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2012年12月22日

2ちゃんねる覚醒剤広告放置事件

 2012年12月20日、インターネット掲示板「2ちゃんねる」に、覚醒剤の広告が投稿されていた事件で、2ちゃんねるの元管理人が麻薬特例法違反(あおり、唆し)ほう助の疑いで書類送検されたと報じられた。その容疑は、2ちゃんねる掲示板が覚醒剤販売に利用されていると知りながら、2011年5月、50代の無職の男が売買を持ちかけた投稿を削除しなかったこととされている。
 本件は、麻薬特例法第9条に基づくものと思われるが、その実行行為は、煽り(あおり)や教唆(唆した)という行為(作為)とされており、不作為により、そのような行為を行なったと法的に同視し得るのか、いわゆる不真正不作為犯の問題となる。
 本件事案が可罰的と考えうるかどうかは、事案の詳細を検討してみないとわからないが、処罰範囲が過度に広がる危険性があり、かなり慎重な対応が必要であると思われる。


<参照条文>

●麻薬及び向精神薬取締法(昭和28年3月17日法律第14号)

第29条の2(広告)
 麻薬に関する広告は、何人も、医事若しくは薬事又は自然科学に関する記事を掲載する医薬関係者等(医薬関係者又は自然科学に関する研究に従事する者をいう。以下この条において同じ。)向けの新聞又は雑誌により行う場合その他主として医薬関係者等を対象として行う場合のほか、行つてはならない。


●国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成3年10月5日法律第94号)

第9条(あおり又は唆し)
 薬物犯罪(前条及びこの条の罪を除く。)、第6条の罪若しくは第7条の罪を実行すること又は規制薬物を濫用することを、公然、あおり、又は唆した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

2012年01月04日

ウィニー最高裁判決の雑感

 平成23年12月19日、ファイル交換ソフトであるウィニーの開発、提供が著作権侵害の幇助犯となるかどうかが争われた事件において、最高裁はようやく結論を出した。

 原判決(大阪高裁)が「価値中立のソフトをインターネット上で提供することが,正犯の実行行為を容易ならしめたといえるためには,ソフトの提供者が不特定多数の者のうちには違法行為をする者が出る可能性・蓋然性があると認識し,認容しているだけでは足りず,それ以上に,ソフトを違法行為の用途のみに又はこれを主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めてソフトを提供する場合に幇助犯が成立すると解すべきである」という加重な要件を付加する限定解釈を示したのに対し、「幇助犯は,他人の犯罪を容易ならしめる行為を,それと認識,認容しつつ行い,実際に正犯行為が行われることによって成立する」とし、従来の判例や学説に忠実に、無理のある限定解釈をとらなかった点は妥当である。

 その上で、最高裁は、「ソフトの提供者において,当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識,認容しながら,その公開,提供を行い,実際に当該著作権侵害が行われた場合や,当該ソフトの性質,その客観的利用状況,提供方法などに照らし,同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で,提供者もそのことを認識,認容しながら同ソフトの公開,提供を行い,実際にそれを用いて著作権侵害(正犯行為)が行われたときに限り,当該ソフトの公開,提供行為がそれらの著作権侵害の幇助行為に当たると解するのが相当である」という規範定立を行っているが、この点も刑法理論上も無理がなく、是認できる。

 ただ、本件事案における事実認定において、4名の裁判官の多数意見は、「被告人による本件Winnyの公開,提供行為は,客観的に見て,例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高い状況の下での公開,提供行為であったことは否定できない」としているものの、「他方,この点に関する被告人の主観面をみると,被告人は,本件Winnyを公開,提供するに際し,本件Winnyを著作権侵害のために利用するであろう者がいることや,そのような者の人数が増えてきたことについては認識していたと認められるものの,いまだ,被告人において,Winnyを著作権侵害のために利用する者が例外的とはいえない範囲の者にまで広がっており,本件Winnyを公開,提供した場合に,例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高いことを認識,認容していたとまで認めるに足りる証拠はない」とし、「いまだ,被告人において,本件Winnyを公開,提供した場合に,例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高いことを認識,認容していたとまで認めることは困難である」とし、いわば客観的状況が存在していたにもかかわらず、専門の研究者である被告人が主観面において認識していなかったとする、少し無理をした事実認定を行っているように思える。

 この点、大谷剛彦裁判官(裁判官出身、ジャーナリスト大谷昭宏氏の弟)は、「被告人に侵害的利用の高度の蓋然性についての認識と認容も認められると判断する」とし、「通常は,このような侵害的利用の高度の蓋然性に関する客観的な状況についての認識を持ちながら,なお提供行為を継続すれば,侵害的利用の高度の蓋然性についての認容もまた認めるべきと思われる」との明快な反対意見を付している。「提供行為の法益侵害の危険性を認識しているからこそ,このような利用が自らの開発の目的や意図ではなく,本意ではないとして警告のメッセージとして発したものと考えられる。被告人は,このようなメッセージを発しながらも,侵害的利用の抑制への手立てを講ずることなく提供行為を継続していたのであって,侵害的利用の高度の蓋然性を認識,認容していたと認めざるを得ない」という事実認定は、素直で自然なように思われる。
 そして、最後に、「被告人の開発,提供していたWinnyはインターネット上の情報の流通にとって技術的有用性を持ち,被告人がその有用性の追求を開発,提供の主目的としていたことも認められ,このような情報流通の分野での技術的有用性の促進,発展にとって,その効用の副作用ともいうべき他の法益侵害の危険性に対し直ちに刑罰をもって臨むことは,更なる技術の開発を過度に抑制し,技術の発展を阻害することになりかねず,ひいては他の分野におけるテクノロジーの開発への萎縮効果も生みかねないのであって,このような観点,配慮からは,正犯の法益侵害行為の手段にすぎない技術の提供行為に対し,幇助犯として刑罰を科すことは,慎重でありまた謙抑的であるべきと考えられる。多数意見の不可罰の結論の背景には,このような配慮もあると思われる」というのはまさに本件の正鵠を射ており、スジ論(理論的整合性)よりも、スワリを重視したのが多数意見であったと理解できる。

 ただ、大谷裁判官が判示する通り、「一方で,一定の分野での技術の開発,提供が,その効用を追求する余り,効用の副作用として他の法益の侵害が問題となれば,社会に広く無限定に技術を提供する以上,この面への相応の配慮をしつつ開発を進めることも,社会的な責任を持つ開発者の姿勢として望まれるところ」というのは傾聴に値する部分であり、社会に生きる研究者としての正しい見識を示しているように思える。

 今回の判決は、いわば「救済判決」のようなものであり、ウィニー事件において研究者が無罪となったという単純化された結論だけが勝手に一人歩きしてしまうのは極めて危険であると思う。ソフトウェア開発のみならず、原子力開発、遺伝子操作、再生医療等あらゆる科学分野において、科学の独善や暴走は阻止しなければならないものであり、研究者の正しい見識と節度、そして国民の厳しい監視の目が今後より必要になってくると思える。

2011年06月01日

ウィルスの作成、保管に関する刑法改正

 本年5月31日、衆議院本会議にて、コンピュータウィルスの作成や保管に関する刑事罰を新設する刑法等改正案が可決されました。

第168条の2(不正指令電磁的記録作成等)
 人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
 一 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
 二 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録
 2 前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。
 3 前項の罪の未遂は、罰する。

第168条の3(不正指令電磁的記録取得等)
 前条第一項の目的で、同項各号に掲げる電磁的記録その他の記録を取得し、又は保管した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
 第175条中「図画」の下に「、電磁的記録に係る記録媒体」を加え、「、販売し」を削り、「又は250万円以下の罰金若しくは科料に処する」を「若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する」に改め、同条後段を次のように改める。
 電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
 第175五条に次の一項を加える。
 2 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。
 第234条の2に次の一項を加える。
 2 前項の罪の未遂は、罰する。

http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g15905046.htm


 現代社会におけるサイバー攻撃の脅威やウィルスによる法益侵害の広汎性、甚大性に鑑みると、その立法趣旨には全く異論がありませんが、不正アクセス禁止法のような特別法ではなく、第19章印章偽造の罪の無理矢理入れたことや、「不正な指令を与える電磁的記録」の含意する範囲が必ずしも明確ではなく、研究開発に対する萎縮的効果や不当な処罰範囲の拡大を招くおそれがあるのではないかという危惧も存します。

2011年02月05日

テレビ番組のインターネット送信

 テレビ番組のインターネットを通じた海外送信につき、複製ないし公衆送信権侵害となり得る余地があるとして、高裁判決が破棄された最高裁判決2件が出されました。ユーザーの利便性、技術の進歩、著作権者の保護など多面的な考慮が必要な事案ですが、放送・通信分野において新たな発想による進歩的で、国民的な議論や新しい技術による制度設計ができないものかと常々考えているテーマです。


・「まねきTV」事件
 平成23年01月18日最高裁判所第三小法廷判決

 自動公衆送信は,公衆送信の一態様であり(同項9号の4),公衆送信は,送信の主体からみて公衆によって直接受信されることを目的とする送信をいう(同項7号の2)ところ,著作権法が送信可能化を規制の対象となる行為として規定した趣旨,目的は,公衆送信のうち,公衆からの求めに応じ自動的に行う送信(後に自動公衆送信として定義規定が置かれたもの)が既に規制の対象とされていた状況の下で,現に自動公衆送信が行われるに至る前の準備段階の行為を規制することにある。このことからすれば,公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は,これがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しない場合であっても,当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは,自動公衆送信装置に当たるというべきである。
 そして,自動公衆送信が,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置の使用を前提としていることに鑑みると,その主体は,当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当であり,当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており,これに継続的に情報が入力されている場合には,当該装置に情報を入力する者が送信の主体であると解するのが相当である。
 以上によれば,ベースステーションがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しないことのみをもって自動公衆送信装置の該当性を否定し,被上告人による送信可能化権の侵害又は公衆送信権の侵害を認めなかった原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,論旨は理由がある。

・「ロクラク供彁件
 平成23年01月20日最高裁判所第一小法廷判決

 放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて,サービスを提供する者(以下「サービス提供者」という。)が,その管理,支配下において,テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下「複製機器」という。)に入力していて,当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には,その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても,サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。すなわち,複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であるところ,上記の場合,サービス提供者は,単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず,その管理,支配下において,放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという,複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており,複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ,当該サービスの利用者が録画の指示をしても,放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり,サービス提供者を複製の主体というに十分であるからである。
 以上によれば,本件サービスにおける親機ロクラクの管理状況等を認定することなく,親機ロクラクが被上告人の管理,支配する場所に設置されていたとしても本件番組等の複製をしているのは被上告人とはいえないとして上告人らの請求を棄却した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

2010年08月11日

経由プロバイダーの氏名等開示義務

最終的に不特定の者に受信されることを目的として特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録するためにする発信者とコンテンツプロバイダーとの間の通信を媒介する経由プロバイダーは、法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に該当すると解するのが相当である。

最高裁平成22年4月8日(判例時報2079号42頁)

2007年05月07日

Eディスカバリー(Federal Rules of Civil Procedure)

「米国訴訟におけるディスカバリー手続と日本企業に求められる対応 ーEディスカバリーに関する改正法を踏まえて」 弁護士眞鍋佳奈

2006年12月1日、Eディスカバリーに対応した米国連邦民事訴訟法規則(Federal Rules of Civil Procesure)の改正法が施行され、電子的に保存された情報について、「electronically stored information」を追加してディスカバリーの対象となることを明確にしたというものである。
論者は、会社法により要請されている法定書類の備置や個人情報保護法による個人情報の適正な管理など、法令順守の態勢を備えることは最低限の要請であるが、米国での訴訟に巻き込まれる可能性のある企業は、訴訟が合理的に予期された段階で適切な訴訟ホールドが可能性を取っておくことも不可欠であり、また、電子情報を含めた全社的な文書・データ管理規定の整備とその実施が必要であるとしている。

(NBL856号22頁)