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2005年12月28日
 ■ ダスキン取締役会議事録無断公開事件

「本件文書2ないし11に記載された文章は,取締役会議事録のモデル文集の文例に取締役の名称等を記入しただけのものではないものの,使用されている文言,言い回し等は,モデル文集の文例に用いられているものと同じ程度にありふれており,いずれも,日常的によく用いられる表現,ありふれた表現によって議案や質疑の内容を要約したものであると認められ,作成者の個性が表れているとは認められず,創作性があるとは認められない。また,開催日時,場所,出席者の記載等を含めた全体の態様をみても,ありふれたものにとどまっており,作成者の個性が表れているとは認められず,創作性があるとは認められない」として著作権侵害については否定した。
 しかしながら、「取締役会議事録謄写許可申請事件はいわゆる非訟事件に属し,その審理は公益的要素が強く,場合によれば秘密性保持が要請されるところから,非公開で行われるものとされており(非訟事件手続法13条),その事件記録についても,裁判所の許可がなければ閲覧,謄写することができないものとして運用されている。そして,当該事件において書面を提出する当事者も,当該書面が裁判所の許可がない限り閲覧,謄写されないことを前提とした上で,記載事項を検討し,これを作成しているものと推認されることからすると,書面の提出者は,その副本を相手方に交付する場合でも,相手方がこれを当該手続の進行のため等の正当な目的以外には使用しないことを当然に期待し得るものであって,本件におけるように,書面の提出者等の承諾を得ることなく,これをインターネット上で公開し,極めて広範囲の一般人がだれでも閲覧又は複写(ダウンロード)し得るような状態に置くようなことは,当該手続を非公開とした前記法規の趣旨,目的に反するとともに,書面を提出した当事者の信頼を著しく損なうものであって,信義則上許されないものといわなければならない。そして,当該文書をみだりに公表されることがないという上記提出者等の期待ないし利益は法的保護に値するというべきところ,1審原告ダスキンのような法人も自然人と同じく法律上一個の人格者であってみれば,上記のような利益をみだりに侵害されてよいはずはなく,これを侵害された場合は,民法709条,710条に基づき,財産的損害のみならず,社会観念上,金銭の支払によって補填されるのが相当と考えられる無形的損害につき損害賠償を求めることができると解される(最高裁判所昭和39年1月28日判決。民集18巻1号136頁参照)。1審原告ダスキンは,裁判所の許可がない限り閲覧,謄写されないことを前提として,代理人弁護士を介して本件謄写許可申請事件における自己の主張として本件文書1を提出し,その副本を1審被告に交付したというべきところ,無断で1審被告サイトで公開され,これにより前記利益を違法に侵害され,無形的損害を被ったものと認められる」として、インターネット上での無断公開についての違法性を肯定したものである。
(平成17年10月25日大阪高裁判決、最高裁HP)

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2005年12月26日
 ■ 「最近における知財高裁の実情」 中野哲弘知財高裁第2部総括判事

平成17年4月1日より発足した知的財産高等裁判所(東京高裁の特別の支部)の実情及び事件処理の概況についての説明が簡潔になされており、有益である。
(民事法情報 No.231 2頁)

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2005年12月21日
 ■ 預金仮差押限定的支店順位方式事件

銀行預金の差押えにつき、4ないし37の本店及び支店を列挙しこれに順位を付して仮差押債権である預金債権を表示する方法(限定的支店順位方式)により仮差押えを申し立てた事件である。
東京高裁は、「その仮差押債権の表示を合理的に解釈したとしても、第三債務者である各金融機関において格別の負担を伴わずに調査することによって当該債権を他の債権と誤認混同することなく認識することが著しく困難」であるとして、申立を却下した東京地裁の判断を是認したものである。
(判例時報1908号137頁)

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2005年12月20日
 ■ 遺言文言解釈事件

最高裁は、「遺言を解釈するに当たっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく、遺言者の真意を探究すべきであり、遺言書が複数の条項から成る場合に、そのうちの特定の条項を解釈するに当たっても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出し、その文言を形式的に解釈するだけでは十分でなく、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して、遺言書の真意を探究し、当該条項の趣旨を確定すべきである」として、最高裁昭和55年判決を引用しながら、審理不尽があったものとして、原審に差し戻したものである。
極めて妥当な判断である。
(判例時報1908号128頁)

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2005年12月16日
 ■ 物上代位後の配当加入事件

不動産について第1順位と第3順位の根抵当権を有する債権者が当該不動産の賃料について物上代位による債権差押えを行い、取立てを行った後、担保権実行による競売事件において、「賃料の取立は第3順位の根抵当権に基づいて行ったものである」との主張がなされた事件である。
大阪高裁は、「1人の債権者が複数の根抵当権による物上代位に基づく債権差押えを行い、その被差押債権について他に競合する債権差押えがないため、取立が行われた場合に、差押債権者が根抵当権の被担保債権枠の順位を法定の順位と異なるように変更するような事態は予定していない」「手続が煩瑣になるおそれがあることなどを考慮すれば、控訴人指摘の事情をもって、自己決定による配当(弁済)順位の変更を認めるべき根拠とはなしえない」と判示し、上記主張を認めなかったものである。
(金融法務事情1757号35頁)

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2005年12月14日
 ■ 迂回融資忠実義務違反事件

生命保険会社が取締役に対し、巨額の迂回融資を行ったことにつき善管注意義務違反、忠実義務違反に基づく損害賠償請求を行った事件である。
東京高裁は、「大蔵省から被控訴人のプライベート・カンバニーに対するに対する多額の融資を解消するよう度々指摘されていながら、控訴人と密接な関係にある太蔵実業に対しプライベート・カンパニーの破綻を回避するための救済資金を供給する必要から、上記のような事情の下で回収に懸念のある融資であることを認識しつつ、太蔵実業、ひいては、控訴人自身の利益を図るために、自己の被控訴人における地位を利用して、被控訴人の事業目的とは無関係にその資金を流用すべき、被控訴人をして本件融資一を実行させたものということができ、控訴人には取締役としての善管注意義務ないし忠実義務に違反する行為があった」等として損害賠償責任を認めたものである。
取締役の融資責任においては、通常、経営判断原則(Business Judgement rule)が問題となることが多いが、本件では、違法性が明らかであるとして、そのような裁量論には入らなかったようであり、認定事実を前提とする限り、妥当な判断と言えるであろう。
(判例時報1907号139頁)

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2005年12月13日
 ■ 連帯保証債務無効事件

信用金庫が自宅資産を有する71歳の老人に対し、連帯保証債務の履行を求めた事件であるが、東京高裁は、「融資の時点で当該融資を受けても短期間に倒産に至るような破綻状態にある債務者のために、物的担保を提供したり連帯保証債務を負担しようとする者は存在しないと考えるのが経験則であるところ、控訴人は、本件保証契約の締結の意思を確認された当時71歳の高齢で、子もなく2500万円の支払能力はなかったのであるから、もし控訴人が訴外会社の経営状態について上記のような破綻状態にあり現実に保証債務の履行をしなければならない可能性が高いことを知っていたならば、唯一の土地建物を担保提供してまで保証する意思はなかったものと認めるのが相当である。したがって、控訴人は、訴外会社の経営状態が上記のような破綻状態にあるものとは全く認識せずに本件保証契約の締結に応じたものというべきであり、本件保証契約にはその動機に錯誤があったことは明らかである」「保証契約の時点で主債務者がこのような意味での破綻状態にないことは、保証しようとする者の動機として、一般に、黙示的に表示されているものと解するのが相当である」と判示した。
妥当な判断であり、金融機関におけるこのような担保徴求は厳禁されるべきである。
(判例時報1907号42頁)

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2005年12月12日
 ■ 建築請負工事紛争事件

製鋼所工場の建築を請け負った原告建設会社が注文者である被告に対し、追加変更工事契約が成立したとして、請負代金残額を請求した事件である。
大阪地裁は、「このような重要な事項について合意が成立していたのであれば、原被告間の合意内容として、当然に打合せ記録に記載されているはずである。それにもかかわらず、三社打合せ記録には、被告の関与の下、そのような合意が成立したことを示し又は窺わせるような記載はなく、しかも、原告が事後の打合せ記録を訂正するよう申し入れたような形跡も窺われない」等として追加変更契約の成立について否定した。
それ以外に、被告の基本図面を作成して提出すべき契約上の義務の不履行や、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権による相殺などについても認定している。
(判例タイムズ1191号277頁)

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2005年12月09日
 ■ 図表及び説明文著作権侵害事件

ドレン滞留(ストール)チャートに関する図表及び説明文の著作物性が争われた事件である。
東京地裁は、「原告チャートを作成するに至った技術的知見ないしアイデア自体に独自性や新規性があるとしても,その技術的知見ないしアイデア自体は,著作権法により保護されるべきものということはできず,著作権法は,その技術的知見ないしアイデアに基づいて個性的な表現方法が可能である場合に,個性的に具体的に表現されたものについてこれを保護するものであり,原告チャートについては,その技術的知見ないしアイデアそのものがそのまま表現されているものといわざるを得ない」としてチャートの著作物性は否定したものの、「原告説明文は,原告チャートに示されるチャートの具体的作図方法を説明した文書であり,その説明に使用し得る用語や説明の順序,具体的記載内容については,多様な表現が可能なものであり,その説明文は,作成者の個性が表れた創作性のある文章であり,言語の著作物(著作権法10条1項1号)に該当するものと認めるのが相当である」とした。
(最高裁HP◆H17.11.17 東京地裁 平成16(ワ)19816 著作権 民事訴訟事件)

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2005年12月05日
 ■ 「事業再生から見た会社法の現代化(1)」 田中 亘助教授

「全部取得条項付種類株式」の創設など事業再生における株主の地位などを中心に平成17年6月に成立した新会社法の内容について解説している。
(NBL822号20頁)

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2005年12月02日
 ■ 取引履歴の開示義務最高裁判決

貸金業者による取引履歴の開示が行われず、債務処理が遅れたとして債務者が不法行為に基づく慰謝料金30万円の支払を求めた事案である。
最高裁(平成17年7月19日)は、「貸金業者は、債務者から取引履歴の開示を求められた場合には、その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り、貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として、信義則上、保存している業務帳簿(保存期間を経過して保存しているものも含む。)に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負うもの」と判示し、事件を原審に差し戻した。
(判例時報1906号3頁)

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