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2018年02月05日

「伊藤レポート 2.0」ー社外役員の地位、責任

 2017年10月26日、経済産業省より「伊藤レポート 2.0」と呼ばれる「持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会報告書」が公表された。これは、2014年8月6日に公表された「伊藤レポート」の続編であり、前回の「伊藤レポート」は、「ROE(自己資本利益率)8%」という数値目標が大きくクローズアップされ、コーポレートガバナンス(企業統治)分野において様々な議論が巻き起こっていたところである。
 今回の「伊藤レポート 2.0」においては、いくつかの提言が示されているものの、やや抽象的な内容にとどまり、社外取締役の任務においても十分な検討がなされていない。「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス −ESG・非財務情報と無形資産投資ー(価値協創ガイダンス)の「社外役員のスキルおよび多様性」という項目において、「投資家は、主として業務執行に対する監督の役割を担う社外役員(社外取締役等)に対して、一般株主の利益を確保する観点から、独立した客観的な立場とその意思を有していることを前提条件として求めている。さらに、個々の社外役員が業務執行を担う経営陣等と対等の議論をするに十分な能力や、経験を有しており、また、社外役員全体として多様性が確保されることで、一般株主との利益相反の監督のために活動・貢献することを求めている。」という一般論が示した上で「企業には、社外役員の経歴や属性、実際に果たした役割等に関する情報を示すとともに、必要に応じて社外取締役等が投資家への情報発信や対話を行うなど積極的な対応が求められる。」とするものの、取締役会の一構成員たる社外取締役が、どのような機会において、常時あるいは定期的に、どのような項目、内容につき、どの範囲の投資家に対し、どのような情報発信を行っていくべきとするのか、その具体的指針が全く示されておらず、ガイドラインというにははなはだ不十分な内容となっている。

2007年05月01日

契約準備段階における信義則上の注意義務違反と損害賠償請求の可否

最高裁平成19年2月27日 野澤正充教授


「Yの上記各行為によって、Xが、Yとの間で、本件基本契約又はこれと同様の本件商品の継続的な製造、販売に係る契約が締結されることについて強い期待を抱いていたことには相当の理由があるというべきであり、Xは、Yの上記各行為を信頼して、相応の費用を投じて上記のような開発、製造をしたというべきである」「Yには、Xに対する関係で、契約準備段階における信義則上の注意義務違反があり、Yは、これによりXに生じた損害を賠償すべき責任を負うというべきである」と判示した最高裁に関する評釈である。


本件におけるYが、本件商品の売買契約における当事者に該当すると言えるかどうかは微妙であるとし、契約の締結に対して必ずしもイニシアティヴのないYの責任を認めるとともに、その信義則上の注意義務違反を、契約交渉が現実に破棄された平成10年8月17日ではなく、それ以前のYの行為に求めている事例判決であり、「契約準備段階における信義則上の注意義務違反」の法的性質や損害賠償の範囲に関しても、課題が残っているとしている。


(NBL 855号 14頁)

2007年03月27日

判例に学ぶ No.419」 野口恵三弁護士

 学校法人が新しい研究教育施設を建築する計画があり、下請業者が本件建具の設計納入に関する準備行為を行っていた事案につき、「原告(上告人)が本件建物の施工業者との間で本件建具の納入等の下請契約を確実に締結できるものと信頼して上記準備作業を開始したものであり、、、上記信頼に基づく行為によって原告が支出した費用を補てんするなどの代償的措置を講ずることなく被告が将来の収支に不安定な要因があることを理由として本件建物の建築計画を中止することは、原告の上記信頼を不当に損なうものというべきであり、被告は、これにより生じた原告の損害について不法行為による賠償責任を免れない」と判示した最高裁判決を紹介している。原審は、「いわゆる契約締結上の過失が問題となる場合、すなわち契約締結のための準備交渉段階において信義則が妥当する場合とは異なる」と判示したのであるが、最高裁の結論が妥当であると紹介されている。
(NBL853号55頁)

2007年03月13日

「日本版ネーミングライツの定着・発展に向けて」 浦田和栄弁護士他2名

 野球場等の施設の愛称を付与する権利であるネーミングライツ(Naming Rights)についての解説がなされている。ネーミングライツ契約書や基本協定書なども紹介されている。(NBL852号10頁)

2007年03月01日

「<特集)破産管財人の注意義務 2つの最一判平成18/12/21を読んで」 相澤光江他27名弁護士

 建物賃借人の破産管財人が賃貸人に預託していた敷金返還請求権に対して質権を設定していたにもかかわらず、破産宣告後賃貸人に賃料等を現実に支払わず、かえって敷金を充当したことにより、破産財団が破産宣告後の賃料等の支払を免れた場合につき、質権者が破産管財人に対し、不当利得の返還を求めるとともに、選択的に、上記行為は破産管財人の善管注意義務に違反するとして損害賠償を求めた事案について、各論者の評釈が紹介されている。
 破産管財人は、別除権者への弁済額を多くすることよりも、財団組入額を増加させようと考えるのが一般的であり、他方で、担保価値維持義務があるとするものであり、実務的には難しい判断が要求されるケースと言えよう。
(NBL851号14頁)

2007年02月19日

「物上保証人に対する担保不動産競売手続を承継した代位弁済者の求償権の時効中断の有無(上)」 酒井廣幸弁護士

 「債権者が物上保証人に対して申し立てた不動産競売について、執行裁判所が競売開始決定をし、同決定正本が主債務者に送達された後に、主債務者から保証の委託を受けていた保証人が代位弁済をした上で、債権者から物上保証人に対する担保権の移転の付記登記を受け、差押債権者の承継を執行裁判所に申し出た場合には、上記承継の申出について主債務者に対して民法155条所定の通知がされなくても、次のとおり、上記代位弁済によって保証人が主債務者に対して取得する求償権の消滅時効は、上記承継の申出の時から上記不動産競売の手続の終了に至るまで中断する」と判示した最高裁(平成18年11月14日)についての解説がなされている。
(NBL850号38頁)

2007年02月16日

「進歩性に関する知財高裁判決の概観(1)」田中昌利弁護士・弁理士

 本稿は、知財高裁発足後1年の間に言い渡された審決取消訴訟における発明の進歩性判断について分析しているものである。
(判例タイムズ1227号39頁)

2007年01月22日

「特集 「学納金返還請求」最高裁判決を読んで」 落合誠一教授他

 「本件不返還特約が,その目的,意義に照らして,学生の大学選択に関する自由な意思決定を過度に制約し,その他学生の著しい不利益において大学が過大な利益を得ることになるような著しく合理性を欠くものとまでは認め難く,公序良俗に反するものとはいえない。その他,本件において,本件不返還特約の効力の全部又は一部を否定すべき事情や被告大学が本件学生納付金の返還を拒むことが信義に反するというべき事情もうかがわれない。そうすると,被告大学は,原告に対し,本件授業料等について不当利得返還義務を負わないというべきである」とした最高裁に関する学者、実務家の評釈が掲載されている。(NBL849号8頁)

2006年11月20日

「債権管理回収の基礎知識 第5回 担保不動産競売」 古賀政治弁護士

 短期賃貸借保護制度が廃止され、そのかわり抵当建物使用者は代金納付後6ヶ月の間明渡の猶予を受けることができるようになった建物明渡猶予制度(平成15年改正)について論じられている。建物使用期間における使用対価支払義務は法定されているものの、その間の占有減価については行うべきではないと論じられている。
(NBL845号28頁)

2006年11月17日

「自動車の所有権留保販売と買主の倒産」 大阪大学吉田光碩

 自動車の所有権留保売買において買主に民事再生の手続が開始された事例につき、東京地裁(平成18年3月28日)が「原告は、再生手続によらないで、担保権本来の実行方法により、別除権を行使することができ、本件においては、被告会社に対して本件各自動車の引渡しを求めることができる」と判示した裁判例を紹介している。その上で、一応取戻権を承認した上で、民事再生・会社更生にあっては場合によってその取戻し(=所有権留保の実行)を中止命令(民事再生法31条、会社更生法25条1項)でコントロールする方向が採られるべきであろうという道垣内教授の学説を紹介されている。
(金融法務事情1786号4頁)

2006年11月16日

「M&A等における知的財産権リスクについて」 弁護士早稲田祐美子

 M&Aにおいて、知的財産権の存在、権利範囲、存続期間、対抗要件、ライセンス条件等を確認するデュー・ディリジェンスが必要であるが、後日、裁判等で特許が無効とされる場合もあることが指摘されている。また、包括クロスライセンスの相手方企業がライバル企業と合併するなどのケースも考えられるため、包括クロスライセンス契約においては、change of control(支配権移動)条項、すなわち相手方の支配権の変動があった場合、契約解除できるという条項を入れておく必要があることなどが指摘されている。
(NBL844号7頁)

2006年11月04日

「弁護士照会と個人データの第三者提供 弁護士二村浩一

 銀行に対し、弁護士法23条の2に基づく照会がなされた場合の対応につき、「弁護士照会に応じて顧客の個人データを提供することは、法令に基づき個人データを提供する場合であるから、法の定める個人データの第三者提供の制限の違反とはならないが、金融機関は顧客に対して守秘義務を負担しており、取引に関連して知った、公開されていない顧客の情報は、正当な理由なく第三者に明らかにすることはできない」と説明されている。(金融法務事情1785号24頁)

2006年10月30日

「不動産鑑定士調停センターの開設」 小谷芳正

 平成18年7月1日より、社団法人日本不動産鑑定協会は、不動産鑑定士調停センターを開設し、東京において業務を開始した。平成19年4月より裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律が施行される予定であり、その後法務大臣の認証を受けられれば、時効の中断、訴訟手続の中断、調停前置に関する特則などが受けられることになる。
(金融法務事情1784号1頁)

2006年10月26日

「インターネットを利用した支払督促申立ての運用開始」 最高裁判所事務総局民事局第1課吉田浩司、中室秀子

 平成18年9月1日より、インターネットにより支払督促の申立てを受け付ける督促手続オンラインシステムが東京簡易裁判所において運用開始されたことが報告されている。申立書式としては、貸金、立替金、求償金、売買代金、通信料金及びリース料金の6類型を基本とした合計38種類が用意されているという。
(金融法務事情1783号8頁)

2006年09月08日

「米国ビジネス法のダイナミクス」 ニューヨーク州・ワシントンDC弁護士渋谷年史

 ここ数年、環境保護や動物愛護等を標榜する団体が、企業やその従業員に対して様々な攻撃を行っていることが紹介されている。デモ・ピケッティング、ウェブサイト、通信手段への攻撃、財産の損壊、従業員への攻撃、取引先等への攻撃などである。それに対する企業の対応としては、禁止命令(injunctive relief)、デモ規制条例、コンサルタント、取締当局との連携、活動情報の把握、広報対策、従業員の安全などについて検討する必要がある。
(NBL840号46頁)

2006年09月05日

「質権の対象である特許権の価格およびその質権の価格が認定された事例(その2)」 小沢征行弁護士

 最高裁平成18年1月24日判決について紹介されている。同判決は、「特許権の適正な価額は、損害額算定の基準時における特許権を活用した事業収益の見込みに基づいて算定されるべきものであるところ、、、同事業化の努力をしていたことなどが明らかである」「事業収益を生み出す見込みのある発明として相応の経済的評価ができるものであったということができ、、、仮に損害額の立証が極めて困難であったとしても、民訴法248条により、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて、相当な損害額が認定されなかえればならない」と判示した。そこで、筆者は、知的財産権を実効価値ある担保として取得するには、インカムアプローチの方法での権利の評価が可能なものを担保に取るべきであるとしている。
(金融法務事情1779号4頁)

2006年08月18日

「コンプライアンス講義 コンプライサンスを重視する組織文化へ ー移行過程のマネジメント」 日本ミルクコミュニティ株式会社 岩倉秀雄氏

 コンプライアンス態勢を構築するために、?経営トップがコミットメントを強力に行うこと、?コンプライアンス部門に強力な人材を配置し、権限を与えること、?「革新を阻む動き」に対して断固とした措置をとること、?アンケート等により組織実態の現状把握をすること、?中間管理職層を革新の核とすること、?活動を発表する機会を持つこと、?教育・訓練の強化、?スムーズなコミュニケーションの確保などが重要であると指摘されている。
(NBL839号58頁)

2006年08月10日

「法の適用に関する通則法の概要」 法務省民事局参事官 小出邦夫

 平成18年6月15日、法例を全面改正する「法の適用に関する通則法」が可決成立し、その内容に関する解説がなされている。今回の改正によって、消費者契約に関する消費者保護規定や名誉または信用に毀損の特則など新しい条項も設けられた。国際取引(渉外事件、国際私法)分野においては、重要な改正となっている。
(金融法務事情1778号62頁)

2006年08月09日

「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律 ー政省令およびガイドラインの概要」 法務省大臣官房司法法制部部付検事 内堀宏達

 裁判外紛争解決手続の利用に促進に関する法律(平成16年12月公布)につき、平成18年4月28日、裁判外紛争解決手続の利用の則人に関する法律施行令および裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律施行規則が公布され、同年6月20日には、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律の実施に関するガイドラインが制定され、それらの概要につき解説がなされている。
(NBL838号23頁)

2006年08月02日

「リース会社にリース物件の確認義務がない?ある?」 T・Y

 いわゆる空リースの場合において、保証人が責任を負うかどうかについて、裁判例は5例あり、うち保証人による保証契約において錯誤があったとして無効主張を認めたものが2例あると紹介されている。不公正な取引を防止する意味でも、リース会社による物件確認義務は肯定されるできであろう。
(金融法務事情1777号56頁)

2006年07月31日

「改正消費者契約法の解説」 内閣府国民生活局消費者団体訴訟制度検討室

 平成12年に制定された消費者契約法について、消費者全体の利益擁護を目的として、直接の被害者ではない第三者である適格消費者団体に差止請求権を付与するという我が国初の消費者団体訴訟制度についての解説がなされている。差止の対象となる事業者の行為としては、本法上の不当な勧誘行為および不当な契約条項を含む消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示をすることとされている。2007年6月施行予定である。
(NBL837号15頁)

2006年07月26日

「融資判断における銀行取締役の責任 ー公知地判平17.6.10を中心にー」 藤原俊雄教授

 銀行の株主が土佐闘犬センターに対するつなぎ融資を行った取締役7名に対し、株主代表訴訟を行った事案につき解説がなされている。その中で、RCC事案については、?破綻金融機関の事例であること、?請求金額を限定しているものが多いこと、?被告人数も限定されていること、?証拠が十分に存し、融資案件の選定について十分な検討がなされ、しかも問題に精通している弁護士が訴訟を遂行していることなどから、取締役の責任が認められやすいと分析されている。
(金融法務事情1775号34頁)

2006年07月10日

「費消済みインクタンクにインクを再充填する行為と特許権侵害の成否(上) ーインクカートリッジ知財高裁大合議判決の意義」 田村善之教授

 インクジェットプリンタ用のインクタンク(インクカートリッジ)にインクを再充填する行為は、本件特許発明の本質的部分と抵触するから消尽の範囲外であるとするその論理は、消尽理論の本来の趣旨であるはずの取引の安全を損ないかねないという立場から、「ドラフティングの技術で非侵害の結論が侵害の結論に変更されることは、特許制度の趣旨とは無関係に権利範囲を拡張することになりかねない」等の指摘がなされている。
(NBL836号18頁)

2006年06月30日

「相続預金の取引経過明細の開示請求に対する実務対応」 尾崎達夫、伊藤浩一、金子穣弁護士

 最高裁平成17年5月20日は、預金債権は相続により当然に分割承継されるにしても、取引経過の開示を受け得る地位は、預金契約当事者としての地位に由来するものであり、その地位は1個の預金契約ごとに1個であって、可分のものと観念できないから、各相続人は単独で開示を請求し得ないとした東京高裁判決を是認した。この点に関し、筆者らは、?取引経過明細の開示は預金契約に付随する義務であり、預金者に取引経過明細の開示請求権が存するが、?預金が相続された場合、各相続人が単独で開示請求を行うことはできないとしている。
遺産を巡る紛争において事実関係を早期に確定することは不可欠であり、その意味で、相続人による単独行使を否定することは実務的には足かせとなるであろう。
(金融法務事情1774号28頁)

2006年06月28日

「フランチャイズ契約締結段階におけるフランチャイザーの情報提供義務 ー福岡高判平成18・1・31を契機として」 千葉恵美子教授

 フランチャイズ契約における信義則上の保護義務違反が認められるための根拠や要件等につき分析されている。上記裁判例は、?店舗立地調査マニュアル自体に明らかな不合理があった場合、?マニュアル自体は合理的であっても、実際の調査・予測においてその適用判断を誤り、あるいはそもそも調査が不十分であることから、結果として正確な予測ができなかった場合に、フランチャイザーは保護義務違反の責任を免れないとしている。
(NBL835号12頁)

2006年06月14日

「「内部統制」と文書管理」 小谷允志氏

 日本版SOX法や新会社法におけるいわゆる「内部統制」の問題につき、文書管理プログラムの確立や全社的な文書管理を統括する文書管理の専門職が必要とされていることが指摘されている。また、「内部統制」といいながら、求められているものは企業の情報開示であり、ステークホルダー、つまり「外部」に対する説明責任を文書により果たすということが重要であると論じられている。
(NBL834号9頁)

2006年06月13日

「表明保証条項をめぐる実務上の諸問題 ー東京地判平18.1.17を題材として」 金田繁弁護士

 買収監査(デューディリジェンス)における表明保証について、裁判所も、決して「悪意・重過失の場合には表明保証違反に基づく補償請求をなし得ない」とは判示しておらず、「・・・解する余地がある」という表現にとどめており、悪意や重過失の場合には責任追及ができないとまでは言っていない点を指摘している。
 さらに、契約書における「重要な」(material)「知る限り」(best knowledge)「最善の努力」(best efforts)などの文言につき、当事者間で解釈の齟齬が生じ得る点についても指摘されている。
実務上非常に重要となっている問題であり、裁判例の積み重ねも必要と言えよう。
(金融法務事情1772号36頁)

2006年06月07日

「金融機関における不祥・不正事件の報告態勢と内部通報制度」 堀裕弁護士、藤池智則弁護士

 不祥・不正事案を掌握するためには、通常の報告態勢の他、内部通報制度(ヘルプライン)を導入することが有効であり、報告ルールの実効的運用を事後的に検証する機能をも有していると論じられている。
今後、益々、内部通報制度を含め内部統制や内部監査について重要性が増してくるものと思われる。
(金融法務事情1771号10頁)

2006年05月30日

「消費者契約法を語る」 松本恒雄教授、加藤雅信教授、加藤新太郎地位方地裁所長

 消費者契約法が施行されてからの約5年間の情勢や2006年3月3日国会に提出された改正案の内容等につき、紹介されている。また、「消費者契約法関係判例リスト」として、条文に沿った形で77件の裁判例について紹介されており、便利である。
(判例タイムズ1206号4頁)

2006年05月25日

「通信を利用した放送と著作権法上の課題」 齋藤浩貴弁護士

 IPマルチキャスト放送について、「自動公衆送信」ではなく、著作権法上有利な取扱を受ける有線放送事業者と解釈することができないか、及び現行法上の有線放送と同じ取扱とする法改正をなすべきでなはないかという点について論じられている。いわゆる「放送と通信を巡る問題」と呼ばれているテーマである。
(NBL833号27頁)

2006年05月08日

「ヒューマン・リソース(HR)と法 ー労働法最前線 第7回 公益通報者保護法と内部告発」 野田進教授

 2006年4月1日より施行されている公益通報者保護制度に関する概要が説明されている。「企業としては、組織運営上の法律遵守を担保するためにも、後述のように内部通報制度を整備しておくことが重要であり、このようなヘルプラインが準備されているときには、まず内部通報によるべきである。しかし、この点は告発事実との関連で判断せざるを得ず、重大かつ急迫の危険をもたらす告発事実については、内部通報を経なくても告発の違法性は阻却されるといえよう」と指摘されている。
(NBL832号81頁)

2006年05月01日

「弁護士法に基づく照会と金融機関の秘密保持義務 ー大阪地判平18.2.22の紹介ー」 鈴木秋夫弁護士

 いわゆるヤミ金業者からの借主が、相手方の正確な氏名、住所等を調査するためには、預金口座が開設されている金融機関に対して弁護士法23条の2に基づく照会請求を行うことが効果的ないし不可欠であるが、他方で、金融機関は顧客との間で秘密保持義務を負っているため、紹介請求に応じて情報を開示することが許されるかどうかが争われた事件についての解説である。
 「本判決の判断基準に従えば、今後、金融機関がいかなる要件のもとに顧客の特定に資する情報の開示を求める23条照会または調査嘱託に対して報告する義務を負うのかについての解釈及び金融実務における一定の運用基準が確立された場合には、金融機関が報告を拒否したことについて過失の存在が認定されることもあり得る」と論じられている。今後の判断にも注目されるところである。
(金融法務事情1769号26頁)

2006年04月20日

「判例に学ぶNo.409」 野口恵三弁護士

 「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である」と判示した最高裁判決(平成17年9月8日)に関する簡単な解説がなされている。
(NBL831号91頁)

2006年04月12日

「大阪地方裁判所第21/26民事部と大阪弁護士会知的財産委員会との懇親会」

 近時法改正がなされた専門委員・秘密保持命令制度、特許無効理由に基づく権利行使制限の抗弁等について、大阪知財知財部裁判官と大阪で知財を専門とする弁護士との間の議論の様子が紹介されている。
(判例タイムズ1202号37頁)

2006年04月07日

「GPLv3ドラフトの概要と改訂のポイント」 上山浩弁護士、川上桂子弁理士

 オープンソースソフトウェア(OSS)ライセンスの中で最もより利用されているGPL(GNU general public license)について、2006年1月16日、次期バージョンである第3版のドラフトが公表されたことが紹介されている。第2版からの主要な変更点は、(1)ソフトウェア特許に対する防御、(2)デジタル著作権管理技術に対する抵抗、(3)他のOSSライセンスとの互換性向上の3点であるとされている。
(NBL830号10頁)

2006年03月24日

「通報窓口設計の実務上の留意点について」 森原憲司弁護士

「内部通報システムの構築 ー課題と対策」 中原健夫弁護士
平成18年4月1日より、公益通報者保護法が施行されることになり、それに伴う通報窓口の設置や通報受理後の体勢作りについて解説されている。
内部通報システムの構築は、コンプライアンス経営や日本版SOX法ともかかわる重要な喫緊の課題であると言えよる。
(NBL829号20頁〜、43頁〜)

2006年03月22日

「倒産手続における非典型担保 ファイナンス・リース」 片山英二弁護士、中村閑弁護士

フルペイアウト方針のファイナンス・リース契約に基づいてリース物件の引渡を受けている場合に、ユーザーが倒産手続に入った場合の問題点について整理されている。共益債権説ではなく、担保付債権説の立場をとった最高裁判決(平成7年4月14日)後の実務の取扱について論じられている。
(金融法務事情1765号30頁)

2006年03月17日

「システム開発委託契約において留意すべき問題」 上山浩弁護士

発注者としては、瑕疵担保責任の期間を伸長する規定を盛り込むことが必要であることや、損害賠償額の上限を定めないようにしなければならないことが論じられている。また、独占禁止法上の問題にも留意が必要であるとされている。
(NBL828号38頁)

2006年02月27日

「資金運用を目的としたデリバティブ取引に関する会社の内部統制 ー運用失敗による株主代表訴訟事例を参考に」 福島良治氏

デリバティブ取引により経常利益の4倍を超える損害を会社に生じさせたヤクルト株主代表訴訟事件を参考に、コーポレート・ガバナンスや内部統制の観点からのリスク管理について論じられている。
平成18年施行予定の会社法により、大会社では取締役会がいわゆる内部統制システムを決定することが義務づけられており、参考になると思われる。
(金融法務事情1763号25頁)

2006年02月24日

「改正独占禁止法 課徴金減免制度の導入(下)」 弁護士川合弘造、弁護士森大樹氏

課徴金減免制度の導入が弁護士実務に与える影響について論じられている。特に、課徴金減免のために報告書を提出している企業とそうでない企業との間においては利害関係が異なるため、情報交換を目的とした弁護団会議を行う場合には、「弁護士間で共同防御契約を締結し、弁護士間での協力や情報交換の目的や意味を明確にした上で、交換された情報の取扱いについての約定を取り交わす必要が生じてくるように思われる」と指摘されている。
(NBL827号33頁)

2006年02月22日

「J−SOXをめぐる現状と今後の動き」 内田芳樹氏

米国の企業改革法(Sarbanes Oxley Act)の日本版をめぐる動き(「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について」企業会計審議会内部統制部会)や現状についてコメントされている。
(金融法務事情1762号1頁)

2006年02月17日

「電子商取引等に関する準則の改訂について」 経済産業省商務情報政策局 紀田 馨氏

平成14年3月に策定された「電子商取引等に関する準則」が、平成18年2月1日、4回目の改訂がなされたポイントについて解説されている。特に、ソフトウェアの使用許諾が及ぶ人的範囲について、派遣社員がその企業の業務に使用する場合や、再委託を受けたソフトウェアベンダが社内に常駐し、ライセンシー企業の業務と密接に関連しているような特定の場合には、ソフトウェアの使用許諾が及ぶことがある点が指摘されている。
 また、インターネットサイト上の情報について、著作権者の黙示の許諾が認められる場合があることも指摘されている。
(NBL827号13頁)

2006年02月09日

「中国における模倣品対策およびライセンス規制について」 松下電器産業? 平野周之氏

国際知的財産保護フォーラム参加企業の具体的事例や中国における模倣品対策及びライセンス規制(技術供与側の責任規定、ロイヤルティ料率の上限規制、送金規制)に関する問題点等について説明がなされている。
(NBL826号72頁)

2006年01月30日

「改正独禁法の論点から(上)」 白石忠志教授

平成18年1月4日から施行された改正独禁法の減免制度を除いた課徴金制度に関わる論点、すなわち、?不当利得との関係、?対価要件の拡張、?支配型私的独占の課徴金対象化、?算定率等に関する簡略な解説がなされている。
(NBL825号14頁)

2006年01月23日

「大阪地裁(本庁)における民事執行事件の概況」 後藤慶一郎判事

平成17年11月までの大阪地裁執行部(第14民事部)における事件処理の状況等につき紹介されている。財産開示制度については、法律施行後平成17年11月までの累計件数は212件であり、開示義務者の出頭率は5割を超えているとされている。過料事件については、平成17年、財産開示期日に債務者が出頭しなかった62件のうち、22件と、出頭しながら宣誓を拒絶した1件について立件されたと紹介されている。
(民事法情報 232号22頁)
より実効性ある制度にするための改正を考えるべきであろう。

2006年01月17日

「裁判所専門部の事件処理の実情」 東京地裁判事他

知的財産高等裁判所、東京地裁商事部、東京地裁保全部、東京地裁医療部、東京地裁破産再生部、東京地裁執行部、東京地裁調停・借地非訟・建築部、東京地裁民事第25部(大合議部)、東京地裁労働部、東京地裁知的財産権部、東京地裁刑事租税部の実情につき、特集が組まれている。
(NBL824号6頁以下)

2005年12月26日

「最近における知財高裁の実情」 中野哲弘知財高裁第2部総括判事

平成17年4月1日より発足した知的財産高等裁判所(東京高裁の特別の支部)の実情及び事件処理の概況についての説明が簡潔になされており、有益である。
(民事法情報 No.231 2頁)

2005年12月05日

「事業再生から見た会社法の現代化(1)」 田中 亘助教授

「全部取得条項付種類株式」の創設など事業再生における株主の地位などを中心に平成17年6月に成立した新会社法の内容について解説している。
(NBL822号20頁)

2005年11月30日

「私的整理に関するガイドライン」の評価と今後の課題 私的整理に関するガイドライン研究会事務局

現在の私的整理に関するガイドラインにつき、金融支援方法の多様化を反映、政府系金融機関のガイドラインへの参加の位置付け、中小企業に対する第度ラインの適用など手当等が必要であると論じている。
(金融法務事情1755号34頁)

2005年11月28日

知的財産権の侵害警告と「正当な権利行使」ー近時の裁判例についてー 瀬川信久教授

最近の裁判例では、広く「正当な権利行使」の場合に警告者の責任を否定するケースが多いが、権利の無効、非侵害についての認識可能性を問うことなく警告者の責任を否定できるのは、(1)問い合わせ型、(2)司法手続に随伴する中止要求型、(3)中止要求型だが被警告者の適正な判断を侵害しない場合に限られるべきであると論じている。
(知的財産法政策学研究 第9号 111頁)

2005年11月18日

米国における不可欠施設理論の現在 飯田浩隆氏

「不可欠施設理論」(Essential Facilities Doctrine)(ある事業に不可欠な施設を保有する者は競争者に対して平等かつ合理的な条件でその施設を提供しなければならず、提供拒絶は競争法違反となるという理論)についての解説がなされている。電話回線網、空港施設、パソコンOSなどの規制に関係するテーマである。
米国の2004年トリンコ最高裁判決は、この理論を認容も否定もしないと判示し、単独の取引拒絶は原則適法とし、(投資インセンティブの確保を目的とするものではない)競争者の排除のみを目的とする取引拒絶のみ例外的に違法になるとした。
(NBL821号35頁)

2005年11月08日

営業秘密の刑事罰における保護 山口厚教授

不正競争防止法の改正法が本年6月成立し、11月1日より施行されています。
本記事では、これまでの不正競争防止法の改正経緯について概観しつつ、今回の刑事罰規定の拡充(?国外での行為についての規制、?退職者による行為についての規制、?法人に対する刑罰)についての解説がなされている。
(NBL820号12頁)

2005年11月07日

事務ガイドラインの一部改正ー貸金業者の取引履歴開示義務の明確化ー(金融庁監督局)

貸金業者には取引履歴の開示義務があるとした最高裁判決(平成17年7月19日)を踏まえ、貸金業関係の事務ガイドラインが一部改正され、本年11月14日より適用されることになった点の解説がなされている。
弁護士によるいわゆる受任通知についても、その通知上に顧客等にかかる本人確認情報が十分に記載されている場合には、改めて委任関係を示す書類は必要なく、代理人本人についても本人確認のための書類(印鑑証明書等)等の提示は必要ないとされている。
(金融法務事情1754号47頁)

2005年11月02日

ビリング業務に用いられるコンピュータプログラムの貸与権侵害と被貸与者の不当利得(泉克幸助教授)

貸与権侵害が認められた東京地裁平成16年6月18日判決について、貸与権侵害による共同不法行為の成立を認めればよく、不当利得返還請求を認める必要があったとは思われないとの評釈がなされている。
(判例時報1903号206頁)

2005年11月01日

ソフトウェアの法的保護とイノベーションの促進に関する研究会中間論点整理

「ソフトウェアの法的保護とイノベーションの促進に関する研究会」中間論点整理の公表について(2005年10月11日)が発表されている。
http://www.it-patent.jp/news/meti_0510.pdf
「多層レイヤー構造、コミュニケート構造、ユーザーのロックイン傾向を有するソフトウェア分野においては、特許権の付与により強すぎる独占権が発生している可能性があり、競争阻害によるイノベーション減退効果が生じやすい。」とされているが、実証的な分析、具体的な検討が不可欠であろう。

2005年10月28日

大阪地方裁判所第6民事部における倒産事件処理の概況

破産、民事再生(個人再生)、会社更生、会社整理及び特別清算を取り扱う専門部に関する事件数や運用基準等に関する概要である。
平成17年1月より新破産法が施行されるようになり、従来「A管財」と言われていたものが「個別管財手続」と呼ばれ、「B管財」と呼ばれていたものが「一般管財」と呼ばれるようになり、その手続等に関する説明がなされている。
また、弁護士申立にかかる自己破産申立事件の予納金最低額(法人50万円、個人30万円)や、民事再生事件(監督委員選任型)の予納金基準なども紹介されている。
(民事法情報 No.229 26頁)

2005年10月18日

東京地裁保全部における仮差押命令申立事件の運用の変更点(上)

最高裁(平成15年1月31日)は、同一の被保全債権に基づく再度の仮差押は、保全の必要性の存する限り認められるとの新判断を示し、それに基づき、平成17年2月14日より、東京地裁保全部でも運用が変更された点につき解説している。
(金融法務事情1752号16頁)

2005年10月05日

平成16年度独禁法審決・判例研究(上)稗貫俊文教授

平成16年度の審決は72件であったと紹介し、本稿では、郵便区分機審決取消訴訟(平成16年4月23日)と防衛上タイヤ・チューブ談合事件(平成17年3月31日同意審決)について解説している。
(NBL818号48頁)

2005年09月29日

LLP制度の創設−「有限責任事業組合契約に関する法律」の概要(経産省石井芳明氏)

 LLP(Limited Liability Partnership)制度を創設する「有限責任事業組合契約に関する法律」(平成17年法律第40号)が平成17年4月27日に成立し、同年8月1日に施行されました。LLPは、株式会社や民法上の組合と比較し、次の表のような特徴を有するとする詳しい説明がなされています。

株式会社民法上の組合LLP
有限責任制×
(無限責任)

(有限責任)
内部自治原則×
(会社機関、
出資比率による分配)

(柔軟な組織)

(柔軟な組織)
構成員課税×
(法人課税)

(構成員課税)

(構成員課税)

 そして、(1)専門人材の共同組織(個人同士の共同事業)、(2)ジョイント・ベンチャーの新しい受け皿(企業同士の共同事業)、(3)産学連携やスピンオフの新しい受け皿(企業と個人の共同事業)への活用の可能性が示されています。
(金融法務事情1746号95頁)

「東京地裁知的財産権部における専門委員制度の活用について」(高部眞規子、熊代雅音)

 平成15年民事訴訟法改正により、専門委員制度が新設されたが、本論考は、東京地裁知的財産権部において専門委員が関与した事件の実例を紹介するものであり、運用のイメージをつかむためには有用である。
(判例タイムズ1181号4頁)

2005年09月22日

「知っておきたいソフトウェア特許関連判決 新設の間接侵害規定を適用し、ワープロソフト「一太郎」の差止請求を認容」(上羽秀敏弁理士)

 本判決(東京地裁平成17年2月1日)は、平成14年改正で新設された間接侵害規定(特許法101条2号、4号)を適用した点、装置特許及び方法特許でコンピュータプログラムの侵害を認めた点において、おそらく最初の判決であると解説している。
(パテント2005年8月号62頁)

P2Pソフトウェアと著作権侵害−米最高裁MGM対グロクスター判決(弁護士井口加奈子)

 P2Pネットワークによる著作物ファイルの交換を可能にするソフトウェアを配布しているグロクスターらに対し、違法な意図があるとして、二次的侵害責任があると初めて判示した最高裁判決に関する簡略解説である。
(NBL815号4頁)