュとして作成されたものと推認される。
一般に,ブラウザキャッシュの目的は,一度見たウェブページを再度閲覧しようとする時に,速やかにこれを閲覧することにあり,そのために,既に閲覧したことのあるウェブページに変更のないときは,サーバからインターネットを通じて再度データの転送を受けることなく,以前のアクセスの際にハードディスクに保存したデータを使って,速やかに同じページが表示されるのが通常である。しかるに,本件サーバ上の本件プログラムが平成21年1月16日以降に変更されたことを認める証拠はないから,平成21年1月16日にウェブページであるサーバから取得され被控訴人のコンピュータのブラウザキャッシュに格納された本件プログラムの複製物が,平成21年1月16日以降,被控訴人のコンピュータ上に改めて作成されたとは直ちに認めることはできない。
したがって,被控訴人が,本件各アクセスの際,本件プログラムの複製物を被控訴人のコンピュータのハードディスクにブラウザキャッシュとして保存したとの控訴人の主張事実は,認めることができない。」
(平成25年07月02日 知的財産高等裁判所)

2013年04月02日

信用毀損による損害賠償が命じられた事例

 本件は,健康食品の製造,販売及び輸出入等を業とする原告が,原告の元従業員であり,原告を退職後に原告と競争関係にある会社の取締役を務めていた被告に対し,被告が原告の顧客等に対し別紙目録記載の各事実を記載した文書を配布し,又は口頭でその記載内容を告げた行為が,原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知又は流布(不正競争防止法2条1項14号)に当たる旨主張して,不正競争防止法3条1項に基づき,被告の上記行為等の差止めを求めるとともに,同法4条に基づき,損害賠償を求めた事案である。
 東京地方裁判所は、信用毀損による損害として、「“鏐陲良埓偽チ莵坩戮龍饌療な態様(前記1)及びその主観的な意図(前記2),被告が,かつて原告の副社長の立場にあったことから,その言動が原告の会員に与える影響が大きかったこと(証人E,弁論の全趣旨),H鏐霄身が,その本人尋問の際に,被告の勧誘行為によって,原告からLEJへ移った会員が少なくとも「10人以上はいると思います。…100人いるのかどうかという範疇内は,分からないですね。」と供述しているとおり,被告の行為によって実際に原告の会員を辞めた者が相当数存在すること,その他本件に現れた諸般の事情に鑑みると,被告の上記不正競争行為により原告が被った信用毀損を慰謝するための慰謝料は,200万円と認めるのが相当である」と判示した。

(東京地裁平成25年3月28日判決)

2012年08月05日

スルガ銀行vs日本IBM事件の判決内容

東京地裁(第14民事部合議はA係)平成24年3月29日判決
 平成20年(ワ)第5320号損害賠償請求事件
 平成20年(ワ)第24303号請負代金等請求反訴事件
 (口頭弁論終結日 平成23年10月31日)

【主文】
 本訴被告は、本訴原告に対し、74億1366万6128円及びこれに対する平成19年7月18日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。


【本件事案の概要】
 原告が被告に対し、ヾ靄楾膂佞篷楫鏝鎚矛戚鵑亡陲鼎本質的義務に従って履行すべき義務があったにもかかわらず、債務の本旨に従った履行をしなかった、∨楫錺廛蹈献Дトが中止に至ったのは、被告にプロジェクト・マネジメント義務違反があった、説明義務違反があったとして、損害賠償を求めた事案。

【主たる争点】
 (1) 本件本質的義務の法的拘束力及びその不履行の有無
 (2) 本件プロジェクト中止の原因及びその責任の所在
 (3) 本件個別契約の債務不履行解除の成否
 (4) 説明義務違反の有無
 (5) 錯誤の有無
 (6) 原告の損害
 (7) 反訴請求の可否

【判示内容】
「原告は、被告はシステム開発業者として、自らが有する高度の専門的知識と経験に基づき、納入期限までにシステムを完成させるようにユーザに提示し、ユーザとの間で合意された開発手段や開発手法、作業工程等に従って開発作業を進めるとともに、常に進捗状況を管理し、開発作業を阻害する要因の発見に努め、これを適切に対処すべき義務やユーザのシステム開発への関わりについても適切に対処すべき義務や、ユーザのシステム開発への関わりについても適切に管理するなどの行為をなすべき義務(プロジェクト・マネジメント義務)を負っていたにもかかわらず、この義務を尽くさなかったものであり、被告が○○に関する知識に乏しく、開発工程が混迷を極め、結局、○○による開発を断念せざるを得なくなったために頓挫したものである」

「被告は、本件システム開発を開始するに当たり、○○の機能や充足度、その適切な開発方法等についてあらかじめ十分に検証又は検討したものとはいえないし、また、本件システム開発を進行するに際し、適切な開発方法を採用したものということはできない」

「難易度の高い作業であって、カスタマイズに関する作業量、作業時間、費用が一般的にかなり大きなものとなるため、カスタマイズ作業を適切に実施できる体制が整えられているか否かがプロジェクトの成否に直結する重要なポイントであるというべきである」

「被告がこのように合意したサービスインの時期すら遵守することができず、サービスインがそこから大幅に遅れる見通し(○○の時期からは2年、○○からも1年以上の遅れ)となってしまうことについては、ユーザである原告にとって容易に受け入れ難いものであることは明らかである」

「原告としては、本件最終合意が締結された時点において、被告が提案した開発手法に従ったシステム開発に問題があるとは認識していなかったし、本件最終合意書で定められた原告の支払金額には相応の根拠があると信頼していたものというべきである」

「このような被告の対応は、原告に対し、信義に反するものであるとの不信感を抱かせるもの」

「2年半以上の間、多額の費用と多大な労力をかけて本件プロジェクトを進めてきたものである」

「本件システム開発が頓挫したことの責任はもっぱら被告にあるのであり、そのことについて被告は原告に対してプロジェクト・マネジメント義務違反の責任を負うものというべきである。」

2012年04月11日

日本IBM・スルガ銀事件の閲覧謄写制限

 2012年3月29日、勘定系システム開発の失敗は日本IBMにあるとして損害賠償を求めていた事件で、東京地裁は、日本IBMに対し、約74億円の損害賠償を命ずる判決を下した(新聞報道)。

 4月10日に東京地裁に問い合わせたところ、訴訟記録の謄写ができない制限が掛けられているとのことで、判決書の内容を直接検討することができない。一部報道によると、日本IBMの不法行為を肯定したとされているが、システム開発という本体的な請負契約の債務不履行の問題であるのか、説明義務違反あるいは同請負契約に附随する附随義務違反の問題であるのか、さらには、一般的不法行為の問題であるのか詳細が不明である。

 一般的に、システム開発を行う場合には、対象企業の組織、権限、業務内容、処理手順、システム、製品情報、顧客情報等極めて重要な機密事項を含めた業務分析が不可欠であり、その結果、判決書に同機密情報についても判示されている部分があるのは十分に想定される。
 しかしながら、システム開発を巡るトラブルは極めて多いものの、訴訟にまで至っているのは、極めて例外的なものである。同じ失敗が繰り返されないためにも、また、開発ベンダーとして尽くすべき注意義務の内容を明確化するためにも、閲覧謄写制限は同機密情報部分のみに限定し、それ以外の事実認定や法規範部分については、広く一般的に公開されるべきであり、それが裁判の公開原則の趣旨にも叶うものである。

 システム開発ベンダーとしてどうあるべきであるのか、また、発注者としてどう行動すべきであったか等を含め、法律家のみならず、学者や産業界を含め幅広い議論が行われ、また、叡知を結集するためにも、判決書の公開が是非望まれるものである。

2012年02月02日

パブリシティ権に関する最高裁判例

 平成24年2月2日、最高裁は、いわゆるパブリシティ権について、「肖像等を無断で使用する行為は,‐啻等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,⊂ι陛の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である」との初判断を示した。
 ただ、本件事案においては、「本件記事の内容は,ピンク・レディーそのものを紹介するものではなく,前年秋頃に流行していたピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法につき,その効果を見出しに掲げ,イラストと文字によって,これを解説するとともに,子供の頃にピンク・レディーの曲の振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するというものである。そして,本件記事に使用された本件各写真は,約200頁の本件雑誌全体の3頁の中で使用されたにすぎない上,いずれも白黒写真であって,その大きさも,縦2.8僉げ3.6僂覆い圭庁賢僉げ10冂度のものであったというのである。これらの事情に照らせば,本件各写真は,上記振り付けを利用したダイエット法を解説し,これに付随して子供の頃に上記振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するに当たって,読者の記憶を喚起するなど,本件記事の内容を補足する目的で使用されたものというべきである。したがって,被上告人が本件各写真を上告人らに無断で本件雑誌に掲載する行為は,専ら上告人らの肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず,不法行為法上違法であるということはできない」として、損害賠償責任を否定した。
 いわゆるパブリシティ権を肯定した点においても、本件事案の解決としても、妥当と言えよう。

2011年10月19日

証券被害に関する損害賠償論(最高裁判決)

 本件は,東京証券取引所に上場されていた被上告人Y1の株式(以下「Y1株」という。)を取引所市場において取得した者等である上告人らが,A社等の少数特定者が所有するY1株の数の割合が東京証券取引所の定める上場廃止事由に該当するという事実があったにもかかわらず,被上告人Y1が有価証券報告書及び半期報告書(以下「有価証券報告書等」という。)に虚偽の記載をして上記事実を隠蔽し,また,A社がY1株の大量保有報告書に過少な数を記載するなどして上記事実の隠蔽に協力したことにより,損害を被ったと主張して,被上告人Y1,A社を吸収合併した被上告人Y2並びに被上告人Y1及びA社の代表取締役であったY3に対し,不法行為等に基づく損害賠償を求める事案である。上記の不法行為により上告人らに生じた損害の額が争点となっている。

 このように,有価証券報告書等に虚偽の記載がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が,当該虚偽記載がなければこれを取得することはなかったとみるべき場合において,当該虚偽記載の公表後に上記株式を取引所市場において処分したときは,当該虚偽記載により上記投資者に生じた損害の額,すなわち当該虚偽記載と相当因果関係のある損害の額は,その取得価額と処分価額との差額を基礎とし,経済情勢,市場動向,当該会社の業績等当該虚偽記載に起因しない市場価額の下落分を上記差額から控除して,これを算定すべきものと解される。

 虚偽記載が公表された後の市場価額の変動のうち,いわゆるろうばい売りが集中することによる過剰な下落は,有価証券報告書等に虚偽の記載がされ,それが判明することによって通常生ずることが予想される事態であって,これを当該虚偽記載とは無関係な要因に基づく市場価額の変動であるということはできず,当該虚偽記載と相当因果関係のない損害として上記差額から控除することはできないというべきである。

(最高裁平成23年9月13日)

2011年09月26日

平成電電広告訴訟(最高裁)

 破綻した通信ベンチャー「平成電電」の投資事件に関し、出資者らが新聞広告を見て出資したため損失を被ったとして新聞広告を掲載していた新聞社などに損害賠償を求めていた訴訟で、2011年9月24日、最高裁は出資者側の上告不受理決定を行った。

 本件につき、東京高裁(2010年12月1日)は、「新聞広告が、新聞報道記事に対する信頼を背景に社会的な信頼を得ているとしても、新聞広告も、広告主が新聞の紙面を利用することについて対価を支払って自らの責任で読者に情報を提供する行為としての側面を有することは他の広告媒体による広告と同様であり、また、新聞広告において投資等の契約の誘引がされた場合においては、読者は、新聞広告の内容以外の様々な情報を入手したり、他の広告と対比したりする過程を経て契約の締結の可否を判断することになるのであるから、新聞社が、読者のために広告の内容の真実性や合理性を調査する一般的な法的義務を負っていると解することはできない。
 しかし、他方で、新聞広告に対する読者らの信頼は、高い情報収集能力を有する当該新聞社の報道記事に対する信頼と全く無関係に存在するものではないから、広告媒体業務に携わる新聞社は、新聞広告の持つ影響力の大きさに照らし、広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し、又は予見し得た場合には、新聞広告に対する読者らの信頼を保護するために、広告内容の真実性を調査確認することにより、虚偽の広告が掲載されることを回避すべき義務を負っていると解すべきである(最高裁判所昭和五九年(オ)第一一二九号平成元年九月一九日第三小法廷判決・裁判集民事一五七号六〇一頁参照)」との判断基準を示し、本件匿名組合の出資者に不測の損害を被らせる危険があると予見することができたとはいえないとしていたが、その判断が是認されたものである。

 従来の最高裁の考え方に沿ったものであり、結論的にも妥当なものであると言える。

平成電電広告訴訟(最高裁)

 破綻した通信ベンチャー「平成電電」の投資事件に関し、出資者らが新聞広告を見て出資したため損失を被ったとして新聞広告を掲載していた新聞社などに損害賠償を求めていた訴訟で、2011年9月24日、最高裁は出資者側の上告不受理決定を行った。

 本件につき、東京高裁(2010年12月1日)は、「新聞広告が、新聞報道記事に対する信頼を背景に社会的な信頼を得ているとしても、新聞広告も、広告主が新聞の紙面を利用することについて対価を支払って自らの責任で読者に情報を提供する行為としての側面を有することは他の広告媒体による広告と同様であり、また、新聞広告において投資等の契約の誘引がされた場合においては、読者は、新聞広告の内容以外の様々な情報を入手したり、他の広告と対比したりする過程を経て契約の締結の可否を判断することになるのであるから、新聞社が、読者のために広告の内容の真実性や合理性を調査する一般的な法的義務を負っていると解することはできない。
 しかし、他方で、新聞広告に対する読者らの信頼は、高い情報収集能力を有する当該新聞社の報道記事に対する信頼と全く無関係に存在するものではないから、広告媒体業務に携わる新聞社は、新聞広告の持つ影響力の大きさに照らし、広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し、又は予見し得た場合には、新聞広告に対する読者らの信頼を保護するために、広告内容の真実性を調査確認することにより、虚偽の広告が掲載されることを回避すべき義務を負っていると解すべきである(最高裁判所昭和五九年(オ)第一一二九号平成元年九月一九日第三小法廷判決・裁判集民事一五七号六〇一頁参照)」との判断基準を示し、本件匿名組合の出資者に不測の損害を被らせる危険があると予見することができたとはいえないとしていたが、その判断が是認されたものである。

 従来の最高裁の考え方に沿ったものであり、結論的にも妥当なものであると言える。

2011年09月16日

証券被害に関する損害賠償論(最高裁)

 東京証券取引所に上場されていた会社の株式を取引所市場において取得した者らが、その会社に上場廃止事由に該当するという事実があったにもかかわらず、有価証券報告書及び半期報告書に虚偽の記載をして上記事実を隠蔽し、また、大量保有報告書に過少な数を記載するなどして上記事実の隠蔽に協力したことにより、損害を被ったと主張して、不法行為等に基づく損害賠償を求める事案。
 最高裁は、「有価証券報告書等に虚偽の記載がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が、当該虚偽記載がなければこれを取得することはなかったとみるべき場合、当該虚偽記載により上記投資者に生じた損害の額、すなわち当該虚偽記載と相当因果関係のある損害の額は、上記投資者が、当該虚偽記載の公表後、上記株式を取引所市場において処分したときはその取得価額と処分価額との差額を、また、上記株式を保有し続けているときはその取得価額と事実審の口頭弁論終結時の上記株式の市場価額(上場が廃止された場合にはその非上場株式としての評価額。以下同じ。)との差額をそれぞれ基礎とし、経済情勢、市場動向、当該会社の業績等当該虚偽記載に起因しない市場価額の下落分を上記差額から控除して、これを算定すべきものと解される」との判断を示した。
 「虚偽記載が公表された後の市場価額の変動のうち、いわゆるろうばい売りが集中することによる過剰な下落は、有価証券報告書等に虚偽の記載がされ、それが判明することによって通常生ずることが予想される事態であって、これを当該虚偽記載とは無関係な要因に基づく市場価額の変動であるということはできず、当該虚偽記載と相当因果関係のない損害として上記差額から控除することはできないというべきである」と判示した点も妥当である。

(最高裁平成23年9月13日)

2011年08月10日

更新料条項を有効とした最高裁判決

平成23年07月15日最高裁判所第二小法廷
更新料返還等請求本訴

「賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は,更新料の額が賃料の額,賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当である。」

「これを本件についてみると,前記認定事実によれば,本件条項は本件契約書に一義的かつ明確に記載されているところ,その内容は,更新料の額を賃料の2か月分とし,本件賃貸借契約が更新される期間を1年間とするものであって,上記特段の事情が存するとはいえず,これを消費者契約法10条により無効とすることはできない。」

更新料条項を有効とした最高裁判決

平成23年07月15日最高裁判所第二小法廷
更新料返還等請求本訴

「賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は,更新料の額が賃料の額,賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当である。」

「これを本件についてみると,前記認定事実によれば,本件条項は本件契約書に一義的かつ明確に記載されているところ,その内容は,更新料の額を賃料の2か月分とし,本件賃貸借契約が更新される期間を1年間とするものであって,上記特段の事情が存するとはいえず,これを消費者契約法10条により無効とすることはできない。」

2011年07月13日

敷引特約を有効とした最高裁判決

 本件特約は,本件保証金のうち一定額(いわゆる敷引金)を控除し,これを賃貸借契約終了時に賃貸人が取得する旨のいわゆる敷引特約である。賃貸借契約においては,本件特約のように,賃料のほかに,賃借人が賃貸人に権利金,礼金等様々な一時金を支払う旨の特約がされることが多いが,賃貸人は,通常,賃料のほか種々の名目で授受される金員を含め,これらを総合的に考慮して契約条件を定め,また,賃借人も,賃料のほかに賃借人が支払うべき一時金の額や,その全部ないし一部が建物の明渡し後も返還されない旨の契約条件が契約書に明記されていれば,賃貸借契約の締結に当たって,当該契約によって自らが負うこととなる金銭的な負担を明確に認識した上,複数の賃貸物件の契約条件を比較検討して,自らにとってより有利な物件を選択することができるものと考えられる。そうすると,賃貸人が契約条件の一つとしていわゆる敷引特約を定め,賃借人がこれを明確に認識した上で賃貸借契約の締結に至ったのであれば,それは賃貸人,賃借人双方の経済的合理性を有する行為と評価すべきものであるから,消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,敷引金の額が賃料の額等に照らし高額に過ぎるなどの事情があれば格別,そうでない限り,これが信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものということはできない(最高裁平成21年(受)第1679号同23年3月24日第一小法廷判決・民集65巻2号登載予定参照)。
 これを本件についてみると,前記事実関係によれば,本件契約書には,1か月の賃料の額のほかに,被上告人が本件保証金100万円を契約締結時に支払う義務を負うこと,そのうち本件敷引金60万円は本件建物の明渡し後も被上告人に返還されないことが明確に読み取れる条項が置かれていたのであるから,被上告人は,本件契約によって自らが負うこととなる金銭的な負担を明確に認識した上で本件契約の締結に及んだものというべきである。そして,本件契約における賃料は,契約当初は月額17万5000円,更新後は17万円であって,本件敷引金の額はその3.5倍程度にとどまっており,高額に過ぎるとはいい難く,本件敷引金の額が,近傍同種の建物に係る賃貸借契約に付された敷引特約における敷引金の相場に比して,大幅に高額であることもうかがわれない。
 以上の事情を総合考慮すると,本件特約は,信義則に反して被上告人の利益を一方的に害するものということはできず,消費者契約法10条により無効であるということはできない。
(平成23年7月12日最高裁第三小法廷判決)

敷引特約を有効とした最高裁判決

 本件特約は,本件保証金のうち一定額(いわゆる敷引金)を控除し,これを賃貸借契約終了時に賃貸人が取得する旨のいわゆる敷引特約である。賃貸借契約においては,本件特約のように,賃料のほかに,賃借人が賃貸人に権利金,礼金等様々な一時金を支払う旨の特約がされることが多いが,賃貸人は,通常,賃料のほか種々の名目で授受される金員を含め,これらを総合的に考慮して契約条件を定め,また,賃借人も,賃料のほかに賃借人が支払うべき一時金の額や,その全部ないし一部が建物の明渡し後も返還されない旨の契約条件が契約書に明記されていれば,賃貸借契約の締結に当たって,当該契約によって自らが負うこととなる金銭的な負担を明確に認識した上,複数の賃貸物件の契約条件を比較検討して,自らにとってより有利な物件を選択することができるものと考えられる。そうすると,賃貸人が契約条件の一つとしていわゆる敷引特約を定め,賃借人がこれを明確に認識した上で賃貸借契約の締結に至ったのであれば,それは賃貸人,賃借人双方の経済的合理性を有する行為と評価すべきものであるから,消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,敷引金の額が賃料の額等に照らし高額に過ぎるなどの事情があれば格別,そうでない限り,これが信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものということはできない(最高裁平成21年(受)第1679号同23年3月24日第一小法廷判決・民集65巻2号登載予定参照)。
 これを本件についてみると,前記事実関係によれば,本件契約書には,1か月の賃料の額のほかに,被上告人が本件保証金100万円を契約締結時に支払う義務を負うこと,そのうち本件敷引金60万円は本件建物の明渡し後も被上告人に返還されないことが明確に読み取れる条項が置かれていたのであるから,被上告人は,本件契約によって自らが負うこととなる金銭的な負担を明確に認識した上で本件契約の締結に及んだものというべきである。そして,本件契約における賃料は,契約当初は月額17万5000円,更新後は17万円であって,本件敷引金の額はその3.5倍程度にとどまっており,高額に過ぎるとはいい難く,本件敷引金の額が,近傍同種の建物に係る賃貸借契約に付された敷引特約における敷引金の相場に比して,大幅に高額であることもうかがわれない。
 以上の事情を総合考慮すると,本件特約は,信義則に反して被上告人の利益を一方的に害するものということはできず,消費者契約法10条により無効であるということはできない。
(平成23年7月12日最高裁第三小法廷判決)

2011年06月17日

マスメディアにおける写真掲載

被疑者が手錠をかけられている写真掲載の可否

 2011年6月15日、東京地裁は、いわゆる「ロス疑惑」で無罪判決が確定した三浦和義氏が1985年に殺人未遂容疑で逮捕された際、警察官に囲まれ、手首に手錠がかけられていた写真をヤフーと産経新聞社がネットに掲載していた事件につき、その遺族に対し、金66万円を連帯して支払うよう命ずる判決を下した。

 名誉やプライバシーは人格的生存にとって不可欠なものであり、その理は被疑者や被告人であっても何ら異なるところではありません。ただ、犯罪報道においては、マスメディアの報道の自由(表現の自由)や国民の知る権利との関係で、一定の制約を受ける場合もあります。
 このような問題につき、亡三浦和義氏は自ら数々の訴訟を提起し(本人訴訟)、被疑者のプライバシーに対しては十分な配慮がなされなければならないという数多くの裁判例が積み重ねられてきたところです。

 これまで亡三浦和義氏が勝訴してきた裁判例の考え方からするならば、本件判決の内容も当然予測し得るものであり、その報道のあり方に大いに問題があったと言わざるを得ません。マスメディアによる人権侵害は、重大かつ広範囲に及ぶ危険性がありますので、報道に際しては、報道機関における内部統制システムの構築のみならず、十分なリーガル・チェックがなされなければならないのです。

 これまでの裁判所による「警告」を忘れてしまっているのか、はたまた報道機関のチェック体制に重大なる欠陥があるのか、大いに疑問に思った次第である。

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マスメディアにおける写真掲載

被疑者が手錠をかけられている写真掲載の可否

 2011年6月15日、東京地裁は、いわゆる「ロス疑惑」で無罪判決が確定した三浦和義氏が1985年に殺人未遂容疑で逮捕された際、警察官に囲まれ、手首に手錠がかけられていた写真をヤフーと産経新聞社がネットに掲載していた事件につき、その遺族に対し、金66万円を連帯して支払うよう命ずる判決を下した。

 名誉やプライバシーは人格的生存にとって不可欠なものであり、その理は被疑者や被告人であっても何ら異なるところではありません。ただ、犯罪報道においては、マスメディアの報道の自由(表現の自由)や国民の知る権利との関係で、一定の制約を受ける場合もあります。
 このような問題につき、亡三浦和義氏は自ら数々の訴訟を提起し(本人訴訟)、被疑者のプライバシーに対しては十分な配慮がなされなければならないという数多くの裁判例が積み重ねられてきたところです。

 これまで亡三浦和義氏が勝訴してきた裁判例の考え方からするならば、本件判決の内容も当然予測し得るものであり、その報道のあり方に大いに問題があったと言わざるを得ません。マスメディアによる人権侵害は、重大かつ広範囲に及ぶ危険性がありますので、報道に際しては、報道機関における内部統制システムの構築のみならず、十分なリーガル・チェックがなされなければならないのです。

 これまでの裁判所による「警告」を忘れてしまっているのか、はたまた報道機関のチェック体制に重大なる欠陥があるのか、大いに疑問に思った次第である。

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2011年03月25日

「敷引特約」最高裁判決

 賃貸マンションの契約において、貸主に納めた敷金から一定の金額を自動的に差し引く特約(敷引特約)が消費者契約法に基づき無効かどうかが争われた事件で、平成23年3月24日、最高裁第1小法廷は、「敷金から差し引く額を事前に決めておくことで補修費用を巡る争いを防ぐことができるため、あまりに高額でなければ借り手が一方的に不利とはいえない」として、「特約は原則として有効」とする初判断を示し、差し引かれた敷金の返還を求めた借主側の上告を棄却した。
 原告の借主(京都在住)は、入居時に敷金40万円を納めていたが、退去時に特約に基づき21万円を差し引かれたため「部屋の傷や汚れと無関係に一定額を差し引く特約は無効」と訴えていたが、最高裁が借主側の請求を認めなかったものである。

判旨の概要
 「消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額,賃料の額,礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし,敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には,当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって,消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である。」
 「これを本件についてみると,本件特約は,契約締結から明渡しまでの経過年数に応じて18万円ないし34万円を本件保証金から控除するというものであって,本件敷引金の額が,契約の経過年数や本件建物の場所,専有面積等に照らし,本件建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額を大きく超えるものとまではいえない。また,本件契約における賃料は月額9万6000円であって,本件敷引金の額は,上記経過年数に応じて上記金額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることに加えて,上告人は,本件契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには,礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない。そうすると,本件敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず,本件特約が消費者契約法10条により無効であるということはできない。」
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0020Recent?hanreiSrchKbn=02&recentInfoFlg=1

 関西では、広く「敷引特約」が行われているが、当事者の合理的意思や関西の取引慣行に合致したものであり、妥当は判決と言えよう。

2011年03月16日

「相続させる」旨の遺言と代襲相続

 遺言書に「相続させる」と記載することは一般的ですが、この遺言は、遺贈ではなく、遺産分割方法の指定であり、しかも被相続人の死亡により直ちに相続による承継の効果が発生し、遺産分割協議や審判を経る余地もないというのが確定した判決です(最高裁平成3年4月19日)。

 そして、平成23年2月22日、「相続させる」旨の遺言が作成されたが、名宛人とされた推定相続人が遺言者よりも先に死亡してしまった場合に代襲相続が発生するかどうかにつき、代襲相続否定説をとる立場を明らかにしました。これは、遺言者の通常の意思は遺言時における特定の推定相続人に対する承継意思を有するにとどまるはずであるという合理的意思解釈を論拠としています。

 今後、遺言書作成実務におきましては、代襲相続まで想定した周到な遺言文言を策定しておく必要があると言えます。

2011年03月05日

賃貸借契約の更新料

 賃貸借契約において、更新料の支払いを義務付ける条項が消費者契約法に違反するかどうかを審理するため、6月10日に最高裁での弁論が行われることになりました。
 不動産取引実務において更新料条項は広く採用されているものであり、大阪高裁において、当該条項を有効とするものと無効とするものとで、判断が分かれています。
 「消費者の利益を一方的に害する契約」と言えるかどうかが争われていることになりますが、経済学におけるいわゆる「法人税の転嫁と帰着」の議論を彷彿とさせます。賃借権の対価と言えるかどうかは、結局、当該物件の適正な賃料はいくらなのかといった経済学的な分析も必要不可欠となりますし、個別ケースごとに結論が異なることも十分に考えられます。
 十分な論証や経済学的分析も行われることなく、概念的抽象的な判断が行われないように願いたいと思います。

2010年05月21日

フランチャイズ契約における情報提供義務違反

フランチャイズ契約において、フランチャイザーが店舗の売上収支予測に関して不正確・不合理な情報を提供し、適切な経営指導を怠ったとして債務不履行に基づく損害賠償請求を行った事件につき、大津地裁は、「このような両者の関係にかんがみると、フランチャイザーが、フランチャイズ契約の締結に向けた準備段階において、フランチャイジー候補者に対し、売上予測等を提供する場合には、信義則上、十分な調査をし、的確な分析を行って、できる限り正確な売上予測等を提供する義務がある。」「被告は、過大なシェア率を設定して本件店舗の売上予測を誤り、原告に対しても、この誤った売上予測、さらには営業予測を提供していたものであるから、情報提供義務違反の責任を免れない。」と判示した。

極めて妥当な判決だと思われる。

(判例時報2071号76頁)

2010年03月24日

ネット上の名誉毀損の判断基準(最高裁)

平成22年3月15日、インターネット上の表現行為に関する名誉毀損罪の成否につき、最高裁は、注目すべき判決を下しました。
個人ユーザーにおきましても、厳格な基準で名誉毀損罪の成否を検討するという立場が明らかにされましたので、注意が必要です。

(最高裁判決の抜粋)
 所論は,被告人は,一市民として,インターネットの個人利用者に対して要求される水準を満たす調査を行った上で,本件表現行為を行っており,インターネットの発達に伴って表現行為を取り巻く環境が変化していることを考慮すれば,被告人が摘示した事実を真実と信じたことについては相当の理由があると解すべきであって,被告人には名誉毀損罪は成立しないと主張する。
 しかしながら,個人利用者がインターネット上に掲載したものであるからといって,おしなべて,閲覧者において信頼性の低い情報として受け取るとは限らないのであって,相当の理由の存否を判断するに際し,これを一律に,個人が他の表現手段を利用した場合と区別して考えるべき根拠はない。そして,インターネット上に載せた情報は,不特定多数のインターネット利用者が瞬時に閲覧可能であり,これによる名誉毀損の被害は時として深刻なものとなり得ること,一度損なわれた名誉の回復は容易ではなく,インターネット上での反論によって十分にその回復が図られる保証があるわけでもないことなどを考慮すると,インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても,他の場合と同様に,行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り,名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって,より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきものとは解されない(最高裁昭和41年(あ)第2472号同44年6月25日大法廷判決・刑集23巻7号975頁参照)。
 これを本件についてみると,原判決の認定によれば,被告人は,商業登記簿謄本,市販の雑誌記事,インターネット上の書き込み,加盟店の店長であった者から受信したメール等の資料に基づいて,摘示した事実を真実であると誤信して本件表現行為を行ったものであるが,このような資料の中には一方的立場から作成されたにすぎないものもあること,フランチャイズシステムについて記載された資料に対する被告人の理解が不正確であったこと,被告人が乙株式会社の関係者に事実関係を確認することも一切なかったことなどの事情が認められるというのである。
 以上の事実関係の下においては,被告人が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があるとはいえないから,これと同旨の原判断は正当である。

2009年05月12日

不法行為の時効期間(除斥期間)に関する最高裁判例

平成21年04月28日 最高裁判所第三小法廷

 殺人事件の被害者の有していた権利義務を相続した被上告人らが,加害者である上告人に対して,不法行為に基づく損害賠償を請求する事案であり,不法行為から20年が経過したことによって,民法724条後段の規定に基づき損害賠償請求権が消滅したか否かが争われた事案である。

 最高裁は、「被害者を殺害した加害者が,被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出し,そのために相続人はその事実を知ることができず,相続人が確定しないまま上記殺害の時から20年が経過した場合において,その後相続人が確定した時から6か月内に相続人が上記殺害に係る不法行為に基づく損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは,民法160条の法意に照らし,同法724条後段の効果は生じないものと解するのが相当である。」とした。

 なお、上記法廷意見に対し、裁判官田原睦夫による「私は,民法724条後段の規定は,時効と解すべきであって,本件においては民法160条が直接適用される結果,被上告人らの請求は認容されるべきものと考える。」との意見が付されている。

 法解釈論としては、上記田原意見の方が論理が一環すると思われるが、法廷意見は、民法160条の類推適用という解釈論を採用したものである。いずれにおいても、一般市民感情及びスワリのよさ(結論の妥当性)に配慮した妥当な判決と言えよう。

2009年05月09日

週刊誌の表紙、広告が名誉毀損になるとされた事例

東京地裁平成20年12月25日判決(判時2033号26頁)

「一般人が、本件表紙あるいは本件広告の記載のみを読むと、本件記事は、、、との印象及び認識を持つ可能性が高いことは否定し難い」「本件表紙や本件広告は、何ら根拠がないにもかかわらず、、、、原告の社会的なイメージや評価に深刻な打撃を与えるおそれがあることは明らかである」「読者を誤導させるものであって、社会的に許容されるような省略や誇張の範囲内にとどまる表現とはいえないこともまた明らかであるから、結局、本件表紙や本件広告の掲載行為は、原告らの社会的評価を低下させる不法行為(名誉毀損)に当たるものというべきである」

見出しや広告のみについて名誉毀損の成立を認めた珍しい事例であるが、妥当な判断と言えよう。

週刊新潮名誉毀損に係る代表取締役任務懈怠事件

東京地裁平成21年2月4日判決(判時2033号3頁)

「株式会社であろうと、出版を業とする企業は、出版物による名誉毀損等の権利侵害行為を可及的に防止する効果のある仕組、体制を作っておくべきものであり、株式会社においては、代表取締役が、業務の統括責任者として、社内に上記仕組、体制を構築すべき任務を負うと言わなければならない。」「本件各記事については、十分な裏付取材が行われておらず、一方において、Aは、自らの情報提供者と位置づけ、編集部が裏付取材をするとして自らは十分な取材をせずに情報を提供し、他方において、編集部は、Aからの情報なので正しいと安易に判断して、記事としたものと認められ、原告らの名誉を毀損する本件各記事が週刊新潮に掲載され、発行されるに至ったのは、雑誌記事の執筆、編集を担当する記者、編集部等の名誉毀損に関する法的知識や裏付取材のあり方についての意識が不十分であったこと、また、社内における権利侵害防止のための慎重な検討が不足していたことが原因であるというべきであり、このような結果を惹起したのは、被告会社内部に、これを防止すべき有効な対策がとられていなかったことに原因があるといわざるを得ない。」と判示し、代表取締役の第三者に対する責任を認めたものである。

従来の商法(会社法)の法理論をマスコミ報道事案にも適用したものであり、妥当な判断であると言える。

2007年10月02日

販売継続を行った取締役の責任

無認可添加物を含んだ大肉まんを販売したことに関する取締役の責任が肯定された事例

「大肉まん」の原材料に無認可添加物が含まれているのを知っていながら、その販売を継続した事案につき、大阪高裁は、「大肉まんに、平成12年当時の食品衛生法6条に違反し日本では使用が許されていない添加物であるTBHQが混入していることを認識しながら、その販売を継続すること(本件販売継続)を決定し、実行に移させたものであり、これが当時の同条に違反する行為であることは明らかである。」「実際控訴人らがとった行動は、上記のとおり事実の隠蔽であり、役員協議会に報告することも、危機管理体制の発動を促すこともなく、ダスキンの信用失墜の防止と消費者の信頼回復のための措置をとることもなかったものであり、それは、ダスキンが危機的状況において役員に期待する行動規範に反することはもちろん、ダスキンの信用を著しく毀損し、消費者の信頼を失わせるもの以外の何物でもなく、ダスキンの利益に反するものであり、上記善管注意義務に反するものというべきである。」と判示した。

(判例時報1973号135頁)

2007年09月14日

継続的契約における更新拒絶

新聞販売店契約につき、業績不振や虚偽報告を理由に更新拒絶を行った事案につき、裁判所は、「本件新聞販売店契約の更新拒絶には、信義則上、信頼関係の破壊等契約関係の継続が困難な事情が存在することなど、本件新聞販売店契約を終了すべき正当な理由が必要であると解される」上記更新拒絶は無効であるけれども、「上記更新拒絶をもって被告がその優越的地位を濫用したものとまではいえず、原告甲野主張の不法行為は成立しないというべきである」と判示した。

(判例タイムズ1244号213頁)

2007年09月05日

土地売主の瑕疵担保責任

かつて存在していた建物において殺人事件があった場合の土地売主の瑕疵担保責任

購入した土地上にかつて存在していた建物内で殺人事件があったことが判明した事例につき、大阪地裁は、「売買の目的物に民法570条の瑕疵があるというのは、その目的物が通常保有する性質を欠いていることをいい、目的物に物理的欠陥がある場合だけでなく、目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的欠陥がある場合も含まれるものと解するのが相当である。」殺人事件は、「本件売買の約8年以上前」であり、建物が取り壊され、「もはや特定できない一空間内におけるものに変容していた」と言えるものの、「住民の記憶に少なからず残っているものと推測される」ので、「住み心地が良くなく、居住の用に適さないと感じることに合理性があると認められる程度の、嫌悪すべき心理的欠陥がなお存在するものというべきである」と判示し、本件売買代金額の5パーセント相当額を損害賠償と認めたものである。

(判例時報1971号130頁)

2007年08月15日

イニシアル・トークによる名誉毀損

平成18年11月7日東京地裁判決

メールマガジンや雑誌におけるイニシャルによる記事につき、裁判所は、「原告の周囲において、原告とイベントサークルとの関連性が取りざたされていたことなどからすれば、原告と面識がある物や、原告の属性のいくつかを知る者が本件記事を見れば、「K・T」ないし「K」を原告と認識することは容易である。したがって、本件記事における「K・T」ないし「K」は原告を示すものと言える。」「この点、被告噂の真相及び同丙川は、一般読者の普通の注意と読み方とを基準にして、本件記事において一般の読者は、原告を同定しえないから原告の社会的評価を低下させないなどと主張する。しかし、原告の属性のいくつかを知る者は不特定多数に及ぶことは容易に推認できることからすれば、そうした者が本件記事を読んだ場合、「K・T」ないし「K」は原告であると認識できる以上、被告の主張は採用できない」と判示し、名誉毀損を肯定したものである。

(判例タイムズ1242号224頁)

2007年08月06日

建築設計・施工者等の不法行為責任

平成19年7月6日最高裁判決

「建物の建築に携わる設計者、施工者及び工事監理者(以下、併せて「設計・施工者等」という。)は、建物の建築に当たり、契約関係にない居住者等に対する関係でも、当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負うと解するのが相当である。そして、設計・施工者等がこの義務を怠ったために建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害された場合には、設計・施工者等は、不法行為の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなど特段の事情がない限り、これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負うというべきである。」「原審は、瑕疵がある建物の建築に携わった設計・施工者等に不法行為責任が成立するのは、その違法性が強度である場合、例えば、建物の基礎や構造く体にかかわる瑕疵があり、社会公共的にみて許容し難いような危険な建物になっている場合等に限られるとして、本件建物の瑕疵について、不法行為責任を問うような強度の違法性があるとはいえないとする。しかし、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵がある場合には、不法行為責任が成立すると解すべきであって、違法性が強度である場合に限って不法行為責任が認められると解すべき理由はない。例えば、バルコニーの手すりの瑕疵であっても、これにより居住者等が通常の使用をしている際に転落するという、生命又は身体を危険にさらすようなものもあり得るのであり、そのような瑕疵があればその建物には建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があるというべきであって、建物の基礎や構造く体に瑕疵がある場合に限って不法行為責任が認められると解すべき理由もない。」

(最高裁HP)

2007年07月31日

民事再生手続中の詐害行為取消権の行使

東京地裁平成19年3月26日

民事再生手続進行中の詐害行為取消権の行使につき、裁判所は、「再生手続開始後は、詐害行為や否認すべき行為があると考える債権者は、監督委員や裁判所に対して否認権の行使を促せば足りる者と考えられる。行使すべき重要な否認権を行使しないことを前提とした再生債務者の財産状況を基礎として作成された再生計画は、再生債権者の一般の利益に反する(民事再生法174条2項4号)ものとして、裁判所の認可が得られず再生の目的を達することができないものと考えられ、監督委員や裁判所もこの点を考慮して否認権の行使の当否を検討するはずであるからである」と判示し、再生債権者は再生債権に基づき詐害行為取消権を行使することはできないと判示した。

(判例時報1967号105頁)

2007年07月24日

不当利得の返還義務の範囲

平成19年3月8日最高裁判決

株式の売却に伴う前主の不当利得につき、最高裁は、「受益者が法律上の原因なく代替性のある物を利得し、その後これを第三者に売却処分した場合、その返還すべき利益を事実審口頭弁論終結時における同種・同等・同量の物の価格相当額であると解すると、その物の価格が売却後に下落したり、無価値になったときには、受益者は取得した売却代金の全部又は一部の返還を免れることになるが、これは公平の見地に照らして相当ではないというべきである。また、逆に同種・同等・同量の物の価格が売却後に高騰したときには、受益者は現に保持する利益を超える返還義務を負担することになるが、これも公平の見地に照らして相当ではなく、受けた利益を返還するという不当利得制度の本質に適合しない。そうすると、受益者は、法律上の原因なく利得した代替性のある物を第三者に売却処分した場合には、損失者に対し、原則として、売却代金相当額の金員の不当利得返還義務を負うと解するのが相当である。」と判示した。

(判例時報1965号64頁)

2007年06月27日

URLにおける標章の表示につき争われた事例

平成18年4月18日大阪地裁判決

 ホームページのURLにおける標章の表示等につき争われた事件につき、裁判所は、「本件において問題となっているホームページの画面は、現商標商品の写真や現商標が掲載され、あるいは、新商標商品の写真が掲載され、新商標が表示されているものであるので、被告標章7に格別の周知性があるとは認めることができない本件においては、これらの画面を閲覧したした者が、URLの被告標章8(yodel)を見て、画面に掲載されている被告製品の識別標識(標章)であると認識するとは認めることはできない。したがって、本件においては、URLを表示するウィンドウに「yodel」なる文字列を用いたことは、商標としての使用には該当しない」とし、名刺上の記載については、「商標法2条3項8号の広告的使用に該当するか否かが問題となる」が、「本件で問題となっている名刺には被告標章21が単独で用いられているにすぎず、宣伝文句等の記載もないことによれば、同標章が被告製品に関して付されたものと認めることはできない」とし、これらの行為については商標権侵害にはならないと判示した。

(判例タイムズ1238号292頁)

2007年06月15日

特定贈与を受けた者と包括遺贈を受けた者との関係

大阪高裁平成18年8月29日判決

原告は、本件土地について贈与を受けたものであるが、本件土地の包括遺贈を受けた者に対して、贈与を原因とする所有権移転登記手続を求めた事案であるが、大阪高裁は、「被相続人の意思に基づく財産の処分である天で、包括遺贈は、特定遺贈と同じである。」「その効力が生前贈与などのように生前に発生するか、被相続人の死亡時に発生するかにかかわりなく、それに基づく物権変動の効力は、登記がされるまでは、いずれも未完成であり、登記がされれば、その時点で完成すると解するのが相当である。」「民法177条との関係では、包括遺贈による所有権の移転と特定遺贈による所有権の移転とを区別して考えることはできないというべきである」「包括遺贈による所有権の移転は、民法177条にいう『不動産に関する物権の得喪及び変更』に該当し、そのような物権変動を受けた他の者との関係では、対抗問題になり、原則として、包括遺贈を受けた者が民法177条にいう『第三者』に該当すると解すべきである」と判示した。

(判例時報1963号77頁)

2007年06月12日

アメフト部の練習における学校事故

京都地裁平成19年5月29日

 被告の設置する高等学校のアメリカンフットボール部の合宿における練習中に急性硬膜下血腫の傷害を負い死亡したBの両親である原告らが、(1)同部の顧問及び監督である教諭には、‘栄瑤砲ける指導を行うにあたり頭部外傷事故を防止する注意義務を怠った過失、■造不調を訴えたとき直ちに救急車の出動を要請しなかった過失があるなどと主張して、被告に対し、国家賠償法1条に基づき、損害賠償等を求めた事件である。
 京都地裁は、「C教諭は、主として、戦術面での有利さを考えて正しいヒッティングフォームの指導をしており、新入生に対し、頭部から当たることの危険性、そして正しいヒッティングフォームで当たることが事故防止の観点からいかに大切であるかについて説明し、新入生に理解させる努力を十分に行っていたものとはいえないし、そのため、本件合宿においても、Hコーチは頭と手の3点で当たるように指導し、また、本件オクラホマ練習において手よりも頭が先に当たった場合においても、C教諭、Hコーチ及びOBがその都度適切な指示を行っていないなど、C教諭の正しいヒッティングフォームについての指導は徹底していなかったものというほかない。この意味において、C教諭には前判示の注意義務を怠った過失があるといわざるを得ない」として過失を認定したものの、「単純型の急性硬膜下血腫は、比較的軽度の衝撃でも発生しうること、頭部よりも手を先に相手の身体に当てる正しいヒッティングフォームで当たっても、頭部が相手の身体(頭部を含む。)に当たること自体は避けられないこと、Bがどのような態様で急性硬膜下血腫の原因となる頭部打撲を被ったのかについてその具体的な状況を認めるに足りる証拠が存在しないことからすれば、C教諭の上記注意義務違反の結果、B又は練習相手が、頭部から当たる危険なヒッティングフォームで練習相手又はBと当たったとも、さらに、頭部から当たる危険なヒッティングフォームで当たった結果、Bが、急性硬膜下血腫の原因となる頭部打撲を被ったものとも認めることができない。」として、C教諭の過失とBの死亡との因果関係を否定し、原告の請求を棄却したものである。

(最高裁HP)

2007年06月11日

FC契約におけるロイヤリティ(チャージ率)の計算方法について争われた事案

平成19年6月11日最高裁判決

 コンビニエンス・ストアのフランチャイズ契約に加盟店は運営者に対して売上高から売上商品原価を控除した金額に一定の率を乗じた額を支払う旨の条項について争われた事案において、最高裁は、「本件契約書18条1項において引用されている付属明細書(ホ)2項には廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価が営業費となることが定められている上,上告人の担当者は,本件契約が締結される前に,被上告人に対し,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価をそれぞれ営業費として会計処理すべきこと,それらは加盟店経営者の負担であることを説明していたというのであり,上記定めや上記説明は,本件契約に基づくチャージの算定方式が上告人方式によるものであるということと整合する。」「被上告人が本件契約締結前に店舗の経営委託を受けていた期間中,当該店舗に備え付けられていたシステムマニュアルの損益計算書についての項目には,「売上総利益」は売上高から「純売上原価」を差し引いたものであること,「純売上原価」は「総売上原価」から「仕入値引高」,「商品廃棄等」及び「棚卸増減」を差し引いて計算されることなどが記載されていたことも明らかである。」などとし、「本件条項所定の「売上商品原価」は,実際に売り上げた商品の原価を意味し,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価を含まないものと解するのが相当である。」と判示した。

(最高裁HP)

2007年06月01日

信用毀損に関する判断基準

東京地裁平成18年9月26日

キューピーに関する著作権処理に関連し生じた紛争であるが、裁判所は、「不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為は、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知等する行為をいう。他人の営業上の信用を害するか否かは、対象となる文言のみならず、告知文書の他の部分や添付された文書の記述をも併せて読むことにより、全体として虚偽といえるかどうか検討すべきであり、告知文書の形式・趣旨、告知の経緯、告知文書の配布先の数・範囲、告知の相手方のその後の行動等の諸般の事情を総合して判断すべきである。そして、虚偽の事実であるか否かは、告知内容について告知の相手方の普通の注意と読み方・聞き方を基準として判断すべきである。よって、告知の相手方がどのような者であって、どの程度の予備知識を有していたか、当該告知がどのような状況で行われたか等の点を踏まえつつ、相手方が告知された事実について真実と反するような誤解をするか否かによって決すべきである」と判示した。

(判例時報1962号147頁)

2007年05月30日

銀行員が権限なく行った契約につき、顧客に重過失があるとされた事例

平成18年3月17日東京地裁判決

日本国内の外国銀行の行員が、権限無く考え出した架空金融商品の取引につき、裁判所は、原告は銀行との取引経験が豊富であると言えること、通常の金利の数倍から数千倍にも及ぶ高い金利が約束されていたこと、為替差損の危険がなかったことなどから、このような商品を銀行が通常取り扱うとは考えられないこと、各契約書は不自然かつ不正確な英語表記を含むものであったこと、原告が報酬名目で数千万円以上の金員を受け取っていたこと、Aの異動及び退職、Aの権限などについて、銀行に確認することが容易であったことなどの間接事実を認定し、「本件各定期預金契約に係る商品がAの考えた架空商品であって、被告の正規の商品ではないことを疑う能力を十分有し、かつ、この商品が被告の正規の商品か否かについて、被告に対して確認することは容易であったにもかかわらず、原告らは何らの確認をしなかったといわざるを得ないのであって、Aが権限を有しないことを原告らが知らなかったことについては、原告らに優に重大な過失があったと認められる」と判示し、原告らのよる預金返還請求を棄却したものである。

(判例タイムズ1236号237頁)

2007年05月28日

外国語会話学校の中途解約精算金事件

平成19年4月3日最高裁判決(解約精算金請求事件)

「特定継続的役務提供契約の役務の対価を受領した役務提供事業者が、役務の提供を受ける者(以下「役務受領者」という。)による契約の解除に伴い、その受領金の額から提供された役務の対価に相当する額(以下「提供済役務対価相当額」という。)を控除した残額を返還する場合において、受領金の授受に際して役務の対価に単価が定められていたときは、役務提供事業者は、原則として、その単価によって提供済役務対価相当額を算定すべきであり、合理的な理由なくこれと異なる単価を用いることは、法49条2項の趣旨に反し許されない。本件清算規定は、それが契約時単価と異なる単価によって提供済役務対価相当額を算定すべきものとしていることに合理的な理由はないから、無効である。
 法49条1項は、特定継続的役務提供契約が締結された場合、役務受領者は、同項所定の期間を経過した後においては、将来に向かって当該契約の解除をすることができる旨を定め、同条2項1号は、特定継続的役務提供契約が役務の提供開始後に解除されたときは、役務提供事業者は、役務受領者に対し、損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときにおいても、提供済役務対価相当額と解除によって通常生ずる損害の額として政令で定める額(外国語会話教室に係る特定継続的役務の場合、5万円又は解除された契約に係る役務の対価の総額から提供済役務対価相当額を控除した額の100分の20に相当する額のいずれか低い額)を合算した額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額(以下、この金額を「法定限度額」という。)を超える額の金銭の支払を請求することができない旨を定めている。
 上告人は、本件使用済ポイントの対価額について、本件清算規定に従って算定すべきであると主張する。しかし、本件清算規定に従って算定される使用済ポイントの対価額は、契約時単価によって算定される使用済ポイントの対価額よりも常に高額となる。本件料金規定は、契約締結時において、将来提供される各役務について一律の対価額を定めているのであるから、それとは別に、解除があった場合にのみ適用される高額の対価額を定める本件清算規定は、実質的には、損害賠償額の予定又は違約金の定めとして機能するもので、上記各規定の趣旨に反して受講者による自由な解除権の行使を制約するものといわざるを得ない。」

(最高裁HP)

2007年05月05日

敷引特約が無効であるとされた事例(京都)

平成19年4月20日京都地裁判決

 本件敷引特約が消費者契約法10条により無効となるには,)楫鑄澎特約が,民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重するものであること,及び¬泳。云鬘温爐傍定する基本原理である信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであることが必要である。
2 そこで,まず,前者の要件について検討するに,敷金は,賃料その他の賃借人の債務を担保する目的で賃借人から賃貸人に対して交付される金員であり,賃貸借目的物の明渡し時に,賃借人に債務不履行がなければ全額が,債務不履行があればその損害額を控除した残額が,賃借人に返還されることが予定されている。そして,賃貸借は,一方の当事者が相手方にある物を使用・収益させることを約し,相手方がこれに対して賃料を支払うことを約することによって成立する契約であるから,目的物を使用収益させる義務と賃料支払義務が対価関係に立つものであり,賃借人に債務不履行があるような場合を除き,賃借人が賃料以外の金銭の支払を負担することは法律上予定されていない。また,本件各証拠を検討しても,関西地方において敷引特約が事実たる慣習として成立していることを認めるに足りる証拠はない。そうすると,本件敷引特約は,上記第2の2(2)のとおり,敷金の一部を返還しないとするものであるから,民法の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者である賃借人の権利を制限するものというべきである。
3 次いで,本件敷引特約が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるかについて検討するに,上記2説示のとおり,賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の性質上当然に予定されているから,建物の賃貸借においては,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生じる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する自然損耗に係る投下資本の回収は,通常,修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。したがって,自然損耗についての必要費を賃料により賃借人から回収しながら,更に敷引特約によりこれを回収することは,契約締結時に,敷引特約の存在と敷引金額が明示されていたとしても,賃借人に二重の負担を課すことになる。これに対し,被控訴人は,自然損耗についての修繕費用を賃料という名目で回収するか,敷引金という名目によって回収するかは,原則として賃貸人の自由に委ねられている事柄であり,本件においては,自然損耗についての修繕費用を敷引金という名目によって回収することにつき合理的理由があると主張するところ,確かに,自然損耗についての必要費の回収をどのような方法で行うかは,投資者たる賃貸人の自由に委ねられているから,賃貸人が,賃料には自然損耗についての必要経費を算入せず,低額に抑えた上で,自然損耗についての必要費を敷引金という名目によって回収したとしても,信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するとはいえない。しかし,本件各証拠を検討しても,控訴人及び被控訴人が,本件賃貸借契約締結時に,自然損耗についての必要経費を賃料に算入しないで低額に抑え,敷引金にこれを含ませることを合意したことを認めるに足りる証拠はないから,被控訴人の同主張は理由がない。
また,証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によれば,敷引特約は,事実たる慣習とまではいえないものの,関西地区における不動産賃貸借において付加されることが相当数あり,賃借人が交渉によりこれを排除することは困難であって,消費者が敷引特約を望まないのであれば,敷引特約がなされない賃貸物件を選択すればよいとは当然にはいえない状況にあることが認められ,これに,上記第2の2(2)及び(4)のとおり,本件敷引特約は敷金の85%を超える金額を控除するもので,控訴人に大きな負担を強いるものであることを総合すると,本件敷引特約は,信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであると判断するのが相当である。これに対し,被控訴人は次の入居者を獲得するためのリフォーム代を敷引金名目で回収することは,一定の合理性を持つ旨主張するが,新規入居者獲得のための費用は,新規入居者の獲得を目指す賃貸人が負担すべき性質のものであって,敷引金名目で賃借人に転嫁させることに合理性を見いだすことはできない。また,被控訴人は,建物の賃貸借は,単純な契約関係にすぎず,賃貸人と賃借人との間に情報の格差が特にはないと主張するが,一消費者である賃借人と事業者である賃貸人との間では情報力や交渉力に格差があるのが通常であって,このことは被控訴人が事業者である本件においても同様であるから,被控訴人の同主張も理由がない。
4 以上によれば,本件敷引特約は,消費者契約法10条により,特約全体が無効であると認められるから,控訴人の本件請求は理由があり,これを棄却した原判決は相当でなく,本件控訴は理由がある。そこで,原判決を取り消して,本件請求を認容することとし,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法67条2項本文,61条を,仮執行宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(最高裁HP)

2007年05月04日

自動継続特約付きの定期預金契約における預金払戻請求権の消滅時効

平成19年4月24日最高裁(三)判決


自動継続定期預金契約における自動継続特約は,預金者から満期日における払戻請求がされない限り,当事者の何らの行為を要せずに,満期日において払い戻すべき元金又は元利金について,前回と同一の預入期間の定期預金契約として継続させることを内容とするものである(最高裁平成11年(受)第320号同13年3月16日第二小法廷判決・裁判集民事201号441頁参照)。消滅時効は,権利を行使することができる時から進行する(民法166条1項)が,自動継続定期預金契約は,自動継続特約の効力が維持されている間は,満期日が経過すると新たな満期日が弁済期となるということを繰り返すため,預金者は,解約の申入れをしても,満期日から満期日までの間は任意に預金払戻請求権を行使することができない。したがって,初回満期日が到来しても,預金払戻請求権の行使については法律上の障害があるというべきである。もっとも,自動継続特約によれば,自動継続定期預金契約を締結した預金者は,満期日(継続をしたときはその満期日)より前に継続停止の申出をすることによって,当該満期日より後の満期日に係る弁済期の定めを一方的に排除し,預金の払戻しを請求することができる。しかし,自動継続定期預金契約は,預金契約の当事者双方が,満期日が自動的に更新されることに意義を認めて締結するものであることは,その内容に照らして明らかであり,預金者が継続停止の申出をするか否かは,預金契約上,預金者の自由にゆだねられた行為というべきである。したがって,預金者が初回満期日前にこのような行為をして初回満期日に預金の払戻しを請求することを前提に,消滅時効に関し,初回満期日から預金払戻請求権を行使することができると解することは,預金者に対し契約上その自由にゆだねられた行為を事実上行うよう要求するに等しいものであり,自動継続定期預金契約の趣旨に反するというべきである。そうすると,初回満期日前の継続停止の申出が可能であるからといって,預金払戻請求権の消滅時効が初回満期日から進行すると解することはできない。

(最高裁HP)

2007年05月03日

著作権に関するロイヤリティ支払の合意を否定した事例

平成19年4月25日東京地裁判決


原告(バディ・コミュニケーション株式会社)が,バディが被告ハドソンから発注を受けて別紙1物件目録1記載のコンピュータプログラムを作成し,同プログラムの著作権を有することを前提に,主位的請求として,被告ハドソンに納入した同プログラムの複製物を被告ハドソンが他社に販売又は貸与する場合には,その販売及び貸与について被告ハドソンからバディに対してロイヤリティを支払う旨の合意が成立していたと主張していた事件につき,東京地裁は,「バディと被告ハドソン間にロイヤリティ支払の合意があったとは認められず,他に,これを認めるに足りる証拠はない。理由は以下のとおりである。ア 具体的な交渉の経過が認められないこと,イ 合意の内容に関する書面は作成されていないこと,ウ 本件訴訟に至るまで,ロイヤリティの請求が行われていないこと」を理由とし「客観的な事実経過及びバディの対応は,ロイヤリティ支払の合意の存在とは整合しないのであって,結局,同合意は成立していないものといわざるを得ない」と判示した。

(最高裁HP)

2007年05月02日

貸金業者の期限の利益の喪失を前提とする一括請求事件

大阪高裁平成18年7月21日判決


貸金業者による貸金請求事件につき、大阪高裁は、「本件期限の利益喪失特約がその文言とおり効力を有するとすると、、、利息制限法1条1項の趣旨に反して容認することはできない」「本件期限の利益喪失特約は、法律上は、制限超過部分の利息の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は、同項の趣旨に反して無効である」「上告人において、被上告人の求めに応じて分割支払を継続することによって期限の利益を再度付与されているとの誤解を有することは十分あり得ることである」「期限の利益を既に喪失していることなどにつき誤解を有していたことは、特段の事情のない限り、推認することができるものというべきである」として、審理不尽の違法があるとして、原判決を破棄したものである。


(判例時報1953号144頁)

2007年04月05日

プロバイダ責任制限法に関する事例

 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律に基づき、発信者に係る住所、氏名及びメールアドレスの開示を求めるとともに、損害賠償を求めた事案につき、裁判所は、氏名等の開示請求は認めたが、同法4条4項の「故意とは、権利侵害の明白性及び発信者情報開示の必要性の要件を具備していることを認識しながら、プロバイダが裁判外での開示請求者の請求に応ぜず、開示請求者に精神的苦痛などの損害が生じた場合をいい、同項の重過失とは、故意に近い注意欠如の状態をいうべきものと解すべきである」と判示し、損害賠償責任については、故意又は重過失がないものとして否定したものである。
(判例時報1956号130頁)

2007年03月26日

和解調書に基づく建物明渡請求が排除された事例

 離婚訴訟において成立した和解条項に基づく建物の明渡請求の本事案につき、裁判所は、「本件マンションの明渡しを受ける必要性が極めて少ないという事情があるにもかかわらず、他方で、原告の生活の本拠を奪い、当然の権利である慰謝料等の支払請求権について、原告に回収の見込みのない債務名義のみを残すことになるという、極めて不合理な結果が生ずることになる。」「そうすると、本件においては、被告の原告に対する本件和解条項に基づく強制執行は、もはや、自己の都合のみを優先し、原告に対して一方的に不当な結果を生ぜしめることを目的とするものであると推認すべきであって、著しく信義誠実の原則に反し、正当な権利行使の名に値しない不当なものと認めることが相当である」と判示した。
(判例タイムズ1230号335号)

2007年03月23日

自筆証書遺言無効事件

 本文中には、遺言者の署名捺印がなく、封筒に署名捺印があったケースにつき、裁判所は、「本件文書と本件封筒が一体のものとして作成されたと認めることができない以上、亡太郎が本件封筒の裏面に署名し、その意思に基づいて押印したかどうかを問うまでもなく、本件文書には亡太郎の署名及び押印のいずれも欠いており、本件遺言は、民法968条1項所定の方式を欠くものとして、無効である」と判示した。
(判例時報1955号41頁)

2007年03月16日

マンション無断立入事件

 マンションの管理会社が賃料を延滞していた入居者の建物につき、賃貸借契約の条項に基づき無断で立入を行った事件につき、裁判所は、「賃料の支払や本件建物からの退去を強制するために、法的手続によらずに、原告の平穏に生活する権利を侵害することを許容することを目的とするものというべきところ、このような手段による権利の実現は、法的手続によったのでは権利の実現が不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情がある場合を除くほかは、原則として許されないというべきであって、本件特約は、そのような特別の事情のがあるとはいえない場合に適用されるときは、公序良俗に反して、無効であるというべきである」と判示した。
(判例時報1954号80頁)

2007年03月05日

ビル賃貸借における看板設置禁止請求事件

 ビル店舗における賃借人が共用部分及び公道上に無断で設置された看板等についてその設置禁止を求めた事件につき、裁判所は、「多数の賃借人が入居するビルにおいて、個々の賃借人がビルの共用部分に任意に看板等を設置できるとすれば、ビルの所在、外観及び個々の賃借物件の形状等諸般の状況を考慮して当該賃貸借契約を締結した賃借人の営業にとって支障が生ずるし、実際、他の入居者から苦情を受けている上、被告自身も、他の賃借人の看板撤去を求めていたことからすれば、本件袖看板及び本件メニュー板は、『他の入居者の営業に支障を及ぼすような』ものであるということができる」と判示した。
(判例時報1953号146頁)

2007年02月26日

著作権に関する告知行為に関する不正競争防止法事件

 キューピーの著作物の帰属に関する係争に関連して、第三者が著作権を有しているという告知を行った事件につき、裁判所は、「不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為は、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知等する行為をいう。他人の営業上の信用を害するか否かは、対象となる文言のみならず、告知文書の他の部分や添付された文書の記述をも併せて読むことにより、全体として虚偽といえるかどうか検討すべきであり、告知文書の形式・趣旨、告知の経緯、告知文書の配布先の数・範囲、告知の相手方のその後の行動等の諸般の事情を総合して判断すべきである。そして、虚偽の事実であるか否かは、告知内容について告知の相手方の普通の注意と読み方・聞き方を基準として判断すべきである。よって、告知の相手方がどのような者であって、どの程度の予備知識を有していたか、当該告知がどのような状況で行われたか等の点を踏まえつつ、相手方が告知された事実につして真実と反するような誤解をするか否かによって決すべきである。」と判示した。
(判例タイムズ1228号330頁)

2007年02月23日

不執行の合意がある場合の強制執行排除事件

 公正証書に基づく債権差押事件において執行抗告した事件につき、最高裁は、「強制執行を受けた債務者が、その請求債権につき強制執行を行う権利の放棄又は不執行の合意があったことを主張して裁判所に強制執行の排除を求める場合には、執行抗告又は執行異議の方法によることはできず、請求異議の訴えによるべきものと解するのが相当である」と判示した。必要的に口頭弁論が開かれる請求異議の訴えの手続の方がふさわしいと判断されたものと思われる。
(判例時報1952号92頁)

2007年02月15日

特許権侵害に関する警告書の送付が違法とされた事件

 警告書の送付行為が問題となった事案につき、裁判所は、「特許権侵害について、事前の事実的、法律的調査が不十分なまま、警告書を送付するに至った場合については、当該不正競争行為について過失が認められるべきであるし、また、競業者の取引先に対する警告等が、特許権者の権利行使の一環としての外形をとりながらも、その目的が競業者の信用を毀損して特許権者が市場において優位に立つことにあり、その内容、態様等において社会通念上必要と認められる範囲を超えたものとなっている場合などには、当該不正競争行為について、故意ないしは少なくとも過失が認められ得るものというべきである」と判示した。
(判例時報1951号106頁)

2007年02月05日

法律解説書著作権事件

 法律解説書に関する著作権侵害が争われた事件につき、裁判所は、著作物に関する創作性につき、「厳密な意味で創作性が発揮されたものであることは必要ではなく、筆者の何らかの個性が表現されたもので足りるというべきであるが、他方、文章自体がごく短く又は表現上制約があるため他の表現が想定できない場合や、表現が平凡かつありふれたものである場合には、筆者の個性が表現されたものとはいえないから、創作的な表現であるということはできない」という一般論を展開した上で、本件事案につき、「法令の内容に従って整理したにすぎない図表については、誰が作成しても同じような表現にならざるを得ない」「ある法律問題に関する筆者の見解又は一般的な見解である場合は、思想なししアイデアにおける同一性を有するにすぎず、思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえない」等と判示し、原告の請求の一部についてのみ認容した。
(判例時報1950号147頁)

2007年01月30日

洗浄処理剤発明者事件

 製薬会社における洗浄処理剤に関する発明者につき争われた事件につき、東京地裁は、「『発明』とは『自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの』をいうから(特許法2条1項)、真の発明者(共同発明者)といえるためには、当該発明における技術的思想の創作行為に現実に加担したことが必要である。したがって、具体的着想を示さずに、単なるアイデアや研究テーマを与えたにすぎない者などは、技術的思想の創作行為に現実的に加担したとはいえないから、真の発明者ということはできない」と判示し、原告の請求を棄却した。
(判例タイムズ1225号301頁)

2007年01月24日

宇宙開発事業団プログラム著作権事件

 ロケット及び人工衛星の制御プログラムに関する著作権の帰属が争われた事件につき、東京地裁は、「原告は、本件プログラム一の形成に当たって、定式化、アルゴリズム、入力データ、出力仕様などの技術的資料を提示するとともに、被告CRCの技術者らとともに、ソフト機能の検証及び確認を行ったものであるが、プログラムの具体的記述に原告の思想又は感情が創作的に表現されたと認めるに足りる証拠はなく、これらの諸活動をもって、原告の思想又は感情を創作的に表現すると評価される行為ということはできない」等と判示し、著作権及び著作者人格権が原告にあるとの確認を求めた請求を棄却した。
(判例時報1949号113頁)

2007年01月23日

Yahoo!BB情報漏洩事件

 Yahoo!BBの顧客情報が漏洩した事件につき、裁判所は、「被告BBテクノロジーは、本件リモートメンテナンスサーバーを設置して本件顧客データベースサーバー等のサーバーへのリモートアクセスを行うことを可能にするに当たり、外部からの不正アクセスを防止するための相当な措置を講ずべき注意義務を怠った過失があり、同過失により本件不正取得を防ぐことができず、原告らの個人情報が第三者により不正に取得されるに至ったというべきである。したがって、同被告は、原告らに対し、本件不正取得により原告らの被った損害を賠償すべき不法行為責任がある」とした上で、「1月のデータに含まれていた原告らの個人情報は秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではなかったこと、被告BBテクノロジーが、本件恐喝未遂事件後、顧客情報の外部流出について発表を行い、不正取得されたことが確認できた顧客に対してその旨連絡するとともに、本件サービスの全会員に500円の金券を交付するなどして謝罪を行う一方、顧客情報についてのセキュリティ強化等の対策をとっていることといった本件に現れた一切の事情を考慮すると、原告らの精神的苦痛に対する慰謝料としては1人あたり5000円と認めるのが相当である」と判示した。
(判例時報1948号122頁)

2007年01月16日

浮世絵の模写に著作物性が認められた事例

 江戸時代の浮世絵を模写して制作した模写作品において著作物性が認められるどうかが争われた事件において、裁判所は、「模写作品に、原画制作者によって付与された創作的表現が付与されている場合、すなわち、既存の著作物である原画に依拠し、かつ、その表現上の本質的特徴の同一性を維持しつつ、その具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が原画の表現上の本質的特徴を直接感得することができると同時に新たに別な創作的表現を感得し得ると評価することができる場合には、これは前記の意味の「模写」を超えるものであり、その模写作品は原画の二次的著作物として著作物性を有するものと解すべきである」と判示した。
(判例時報1946号101頁)

2007年01月13日

仮差押命令と先日付振込による弁済との優劣

 第三債務者が仮差押命令の送達を受けた時点において、銀行に対して先日付による振込を依頼していた場合において、それによる弁済が有効になるかどうか争われた事件につき、最高裁は、「第三債務者は、原則として、仮差押命令の送達後にされた債務者の預金口座への振込みをもって仮差押債権者に対抗することはできないというべきであり、上記送達を受けた時点において、その第三債務者に人的又は時間的余裕がなく、振込依頼を撤回することが著しく困難であるなどの特段の事情がある場合に限り、上記振込みによる弁済を仮差押債権者に対抗することができるにすぎないものと解するのが相当である」と判示した。
(判例時報1947号58頁)

2006年12月22日

ロケーションフリーTVを使った「まねきTV]事件

 ソニー製のロケーションフリーTVの構成機器であるベースステーションを用い、ユーザーがインターネットを通じてテレビ番組を視聴できるようにした、そのサービス提供会社に対し送信可能化権の侵害といえるかどうか争われた事件につき、東京地裁は、「特定の一主体に送信しているといざわるを得ないから」「本件サービスのおける個々のベースステーションは、『自動公衆送信装置』に当たらず、債務者の行為は、著作権法2条1項9号の5に規定する送信可能化行為に当たらないというべきである」と判示し、債権者の仮処分申請を認めなかったものである。
(判例時報1945号95頁)

2006年12月18日

プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求が認められた事件

 「本件各書込みが、原告の名誉を毀損し、その権利を侵害していることは明白というべきであるから、違法性阻却事由の主張立証責任が原告にあると解するとしても、被告は、本件各書込みに係る発信者情報を開示する義務を負う」として開示請求は認めたものの、「被告としては、、、本件発信者情報を開示ができるか慎重に検討した上で、原告に開示しなかったということができ、被告が本件発信者情報を開示しなかったことについて、過失があったかどうかは格別、重過失があったとはまでは認められない」と判示し、損害賠償責任については否定した。
(判例タイムズ1222号207頁)

2006年12月11日

特許権を侵害する旨の文書の送付が違法であるとされた事件

 「被告が、原告の取引先である・・・に被告文書を送付した行為は、・・・その告知行為が特許権者の権利行使の一環としての外形をとりながらも、競業者の信用を毀損して特許権者が市場において優位に立つことを目的とし、その態様も社会通念上不相当であって、権利行使の範囲を逸脱するものというべきであるから、違法性は阻却されず、競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知又は流布する行為に当たるというべきである。よって、被告文書の送付行為は、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当する」。
(判例時報1944号139頁)

2006年12月04日

就業時間中の私的メールのやりとりが懲戒の対象になるか争われた事件

 従業員が就業時間中に私的メールの交信を行ったり、チャットを利用したり、他の従業員に対し、参加を呼びかけた事案につき、札幌地裁は、「いずれも業務用パソコンを私的に利用した行為であり、他の職員にチャットの利用を誘ったことのほか就業時間内の外部者とのチャット交信などその行為は悪質であり、職場規律・企業秩序の点からも軽視できないものであるから、規程27条2項(物品の私用禁止)に該当するというべきである」と判断したが、本件「減給処分は、懲戒処分としての合理性に乏しく、社会通念上重すぎて不当というべきであって、懲戒権の濫用として無効である」と判示した。
(判例タイムズ1221号271頁)

2006年11月22日

プリペイドカードシステム契約不履行事件

 国際電話用のプリペイドカードシステムにつき原被告間にて採用する協議が行われていた事案につき、裁判所は、「契約締結権限を有する被告国際電話サービス部において、覚書の記載ないし覚書締結の趣旨に従い、本件カードサービスの開始に当たっての障害たる技術的問題が解消されたとの認識の下で本件カードサービスの開始決定を対外的に明らかにしたのであるから、遅くとも平成13年6月15日に本件カードサービスの開始を通知し、準備を指示した時点で、被告において平成13年7月5日に本件カードサービスを開始するとの合意が原被告間でなされ、同債務が被告に生じたというべきである」と判示した。所謂「契約締結上の過失」の問題ではなく、契約の成立が認定された事案である。
(判例時報1943号46頁)

2006年11月14日

信用協同組合の商人性(商法適用の有無)

 「中小企業等協同組合法に基づいて設立された信用協同組合は、今日、その事業の範囲はかなり拡張されてきているとはいえ、なお組合員の事業・家計の助成を図ることを目的とする共同組織であるとの性格に基本的な変更はないとみるべきであって、その業務は営利を目的とするものではないというべきであるから、商法上の商人には当たらないと解するのが相当」である。
(判例タイムズ1220号143頁)

2006年11月07日

商法26条1項の類推適用が否定された事例

 「本件は、これらの判決例とは異なり、譲渡人である訴外会社の商号は「ヌギートレーディング株式会社」であり、屋号は「ザ・クロゼット」であるから、屋号が商号の重要な構成部分を内容としているとの要件を充足しないことは明らかである。よって、原告が引用する判決例のように、商法26条1項を類推適用して、被告の弁済責任を肯定することはできない。」
(判例時報1940号158頁)

2006年10月27日

ワンクリック詐欺損害賠償請求事件

 「本件は、相手方に契約締結意思がないにもかかわらず、サイトの画面の写真画像をクリックしただけで、会員登録が終了したとして不当に利用料金を請求する、いわゆるワンクリック詐欺による不当請求事案であるが、その手口は、いきなり画面を暗転させえ数字や文字を羅列させた後、個人情報取得終了との表示を行い、いかにも相手方のパソコン内にスパイウェアを侵入させ個人情報を窃取したかのような不安感を与えつつ、IPアドレスによってパソコンが特定でき、自宅や勤務先に直接請求するとともに、延滞料も請求することがあるなどと威圧的に請求を行うもので、しかも、羞恥心から泣き寝入りし、支払いに応じる者もあることを見込んでランダムに多数のメールを送りつけるというものであって、極めて悪質である。原告は、弁護士であり、かかる請求に対して支払義務のないことは理解していたが、自らのパソコンにスパイウェアを侵入され、またパソコン内の個人情報を窃取されたかもしれないとの疑念を抱き、パソコンの点検が済むまでの間パソコンの利用を差し控えたほか、自らの権利救済のために時間と費用をかけて本訴を提起しており、被告の行為により看過し難い精神的苦痛を負ったことは明らかである。本件の関する上記のような諸般の事情を総合勘案すると、本件における損害賠償金として30万円が相当であると思料する。」
(判例時報1939号52頁)

2006年10月22日

株式会社譲渡につき賃貸借の脱法的無断譲渡に該当しないとされた事例

 「賃借人である法人の構成員や機関等に変動が生じても、法人格の同一性が失われるものではない。」「本件における被告の株券譲渡、商号、役員変更等が本件特約条項が規定する脱法的無断賃借権の譲渡に当たると解することはできない」として、本件解除に基づく本件建物明渡等の請求を認めなかったものである。
(判例時報1938号90頁)

2006年10月13日

全国八葉物流不当利得返還請求事件

 「本件各取引システムは、商品の連鎖販売取引を仮装しているが、その実質は法により刑罰をもって禁止されている無限連鎖講に当たる上に、早晩破綻することが必至であるにもかかわらず、その事実を隠蔽しつつ極めて高率の配当金等をもって新規会員を募るという著しく射幸性の強いもので、それ自体として強い反社会性を有するものと評価される」とした上で、「民法708条による不法原因給付者による返還請求が許されないとされるのは、自ら不法は給付をなした者が、当該違法行為を理由として法の保護を求めることの非難性に対する制裁の趣旨と解される。しかるところ、破産管財人は、破産債権者全体の利益を代表して、総債権者に公平な配当を行うことを目的として、破産者に帰属する財産について、破産者に代わって管理処分権を行使する独立の法主体であると解されるから、破産管財人が破産者の権利を行使する場合には、民法708条の趣旨は当てはまらないというべきであり、同条は適用されない」として、管財人の請求を認めたものである。
(判例時報1937号102頁)

2006年10月11日

矢沢永吉パチンコ機事件

 「本件パチンコ機の内容、その中における本件人物絵の位置付け及び使用の態様などからすると、被告平和は原告の顧客吸引力を用いる目的で本件パチンコ機に本件人物絵を使用したものとは認められず、また、現実にも原告の顧客吸引力の潜用あるいはその毀損が生じているとは認めがたい。人格的利益についても、本件においては、肖像権の対象となるような原告の容姿の写真、ビデオあるいは詳細な写実画が使用されたものではなく、使用された漫画絵である本件人物絵は、その制作に当たって原告の肖像のイメージはあったにせよ、原告との類似性はそれほど高くなく、またことさら醜悪あるいは滑稽に描かれておらず、さらにパチンコ遊技中に識別可能性に乏しいものであり、被告平和においても積極的に本件人物絵をパチンコ情報誌等に提供しているものではないことからすると、原告に対して法的な救済を必要とする人格的利益の侵害が生じているとは認められない」と判示した。
(判例タイムズ1217号310頁)

2006年10月09日

モデル引抜き行為不法行為事件

 モデルの有料職業紹介事業に関する労働者の引抜き行為につき、東京地裁は、「被告らが多数の原告モデル等に対し、原告会社のモデル資料から得たモデルに関する情報を利用し、原告会社や原告淺井に対する批判を交えて、一定期間に集中し、また退職後かなりの長期間にわたって、原告会社との契約解消及び被告会社との契約締結を勧誘したことが認められるが、このような方法と態様による勧誘行為は、著しく社会的相当性を欠くといわざるを得ず、不法行為に該当すると認めるのが相当である」と判示した。
(判例時報1936号87頁)

2006年10月02日

所有権留保特約付売買において代金債権が再生債権であるとされた事例

 東京地裁は、自動車販売業者が有していた売買代金債権につき、「本件売買契約は、所有権留保特約付売買契約の形式を採っているものの、実質的には、債権担保の目的のために締結されたものであり、本件においては、本件各自動車を被告会社に売却した上で、本件各自動車について非典型の担保権(いわゆる所有権留保)を設定したものと認めることが相当である」とした上で、「本件売買契約において、売主が買主に対して負担する本件各自動車について所有権移転登録手続をする債務は、買主が売主に対して負担する残代金債務とけん連関係に立つとはいえないと解するのが相当・・・共益債権とすべき事由は見出せない」「設定された担保権について別除権を行使することができ、担保を失うものではないのであるから、再生債務者である買主の立場にある者と比較して、格別保護に欠けるとはいえない。」と判示した。
(金融法務事情1781号64頁)

2006年09月19日

他人の飼い犬による愛犬咬殺事件

 名古屋地裁は、「被告のような高齢の女性が、J(雑種、オス、3歳)のような飼い犬を鎖につなごうとする際、飼い犬がその手をくぐり抜けるような事態が発生することは、予測可能な範囲内にあり、自宅の敷地の外に出たJが、他人の飼い犬や人に危害を加えることは起こりうる出来事であるから、、、注意を払わなければならなかったというべきである」「原告らには何らの落ち度なく、被告の一方的な過失により、原告らが家族の一員のように慈しんで育てていたR(ミニチュア・ダックス、オス、5歳)を被告の飼い犬であるJに咬殺されたこと、原告らが被った精神的苦痛は、そのことだけで非常に大きなものであったこと、原告はRの飼育に日常的に携わっており、溺愛していたこと、JがRを襲う場面を目の当たりにしていたこと、そのためRを救い得なかった呵責の念にさいなまれ、その思いをいまだに断ち切れないこと、原告自身がRを助けようとした際に負傷したことなどが認められる」として、合計66万9850円の慰謝料等の損害賠償責任を認めたものである。
(判例時報1935号109頁)

2006年09月13日

ダスキン未認可添加物混入株主代表訴訟事件

 大阪高裁は、「現代の風潮として、消費者は食品の安全性については極めて敏感であり、企業に対して厳しい安全性確保の措置を求めている。未認可添加物が混入した違法な食品を、それと知りながら係属して販売したなどということになると、その食品添加物が実際に健康被害をもたらすおそれがあるかどうかにかかわらず、違法性を知りながら販売を継続したという事実だけで、当該食品販売会社の信頼性は大きく損なわれることにいなる。ましてや、その事実を隠ぺいしたなどということになると、その点について更に厳しい非難を受けることになるのは目に見えている。」「そのような事態を回避するために、そして、現に行われてしまった重大な違法行為によってダスキンが受ける企業としての信頼喪失の損害を最小限度に止める方策を積極的に検討することこそが、このとき経営者に求められていたことは明らかである。ところが、前記のように、一審被告らはそのための方策を取締役会で明示的に議論することもなく、「自ら積極的には公表しない」などというあいまいで、成り行き任せの方針を、手続き的にもあいまいなままに黙示的に事実上承認したものある。それは、到底、「経営判断」というに値しないものというしかない」と判示し、5億円を超える損害賠償を命じた。
(判例タイムズ1214号115頁)

2006年09月04日

準備書面等の記載における名誉毀損の成否が争われた事件

 「訴訟上の主張、立証活動を、名誉毀損、侮辱に当たるとして損害賠償を認めることについては、相手方の悪性主張のための正当な訴訟活動を萎縮させて民事訴訟の本来果たすべき昨日を阻害することもあるから、慎重でなければならない。」「民事訴訟の本来の機能を阻害しないように留意しながら判断していくほかないが、主要な動機が訴訟とは別の相手方に対する個人攻撃とみられ、相手方当事者からの中止の警告を受けてもなお訴訟における主張立証に名を借りて個人攻撃を続ける場合には、訴訟における主張立証であることを理由とする違法性阻却は認められない。」「原告に生じた精神的損害の額を金銭的に評価すれば、20万円とするのが相当である。」
(判例時報1934号65頁)

2006年08月31日

メディカルビル入居勧誘事件

 「本件メディカルビルは、その性質上、他科医療機関が入居することが前提となっていること、原告は、本件メディカルビルに入居するか否かの意思決定をするにあたっては、本件メディカルビルに他科医療機関が入居することを重要な要素としていたことが認められる。そうすると、Aは、原告が本件メディカルビルへの入居の意思決定をするにあたり、重要な情報について、虚偽の情報提供をするなどして、原告の自由な意思決定を妨げたといえる。以上からすれば、Aを担当していた被告は、契約当事者として、原告が契約締結するか否かを決定するにあたり、重要な情報について、正確に説明する義務を怠ったというべきであり、信義誠実の原則に著しく違反していることから、いわゆる契約締結上の故意又は過失により、不法行為責任を負うというべきである。」「被告は、原告の受けた前記(1)の損害について賠償すべきものといえるが、被告の負担すべき損害賠償額を算定するにあたっては、原告が最終的には自己の判断で旧賃貸借契約の解決及び本件内装工事の発注を行ったとみることができる点を斟酌すべきであり、前記(1)の損害について5割を減ずるべきである。」
(判例タイムズ1213号205頁)

2006年08月30日

マンホール用足掛具事件

 「不正競争防止法2条1項3号は、、、それ自体独立して譲渡、貸渡し等の対象となるものであることが必要である。したがって、商品の形態の一部分については、それ自体独立して譲渡、貸渡し等の対象となる部品である場合には、その部品の形態は、『商品の形態』であるといえるが、商品の形態の一部分が、独立した譲渡、貸渡し等の対象ではなく、販売の単位となる商品の一部分を構成しているにすぎない場合には、当該一部分に商品の形態の特徴があって、その模倣が全体としての『商品の形態』の模倣と評価し得るなど特段の事情がない限り、原則として、その一部分の形態をもって『商品の形態』ということはできない。」
(判例時報1933号107頁)

2006年08月23日

メタタグへの記載が商標権侵害に当たるとされた事例

 「一般に、事業者が、その役務に関してインターネット上にウェブサイトを開設した際のページの表示は、その役務に関する広告であるということができるから、インターネットの検索サイトにおいて表示される当該ページの説明についても、同様に、その役務に関する広告であるというべきであり、これが表示されるようにhtmlファイルにメタタグを記載することは、役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為にあたるというべきである」「ページの説明文に存在する標章が、リンクされたページに表示されなかったとしても、それだけで、出所識別機能が害されないということはできない」(判例タイムズ1212号275頁)

2006年08月21日

出会い系サイト上の顔写真無断使用事件

 「被告及び被告会社は、原告の肖像権を侵害しないよう事前に本件写真の利用につき原告の承諾を得る義務があったにもかかわらずそれを怠った過失により、原告の肖像権を侵害したものであり、また、本件写真を被告会社に提供した被告丙川の行為と被告丙川から提供を受けた本件写真を公表した被告会社の行為との間には、共同不法行為の私立を認めることができる」「約5ヶ月間にわたって出会い系サイトの広告に用いたというものであり」また「多数のアダルト雑誌に原告の顔写真が大きく掲載され、大勢の人に原告の顔を見られたことによる精神的苦痛も被ったことが認められる」「この他、本件に現れた一切の事情を斟酌し、原告の被った精神的損害は100万円と認定するのが相当である。」
(判例時報1932号103頁)

2006年08月16日

集合物譲渡担保権の追及効について判示された事件

 「構成部分の変動する集合動産を目的とする譲渡担保においては,集合物の内容が譲渡担保設定者の営業活動を通じて当然に変動することが予定されているのであるから,譲渡担保設定者には,その通常の営業の範囲内で,譲渡担保の目的を構成する動産を処分する権限が付与されており,この権限内でされた処分の相手方は,当該動産について,譲渡担保の拘束を受けることなく確定的に所有権を取得することができると解するのが相当である。」「他方,対抗要件を備えた集合動産譲渡担保の設定者がその目的物である動産につき通常の営業の範囲を超える売却処分をした場合,当該処分は上記権限に基づかないものである以上,譲渡担保契約に定められた保管場所から搬出されるなどして当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められる場合でない限り,当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することはできないというべきである。」
(最高裁HP)

2006年08月07日

技術上及び営業上の情報侵害について不法行為の成立が認められた事件

 「本件各製作図及び本件各原価表に記載された情報並びに本件各番号は、原告において、営業秘密として管理されていたとまではいえない。しかし、上記認定事実によれば、原告は、独自に作成した本件各製作図を用いて、キングピンを製作しており、その品質は市場において一定の評価を受けている上、本件各原価表は、キングピンキットの販売価格を決定するために必要な資料であり、また、本件各番号も、より円滑な販売活動に貢献するものであるから、原告は、本件各製作図及び本件各原価表に記載された情報並びに本件各番号を用いることによって、営業上の利益を得ていたものと認められる。したがって、同情報等にいは財産的価値があり、同情報等を不正な手段により入手し、これを利用してキングピンキットを製造販売する行為は、原告の営業上の利益に対する違法な侵害になるというべきである」と判示した。
(判例時報1931号92頁)

2006年08月01日

音楽の著作権について、その使用許諾契約及び著作権の帰属が争われた事件

 「被告は、本件契約は、本件楽曲等の著作権の譲渡を内容とするものであったとも主張する。しかし、著作権の譲渡は著作権者に重要な影響を及ぼすものであるにもかかわらず、本件契約においては、契約書等、譲渡の合意があったことを明確に示す文書が作成されていないこと、被告としては、本件再放送等において追加の対価を支払うことなく自由に本件楽曲等を使用することができれば、本件契約の目的を十分達成することができること、、、などからすると、本件楽曲等については、本件契約により、被告に対し、被告が本件各番組の背景音楽等あるいはスポットとして使用することについては包括的な許諾がなされたものと認められることは前記の通りであるものの、著作権譲渡の合意があったとまでは認めることはできない」と判示した。
(判例時報1930号133頁)

2006年07月28日

空港案内図に関する著作権侵害が争われた事件

 「実際に存在する建築物の構造を描写の対象とする間取り図、案内図等の図面等であっても、採り上げる情報の選択や具体的な表現方法に作成者の個性が表れており、この点において作成者の思想又は感情が創作的に表現されている場合には、著作物に該当するということができる」という一般論を展開した上で、「創作的表現における特徴を感得し得るということはできない」として著作権侵害を否定したものである。
(判例タイムズ1210号258頁)

2006年07月20日

ヤフー・オークションにおいて、運営会社の責任が否定された事件

 「本件オークションは、出品者と落札者との自由意思による売買契約を中核とするものであり、被告はその機会を提供するに過ぎず、かつ、利用者に対して本件オークションを利用した売買契約に伴うリスクについて、格別の注意を促しているのだるから、本件利用規約をもって、被告が有利な立場を利用して、一方的に責任を限定したものとはいえず、本件利用規約のうち被告の責任を限定した部分が、公序良俗に反し又は権利濫用で無効であるとの原告の主張は採用できない。」「本件オークションの利用状況に照らすと、この程度の料金徴収で、すべての利用者の信用状況を調査することは不可能であることは明白である。」と判示した。
(判例時報1929号81頁)

2006年07月05日

WinMXを利用して音楽著作物を送信した場合に、プロバイダ事業者に対する氏名開示要求が認められた事件

 「WinMX送信は法2条1号の『特定電気通信』に該当し、その送信が経由プロバイダの電気通信設備を経由して受信者に到達する以上、当該電気通信設備は特定電気通信の用に供されているのであり、これを用いて他人の通信を媒介する経由プロバイダは法4条1項の定める『開示関係役務提供者』に該当する」「原告の送信可能化権がそれぞれ侵害されたこと、ユーザーNISSAN及びユーザーcrownの発信者情報が原告の損害賠償請求権の行使のために必要であること(法4条1項1号、同項2号)は明らか」であるとして原告の請求を認容したものである。
ファイル交換ソフトによる違法行為を防止する上でも、妥当な結論と言えよう。
(判例時報1928号78頁)

2006年07月03日

外国為替証拠金取引において、虚偽の説明を行い顧客に損害を与えた事件

 「本件取引が、実際はエメラルド社と原告ら顧客との相対取引であるにもかかわらず、エメラルド社が外国為替市場において原告ら顧客の注文どおりの外貨売買を行うことを内容とする取引であるという虚偽の説明をし、、、エメラルド社が米国でも有数の外国為替取引企業であるとの許後に説明をパンフレットや契約書類に記載し、、、、原告らに、その旨誤信させて本件契約を締結させ、証拠金を送金させたもので、、、このような被告会社の行為は、原告らに対する不法行為を構成する」と判示した。妥当な判断である。
(判例事情1927号148頁)

2006年06月27日

債権回収についての取締役の任務懈怠の有無が争われた事件

 本件控訴審は、?当該債権の存在を証明して勝訴し得る高度の蓋然性、?勝訴した場合の債権回収の確実性、?回収が期待できる利益が、そのために見込まれる諸費用等を上回ることが必要であるとし、さらに、?訴訟提起を行った場合に会社が現実に回収し得た具体的金額の立証も必要であるとした原審を是認したものである。
取締役は会社に対して善管注意義務を負っており、その内容として一定程度の勝訴の可能性のある案件については法的手続をとるべきであり、高度の蓋然性まで要求しているのはやや問題があるように思われる。
(判例タイムズ1208号290頁)

2006年06月22日

マンションの住込管理人の時間外労働にについて争われた

 マンションの住込管理人の時間外労働につき、東京地裁は、最高裁判決(平成14年2月28日)をふまえた上で、「本来、所定労働時間外の時間帯は、労働から解放された時間であって、住込み管理員といえども、住居たる管理員居室内で過ごそうと、外出しようと自由な時間であるはずである。このような場合には、管理員において使用者の指揮命令下に置かれていない私的な時間というべく、原則として、労働時間ということはできない」「発生した緊急事態当に対応した実作業時間のみを労働時間として認めることが相当である」と判示した。
(判例時報1926号141頁)

2006年06月16日

いわゆる社内通達文書が民訴法220上4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利益に供するための文書」に当たらないとされた事例

 融資一体型変額保険の勧誘状況が争いになった事件において、裁判所は、最高裁判決(平成11年11月12日)を引用した上で、「抗告人の内部の意思が形成される過程で作成される文書ではなく、その開示により直ちに抗告人の自由な意思形成が阻害される性質のものではない。さらに、本件各文書は、個人のプライバシーに関する情報や抗告人の営業秘密に関する事項が記載されているわけではない」として、民訴法220条4号ニ所定の文書には該当しないと判示した。
(金融法務事情1773号41頁)

2006年06月12日

破産会社のテレテキストビションシステム詐欺的商法事件

 テレビ、文字放送受信表示器等を組み合わせたテレビビジョンシステムの販売が詐欺的商法であると争われた事件につき、東京地裁は、「被告Yは、トータルネットの取締役(平成11年2月からは代表取締役)として本件システム事業を中心的に企画して実行していた者であり、被告Y自身、広告の獲得や、本件機器の広告配信のシステムの開発が当初想定していたように進展していなかったことを自認していたばかりか、本件機器の販売開始の当初から、定額の広告放映料の支払を約した上で、本件機器の販売を続けることは、本件機器の売上利益を広告放映料につぎ込み結果となり、「たこが自分の足を食う」に等しい経営状態となることを自認していたものである。そうすると、被告Yは、本件システム事業の開発当初から同事業の破綻が必至であることを予見しながら、あるいは少なくとも容易に認識することができたにもかかわらず、原価を大幅に上回る高額の販売代金を設定して本件機器の販売を続けていたものであるから、悪意又は重大な過失があり、商法266条の3第1項に基づき、その取締役在任中に本件機器の販売契約を締結した原告らに対して損害賠償責任を負うべきである」等と判示した。
本件は、詐欺的商法によるクレジット・リース利用者の被害に係る集団訴訟であり、取締役の責任を認めたことは、妥当な判断であると言えよう。
(判例タイムズ1207号217頁)

2006年06月05日

和歌山カレー事件被告人の写真撮影、イラスト描写事件

 写真週刊誌FOCUSへの被告人の写真及びイラスト掲載につき、最高裁は、「人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する。もっとも、人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあるのであって、ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。」とした上で、一部のイラスト画につき、「被上告人が手錠、腰縄により身体の拘束を受けている状態が描かれたものであり、そのような表現内容のイラスト画を公表する行為は、被上告人を侮辱し、被上告人の名誉感情を侵害するものというべきである」と判示した。
いわゆる肖像権侵害による不法行為に関する初めての最高裁判決であるが、イラストの描き方によっても判断が分かれる可能性があると言えよう。
(判例時報1925号84頁)

2006年06月02日

株式会社が10年間の備置期間経過後においても保存していた取締役会議事録が閲覧謄写の対象となるかどうかが争われた事例

 東京地裁は、「仮に会社が取締役会の日から10年を超えて取締役会議事録を保存しているとしても、それは、商法260条ノ4第5項の規定により本店に備え置いている取締役会議事録とはいえないから、同条6項前段及び同項1号に基づく閲覧・謄写の許可の対象とはならないと考えるべきである」と判示した。
時効制度の趣旨等も考え合わせると、妥当と言えよう。
(判例時報1923号130頁)

2006年05月26日

消費者金融会社の企業買収(M&A)における売主の表明、保証違反について、売主が買主に対する損害補償義務を負うとされた事例

 実際には元本の弁済に充当していた和解債権についての弁済金を利息に充当し、同額の元本についての貸倒引当金の計上をせず、貸借対照表上不当に資産計上していた点に関する表明、保証責任につき、東京地裁は、「企業買収におけるデューディリジェンスは、買主の権利であって義務ではなく、主としてその買収交渉における価格決定のために、限られた機関で売主の提供する資料に基づき、資産の実在性とその評価、負債の網羅性(簿外負債の発見)という限られた範囲で行われるものである。・・・本件のデューディリジェンスにおける営業貸付金の評価については、修正純資産法を採用し、一般的な手法である一部DCF法及び営業権(のれん)の考え方を採用して、将来金利収入及び将来元本返済の合理的な見積額(将来キャッシュフロー)を算定し、その現在価値を求めることとしており、和解債権についえは、和解内容のとおりに返済がなされているか否かの確認も行わず、上記生データについても、和解債権については、一般的なフォームを知るために数通の合意書を提出させるにとどめ、サンプリングで抽出された35件全部について照合を行うことはしなかったのであるが、このことについては特段の問題はない。」「財務諸表等が会計原則に従って処理がなされていることを前提としてデューディリジェンスを行ったことは通常の処理であって、このこと自体は特段非難されるべきでない。」「原告が、わずかな注意を払いさえすれば、本件和解債権処理を発見し、被告らが本件表明保証を行った事項に関して違反していることを知り得たということはできないことは明らか」であると判示した。
(金融法務事情1770号99頁)

2006年05月23日

インターネット上における商品売買の契約成立時期

 ヤフー株式会社が解説するショッピングサイトにおいて、パソコンに関する売買契約が成立したか否かが争われた事件であるが、控訴審である東京地裁(第1審東京簡裁)は、「インターネットのショッピングサイト上に商品及びその価格等を表示する行為は、店頭で販売する場合に商品を陳列することと同様の行為であると解するのが相当であるから、申込の誘引に当たるというべきである。そして、買い手の注文は申込みに当たり、売り手が買い手の注文に対する承諾をしたときに契約が成立するとみるべきである」「受注確認メールは、被控訴人の承諾と認めることはできないから、これをもって契約が成立したと見ることはできない」と判示した。
(判例時報1922号105頁)

2006年05月22日

賃借人が負う現状回復義務の範囲

 住宅供給公社との特定有料賃貸住宅の賃貸借契約における現状回復義務の範囲につき、最高裁は、「建物の賃借人において生ずる通常損耗についての現状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認めるなど、その旨の特約(「通常損耗補修特約」)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である」と判示した。
(判例時報1921号61頁)

2006年05月10日

チョコエッグ・フィギュア事件

 チョコレートの中にカプセルが入っている「チョコエッグ」と呼ばれる菓子についての著作権侵害が争われた事件である。裁判所は、「応用美術であっても、実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となるだけの美術性を?するに至っているため、一定の美的感覚を備えた一般人を基準に、純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価される場合は、「美術の著作物」として、著作権法による保護の対象となる場合があるものと解するのが相当である」とし、本件動物フィギュアについて、「実際の動物の形状、色彩等を忠実に再現した模型であり、動物の姿勢、ポーズ等も、市販の図鑑等に収録された絵や写真に一般的に見られるものにすぎず、制作に当たった造形師が独自の解釈、アレンジを加えたというような事情は見当たらない」「制作者の個性が強く表出されているということはできず、その創作性は、さほど高くないといわざるを得ない」として、著作物には該当しないとしたが、本件妖怪フィギュアについては、「一定の美的感覚を備えた一般人を基準に、純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価されるものと認められるから、応用美術の著作物に該当する」と判示した。
(判例タイムズ1205号254頁)

2006年04月27日

破産者が破産手続中に自由財産の中から破産債権に対して任意の弁済をすることの可否が争われた事例

 地方公務員が破産宣告後、退職手当の中から共済組合に対し弁済を行った事案につき、最高裁は、「旧破産法においては、破産財団を破産宣告時の財産に固定する(6条)と規定し、破産者の経済的更生と生活保障を図っていることなどからすると、破産手続中、破産債権者は破産債権に基づいて債務者の自由財産に対して強制執行をすることなどはできないと解されるが、破産者がその自由な判断により自由財産の中から破産債権に対する任意の弁済をすることは妨げられないと解するのが相当である。もっとも、自由財産は本来破産者の経済的更生と生活保障のために用いられるものであり、破産者は破産手続中に自由財産から破産債権に対する弁済を強制されるものではないことからすると、破産者がした弁済が任意の弁済に当たるか否かは厳格に解すべきであり、少しでも強制的な要素を伴う場合には任意の弁済に当たるということはできない」と判示した。
(判例タイムズ1203号115頁)

2006年04月25日

企業買収(M&A)にける売主の表明、保証違反について売主が買主に対する損害補償義務を負うとされた事例

 原告は、企業買収(M&A)において、会計事務所に委任して二度にわたりデューディリジェンス(買収監査)を実施していたが、和解債権処理において水増し計上が認められた事案につき、東京地裁は、「原告が、本件株式譲渡契約締結時において、わずかの注意を払いさえすれば、本件和解債権処理を発見し、被告らが本件表明保証を行った事項に関して違反していることを知り得たにもかかわらず、漫然これに気付かないままに本件株式譲渡契約を締結した場合、すなわち、原告が被告らが本件表明保証を行った事項に関して違反していることについて善意であることが原告の重大な過失に基づくと認められる場合には、公平の見地に照らし、悪意の場合と同視し、被告らは本件表明保証責任を免れると解する余地がある」としたが、本件については、「原告が、わずかな注意を払いさえすれば、本件和解債権処理を発見し、被告らが本件表明保証を行った事項に関して違反していることを知り得たということはできない」と判示した。
(判例時報1920号136頁)

2006年04月17日

架空請求の被害者が携帯電話のレンタル会社に対して損害賠償請求を行った事例

 架空請求の被害に遭った者が、脅迫等に使用された携帯電話のレンタル会社に対して損害賠償請求を行った事案につき、京都地裁は、「平成16年8月当時、既に、携帯電話を利用した架空請求詐欺を始めとする犯罪が蔓延し、社会問題化していたことが認められる。このような状況下においては、携帯電話事業により収益を得ている事業者としては、当該携帯電話事業が犯罪遂行手段を確保し、犯罪行為を援助、助長することのないよう、販売・レンタル等の営業方法について適正を期する義務を負うというべきである。これを本件についてみると、前記のとおり、被告会社は、本来匿名による取引を予定していない携帯電話レンタル契約に際し、「山本」とのみ名乗り、名前及び住所を明らかにしない顧客に対して、漫然と携帯電話のレンタルを行い、当該携帯電話が、タカギによる不法行為の遂行のための必須の手段として用いられていたことが認められ、このような場合には、被告会社は、顧客の住所氏名を確認すべき注意義務に違反し、タカギの不法行為に加担したものとして、民法719条により原告が被った損害を賠償すべき義務を負うと解するのが相当である」と判示し、原告の請求を認容した。
(判例時報1919号132頁)

2006年04月11日

包括根保証人の銀行に対する債務が制限された事例

 銀行が包括根保証人に対し、保証履行請求をした事案につき、東京地裁は、「保証契約締結に至った事情、当該取引の業界における一般的慣行、債権者と主たる債務者との取引の具体的態様、経過、債権者が取引にあたって債権確保のために用いた注意の程度、その他一切の事情を斟酌し、信義則に照らして合理的な範囲に保証人の責任を制限すべきものと解するのが相当でえある」とした上で、「被告から個別保証を徴求するか、保証意思の確認をすべきであったと考えられるのに、富士銀行は被告から個別保証を徴求していないし、また保証意思の確認をしたとも認めがたい」「直ちに抹消登記手続をする必要もない本件根抵当権3の抹消登記手続をした」等の事情を認定し、貸付残債権の元本額の約40パーセントを限度とすると判示した。
(金融法務事情1767号37頁)

2006年04月05日

「メガネの愛眼」事件

 「メガネの愛眼」と称する全国チェーンを展開する原告が、「天神愛眼グループ」という標章を使用していた被告に対し、商標権侵害等を理由に差押及び損害賠償請求を求めた事件であるが、大阪地裁は、「一種の造語である『愛眼』という部分が、需要者の注意を引き、要部と認められる」とした上で、「『天神愛眼』の全体で一まとまりとして、特定の観念を生じさせない造語と理解される」とし、「天神」の部分が地名を意味するものとは認められないとし、その部分についての商標権侵害は認めなかったものである。
 また、不正競争防止法2条1項1号の該当性については肯定し、差止及び損害賠償請求の一部を認容した。
(判例時報1918号89頁)

2006年04月03日

矢沢永吉パチンコ遊技機事件

 パチンコ遊技機に現れる人物絵が原告のパブリシティ権の侵害となるかどうかが争われた事件につき、東京地裁は、いわゆるパブリシティ権の一般論を展開した上で、「本件人物絵の制作において原告の肖像のイメージはあったものと推認されるが、本件人物絵は、客観的に見るとある程度原告を想起させるものではあるが、原告を知る者が容易に原告であると識別し得るほどの類似性を有しない、、、人物の知名度等が本件パチンコ機の顧客吸引力に大きな影響を及ぼすとは考えがたい。、、、原告に対して法的な救済を必要とする人格的利益の侵害が生じているとは認められない」として原告の請求を棄却したものである。
(判例時報1917号135頁)

2006年03月27日

原状回復義務事件

 特定優良賃貸中だくの賃貸借契約において現状回復義務の内容について争われた事案であるが、最高裁は、「建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することとなる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である。」と判示した。
(判例タイムズ1200号127頁)

2006年03月20日

訴訟活動における名誉毀損の成否が争われた事件

 「訴訟上の主張、立証活動を、名誉毀損、侮辱に当たるとして損害賠償を認めることについては、相手方の悪性主張のための正当な訴訟活動を萎縮させて民事訴訟の本来果たすべき昨日を阻害することもあるから、慎重でなければならい」「民事訴訟の本リアの機能を阻害しないように留意しながら判断していくほかないが、主要な同期が訴訟とは別の相手方に対する個人攻撃とみられ、相手方当事者からの中止の警告を受けてもなお訴訟における主張立証に名を借りて個人攻撃を続ける場合には、訴訟上の主張立証であることを理由とする違法性阻却は認められない。」「弁論の全趣旨によれば、前記被告らの行為は、民事訴訟上の準備書面あるいは書証(陳述書)においてなされたものであって、広く一般社会に流布することを目的としてされた表現行為ではなく、現実にも双方当事者の関係者の間で流布されたにとどまり、広く世間に流布されたことはない(今後も広く世間に流布される見込みはない)から、原告に生じた精神的損害の額を金銭的に評価すれば、20万円とするのが相当である」
(判例時報1934号65頁)

2006年03月16日

架空請求違法提訴事件

 携帯電話用有料サイトを運営する業者が行った少額訴訟の提起につき、東京地裁は、「いわゆる架空請求について、一般的に、『相手にしないで放置するべき』と報道されていることに便乗し、提訴後も応訴することなく弁論期日に欠席させることで勝訴判決を取得できるとの計算のもとに提訴に及んでいるのではないか、、、被害予防のための報道や裁判制度をも悪用する極めて悪質ないわゆる訴訟詐欺に該当する可能性が高いものといわざるを得ない」と判示し、反訴原告(本訴被告)の慰謝料30万円を認めたものである。
一般的な慰謝料基準についても見直す時機に来ているのではないだろうか。
(判例時報1916号46頁)

2006年03月14日

高校生落雷重症事件

 「教育活動の一環として行われる学校の課外のクラブ活動においては,生徒は担当教諭の指導監督に従って行動するのであるから,担当教諭は,できる限り生徒の安全にかかわる事故の危険性を具体的に予見し,その予見に基づいて当該事故の発生を未然に防止する措置を執り,クラブ活動中の生徒を保護すべき注意義務を負うものというべきである。」
 「落雷による死傷事故は,平成5年から平成7年までに全国で毎年5〜11件発生し,毎年3〜6人が死亡しており,また,落雷事故を予防するための注意に関しては,平成8年までに,本件各記載等の文献上の記載が多く存在していたというのである。そして,更に前記事実関係によれば,A高校の第2試合の開始直前ころには,本件運動広場の南西方向の上空には黒く固まった暗雲が立ち込め,雷鳴が聞こえ,雲の間で放電が起きるのが目撃されていたというのである。そうすると,上記雷鳴が大きな音ではなかったとしても,同校サッカー部の引率者兼監督であったB教諭としては,上記時点ころまでには落雷事故発生の危険が迫っていることを具体的に予見することが可能であったというべきであり,また,予見すべき注意義務を怠ったものというべきである。このことは,たとえ平均的なスポーツ指導者において,落雷事故発生の危険性の認識が薄く,雨がやみ,空が明るくなり,雷鳴が遠のくにつれ,落雷事故発生の危険性は減弱するとの認識が一般的なものであったとしても左右されるものではない。なぜなら,上記のような認識は,平成8年までに多く存在していた落雷事故を予防するための注意に関する本件各記載等の内容と相いれないものであり,当時の科学的知見に反するものであって,その指導監督に従って行動する生徒を保護すべきクラブ活動の担当教諭の注意義務を免れさせる事情とはなり得ないからである。」
学校のクラブ活動中における担当教諭の注意義務を重くとらえた判決であり、時代の流れを象徴する注目すべき判断と言えよう。
(最高裁HP)

2006年03月13日

マンホール用ステップ事件

 不正競争防止法2条1項1号の該当性につき争われた事件につき、東京地裁は、「商品の形態が商品の技術的な機能及び効用に由来する場合であっても、他の形態を選択する余地がある中から客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有する形態を採用し、その商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合には、商品の技術的な機能及び効用に由来することの一事をもって不正競争防止法2条1項1号にいう『商品等表示』に該当しないということはできない」と判示した。
(判例タイムズ1199号269頁)

2006年03月07日

社会保険庁職員過労死事件

 社会保険庁の職員が自殺した事件につき、裁判所は、「課長は、通常の注意をもってすれば、電話相談係における被災者の超過勤務、担当業務及び職場環境の実態を正確に認識することができ、直ちにこれに対する具体的措置を講ずべきことが可能であった。・・・悪化しつつあった被災者のうつ病に配慮することなく、さらに過重な業務を強いられる人事係への配属換えをしたものと認められる」「被災者に心身の健康相談を実施して休暇と取らせたり、異動についての希望聴取を行い、心身の状態に適した配属先への異動を行うなどの対応を採るこてゃ容易であったといえるし、そのような対応を採っていれば、これにより被災者のうつ病の重症化とこれに基づく自殺という結果の発生を避けることは可能であった」と認定し、遺族らの請求を認めたものである。
過労自殺に関する使用者の安全配慮義務に関する一事例である。
(判例時報1915号108頁)

2006年02月21日

シックハウス瑕疵担保責任事件

 販売されたマンションのホルムアルデヒドによる環境汚染(シックハウス)が問題となった事案であり、裁判所は、「本件売買契約当時までの住宅室内のホルムアルデヒド濃度に関する一連の立法、行政における各種取組の状況を踏まえると、当時行政レベルで行われていた各種取組においては、住宅室内におけるホルムアルデヒド濃度を少なくとも厚生省指針値の水準に抑制すべきものとすることが推奨されていたものと認めるのが相当である。」「原告らに対する引渡当時における本件建物の室内空気に含有されたホルムアルデヒドの濃度は、0.1?/立方?を相当程度超える水準にあったものと推認されることから、本件建物にはその品質につき当事者が前提としていた水準に到達していないという瑕疵が存在するものと認められる」と判示した。
(判例時報1914号107頁)

2006年02月14日

広告写真無断再利用事件

 広告写真家が撮影した写真につき、無断で再利用された事件につき、制作会社についてはその責任を認めたものの、広告主の責任について、裁判所は、「広告制作会社から、その顧客として、広告用写真のフィルムを借り受け、これを使用するに当たっては、その広告制作会社から、別途著作権者の許諾が必要であると指摘されない限り、その写真の著作権が既に消滅しているか、その広告制作会社が著作権を取得しているか、著作権者から使用の許諾を受けているかはともかく、その写真を使用することが他者の著作権を侵害するものではないものと考えて、その写真を使用したとしても、注意義務に違反するものとはいえない」と判示した。
(判例時報1913号154頁)

2006年02月13日

特許訂正審決確定による破棄自判事件

 特許を無効にすべき旨の審決の取消請求を棄却した原判決に対する上告受理申立事件につき、最高裁は、「特許を無効にすべき旨の審決の取消請求を棄却した原判決に対して上告受理の申立てがされ、その後、当該特許について特許出願の願書に添付された明細書を訂正すべき旨の審決が確定し、特許請求の範囲が減縮された場合には、原判決の基礎となった行政処分が後の行政処分によって変更されたものとして、原判決には民訴法338条1項8号に規定する再審の事由がある。この場合には、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があった」と判示した。
(判例タイムズ1197号114頁)

2006年02月10日

利息制限法違反の不当利得返還請求法定利息事件

 利息制限法所定の制限を超えて支払われた利息・損害金についての不当利得返還請求における法定利率について、裁判所は、「商取引における資金需要の繁忙と投下資本による高収入の可能性があることから法定利率を年6分に引き上げた立法趣旨からみて、上記の不当利得返還請求権をもって商行為によって生じた債権に準ずるものと解することはできない」と判示し、民法法定利率年5分が相当であるとした。
(金融法務事情1761号42頁)

2006年02月07日

民事再生における租税債務代位弁済事件

 再生会社の租税債務を代位弁済したことにより取得した求償権が一般優先債権となるかどうかについて争われた事件であるが、東京地裁は、「本件保証契約は、本件再生手続開始決定前に締結されていることからすると、本件求償権の基礎となる発生原因事実は、本件再生手続開始前に生じていたということができる。本件求償権は、『再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権』に該当する」として、一般優先債権にはならないとした。
(判例時報1912号70頁)

2006年02月03日

遺産分割協議中の賃料債権帰属事件

 共有相続財産である不動産から生ずる賃料債権について、最高裁は、「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである」と判示した。
(判例タイムズ1195号100頁)

2006年02月01日

キャノン・インクタンク事件

 本件訴訟において,被控訴人は,被控訴人製品のうち,我が国の国内において販売された控訴人製品にインクを再充填するなどしたものについては,本件特許権が消尽したことにより,控訴人は本件特許権に基づく差止め及び廃棄請求権を行使することはできないと主張し,控訴人は,その工程等に照らせば,改めて本件発明10に係る生産方法を実施して本件発明1の技術的範囲に属する製品を新たに生産する行為により製造されたものであるから,被控訴人製品について控訴人が本件特許権に基づく権利行使をすることは妨げられないと主張して争われた事件である。
 本件につき、知財高裁は、「特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国の国内において当該特許発明に係る製品(以下「特許製品」という。)を譲渡した場合には,当該特許製品については特許権はその目的を達したものとして消尽し,もはや特許権者は,当該特許製品を使用し,譲渡し又は貸し渡す行為等に対し,特許権に基づく差止請求権等を行使することができないというべきである(BBS事件最高裁判決参照),(ア) 当該特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後に再使用又は再生利用がされた場合(以下「第1類型」という。),又は,(イ) 当該特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合(以下「第2類型」という。)には,特許権は消尽せず,特許権者は,当該特許製品について特許権に基づく権利行使をすることが許されるものと解するのが相当である。その理由は,第1類型については,? 一般の取引行為におけるのと同様,特許製品についても,譲受人が目的物につき特許権者の権利行使を離れて自由に業として使用し再譲渡等をすることができる権利を取得することを前提として,市場における取引行為が行われるものであるが,上記の使用ないし再譲渡等は,特許製品がその作用効果を奏していることを前提とするものであり,年月の経過に伴う部材の摩耗や成分の劣化等により作用効果を奏しなくなった場合に譲受人が当該製品を使用ないし再譲渡することまでをも想定しているものではないから,その効用を終えた後に再使用又は再生利用された特許製品に特許権の効力が及ぶと解しても,市場における商品の自由な流通を阻害することにはならず,? 特許権者は,特許製品の譲渡に当たって,当該製品が効用を終えるまでの間の使用ないし再譲渡等に対応する限度で特許発明の公開の対価を取得しているものであるから,効用を終えた後に再使用又は再生利用された特許製品に特許権の効力が及ぶと解しても,特許権者が二重に利得を得ることにはならず,他方,効用を終えた特許製品に加工等を施したものが使用ないし再譲渡されるときには,特許製品の新たな需要の機会を奪い,特許権者を害することとなるからである。また,第2類型については,特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合には,特許発明の実施品という観点からみると,もはや譲渡に当たって特許権者が特許発明の公開の対価を取得した特許製品と同一の製品ということができないのであって,これに対して特許権の効力が及ぶと解しても,市場における商品の自由な流通が阻害されることはないし,かえって,特許権の効力が及ばないとすると,特許製品の新たな需要の機会を奪われることとなって,特許権者が害されるからである。」と判示した。
(最高裁HP、知財高裁平成17年1月31日、平成17年(ネ)第10021号 特許権侵害差止請求控訴事件)

2006年01月26日

「オレオレ詐欺」預金払戻代位請求事件

いわゆる「オレオレ詐欺」の被害者が口座名義人に対する不当利得返還請求権を保全するために、同口座名義人の有する預金の払戻請求権の代位行使の可否が争われた事件である。
東京地裁は、「C及びDは銀行口座の売買等を行い、一連のオレオレ詐欺グループと関わりを有する者であることが推認され、それによるならば、C及びDはオレオレ詐欺グループによって被害を被った多数の被害者に対して多額の不当利得返還債務等を負っている可能性が高く、その他本件に顕れた一切の事情を総合すると、同人らの無資力を推認することができると解される」として、不当利得返還請求権を保全するため、預金債権の払戻請求権を代位行使することを認めたものである。
正義にかなった妥当な判決である。
(金融法務事情1760号40頁)

2006年01月25日

NHK「武蔵 MUSASHI」事件

NHKの大河ドラマ「武蔵 MUSASHI」が黒澤明監督の「7人の侍」の著作権を侵害したものであるかどうかが争われた事件である。
本件に関し、知財高裁は、最高裁平成13年6月28日判決を引用した上で、「前記番組が前記映画との間で有する類似性ないし共通点は結局はアイデアの段階の類似点ないし共通点に過ぎないものであり、前記映画又はその脚本の表現上の本質的特徴を前記番組又はその脚本から感得することはできないというべきであるから、前記番組が黒澤明監督の有する前記著作権(翻案権)を侵害するものではない」と判示した。
(判例時報1911号138頁)

2006年01月16日

三越株主代表訴訟事件

株式会社三越の株主である原告が、取締役に対し、千葉興銀等に対し損害賠償請求を行わなかったことにつき、善管注意義務違反の存否が争われた事件である。
本件に関し、東京地裁(平成16年7月28日)は、「会社が特定の債権を有し、ある一定時点においてその全部又は一部の回収が可能であったにもかかわらず、取締役が適切な方法で当該債権の管理・回収を図らずに放置し、かつ、そのことに過失がある場合において、取締役に善管注意義務違反が認められる余地があるというべきである」もっとも、債権管理・回収の具体的方法については、債権の存在の確度、債権行使による回収の確実性、回収可能利益とそのためのコストとのバランス、敗訴した場合の会社の信用毀損のリスク等を考慮した専門的かつ総合的判断が必要となることから、その分析と判断には、取締役に一定の裁量が認められると解するのが相当である」「取締役の裁量の逸脱があったというためには、取締役が訴訟を提起しないとの判断を行った時点において収集された又は収集可能であった資料に基づき、?当該債権の存在を証明して勝訴し得る高度の蓋然性があったこと、?債務者の財産状況に照らし勝訴した場合の債権回収が確実であったこと、?訴訟追行により回収が期待できる利益がそのために見込まれる諸費用等を上回ることが認められることが必要」「これに加えて、、、訴訟提起を行った場合に会社が現実に回収し得た具体的金額の立証も必要である」と判示し、本件においては勝訴し得る高度の蓋然性及び債権回収の確実性があったとは認められないとして、原告の請求を棄却したものである。なお、東京高裁も控訴を棄却し、最高裁も上告棄却したため、判決が確定した。
(金融法務事情1759号62頁)

2006年01月13日

翻訳共同著作物事件

共同著作物(著作権法2条1項12号)に該当するかどうかが争われた事件であるが、京都地裁は、?原告が、口頭で本件原著作物の翻訳を語るという方法で行われているに過ぎないこと、?2行以上の部分に対する指摘については下線等による注意換気のみで具体的な修正の指摘がないものがほとんであること、?どのように翻訳に反映されたのかについて確認していないこと、?翻訳という作業は、翻訳原稿を作成し、同原稿について推敲や校正を繰り返すことによって完成されるものであるところ、本件原著作物の翻訳原稿の作成、推敲及び校正の作業を行ったのは被告であり、原告自らが翻訳原稿の作成等の作業を行ったことはない等の事実認定を行い、「原告の関与が、本件著作物一の表現において自己の思想又は感情を創作的に表現したといえる程度のものであったとは認められない」と判示した。
(判例時報1910号154頁)

小学校記念文集編集著作物事件

小学校記念文集からの引用が問題となった事件であるが、東京地裁は、「編集著作物の著作者の権利が及ぶのは、あくまで編集著作物として利用された場合に限るのであって、編集物の部分を構成する著作物が個別的に利用されたにすぎない場合には、編集著作物の著作者の権利はこれに及ばないと解すべきである」「編集著作物はその素材の選択又は配列の創作性ゆえに著作物と認められるものであり、その著作権は著作物を一定のまとまりとして利用する場合に機能する権利にすぎず、個々の著作物の利用について問題が生じた場合には、個々の著作物の権利者が権利行使をすれば足りる」「編集物の一部分を構成する個々の著作物の利用に際しても編集著作物の著作者の権利行使を許したのでは、個々の著作物の著作者の権利を制限することにもなりかねず、著作権法12条2項の趣旨に反することになる」と判示した。著作権法の解釈としては、妥当であろう。
(判例時報1910号137頁)

2006年01月12日

販売管理システム瑕疵事件

販売管理システムに関する請負契約の不履行が争われた事件である。東京地裁は、まず、当日入荷の引当処理時間につき「本件規模のシステムの場合に通常要求される一括在庫引当処理の一般的仕様は、数十秒からせいぜい1、2分程度」であり、「テストデータ300件ですら処理時間に44分も要するようなシステムは、およそ本件契約の内容に適合しないものというほかない」とした。次に、排他制御による「待ち」に関し、「本件システムは、数時間を要する一括在庫処理中には、一切、他の商品マスタを利用する処理ができず」「実際の業務において使用に耐えないことは明白である」とした。そして、「本件各不具合のうち、少なくとも一括在庫引当処理及び排他制御の問題については、これをもって、およそ被告が、原告に対し、システムを納入していないとまでいえるかはともかくとして、契約の目的を達成することのできない重大な瑕疵に該当する」と判示した。
(判例タイムズ1194号171頁)

2005年12月28日

ダスキン取締役会議事録無断公開事件

「本件文書2ないし11に記載された文章は,取締役会議事録のモデル文集の文例に取締役の名称等を記入しただけのものではないものの,使用されている文言,言い回し等は,モデル文集の文例に用いられているものと同じ程度にありふれており,いずれも,日常的によく用いられる表現,ありふれた表現によって議案や質疑の内容を要約したものであると認められ,作成者の個性が表れているとは認められず,創作性があるとは認められない。また,開催日時,場所,出席者の記載等を含めた全体の態様をみても,ありふれたものにとどまっており,作成者の個性が表れているとは認められず,創作性があるとは認められない」として著作権侵害については否定した。
 しかしながら、「取締役会議事録謄写許可申請事件はいわゆる非訟事件に属し,その審理は公益的要素が強く,場合によれば秘密性保持が要請されるところから,非公開で行われるものとされており(非訟事件手続法13条),その事件記録についても,裁判所の許可がなければ閲覧,謄写することができないものとして運用されている。そして,当該事件において書面を提出する当事者も,当該書面が裁判所の許可がない限り閲覧,謄写されないことを前提とした上で,記載事項を検討し,これを作成しているものと推認されることからすると,書面の提出者は,その副本を相手方に交付する場合でも,相手方がこれを当該手続の進行のため等の正当な目的以外には使用しないことを当然に期待し得るものであって,本件におけるように,書面の提出者等の承諾を得ることなく,これをインターネット上で公開し,極めて広範囲の一般人がだれでも閲覧又は複写(ダウンロード)し得るような状態に置くようなことは,当該手続を非公開とした前記法規の趣旨,目的に反するとともに,書面を提出した当事者の信頼を著しく損なうものであって,信義則上許されないものといわなければならない。そして,当該文書をみだりに公表されることがないという上記提出者等の期待ないし利益は法的保護に値するというべきところ,1審原告ダスキンのような法人も自然人と同じく法律上一個の人格者であってみれば,上記のような利益をみだりに侵害されてよいはずはなく,これを侵害された場合は,民法709条,710条に基づき,財産的損害のみならず,社会観念上,金銭の支払によって補填されるのが相当と考えられる無形的損害につき損害賠償を求めることができると解される(最高裁判所昭和39年1月28日判決。民集18巻1号136頁参照)。1審原告ダスキンは,裁判所の許可がない限り閲覧,謄写されないことを前提として,代理人弁護士を介して本件謄写許可申請事件における自己の主張として本件文書1を提出し,その副本を1審被告に交付したというべきところ,無断で1審被告サイトで公開され,これにより前記利益を違法に侵害され,無形的損害を被ったものと認められる」として、インターネット上での無断公開についての違法性を肯定したものである。
(平成17年10月25日大阪高裁判決、最高裁HP)

2005年12月21日

預金仮差押限定的支店順位方式事件

銀行預金の差押えにつき、4ないし37の本店及び支店を列挙しこれに順位を付して仮差押債権である預金債権を表示する方法(限定的支店順位方式)により仮差押えを申し立てた事件である。
東京高裁は、「その仮差押債権の表示を合理的に解釈したとしても、第三債務者である各金融機関において格別の負担を伴わずに調査することによって当該債権を他の債権と誤認混同することなく認識することが著しく困難」であるとして、申立を却下した東京地裁の判断を是認したものである。
(判例時報1908号137頁)

2005年12月20日

遺言文言解釈事件

最高裁は、「遺言を解釈するに当たっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく、遺言者の真意を探究すべきであり、遺言書が複数の条項から成る場合に、そのうちの特定の条項を解釈するに当たっても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出し、その文言を形式的に解釈するだけでは十分でなく、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して、遺言書の真意を探究し、当該条項の趣旨を確定すべきである」として、最高裁昭和55年判決を引用しながら、審理不尽があったものとして、原審に差し戻したものである。
極めて妥当な判断である。
(判例時報1908号128頁)

2005年12月16日

物上代位後の配当加入事件

不動産について第1順位と第3順位の根抵当権を有する債権者が当該不動産の賃料について物上代位による債権差押えを行い、取立てを行った後、担保権実行による競売事件において、「賃料の取立は第3順位の根抵当権に基づいて行ったものである」との主張がなされた事件である。
大阪高裁は、「1人の債権者が複数の根抵当権による物上代位に基づく債権差押えを行い、その被差押債権について他に競合する債権差押えがないため、取立が行われた場合に、差押債権者が根抵当権の被担保債権枠の順位を法定の順位と異なるように変更するような事態は予定していない」「手続が煩瑣になるおそれがあることなどを考慮すれば、控訴人指摘の事情をもって、自己決定による配当(弁済)順位の変更を認めるべき根拠とはなしえない」と判示し、上記主張を認めなかったものである。
(金融法務事情1757号35頁)

2005年12月14日

迂回融資忠実義務違反事件

生命保険会社が取締役に対し、巨額の迂回融資を行ったことにつき善管注意義務違反、忠実義務違反に基づく損害賠償請求を行った事件である。
東京高裁は、「大蔵省から被控訴人のプライベート・カンバニーに対するに対する多額の融資を解消するよう度々指摘されていながら、控訴人と密接な関係にある太蔵実業に対しプライベート・カンパニーの破綻を回避するための救済資金を供給する必要から、上記のような事情の下で回収に懸念のある融資であることを認識しつつ、太蔵実業、ひいては、控訴人自身の利益を図るために、自己の被控訴人における地位を利用して、被控訴人の事業目的とは無関係にその資金を流用すべき、被控訴人をして本件融資一を実行させたものということができ、控訴人には取締役としての善管注意義務ないし忠実義務に違反する行為があった」等として損害賠償責任を認めたものである。
取締役の融資責任においては、通常、経営判断原則(Business Judgement rule)が問題となることが多いが、本件では、違法性が明らかであるとして、そのような裁量論には入らなかったようであり、認定事実を前提とする限り、妥当な判断と言えるであろう。
(判例時報1907号139頁)

2005年12月13日

連帯保証債務無効事件

信用金庫が自宅資産を有する71歳の老人に対し、連帯保証債務の履行を求めた事件であるが、東京高裁は、「融資の時点で当該融資を受けても短期間に倒産に至るような破綻状態にある債務者のために、物的担保を提供したり連帯保証債務を負担しようとする者は存在しないと考えるのが経験則であるところ、控訴人は、本件保証契約の締結の意思を確認された当時71歳の高齢で、子もなく2500万円の支払能力はなかったのであるから、もし控訴人が訴外会社の経営状態について上記のような破綻状態にあり現実に保証債務の履行をしなければならない可能性が高いことを知っていたならば、唯一の土地建物を担保提供してまで保証する意思はなかったものと認めるのが相当である。したがって、控訴人は、訴外会社の経営状態が上記のような破綻状態にあるものとは全く認識せずに本件保証契約の締結に応じたものというべきであり、本件保証契約にはその動機に錯誤があったことは明らかである」「保証契約の時点で主債務者がこのような意味での破綻状態にないことは、保証しようとする者の動機として、一般に、黙示的に表示されているものと解するのが相当である」と判示した。
妥当な判断であり、金融機関におけるこのような担保徴求は厳禁されるべきである。
(判例時報1907号42頁)

2005年12月12日

建築請負工事紛争事件

製鋼所工場の建築を請け負った原告建設会社が注文者である被告に対し、追加変更工事契約が成立したとして、請負代金残額を請求した事件である。
大阪地裁は、「このような重要な事項について合意が成立していたのであれば、原被告間の合意内容として、当然に打合せ記録に記載されているはずである。それにもかかわらず、三社打合せ記録には、被告の関与の下、そのような合意が成立したことを示し又は窺わせるような記載はなく、しかも、原告が事後の打合せ記録を訂正するよう申し入れたような形跡も窺われない」等として追加変更契約の成立について否定した。
それ以外に、被告の基本図面を作成して提出すべき契約上の義務の不履行や、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権による相殺などについても認定している。
(判例タイムズ1191号277頁)

2005年12月09日

図表及び説明文著作権侵害事件

ドレン滞留(ストール)チャートに関する図表及び説明文の著作物性が争われた事件である。
東京地裁は、「原告チャートを作成するに至った技術的知見ないしアイデア自体に独自性や新規性があるとしても,その技術的知見ないしアイデア自体は,著作権法により保護されるべきものということはできず,著作権法は,その技術的知見ないしアイデアに基づいて個性的な表現方法が可能である場合に,個性的に具体的に表現されたものについてこれを保護するものであり,原告チャートについては,その技術的知見ないしアイデアそのものがそのまま表現されているものといわざるを得ない」としてチャートの著作物性は否定したものの、「原告説明文は,原告チャートに示されるチャートの具体的作図方法を説明した文書であり,その説明に使用し得る用語や説明の順序,具体的記載内容については,多様な表現が可能なものであり,その説明文は,作成者の個性が表れた創作性のある文章であり,言語の著作物(著作権法10条1項1号)に該当するものと認めるのが相当である」とした。
(最高裁HP◆H17.11.17 東京地裁 平成16(ワ)19816 著作権 民事訴訟事件)

2005年12月02日

取引履歴の開示義務最高裁判決

貸金業者による取引履歴の開示が行われず、債務処理が遅れたとして債務者が不法行為に基づく慰謝料金30万円の支払を求めた事案である。
最高裁(平成17年7月19日)は、「貸金業者は、債務者から取引履歴の開示を求められた場合には、その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り、貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として、信義則上、保存している業務帳簿(保存期間を経過して保存しているものも含む。)に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負うもの」と判示し、事件を原審に差し戻した。
(判例時報1906号3頁)

2005年11月27日

配当金全額加入事件

担保権を実行する場合、実務的には印紙代等の節約のためいわゆる一部請求のような記載を行うことが多かったが、本判決は、そのような場合においても、被担保債権全額につき配当加入が認められると判示したものであり、これによって実務処理の明確化がなされたと言いうる。
「原審は,この記載は上告人が被担保債権である本件手形貸付債権のうち8億円の範囲で本件根抵当権の実行を申し立てる趣旨であると解した。しかし,先に述べた本件申立書(添付の不動産登記簿謄本を含む。)の全体の記載の中で上記「被担保債権及び請求債権」の部分の文言を見れば,同部分の記載は,被担保債権である本件手形貸付債権のうち8億円の範囲に限って本件根抵当権の実行を申し立てる趣旨のものとは解し難く,本件手形貸付債権の全部について本件根抵当権を実行し,本件手形貸付債権の全部を配当額の計算の基礎とした上で,本件手形貸付債権のうち「下記記載の順序にしたがい」8億円に満つるまでの配当を請求すること,換言すると,8億円までの範囲で配当を請求することを示す趣旨のものと解するのが相当である。」「本件申立てにおいて本件根抵当権の実行の基礎とされた被担保債権は,本件手形貸付債権の全部であるというべきであり,本件申立てに係る競売事件における配当額の計算の基礎となる上告人の債権額は,本件手形貸付債権の額とすべきである。」
最高裁HP(平成15年(受)第278号 配当異議事件)

2005年11月24日

販売管理システム瑕疵担保責任事件

原告は、ハードウェア及び周辺装置の販売等を行う会社であるが、システム開発を請け負ったソフトウェア開発等を行う被告に対し、「重大な瑕疵」があるとして、損害賠償を求めた事案である。
裁判所は、「前記各不具合が、被告によって修正されたとは評価できず、また、システム設計の根本的な構造自体を修正するものであって、容易に修正できる軽微な瑕疵であるとは到底言えない。したがって、本件各不具合のうち、少なくとも一括在庫引当処理及び排他制御の問題については、これをもって、およそ被告が、原告に対し、システムを納入していないとまでいえるかはともかくとして、契約の目的を達成することのできない重大な瑕疵に該当するというべきである」として、原告の請求額金4074万9176円のうち、金3258万9200円の請求を認めた。
(判例時報1905号94頁)

2005年11月16日

家電量販店安売り表示事件

?ヤマダ電機が?コジマに対して、コジマが「当店は、ヤマダ電機よりも安くします」という宣言文句を用いたことにつき、景品表示法違反当を理由に損害賠償請求等を行った事件であるが、東京高裁(平成16年10月19日)は、「被控訴人の店舗で販売される全ての商品についてその店頭表示価格が控訴人の店舗よりも必ず安いとか、被控訴人の値引後価格は必ず控訴人のそれよりも安くなるという確定的な認識を抱く者の数は、それほど多くないと考えられる」「『一般消費者』の誤認を生ぜしめるものとはいえない」として、景品表示法4条2号に該当するとは言えないなどと判示し、控訴人(原告)の請求を棄却した。
(判例時報1904号128頁)

2005年11月15日

「偏光フィルム」特許事件

本件は、携帯電話の画面などに使われる「偏光フィルム」の製造法に関するいわゆるパラメータ特許について、明細書のいわゆるサポート要件ないし実施可能要件の適合性の有無等が争われたものであるが、知財高裁合議部は、「本件明細書の発明の詳細な説明におけるこのような記載だけでは,本件出願時の技術常識を参酌して,当該数式が示す範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載しているとはいえず,本件明細書の特許請求の範囲の本件請求項1の記載が,明細書のサポート要件に適合するということはできない」と判示した。
最高裁サイト(平成17年11月11日判決)
平成17年(行ケ)第10042号 特許取消決定取消請求事件

2005年10月26日

「録画ネット」著作隣接権侵害事件

本件は、海外などの遠隔地において、インターネット回線を通じてテレビ番組の録画・視聴を可能とするサービスの提供が著作隣接権を侵害するか否かが問題となった事案である。
裁判所は、「本件サービスにおける複製は、債務者の強い管理・支配下において行われており、利用者が管理・支配する程度は極めて弱いものである」とし、利用者による私的複製と評価することはできない」と判示し、著作隣接権の侵害を認めた。
著作権の侵害主体については、クラブ・キャッツアイ最高裁判決があり、その判断基準を踏襲したものと思われるが、結論においても妥当と言えよう。
(東京地裁平成16年10月7日決定(判例タイムズ1187号335頁))

2005年10月25日

「選撮見録」著作権等侵害事件

本件は、大阪市に所在するテレビ放送事業者である原告らが、被告が販売する別紙物件目録記載の商品(「選録見録」という名称のハードディスクビデオレコーダーシステム)が、原告らがテレビ番組の著作者として有する著作権(複製権及び公衆送信権)並びに原告らが放送事業者として有する著作隣接権(複製権及び送信可能化権)の侵害にもっぱら用いられるものであると主張し、上記各権利に基づいて、被告に対し、その商品の使用等及び販売の差止め並びに廃棄を請求した事案である。

大阪地裁は、著作権法にはいわゆる間接侵害規定がなく、「選録見録」の販売という「間接行為が、たとい直接行為と異ならない程度に権利侵害実現の現実的・具体的蓋然性を有する行為であったとしても、直ちにこれを、著作隣接権の侵害行為そのものであるということはできないから、被告商品の販売行為そのものを原告らの著作隣接権を侵害する行為とすることはできない。」しかし、「侵害行為の差止め請求との関係では、被告商品の販売行為を直接の侵害行為と同視し、その行為者を「著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれのある者」と同視することができるから、著作権法112条1項を類推して、その者に対し、その行為の差止めを求めることができるものと解するのが相当である。」

 著作権法規定の狭間となるようなケースにつき、112条の類推適用という手法によって新しい理論を示した判決と言えるでしょう。
H17.10.24 大阪地裁 平成17(ワ)488 著作権 民事訴訟事件(最高裁HP)

2005年10月13日

敷引特約無効事件

家賃5万6千円、共益費6千円、保証金30万円の賃貸借契約について、25万円を敷引金として差し引いて残額5万円のみを返還した事例につき、控訴審の神戸地裁は、当事者双方に交渉力の差があり過ぎるとし、「本件敷引特約は、賃貸借契約に関する任意規定の適用による場合に比し、賃借人の義務を加重し、信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであるから、消費者契約法10条により無効である」と判示した。
(判例時報1901号87頁)

2005年10月08日

記事見出し事件

インターネット向けに配信された記事の見出しが無断で使用されたとして読売新聞社がデジタルアライアアンス社を相手取って訴えていた事件で、10月6日、知的財産高裁は、営利目的で無断で反復使用することについて、創作性はないとして著作物性は否定したものの、「著作権法などで定めた厳格な意味での権利が侵害されなくても、民法709条の不法行為は成立する」と判示した。
法的保護利益が認められた事件として、自動車データベース事件(東京地裁平成14年3月28日、判例時報1793号133頁)においては、本件データベースの著作物性は否定したものの、「被告が本件データベースのデータを被告データベースに組み込んだ上,販売した行為は,取引における公正かつ自由な競争として許される範囲を甚だしく逸脱し,法的保護に値する原告の営業活動を侵害するものとして不法行為を構成するというべきである」と判示している。
同様に、オートくん事件(大阪地裁平成14年7月25日)においても、「他人のプログラムの著作物から、プログラムの表現として創作性を有する部分を除去し、誰が作成しても同一の表現とならざるを得ない帳票のみを抜き出してこれを複製し、もとのソフトウエアとは構造、機能、表現において同一性のないソフトウエアを製作することが、プログラムの著作物に対する複製権又は翻案権の侵害に当たるとはいえない・・・しかし、帳票部分も、・・・作成者がフォントやセル数についての試行錯誤を重ね、相当の労力及び費用をかけて作成したものであり、そのようにして作られた帳票部分をコピーして、作成者の販売地域と競合する地域で無償頒布する行為は、他人の労力及び資本投下により作成された商品の価値を低下させ、投下資本等の回収を困難ならしめるものであり、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものとして、不法行為を構成する」と判示している。

2005年10月05日

特許専用実施権行使事件

特許専用実施権行使訴訟(平成17年6月17日最高裁第2小法廷)
平成16年(受)第997号 特許権侵害差止請求
「特許権者は、その特許権について専用実施権を設定したときであっても、当該特許に基づく差止請求権を行使することができると解するのが相当である。」
(判例時報1900号139頁)
この問題は、地上権を設定した土地の所有者が不法占拠者に対して自ら物権的請求権を行使できるかという問題と対比して論じられる場合があり、一般的には肯定されているものである。

2005年10月03日

「一太郎」特許訴訟

「一太郎」特許訴訟(平成17年9月30日知的財産高等裁判所特別部)
平成17年(ネ)第10040号 特許権侵害差止請求控訴事件
「本件発明,すなわち,本件第1発明ないし本件第3発明は,乙18発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明に係る本件特許は,特許法29条2項に違反してされたものであり,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるというべきである。したがって,特許権者である被控訴人は,同法104条の3第1項に従い,控訴人に対し,本件特許権を行使することができないといわなければならない。」
 本判決は、改正特許法(2005年4月施行)第104条の3(特許権者等の権利行使の制限)第1項「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。」に基づき、進歩性がないものとして、本件特許に基づく請求を棄却したものである。

2005年09月29日

一太郎・営業誹謗行為事件(東京地裁平成16年8月31日)

 「告知した相手方が本件製品をプリインストールしたパソコンを販売する者であって、特許権者による告知行為が、その相手方自身に対する特許権の正当な権利行使の一環としてなされたものであると認められる場合には、違法性が阻却されると解するのが相当である。これに対し、その告知行為が特許権者の権利行使の一環としての外形をとりながらも、競合者の信用を毀損して特許権者市場において優位に立つことを目的とし、内容ないし態様において社会通念上著しく不相当であるなど、権利行使の範囲を逸脱するものと認められる場合には違法性は阻却されず、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当すると解すべきである。」 
(判例タイムズ1183号320頁)

2005年09月22日

「東芝職務発明相当対価請求事件」(東京地裁平成16年9月30日)

 「相当対価の支払を受ける権利について、分割された各期間における特許発明の実施に対応する分ごとに当該支払時期から消滅時効が進行する」とし、「特許法35条により従業者に認められた法定の権利であるから、消滅時効期間は10年」であるとして、消滅時効が完成していると判示した。
(判例タイムズ1181号)