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2009年05月12日
 ■ 不法行為の時効期間(除斥期間)に関する最高裁判例

平成21年04月28日 最高裁判所第三小法廷

 殺人事件の被害者の有していた権利義務を相続した被上告人らが,加害者である上告人に対して,不法行為に基づく損害賠償を請求する事案であり,不法行為から20年が経過したことによって,民法724条後段の規定に基づき損害賠償請求権が消滅したか否かが争われた事案である。

 最高裁は、「被害者を殺害した加害者が,被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出し,そのために相続人はその事実を知ることができず,相続人が確定しないまま上記殺害の時から20年が経過した場合において,その後相続人が確定した時から6か月内に相続人が上記殺害に係る不法行為に基づく損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは,民法160条の法意に照らし,同法724条後段の効果は生じないものと解するのが相当である。」とした。

 なお、上記法廷意見に対し、裁判官田原睦夫による「私は,民法724条後段の規定は,時効と解すべきであって,本件においては民法160条が直接適用される結果,被上告人らの請求は認容されるべきものと考える。」との意見が付されている。

 法解釈論としては、上記田原意見の方が論理が一環すると思われるが、法廷意見は、民法160条の類推適用という解釈論を採用したものである。いずれにおいても、一般市民感情及びスワリのよさ(結論の妥当性)に配慮した妥当な判決と言えよう。

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2009年05月09日
 ■ 週刊誌の表紙、広告が名誉毀損になるとされた事例

東京地裁平成20年12月25日判決(判時2033号26頁)

「一般人が、本件表紙あるいは本件広告の記載のみを読むと、本件記事は、、、との印象及び認識を持つ可能性が高いことは否定し難い」「本件表紙や本件広告は、何ら根拠がないにもかかわらず、、、、原告の社会的なイメージや評価に深刻な打撃を与えるおそれがあることは明らかである」「読者を誤導させるものであって、社会的に許容されるような省略や誇張の範囲内にとどまる表現とはいえないこともまた明らかであるから、結局、本件表紙や本件広告の掲載行為は、原告らの社会的評価を低下させる不法行為(名誉毀損)に当たるものというべきである」

見出しや広告のみについて名誉毀損の成立を認めた珍しい事例であるが、妥当な判断と言えよう。

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 ■ 週刊新潮名誉毀損に係る代表取締役任務懈怠事件

東京地裁平成21年2月4日判決(判時2033号3頁)

「株式会社であろうと、出版を業とする企業は、出版物による名誉毀損等の権利侵害行為を可及的に防止する効果のある仕組、体制を作っておくべきものであり、株式会社においては、代表取締役が、業務の統括責任者として、社内に上記仕組、体制を構築すべき任務を負うと言わなければならない。」「本件各記事については、十分な裏付取材が行われておらず、一方において、Aは、自らの情報提供者と位置づけ、編集部が裏付取材をするとして自らは十分な取材をせずに情報を提供し、他方において、編集部は、Aからの情報なので正しいと安易に判断して、記事としたものと認められ、原告らの名誉を毀損する本件各記事が週刊新潮に掲載され、発行されるに至ったのは、雑誌記事の執筆、編集を担当する記者、編集部等の名誉毀損に関する法的知識や裏付取材のあり方についての意識が不十分であったこと、また、社内における権利侵害防止のための慎重な検討が不足していたことが原因であるというべきであり、このような結果を惹起したのは、被告会社内部に、これを防止すべき有効な対策がとられていなかったことに原因があるといわざるを得ない。」と判示し、代表取締役の第三者に対する責任を認めたものである。

従来の商法(会社法)の法理論をマスコミ報道事案にも適用したものであり、妥当な判断であると言える。

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