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2006年06月30日
 ■ 「相続預金の取引経過明細の開示請求に対する実務対応」 尾崎達夫、伊藤浩一、金子穣弁護士

 最高裁平成17年5月20日は、預金債権は相続により当然に分割承継されるにしても、取引経過の開示を受け得る地位は、預金契約当事者としての地位に由来するものであり、その地位は1個の預金契約ごとに1個であって、可分のものと観念できないから、各相続人は単独で開示を請求し得ないとした東京高裁判決を是認した。この点に関し、筆者らは、?取引経過明細の開示は預金契約に付随する義務であり、預金者に取引経過明細の開示請求権が存するが、?預金が相続された場合、各相続人が単独で開示請求を行うことはできないとしている。
遺産を巡る紛争において事実関係を早期に確定することは不可欠であり、その意味で、相続人による単独行使を否定することは実務的には足かせとなるであろう。
(金融法務事情1774号28頁)

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2006年06月28日
 ■ 「フランチャイズ契約締結段階におけるフランチャイザーの情報提供義務 ー福岡高判平成18・1・31を契機として」 千葉恵美子教授

 フランチャイズ契約における信義則上の保護義務違反が認められるための根拠や要件等につき分析されている。上記裁判例は、?店舗立地調査マニュアル自体に明らかな不合理があった場合、?マニュアル自体は合理的であっても、実際の調査・予測においてその適用判断を誤り、あるいはそもそも調査が不十分であることから、結果として正確な予測ができなかった場合に、フランチャイザーは保護義務違反の責任を免れないとしている。
(NBL835号12頁)

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2006年06月27日
 ■ 債権回収についての取締役の任務懈怠の有無が争われた事件

 本件控訴審は、?当該債権の存在を証明して勝訴し得る高度の蓋然性、?勝訴した場合の債権回収の確実性、?回収が期待できる利益が、そのために見込まれる諸費用等を上回ることが必要であるとし、さらに、?訴訟提起を行った場合に会社が現実に回収し得た具体的金額の立証も必要であるとした原審を是認したものである。
取締役は会社に対して善管注意義務を負っており、その内容として一定程度の勝訴の可能性のある案件については法的手続をとるべきであり、高度の蓋然性まで要求しているのはやや問題があるように思われる。
(判例タイムズ1208号290頁)

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2006年06月22日
 ■ マンションの住込管理人の時間外労働にについて争われた

 マンションの住込管理人の時間外労働につき、東京地裁は、最高裁判決(平成14年2月28日)をふまえた上で、「本来、所定労働時間外の時間帯は、労働から解放された時間であって、住込み管理員といえども、住居たる管理員居室内で過ごそうと、外出しようと自由な時間であるはずである。このような場合には、管理員において使用者の指揮命令下に置かれていない私的な時間というべく、原則として、労働時間ということはできない」「発生した緊急事態当に対応した実作業時間のみを労働時間として認めることが相当である」と判示した。
(判例時報1926号141頁)

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2006年06月16日
 ■ いわゆる社内通達文書が民訴法220上4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利益に供するための文書」に当たらないとされた事例

 融資一体型変額保険の勧誘状況が争いになった事件において、裁判所は、最高裁判決(平成11年11月12日)を引用した上で、「抗告人の内部の意思が形成される過程で作成される文書ではなく、その開示により直ちに抗告人の自由な意思形成が阻害される性質のものではない。さらに、本件各文書は、個人のプライバシーに関する情報や抗告人の営業秘密に関する事項が記載されているわけではない」として、民訴法220条4号ニ所定の文書には該当しないと判示した。
(金融法務事情1773号41頁)

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2006年06月14日
 ■ 「「内部統制」と文書管理」 小谷允志氏

 日本版SOX法や新会社法におけるいわゆる「内部統制」の問題につき、文書管理プログラムの確立や全社的な文書管理を統括する文書管理の専門職が必要とされていることが指摘されている。また、「内部統制」といいながら、求められているものは企業の情報開示であり、ステークホルダー、つまり「外部」に対する説明責任を文書により果たすということが重要であると論じられている。
(NBL834号9頁)

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2006年06月13日
 ■ 「表明保証条項をめぐる実務上の諸問題 ー東京地判平18.1.17を題材として」 金田繁弁護士

 買収監査(デューディリジェンス)における表明保証について、裁判所も、決して「悪意・重過失の場合には表明保証違反に基づく補償請求をなし得ない」とは判示しておらず、「・・・解する余地がある」という表現にとどめており、悪意や重過失の場合には責任追及ができないとまでは言っていない点を指摘している。
 さらに、契約書における「重要な」(material)「知る限り」(best knowledge)「最善の努力」(best efforts)などの文言につき、当事者間で解釈の齟齬が生じ得る点についても指摘されている。
実務上非常に重要となっている問題であり、裁判例の積み重ねも必要と言えよう。
(金融法務事情1772号36頁)

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2006年06月12日
 ■ 破産会社のテレテキストビションシステム詐欺的商法事件

 テレビ、文字放送受信表示器等を組み合わせたテレビビジョンシステムの販売が詐欺的商法であると争われた事件につき、東京地裁は、「被告Yは、トータルネットの取締役(平成11年2月からは代表取締役)として本件システム事業を中心的に企画して実行していた者であり、被告Y自身、広告の獲得や、本件機器の広告配信のシステムの開発が当初想定していたように進展していなかったことを自認していたばかりか、本件機器の販売開始の当初から、定額の広告放映料の支払を約した上で、本件機器の販売を続けることは、本件機器の売上利益を広告放映料につぎ込み結果となり、「たこが自分の足を食う」に等しい経営状態となることを自認していたものである。そうすると、被告Yは、本件システム事業の開発当初から同事業の破綻が必至であることを予見しながら、あるいは少なくとも容易に認識することができたにもかかわらず、原価を大幅に上回る高額の販売代金を設定して本件機器の販売を続けていたものであるから、悪意又は重大な過失があり、商法266条の3第1項に基づき、その取締役在任中に本件機器の販売契約を締結した原告らに対して損害賠償責任を負うべきである」等と判示した。
本件は、詐欺的商法によるクレジット・リース利用者の被害に係る集団訴訟であり、取締役の責任を認めたことは、妥当な判断であると言えよう。
(判例タイムズ1207号217頁)

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2006年06月07日
 ■ 「金融機関における不祥・不正事件の報告態勢と内部通報制度」 堀裕弁護士、藤池智則弁護士

 不祥・不正事案を掌握するためには、通常の報告態勢の他、内部通報制度(ヘルプライン)を導入することが有効であり、報告ルールの実効的運用を事後的に検証する機能をも有していると論じられている。
今後、益々、内部通報制度を含め内部統制や内部監査について重要性が増してくるものと思われる。
(金融法務事情1771号10頁)

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2006年06月05日
 ■ 和歌山カレー事件被告人の写真撮影、イラスト描写事件

 写真週刊誌FOCUSへの被告人の写真及びイラスト掲載につき、最高裁は、「人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する。もっとも、人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあるのであって、ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。」とした上で、一部のイラスト画につき、「被上告人が手錠、腰縄により身体の拘束を受けている状態が描かれたものであり、そのような表現内容のイラスト画を公表する行為は、被上告人を侮辱し、被上告人の名誉感情を侵害するものというべきである」と判示した。
いわゆる肖像権侵害による不法行為に関する初めての最高裁判決であるが、イラストの描き方によっても判断が分かれる可能性があると言えよう。
(判例時報1925号84頁)

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2006年06月02日
 ■ 株式会社が10年間の備置期間経過後においても保存していた取締役会議事録が閲覧謄写の対象となるかどうかが争われた事例

 東京地裁は、「仮に会社が取締役会の日から10年を超えて取締役会議事録を保存しているとしても、それは、商法260条ノ4第5項の規定により本店に備え置いている取締役会議事録とはいえないから、同条6項前段及び同項1号に基づく閲覧・謄写の許可の対象とはならないと考えるべきである」と判示した。
時効制度の趣旨等も考え合わせると、妥当と言えよう。
(判例時報1923号130頁)

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