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2010年07月05日

企業における信用毀損と風評被害

機/用毀損における損害賠償論
1 損害賠償とは
 損害賠償とは、他人に与えた損害を填補することである。損害賠償の目的は、アリストテレスの挙げる正義の基本理念のひとつである矯正的正義(平均的正義)であり、被った損害に等しい賠償を与えるという原理である。損害賠償の内容をどのように定めるかは、何らかの理論に従って論理的に導かれる問題というより、すぐれて政策的な問題であり、同時に、国民感情や法意識によって左右される問題でもある(内田貴「民法供〆銚各論」東京大学出版会)。
2 理論的枠組み
 従来、民法においては、損害とは、不法行為がなかったとした場合における被害者の財産的・精神的状態と、不法行為により現実にもたらされた財産的・精神的利益状態の差であると言われている(いわゆる「差額説」、「填補賠償説」)。
他方、制裁的慰謝料論(戒能通孝)という考え方もある。
  「差額説」    vs   制裁的賠償説
 もっとも、「填補賠償説・制裁的賠償説の双方に共通するものであるが、理論が理論(理論的美学)のみに関心を示し、その理論が損害賠償額の算定と必ずしも結びついていないきらいがある」(田井義信「制裁的賠償説」有信堂p.159)
3 信用毀損等の無形の損害
 無形の損害(風評被害も含む)としてどのようなものがあるか、また、その額の認定をどのようにして行うか。さらに、相当因果関係の認定はどのようにして行うか。

供.謄譽喨送による信用毀損、風評被害
 1 フジテレビ不動産業者事件(東京地裁平成6年11月11日、判時1531号68頁)
 (a) テレビにおける判断基準
「テレビ放送は、ブラウン管を通して流される影像及びこれと連動したスピーカーからの音声を情報伝達の手段とするものであって、新聞、雑誌などの活字のメディアと異なり、その情報の受け手である視聴者は、通常その内容を保存しこれを繰り返し見て吟味するということをせず、流された情報を瞬時にとらえてその内容を判断するものであるから、このテレビ放送の内容に上がった何人かの名誉が毀損されたものといえるかどうかは、一般視聴者がその放送を一見して通常受けるであろう印象によって判断すべきである。」
「被告らマスメディアにある者か何らかの表現活動を行う際には、特定人の名誉及び信用を毀損することのないよう注意を払う義務があることはいうまでもない。特に、テレビ放送においては、その伝播性、信用性において社会に対し多大な影響力を持つものであるから、これに従事する者も、テレビ番組の制作、編集に当たり、一度の表現活動を行う場合と比べより一層高度の注意義務を負担すべきである。」
 (b) 風評被害の有無
「原告は、本件番組を見て不安を抱いた原告の取引先及び金融機関等から、経営状況等についての問い合わせを相次いで受けるに至ったことが認められ、原告が本件番組放送前には相当の社会的評価を得ていたことが明らかである。したがって、このような会社に対し、前記のような印象を一時視聴者に抱かせるという本件放映部分の放送は、原告の信用を毀損するものであると認めるべきである。」
 「本件放映部分が放送されたことにより、前記のとおり原告の信用が毀損されたことが認定できるから、原告が無形の損害を被ったものというべきである。右無形損害の賠償については、前記のとおり本件放映部分が本件取材の主旨とは異なった印象を一般視聴者に与えるものであり、これが原告のような不動産業者にとっては致命的な情報の放送ともなり得ることに加えて、前記テレビ放送の特質、本件番組放映の時間帯、原告のマンション販売対象区域である関東地域における本件番組の高視聴率、原告の営業目的及びその形態、本件放映部分による原告の信用毀損の態様及び程度等本件において認められる一切の事情を併せ考慮すると、その賠償としては金三〇〇万円が相当であると認める。」
 (c) 追加広告費用について
 「原告は、本件番組の放送によりハイタウン吉川の販売に悪影響が出ることを恐れて余分な追加広告を行ったと主張するが、≪証拠略≫によれば、右追加広告を行うことを決定したのは原告代表者山田の経験に基づく勘によってであること、追加広告を決定した時点でもハイタウン吉川が全く売れなかった訳ではないことが認められる。さらに、≪証拠略≫によると、当時の不動産の市況にかんがみると、本件番組の放送がなければ、確実に販売が可能であったとも認めることはできず、むしろハイタウン吉川などのマンションの販売は非常に困難な状態であったと考えられ、そうであるにもかかわらず本件番組の放送後約六か月経過後にはハイタウン吉川の全三三戸が完売されたことが認められる。したがって、原告が前記追加広告を行わなければ、ハイタウン吉川が売れなかったと認めることはできない。そうすると、原告の支出した追加広告費用については、本件全証拠をもっても、原告が主張する右損害と被告らの共同不法行為との間に相当因果関係を認めることができない。」

2 テレ朝ダイオキシン報道事件
 1) 第1審(さいたま地裁平成13年5月15日) 請求棄却
 2) 控訴審(東京高裁平成14年2月14日) 控訴棄却
 「事実が主要な部分において真実であり、また、上記のような要旨7の青山の論評の前提となる事実のうち主要な部分が真実であり、論評部分についても穏当な表現が用いられ、意見ないし論評としての域をさほどに逸脱したものでないことは、原判決が正当に判示するとおりである。」
 「控訴人らが主張するような『所沢産ほうれん草を少しでも食べると一pgTEQ/kg/日に達してしまう』との事実は、本件放送においては摘示されているとは認められず、これはあくまで本件放送により一般視聴者が受ける可能性のある印象を控訴人らが指摘したにすぎないというべきであり、前記のとおりこのような印象についてまで真実であることの立証をさせるのは相当でないから、これ自体は真実性を立証する必要のある事項には含まれないというべきである。」
 「また、青山は、所沢産ほうれん草を摂食することによる健康被害の可能性を指摘する意見を述べているにすぎないのであり、所沢産のほうれん草を食べたら実際の被害を受けると断言しているのではないから、そのような論評があったとの控訴人らの主張は、採用の限りでない。」
 3) 最高裁(最高裁平成15年10月16日)
 原判決破棄、差し戻し (なお、後日、差戻し控訴審にて和解)
「新聞記事等の報道の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては,一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであり(新聞報道に関する最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照),テレビジョン放送をされた報道番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについても,同様に,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきである。
 そして,テレビジョン放送をされた報道番組によって摘示された事実がどのようなものであるかという点についても,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断するのが相当である。テレビジョン放送をされる報道番組においては,新聞記事等の場合とは異なり,視聴者は,音声及び映像により次々と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なくされるのであり,録画等の特別の方法を講じない限り,提供された情報の意味内容を十分に検討したり,再確認したりすることができないものであることからすると,当該報道番組により摘示された事実がどのようなものであるかという点については,当該報道番組の全体的な構成,これに登場した者の発言の内容や,画面に表示されたフリップやテロップ等の文字情報の内容を重視すべきことはもとより,映像の内容,効果音,ナレーション等の映像及び音声に係る情報の内容並びに放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して,判断すべきである。」
 「本件放送が引用をしていないH教授らが行った前記調査の結果は,「所沢産」のラベルが付けられた白菜(1検体)から1g当たり3.4pgTEQのダイオキシン類(コプラナーPCBを除く。)が検出され,所沢市内で採取されたほうれん草(1検体)から1g当たり0.859pgTEQのダイオキシン類が検出されたというものである。前記の本件摘示事実の重要な部分は,ほうれん草を中心とする所沢産の葉物野菜が全般的にダイオキシン類による高濃度の汚染状態にあり,その測定値が1g当たり「0.64〜3.80pgTEQ」もの高い水準にあることであり,一般の視聴者は,放送された葉物野菜のダイオキシン類汚染濃度の測定値,とりわけその最高値から強い印象を受け得ることにかんがみると,その採取の具体的な場所も不明確な,しかもわずか1検体の白菜の測定結果が本件摘示事実のダイオキシン類汚染濃度の最高値に比較的近似しているとの上記調査結果をもって,本件摘示事実の重要な部分について,それが真実であることの証明があるということはできないものというべきである。」

掘ヾ覿箸凌用維持と表現の自由
1 千代田生命内部告発事件(東京地裁平成11年2月15日、判時1675号107頁)
 (a) 事案の概要
 生命保険会社の元常務取締役が会社の機密に属する情報を週刊誌記者に提供した結果、会社の名誉を毀損する記事が掲載された場合において、情報提供と記事掲載との間に相当因果関係があるとして、元取締役に約2億5000万円の損害賠償が認められた事例。
 (b) 責任根拠
 「甲野は、もと千代田生命の常務取締役であり、在任中であれは、職務上知り得た会社の内部情報について、取締役の忠実義務の一内容として守秘義務を負うことは当然である。そうだとすれば、甲野は、役員退任後も、信義則上、在任中に知り得た会社の内部情報について守秘義務を負うと言うベきであり、このように解さなければ、当事者の信頼関係を基調とする委任契約の趣旨は全うされないことになろう。
 甲野は、表現の自由及び千代田生命の公共性を理由に、本件情報漏洩には違法性がないと主張するが、本件は、退任した取締役が在任中に職務上知り得た会社の内部情報について守秘義務を負うかどうかの問題であるから、守秘義務違反と認められる以上、本件情報漏洩は違法と言わざるを得ない。」
 (c) 損害額の認定
「(1) 日本電装株式会社関係
 千代田生命は、昭和六四年一月一日、日本電装との間で、企業年金保険契約を単独(シェア一〇〇パーセント)で締結した。しかるに、平成四年九月中旬、同社常務取締役岩出力から千代田生命名古屋本部長前野昌彦に対し、甲一及び甲二の記事の掲載を理由としてシェアダウンの申入れがあり、同年一〇月二二日付け通告により平成五年一月一日から一〇〇パーセントから五五パーセントとなり、さらにその後の交渉途上で甲五の記事が掲載されたことから、同年一二月六日付け通告により平成六年一月一日から五五パーセントから五〇パーセントにダウンした。右二度にわたるシェアダウンにより、千代田生命は、平成五年一月分から平成六年七月分まで合計二億三〇五二万〇〇九五円の付加保険料の減少による損害を被った。
(2) 日本ロシュ株式会社(以下「日本ロシュ」という。)関係
 千代田生命は、昭和六三年九月一日、日本ロシュとの間で、企業年金保険契約を単独(シェア一〇〇パーセント)で締結した。しかるに、平成五年七月、同社常務取締役内藤冽から千代田生命に対し、本件各記事の掲載を理由としてシェアダウンの申入れがあり、同年七月二九曰付け通告により同年九月一日から一〇〇パーセントから二〇パーセントにダウンした。右シェアダウンにより、千代田生命は、平成五年九月分から平成六年一〇月分まで合計一五二二万〇一六九円の付加保険料減少による損害を被った。」
(d) 損害との因果関係
 「本件各記事が千代田生命の醜聞を取り挙げたものであり、その内容が千代田生命の名誉信用を毀損することは明らかである。そして、本件情報漏洩が本件各記事の執筆につながり、これが千代田生命の名誉信用の毀損という結果を招来したことは否定すべくもないから、本件情報漏洩と本件各記事による千代田生命の名誉信用の毀損との間に因果の連鎖があることは疑いがない。」
 「問題は、両者間にメディアの独自の判断(編集権)が介在することにより因果関係が否定されるかであるが、情報提供者が提供した情報内容に従った記事が掲載される蓋然性が高く、かつ、情報提供者自身がこのことを予測し容認していた場合には、情報提供行為と記事による名誉毀損との間の相当因果関係は存在すると言うべきである。」
 「確かに、《証拠略》によれば、平成3年11月から平成5年1月にかけて、本件各記事以外にも千代田生命に関する醜聞記事が雑誌や週刊誌に掲載されたことが認められるが、甲一、二の記事は、千代田生命のいわゆる内部情報や資料を中心に組み立てられているという特色があり、そのために、他の記事と比較して読者に対するインパクトは大きいと推測されるから、本件各記事がこれら他の記事と相まって企業年金保険契約のシェアダウンにつながったことを否定することができない以上、これら他の記事の存在は、両者間の因果関係を肯定するについて妨げとなるものではない。」

2 情報提供者の法的保護(公益通報者保護法)
1) 目的
 公益通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資すること
2) 公益通報の対象
 以下の事実が生じ又はまさに生じようとしている場合
個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律として別表に掲げるもの(これらの法律に基づく命令を含む。)に規定する罪の犯罪行為の事実
別表に掲げる法律の規定に基づく処分に違反することが,了実となる場合における当該処分の理由とされている事実等
(別表)
刑法、食品衛生法、証券取引法、JAS法、大気汚染防止法、廃棄物処理法、個人情報保護法、その他政令で定めた406本の法律
3) 公益通報者の保護
労働者(公務員を含む。)を以下のように保護
公益通報をしたことを理由とする解雇の無効
労働者派遣契約の解除の無効
その他の不利益な取扱い(降格、減給、派遣労働者の交代を求めること等)の禁止
4) 通報先と保護要件
通報先に応じて保護要件を設定
事業者内部:1)不正の目的でないこと
行政機関:1)のほか、2)真実相当性を有すること
事業者外部:1)及び2)のほか、3)一定の要件(内部通報では証拠隠滅のおそれがあること、書面による内部通報後20日以内に調査を行う旨の通知がないこと、人の生命・身体への危害が発生する急迫した危険があることなど)を満たすこと
5) 通報者・事業者及び行政機関の義務
公益通報者が他人の正当な利益等を害さないようにする努力義務
書面による公益通報に対して事業者がとった是正措置等について公益通報者に通知する努力義務
公益通報に対して行政機関が必要な調査及び適切な措置をとる義務
誤って公益通報をされた行政機関が処分権限等を有する行政機関を教示する義務
6) その他
本法は、労働基準法第18条の2(解雇権濫用の法理)の適用を妨げない
平成18年4月1日から施行し、施行後になされた公益通報について適用

2010年06月28日

メディアを通じた企業情報提供

機ヾ覿半霾鵑鮟笋詭簑
1) 企業情報の提供サービス
・新規開拓、販路拡大、新規取引可否判断、与信管理、取引継続可否検討、取引条件設定・見直し、資金調達等のために、正確な企業情報の取得が不可欠。
2) インターネット・メディアにおける規制
2009年3月10日、米国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission)は、「Operation Spamalot」(Spamalot作戦)と呼ぶ株価操作スパム撲滅プロジェクトの一環として、株価操作を目的としたスパム・メールの対象となった35社の株取引停止に踏み切った。
一般に、インターネット・メディア上での情報操作で利用される手口としては、
(1)スパム・メールによる虚偽情報の流布、(2)ファイナンス系の掲示板へのインサイダー情報の書き込み、(3)Webページやブログでの虚偽情報の流布などがある。
ネット上には多くの情報があふれており、個人投資家が情報の真偽を判断するのは難しく、株取引のオンライン化によって無防備な個人投資家が増加したこと等の背景事情がある。
供.ぅ鵐拭璽優奪函Ε瓮妊ア等による情報開示(disclosure)
1 基本情報の開示
1) 法人組織(商法8条以下、商業登記法)
  商号、本店所在地、役員名、機関構成  → 商業登記簿謄本(全部事項証明書)
2) 計算書類(会社法431条以下)
帳簿の閲覧・謄写、広告等  → 書類の備え置き、新聞広告等
「財務諸表」(連結財務諸表、中間財務諸表)とは
 貸借対照表(B/S)、損益計算書(PL)、キャッシュ・フロー計算書
 利益処分計算書・損益処理計算書、附属明細表
◎資金調達し→資産への投資を行い→売上げが立ち(利益が生まれ)→再投資
 → 期間通算としてのフローとストックの状況を把握する。
◎粉飾のパターン 〇饂魂畭膕宗↓負債過少化、収益過大化、し佝餡畩化
→ 総売上利益率(粗利率)の変化、営業外収益の増加など各業界における平均的数値との比較や過去何期分かとの比較分析を行う。
2 金融商品取引法における情報開示
 1) 情報開示制度の概要
・対象 ・・・有価証券の投資者となりうるあらゆる個人・法人
 財務諸表・連結財務諸表 → 公衆の縦覧(財務局、証券取引所、証券業協会)
・発行市場における開示
  発行会社 →   金融当局    有価証券通知書
           投資家全体   有価証券届出書(間接開示)
           被勧誘者    目論見書(直接開示)
・流通市場における開示
 イ) 定期的開示書類
有価証券報告書、半期報告書、自己株券買付状況報告書(金庫株)
 ロ) 有価証券報告書の提出義務者
   上場会社、店頭登録会社、株主数500名以上の会社等
 ハ) 有価証券報告書の提出時期
   各事業年度経過後3ヶ月以内
 ニ) 有価証券報告書の内容
  「企業情報」として、企業の概況、事業の状況、設備の状況、提出会社の状況、経理の状況、株式事務の概要、提出会社の参考情報
   + 公認会計士または監査法人の監査証明
 2) 趣旨  
 金融商品取引法とは、証券取引法などを抜本的に改正し成立したもので、様々な金融商品について、開示制度、取扱業者に係る規制を定めることなどにより、国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目指した法律。
いわゆる「貯蓄から投資へ」の環境作りを行う法律。
 3) 開示制度(ディスクロージャー)
 イ) 四半期開示の法定化
ロ) 財務報告に係る内部統制の強化
   ※ 適正開示に関する経営者の確認 等
ハ) 公開買付(TOB)制度の見直し
ニ) 大量保有報告制度の見直し
    ※ 特例報告期限  3ヶ月毎15日以内 → 2週間毎5営業日以内
 4) 内部統制ルールの確立
金融商品取引法が成立したことにより、すべての上場企業は、2009年3月からの決算以降、「内部統制報告書」を提出する義務を負うことになった。

3 EDINET(エディネット)
 1) 内容
 Electronic Disclosure for Investors' NETwork(金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)とは、開示書類等に記載すべき情報をインターネットにより財務省の財務局等に提出し、提出された開示情報をインターネット等を利用して広く一般に提供するシステムであり、金融庁より行政サービスの一般として提供されている。
 2) 意義
従来、紙媒体で提出されていた有価証券報告書や有価証券届出書、公開買付届出書等の開示書類の提出、公衆縦覧等の一連の手続が電子化されることで、…鷭于饉劼了務負担が軽減されるとともに、投資家が企業情報へ公平かつ迅速にアクセスすることが可能となり、証券市場の効率性が高まる。
 3) 経緯
 平成16年6月1日からは有価証券報告書や有価証券届出書をEDINETにより提出することが原則として義務化され、平成20年3月17日より、XBRL(財務情報を効率的に作成・流通・利用できるよう、国際的に標準化されたコンピュータ言語)を用いた新システムに移行。
http://www.fsa.go.jp/search/20080304-1.html

4 金融商品取引法におけるインサイダー取引規制
 1) インサイダー取引とは
 会社の取締役、従業員、その他会社の重要な情報(内部者情報)にアクセスしうる者(内部者)が、その情報の公表前に行う、当該会社の株券その他の証券等(特定株券等&関連株券等)の売買等を行う取引
 2) 12時間ルール
 ―斗彁実を公開する権限を有する者(代表取締役や広報担当者等)が、国内において時事に関する日刊総合誌を販売する新聞社、その新聞社に情報を配信する通信社、国内において産業・経済に関する日刊総合紙を販売する新聞社、NHK、一般放送事業者のうち、2社以上に対して重要事実を公表して、12時間が経過したとき、インサイダー取引規制の対象とはならない。
 3) 証券取引法施行令及び取引規制府令の改正(平成16年2月1日より施行)
上場会社等が、その発行する有価証券を上場する証券取引所(店頭登録会社の場合は、証券業協会)の規則で定めるところにより、当該証券取引所に重要事実を通知し、これが当該証券取引所において公衆の縦覧(HPへの掲載)に供されたときに、重要事実が公表されたことになる。
  Cf.東京証券取引所「適時開示情報閲覧サービス」
http://www.tse.or.jp/listing/disclosure/index.html

掘.泪后Ε瓮妊アを通じた情報提供
 1 風説の流布の禁止
・東天紅株証券取引法違反事件(東京地裁平成14年11月8日、判時1828号142頁)
「公開買付けを行う場合には,日刊新聞紙に,当該公開買付けの目的,買付けの価格,買付予定の株数,買付けの期間等を記載した公開買付開始公告を掲載するとともに,その日に,買付けの価格,買付予定の株数,買付けの期間等を記載した公開買付届出書を大蔵大臣(当時)に提出し,大蔵省,公開買付対象会社,証券取引所等で公衆の閲覧に供されることとなっている(同法27条の3参照)。また,公開買付けを行う場合の株券等の保管や買付代金支払等の事務を行うことができる者も証券会社又は銀行等の金融機関に限定されており(同法27条の2第4項参照),そのため,公開買付けを行おうとする者は,必ず特定の証券会社や銀行との間で業務委託契約を締結して受託金融機関を指定しなければならず,さらに,金融機関への委託が強制されている上記の事務以外にも,公開買付けに当たっては金融や証券に関する高度の知識と経験を要する作業が必要となるため,その準備作業全般にわたって金融機関の助力を受けなければ,公開買付けを行うことができないのが実情であるとされる。そして,当然のことながら,金融機関においては,顧客から公開買付けに関する案件の依頼があった場合,その計画の内容,資金手当の確実さ,顧客の信用力等を慎重に検討し,法的ないし経済的リスク等を種々勘案した上で,業務委託契約を締結するか否かを判断し決定するものであって,依頼があれば直ちにこれを受諾するというものでないことはいうまでもない。しかも,証券会社等が顧客からの依頼に応じて公開買付けの受託金融機関になった場合でも,その後の準備作業として,弁護士や公認会計士の選任,公開買付けに必要な各種書類の作成,対象会社の分析による公開買付価格の決定等の多くの作業が必要であり,そのような準備作業を経た上で,最も有効かつ適切な時機を見計らって記者発表を行うとともに,上記の公告や公開買付届出書の提出といった正式な公開買付けの手続に入ることになるのである。」
「被告人,G,F及びHは,実際には甲株の公開買付けを行う意思など全くなかったのに,公開買付けを行う旨の記者発表をしてこれを公にすることにより,甲株の株価を騰貴させて(このような情報が公表された場合,事柄の性質上,証券市場が直ちにこれに反応して,甲株の株価が騰貴するということは見やすい道理であり,本件に際しても,直ちにこれが報道された結果,その翌日には,実際に甲株の株価が騰貴しているのは,上記2の(3)で認定したとおりである。),それにより,差し当たり,信用取引により株取引を行うに当たり委託保証金の代用有価証券として証券会社に差し入れていた甲株の担保価値を増加させることにより,信用取引枠を拡大させて更に株取引を行い得る状況を作出し,さらには,時機をみて,甲株を買値より高値で売り抜けることによって利益を得ることなどを目論んで,すなわち,被告人らが,甲株の相場の変動を図る目的をもって,意思を相通じて共謀の上,互いに協力して,甲株の公開買付けを行うという架空の計画を標榜し,その旨の記者発表をするなどという虚偽の内容の本件文書を,東京証券取引所内の記者クラブの幹事社にあててファクシミリ送信することにより,これを不特定多数の者に伝達され得る状態に置いたものと認めることができる。したがって,このような被告人らの行為が,証券取引法158条にいう風説の流布に該当することは明らかである。」
(量刑の理由)「本件一連の犯行は,被告人らが,株取引を行うに当たり,投資者の保護等のための必要な情報を開示しなかったり,逆に,株の大量保有者や公開買付けに関する虚偽の情報を所轄官署に報告し,あるいは,報道機関に伝えて発表し,健全な株式市場を確立して株取引の公正を確保しようという証券取引法の目的を著しく阻害したものである。とりわけ,判示第2及び第3の各犯行については,被告人らの発表した虚偽の情報により,甲株の株価が,いったんいわゆるストップ高になるほどに騰貴した後,まもなく一転して急落し,売り気配のまま取引ができない状態まで生じたことがうかがわれるなど,株式市場が大きく混乱したものであって,その結果,多くの投資者を惑わせたことは推察に難くなく,ひいては証券市場に対する信頼を揺るがせたばかりか,甲の企業イメージをも大きく損なわせた点でも,犯情は悪質である。」
 2 マスコミ公表と信用毀損
1) パチスロ機誹謗中傷事件
 パチスロ機業界のアルゼ社によるマスコミ向け記者会見における発言が、不正競争防止法2条1項13号(現14号)所定の不正競争行為「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」に該当するかが争われた事件。
2) 第1審判決(東京地裁平成13年8月28日、判時1775号143頁)
 「本件記者会見は,被告会社が提起した別件対サミー訴訟について,訴訟提起に至る経緯,訴訟における請求の内容等の事情を説明する目的で,平成11年11月15日,遊技機業界関連のマスコミ関係者を,被告会社本社事務所に集めて開かれたものである。特許権等の保有者が自己の権利を侵害されているとの考えの下に,当該侵害者を相手方として訴訟を提起することは,当該訴訟が不当訴訟と評価されるような特段の事情のない限り,当該特許権等の行使として許される行為であり,当該訴訟提起の事実をマスコミ等の第三者に告げる行為も,権利行使に当然に伴う行動として許容されるものであって,それが直ちに不正競争行為に該当するものではない。しかしながら,第三者に対する告知が,当該相手方に対して訴訟を提起した事実や当該訴訟における自己の請求の内容や事実的主張,法律的主張の内容を説明するという限度を超えて,当該相手方を根拠なく誹謗中傷する内容にわたる場合には,当該誹謗中傷部分が不正競争行為に該当することがあるものというべきである。」
 「原告が製造業者から特許権等の再実施許諾の対価を徴収していること自体を「詐欺的行為」と断定するなど,別件対サミー訴訟における被告会社の見解を説明する範囲を超えるものである。」
 「被告らは,甲野発言は,公共の利害に関し専ら公益を図る目的で事実を摘示したものであるから,公正な論評として保護されるものであり,仮に真実でなかったとしても,被告甲野において発言内容を真実と誤信するにつき相当の理由があるから,故意過失を欠くものとして不法行為責任を阻却されると主張する。」
「被告甲野は,遊技機業界関連のマスコミ関係者を集めた本件記者会見において〔2〕〔3〕の発言部分を述べたものであり,その場で発言を聞いたマスコミ関係者を通じて発言内容が報道されることを想定して当該発言をしたものであるから,これが虚偽の事実を「告知し,又は流布する行為」に該当することは明らかである。」
  3) 控訴審判決(東京高裁平成14年6月26日、判時1792号115頁)
「A発言の受け手は、本件記者会見に出席した遊技機業界関連のマスコミ関係者であり、本件記者会見が、別件対サミー訴訟を提起するに至った控訴人会社側の言い分を説明するための場として持たれることを前提に、その取材という明確な目的をもって参集した者である。そして、乙10(本件記者会見の録音テープの反訳書面)に示された質問者の質問内容等に照らせば、パチンコ機製造業者におけるパテントプール方式に対して公正取引委員会の排除勧告等が行われたこと、その波及として、控訴人会社が本件パテントプール方式からの離脱を主張するようになったこと、別件対サミー訴訟の提起が、控訴人会社の本件パテントプール方式からの離脱に伴うものであることといった、上記1認定の事実の基本的な流れは、出席者らの予備知識として有していたものと推認される。また、本件雑誌は、被控訴人自身が「業界誌」であると主張するものであり、この点について控訴人らの特段の反論もないことから、その主な読者は、パチスロ機の製造販売業者等の関係者であると認めるのが相当である。そして、このような本件雑誌の読者にとって、控訴人会社による別件対サミー訴訟の提起が重大な関心事として受け止められていたことは前示のとおりであり、その背景事情を含め、予備知識として有していたものと推認される。」
  「したがって、本件においては、上記のような受け手の普通の注意と聞き方ないし読み方を基準として、陳述ないし掲載された事実について、真実と反するような誤解をするかどうかによって決する必要がある。」
「A発言〔2〕〜〔4〕中には、被控訴人を「異常な会社」、その活動を「詐欺的行為」ないし「非常に怖いこと」であると表現する意見ないし論評にわたる部分はあるものの、A発言全体の中でとらえた場合、別件対サミー訴訟に関する控訴人会社の主張、すなわち、本件実施契約の解消に伴い被控訴人は本件実施契約に係る特許権等の再実施許諾をする権限を喪失したとの主張を、やや俗な言葉で説明したものと理解することは、少なくとも、上記1の認定事実のおおまかな流れを予備知識として有する者にとって、さほどの注意を払うことなく容易にし得るものと解される。そして、上記A発言の直接の聞き手が一般大衆であれば格別、本件においては、本件記者会見が別件対サミー訴訟を提起するに至った控訴人会社側の言い分を説明するために開催されていることを当然の前提として、しかも当該問題について一定の前提知識を有し、取材という明確な目的を持ってこれに出席した遊技機業界関連のマスコミ関係者であったことを考えると、そのような出席者の普通の注意と聞き方を基準として判断した場合、A発言〔2〕〜〔4〕は、別件対サミー訴訟に関する控訴人会社の主張、すなわち、本件実施契約の解消に伴い被控訴人は本件実施契約に係る特許権等の再実施許諾をする権限を喪失したとの主張を、やや俗な言葉で説明したものと理解されるにとどまると解され、本件実施契約の解消という事実自体に関して、あるいは、被控訴人が「詐欺的な行為を行う異常な会社である」かどうかという事実に関して、真実に反する誤解をするような陳述であると解することはできない。」
 「したがって、A発言〔2〕〜〔4〕において陳述された事実が「虚偽」であるということはできない。」
 なお、最高裁(平成15年1月30日決定)にて上告棄却され、確定。
 3 マスコミ公表と経営判断原則(business judgment rule)
・ダスキン肉まん事件(平成18年6月9日大阪高裁、判時1979号115頁)
「一審被告らは,本件混入や本件販売継続の事実がZ側からマスコミに流される危険を十分認識しながら,それには目をつぶって,あえて,「自ら積極的には公表しない」というあいまいな対応を決めたのである。そして,これを経営判断の問題であると主張する。しかしながら,それは,本件混入や販売継続及び隠ぺいのような重大な問題を起こしてしまった食品販売会社の消費者及びマスコミへの危機対応として,到底合理的なものとはいえない。
 すなわち,現代の風潮として,消費者は食品の安全性については極めて敏感であり,企業に対して厳しい安全性確保の措置を求めている。未認可添加物が混入した違法な食品を,それと知りながら継続して販売したなどということになると,その食品添加物が実際に健康被害をもたらすおそれがあるのかどうかにかかわらず,違法性を知りながら販売を継続したという事実だけで,当該食品販売会社の信頼性は大きく損なわれることになる。ましてや,その事実を隠ぺいしたなどということになると,その点について更に厳しい非難を受けることになるのは目に見えている。それに対応するには,過去になされた隠ぺいとはまさに正反対に,自ら進んで事実を公表して,既に安全対策が取られ問題が解消していることを明らかにすると共に,隠ぺいが既に過去の問題であり克服されていることを印象づけることによって,積極的に消費者の信頼を取り戻すために行動し,新たな信頼関係を構築していく途をとるしかないと考えられる。また,マスコミの姿勢や世論が,企業の不祥事や隠ぺい体質について敏感であり,少しでも不祥事を隠ぺいするとみられるようなことがあると,しばしばそのこと自体が大々的に取り上げられ,追及がエスカレートし,それにより企業の信頼が大きく傷つく結果になることが過去の事例に照らしても明らかである。ましてや,本件のように6300万円もの不明朗な資金の提供があり,それが積極的な隠ぺい工作であると疑われているのに,さらに消極的な隠ぺいとみられる方策を重ねることは,ことが食品の安全性にかかわるだけに,企業にとっては存亡の危機をもたらす結果につながる危険性があることが,十分に予測可能であったといわなければならない。
 したがって,そのような事態を回避するために,そして,現に行われてしまった重大な違法行為によってダスキンが受ける企業としての信頼喪失の損害を最小限度に止める方策を積極的に検討することこそが,このとき経営者に求められていたことは明らかである。ところが,前記のように,一審被告らはそのための方策を取締役会で明示的に議論することもなく,「自ら積極的には公表しない」などというあいまいで,成り行き任せの方針を,手続き的にもあいまいなままに黙示的に事実上承認したのである。それは,到底,「経営判断」というに値しないものというしかない。」
 「一審被告Y2及び一審被告Y1の善管注意義務違反,さらには,その後の「自ら積極的には公表しない」というあいまいで消極的な方針が,保健所の立ち入り検査後にマスコミ各社の取材を受ける形で急遽公表を迫られ,それにより上記のような大々的な疑惑報道がなされるという最悪の事態を招く結果につながったことは否定できない。したがって,一審被告Y1及び一審被告Y2と,その他の一審被告らは,事実を知った時期及び地位などに照らしその割合を異にするとはいえ,いずれもその善管注意義務違反により損害が拡大したことに責任を負うべきである。」

2010年06月18日

メディアにおける個人情報の保護

機グ貳夢覿箸砲ける個人情報リスク
1)企業を取り巻く社会情勢(再論)
・ユビキタス社会(サイバースペース)、IT(Information Technology)社会の誕生
・情報の収集、分析、利用、加工、管理が容易
         ↓
  ・各支店、各部署、担当者が保有している情報の把握、管理が困難
・(匿名による)表現の爆発、クレーマー、内部告発(ネット告発)の出現
・個人情報(プライバシー)、営業秘密等の流出の危険性増大
  exセンシティブ情報(機微情報)も含まれている
        ↓
・情報管理の徹底が必要 「蟻の穴から堤も崩れる」(韓非子)
・クライシス・コミュニケーション(危機管理)も必要  ex.雪印、船場吉兆

 2)各種の情報リスクとその対策
個人情報管理規則
  → 法令遵守体制、システム構築責任の問題としても捉えられるべき。
3) 内部統制システム構築義務が争点となった裁判例
(1) 大和銀行事件〜内部統制システム構築義務に関する初の司法判断
(2) ヤクルト事件〜取締役による長期間に亘るデリバティブ取引とリスク管理
(3) ダスキン事件〜平時のリスク管理と有事のリスク管理
4)内部統制構築義務の法整備
 2006年(平成18年)5月1日に施行された会社法においては、大会社に対し内部統制構築義務が認められ(362条4項6号、同条5項、会社法施行規則100条1項)、2007年6月7日に成立した金融商品取引法においては内部統制の報告書の作成、および監査人による監査証明が義務づけられることとなった(金融商品取引法24条の3、193条の2第2項)。

供ジ朕余霾鵑諒欷
1)個人情報を巡る状況
 事後的規制ではなく、情報漏洩を防ぐための予防策が重要。
2)重点3分野  ^緡邸壁賊 法↓⊃用情報(金融)、情報通信分野
 医療機関の場合、私立病院は個人情報保護法、国立がんセンターなどの国立病院は行政機関個人情報保護法、国立大学病院は独立行政法人等個人情報保護法、自治体では個人情報保護条例が適用される。
Cf.医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン(平成18年4月21日厚生労働省)
 マス・メディアにおいても、個人情報、プライバシーに関わることが多いため、厳格な管理、対応が必要と解される。
3)最近の個人情報漏洩事件一覧
   Security NEXT  http://www.security-next.com/cat_cat25.html

掘ジ朕余霾麒欷酲,粒詰
1)立法経緯、趣旨
 OECD8原則、EUディレクティブ(第三国への個人データの移転原則)
国、地方公共団体、個人情報取扱事業者の義務等を定める「行政法」
個人情報保護法が平成17年4月に全面施行。
2)定義(2条)
・「個人情報」
生存する個人に関する情報(識別可能情報)
・「個人情報データベース等」
個人情報を含む情報の集合物(検索が可能なもの。マニュアル処理情報を含む)
・「個人情報取扱事業者」
個人情報データベース等を事業の用に供している者(国、地方公共団体等のほか、取り扱う個人情報が少ない等の一定の者を除く)
・「個人データ」
個人情報データベース等を構成する個人情報
・「保有個人データ」
個人情報取扱事業者が開示、訂正等の権限を有する個人データ
3)「保有個人データ」(法2条5項)
4)個人情報取扱事業者の義務等 
  a) 利用目的の特定、利用目的による制限(15条、16条)
個人情報を取り扱うに当たり、その利用目的をできる限り特定
特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えた個人情報の取扱いの原則禁止
  b) 適正な取得、取得に際しての利用目的の通知等(17条、18条)
偽りその他不正の手段による個人情報の取得の禁止
個人情報を取得した際の利用目的の通知又は公表
本人から直接個人情報を取得する場合の利用目的の明示
  c) データ内容の正確性の確保(19条)
利用目的の達成に必要な範囲内で個人データの正確性、最新性を確保
  d) 安全管理措置、従業者・委託先の監督(20条〜22条)
個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置、従業者・委託先に対する必要かつ適切な監督
  e) 第三者提供の制限(23条)
本人の同意を得ない個人データの第三者提供の原則禁止
本人の求めに応じて第三者提供を停止することとしており、その旨その他一定の事項を通知等しているときは、第三者提供が可能
委託の場合、合併等の場合、特定の者との共同利用の場合(共同利用する旨その他一定の事項を通知等している場合)は第三者提供とみなさない
  f) 公表等、開示、訂正等、利用停止等(24条〜27条)
保有個人データの利用目的、開示等に必要な手続等についての公表等
保有個人データの本人からの求めに応じ、開示、訂正等、利用停止等
  g) 苦情の処理(31条)
個人情報の取扱いに関する苦情の適切かつ迅速な処理
5)若干の検討
 a)加害者の責任法理
 個人情報取扱事業者が「行政法」たる個人情報保護法に違反しても、同法に基づきストレートに被害者に対する民事上の責任が発生するわけではない。
これまでの事例は個人情報の漏洩事件につき、プライバシー侵害の法理、名誉、信用毀損の法理、営業秘密の漏洩(不正競争防止法)、一般不法行為、債務不履行、使用者責任、従業員の守秘義務違反、取締役の善管注意義務違反、忠実義務違反等の法理により、その責任が問われてきた。
 b)個人情報保護法・同内部管理規程の位置づけ
  個人情報保護法・同規程の違反 → 民事上の違法性を肯定する要素
  個人情報保護法・同規程の遵守 → 民事上の違法性を否定する事情
 c)内部管理規程を検討する視点
 同内部管理規程においては、合理性を有するものであり、また実際に履践可能なものであり、かつ遵守されていることが重要。
また、コンプライアンスの観点からは、「これは決して組織ぐるみではない。不心得者が、実践されていた明確な手続ルールを逸脱した」ことを事後的に証明することができるかどうかも重要。

検ジ朕余霾鵝Ε廛薀ぅ丱掘爾亡悗垢觝枷塾
 〜甍霤賃膤惺岷蕾駝省躬件(最高裁平成15年9月12日、メ百選46)
 「個人情報についても、本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示させたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきものであるから、本件個人情報は、上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となる」なお、差し戻し後の東京高裁(平成16年3月23日)は、一人につき、5,000円の慰謝料を認定。
 ■裡圍堙渡団∋件(東京地裁平成10年1月21日、判タ1008号187頁)
  幼い娘と二人暮らしであった女性が、転居に伴って電話帳への氏名、電話番号、住所を記載しないよう求めていたにもかかわらず、電話帳に掲載されてしまった事例。原告が嫌がらせ電話などで悩んでいた経験を有していたこと等も勘案し、10万円の慰謝料を認定(重過失事案)。
 診療所名等アップロード事件(神戸地裁平成11年6月23日、判時1700号99頁)
  パソコン通信の電子掲示板(BBS)に、無断で氏名、職業、診療所の住所、電話番号を掲載されてしまったため、悪戯電話が頻繁にかかるようになり、精神的損害を被った事例。裁判所は、20万円の慰謝料と治療費を認めた(故意事案)。
 けЪ市住民基本台帳事件(大阪高裁平成13年12月25日ジュリスト1224号8頁)
 本件において,被控訴人らのプライバシーの権利が侵害された程度・結果は,それほど大きいものとは認められないこと,控訴人が本件データの回収等に努め,また市民に対する説明を行い,今後の防止策を講じたことを含め,本件に現れた一切の事情を考慮すると,被控訴人らの慰謝料としては,1人当たり1万円と認めるのが相当である(過失事案)。
 Yahoo BB 事件(大阪地裁平成18年5月19日、判時1948号122頁)
 業務委託先から派遣され、データベースのメンテナンスを行っていた者がリモートメンテナンスサーバーにログオンした上で、本件顧客データベースにアクセスし、顧客情報を外部に転送し、それが恐喝の実行犯に渡ったという事件につき、裁判所は、退職後に悪用されないようにユーザー名の削除又はパスワードの変更をすべきであったとして、1人当たり、6000円の賠償を認めた(過失事例)。
なお、不正に入手した個人情報を元に金銭を脅し取ろうとした元派遣社員に対して、懲役3年、執行猶予5年の有罪判決。
 Ε┘好謄謄ックサロン事件(東京地裁平成19年2月8日、判時1964号113頁)
 同社がウェブサーバの設定を誤り、サーバ上に保存されていたアンケートが第三者によって閲覧できる状況となったもので、約5万人分のアンケートが流出し、さらにファイル交換ソフト上などでデータが流通し、被害が拡大したもの。漏洩したデータには住所、氏名、メールアドレスの他、アンケートへの回答など身体的特徴といったセンシティブ情報が含まれており、その後、いたずら電話やダイレクトメール、ウイルスの送付といった二次被害が発生したという。原告14名のうち、13名に1人あたり3万5000円、1名に対し2万2000円の賠償義務を認めた(センシティブ情報、過失事案)。

后ゥ瓮妊アにおける個人情報の保護
 1 個人情報との関わり
 2 個人情報保護検討部会ヒアリング意見
1999年10月6日、朝日新聞社、共同通信社、時事通信社、中日新聞東京本社、日本経済新聞社、毎日新聞社、読売新聞社
http://www.kantei.go.jp/jp/it/privacy/pdfs/dai6append4.pdf
・個人情報保護のあり方について
 情報の収集・利用・伝達は、国民の自由として保障されてきたものだ。OECD8原則のような個人情報保護の一般原則を分野ごとに異なる民間の事情を度外視して全分野に適用するという柔軟性を欠いた法的規制をすると、一方では国民の自由を制限することにつながりかねない。
 事業活動だけでなく非営利的市民活動を含む広範な活動は必然的に個人情報を扱うため、意図すると否とを問わず、規制の対象となる可能性がある。
 ことに、表現の自由は、いわゆる知る権利を含むものであり、報道の自由にかかわる権利だ。この権利は、国民の基本的人権のなかでもとりわけ重要な権利であり、かつ民主主義社会を根底から支える基礎であることを忘れてはならない。
 また個人情報保護を目的とした規制により、知る権利や報道の自由にかかわる権利が損なわれることがあってはならない。
 以上のような基本的立場からすると、民間の個人情報保護についてなんらかの規制をする場合は、民間の事業活動の自由などを制限することにならないよう配慮し、また、これらの自由や権利を制限することにつながる場合は、個人の基本的人権を保護するためやむを得ないと認められる合理的な範囲に限定されるべきだと考える。
 また個人情報保護は、本来的にはファイル管理の制限の問題であって、「個人情報」の収集などに対する無制限な規制であってはならない。適正な情報の自由な流通を阻害しない配慮が必要だ。
・民間の個人情報保護法と報道機関
報道機関は、民主主義社会において、社会に生起する諸問題について、取材し、事実を伝え、さまざまな考え方を紹介し、判断材料を提供して国民の知る権利に応える責務を負っている。
 取材活動によって事実に迫り、情報を収集し、事実を報道するなかで、報道機関は多くの個人情報を入手し、報道に使用することになるが、OECD原則などをそのまま報道機関にあてはめた場合、取材や報道の自由が損なわれる事態が生じかねない。
 また、取材の過程で入手する情報には必然的に個人情報が含まれるが、この個人情報の収集について、「直接収集」や「本人同意」、「センシティブ情報の収集禁止」の原則を適用したのでは、取材は困難になる。情報の利用について本人同意の原則をそのままあてはめたのでは、報道はできない。取材で入手した情報について本人開示を認めることも、判例などで認められてきた取材源の秘匿や、取材の秘密を守るという長年にわたって業界慣行として定着している報道機関にとっての基本原則からも困難だ。
個別法による規制策をとっている米国では、報道機関に対する法規制がないのはもちろんだが、EU指令もまた、第9条で、表現の自由との調和をはかる必要がある場合は、ジャーナリズム目的、芸術・文学上の表現目的のためのデータ処理について、個人情報処理の一般原則などの規定の適用除外を定めなければならない、としている。
 イギリスの「1998年データ保護法」に見られるように、EU諸国はEU指令に基づき、適用除外規定を定めている。_
したがって、報道・出版その他の表現の自由に関連する個人情報の処理ついては、基本法の精神を尊重した自主ガイドラインによるものとし、知る権利を含む表現の自由を損なうことがないよう、分野別の法的規制の対象外とすべきだ。

2010年06月07日

インターネット・メディアにおける管理者

. プロバイダ責任制限法の概要
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律
1) 趣旨
特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害があった場合について、特定電気通信役務提供者(プロバイダ、サーバの管理・運営者等。以下「プロバイダ等」という。)の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示を請求する権利につき定める。
2) プロバイダ責任制限法の3つのポイント
  http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/top/pdf/zukai.pdf
(a) 被害者に対する損害賠償責任の制限
プロバイダ等は、以下の,泙燭廊△両豺腓任覆韻譴弌∈鐔に応じなくても、被害者に対して賠償責任は生じない(3条1項)
 ‖梢佑慮⇒が侵害されていることを知っていたとき。
 違法情報の存在を知っており、他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき。
(b) 発信者に対する損害賠償責任の制限
 プロバイダ等は、情報を削除しても、以下の,泙燭廊△乏催する場合、発信者に対しては、賠償責任は生じない(3条2項)
 ‖梢佑慮⇒が侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき。
 権利を侵害されたとする者から違法情報の削除の申出があったことを発信者に連絡し、発信者から7日以内に反論がない場合。
(c) 被害者に対する発信者情報開示請求権の付与
 被害者は、以下の´△い困譴砲盂催する場合に限り、プロバイダ等に対して発信者情報の開示を請求できる(4条1項)
 \禅瓩垢觴圓慮⇒が侵害されたことが明らかであること
 損害賠償請求権の行使のために必要である場合、その他開示を受けるべき正当な理由があること。

供ザ饌療事例の検討
 1 眼科医事件(東京地裁平成15年3月31日、メ百選114)
 インターネットサービス大手Yahooに対し、プロバイダ責任制限法に基づいて投稿者の身元の情報開示を求めた事件で、Yahoo は提訴後、投稿者のメールアドレスだけは開示し、本人が原告側に氏名、住所を明かして謝罪した。しかし、投稿者が別の医療機関の社員だったため、原告側は「組織ぐるみの疑いがあり、発信元のパソコンも特定する必要がある」と主張して、IPアドレスと発信時刻の開示を求めていたもの。
 ・「権利侵害要件」につき、「摘示された事実が真実であることが証明されなくとも、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、当該行為には、故意又は過失がなく、不法行為の成立が否定されると解されているが、このような主観的要件に係る阻却事由については、発信者情報開示請求訴訟における原告(被害者)において、その不存在についての主張、立証をするまでの必要性はないものと解すべきである。」
 ・行為者の氏名、住所の開示を既に受けている点につき、「その余の発信者情報の開示を受けることにより、当該侵害情報を流通過程に置く意思を有していた者、すなわち、当該送信行為自体を行った者以外の『発信者』の存在が明らかになる可能性があるのであるから、その者に対して損害賠償請求権を行使するためには、上記の総務省令が定めるすべての発信者情報の開示を受けるべき必要があるものというべきである。」
2 2ちゃんねる「A学園Part2」事件(最高裁平成22年4月13日)
 最高裁は、「開示関係役務提供者は,侵害情報の流通による開示請求者の権利侵害が明白であることなど当該開示請求が同条1項各号所定の要件のいずれにも該当することを認識し,又は上記要件のいずれにも該当することが一見明白であり,その旨認識することができなかったことにつき重大な過失がある場合にのみ,損害賠償責任を負うものと解するのが相当である」と判示した。

掘ゥぅ鵐肇薀優奪函兵卞癸味腺痢砲砲ける管理者の地位と権限
 1 問題の所在
「従業員が何か変なことをしでかせば困る」「更衣室などは見られないはず。」
「ちゃんと仕事をしているのか。」「別の方法でチェックすれば、、、」
「何かあったら、会社の責任になるじゃあないか」 「でも、やり過ぎでしょう。」
 2 裁判例
 ・F社Z事業部電子メール事件(東京地裁平成13年12月3日、メ百選116)
(1) 電子メールの内容につき、従業員のプライバシー権が及ぶか?
 私用メールの禁止について何ら規定していないという事実関係の下、社会的に許容される範囲に止まる限り、社員に一切プライバシー権がないとは言えないとする一方、社内ネットワークシステムには当該会社の管理者が存在してネットワーク全体を適宜監視しながら保守を行っているのが通常であることに照らすと、労働者も当該システムの具体的状況に応じた合理的な範囲でのプライバシー権の保護を期待しうるに留まると指摘。
(2) プライバシー権侵害の判断基準
 使用者がパソコンの中身をチェックする必要性と、労働者が被る不利益とを比較して判断される。
 電子メールの監視について、「職務上従業員の電子メールの私的利用を監視するような責任ある立場にない者が監視した場合、あるいは、責任ある立場に有る者でも、これを監視する職務上の合理的必要性が全くないのに専ら個人的な好奇心等から監視した場合あるいは社内の管理部署その他の第三者に対して監視の事実を秘匿したまま個人の恣意に基づく手段方法により監視した場合など、監視の目的、手段及びその態様等を総合考慮し、監視される側に生じた不利益とを比較衡量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り、プライバシー権の侵害になる」と判示した。
 本判決は、電子メールのチェックがプライバシー権の侵害となる範囲を相当狭く考え、「Yのよる監視行為が社会通念上相当な範囲を逸脱したものであったとまではいえず、Xらが法的保護(損害賠償)に値する重大なプライバシー侵害を受けたとはいえない」と結論付けた。
 ・日経クイック情報事件(東京地判平成14年2月26日、労判825号50頁)
 社員が同僚を誹謗・中傷する内容の私的メールを送信したと疑われる状況であったことから実施された調査について、「それが企業の円滑な運営上必要かつ合理的なものであること、その方法態様が労働者の人格や自由に対する行きすぎた支配や拘束ではないことを要し、調査等の必要性を欠いたり、調査の態様等が社会的に許容しうる限界を超えていると認められる場合には労働者の精神的自由を侵害した違法な行為として不法行為を構成することがある。」
 ・グレイワールドワイド事件(東京地判平成15年9月22日、労判870号83頁)
  一定の要件のもと、例外的に職務専念義務違反にならないと判示。
 3 米国の判例
 当該従業員が当該状況において、そのプライバシーが保護されることについて、「合理的な期待」(reasonable expectation)を有しうるか否かにより判断している。

2010年06月04日

インターネット・メディアにおける表現の自由


機ゥぅ鵐拭璽優奪函Ε瓮妊アにおける変容
1 問題の所在
   現実社会における法が、ネットワーク社会において変容されるか。
2 ネット上における「対抗言論」(more speech)
 1)「名誉は毀損されても対抗言論により回復しうるので、結果として名誉毀損は生じない」(高橋和之教授)
インターネット・メディアにおいては、紙面、放送時間、情報伝達範囲、コスト等の物理的制約が少なく、自由な反論をなし得る環境にあると言えるのではないか。
対抗言論を課す条件として、‥事者が対等な言論手段を有していること、反論の負担を要求しても不公平とはいえない事情が存することが必要。
 2)射程範囲の検討
・人種差別的表現や前科・前歴に関わる情報などについては、果たして反論することに意味があるのかどうか?
・事実の摘示による名誉毀損の場合は事実の真偽はわからず、意見ないし論評の表明による名誉毀損の場合に限られるのか?
・ネット上において反論することは、いわゆる「フレーミング(flaming)」や「祭り」を招くだけではないのか?
 3) 実務的対処法
・「人を見て、法を説け。」
文書(書面)  ←→  口頭(面談)
 話す速度   早い ←→ ゆっくり 
・イソップ物語「北風と太陽」
・「窮鼠猫を噛む」
3 各論(修正原理を考えるべきか)
 1)公職選挙法
  文書図画の頒布制限(法142条)の立法趣旨(立法事実)は?
  Q ネット上での選挙活動の自由を広く認め得ないのか?
 2) 商業的表現の自由
  ダイレクトメール(郵便物)と異なり、スパム(迷惑メール)は、受信者のシステムのリソース(電気代、メモリー容量)や時間を不当に奪っている。
2008年6月6日 「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律の一部を改正する法律案」公布
 第3条(特定電子メールの送信の制限)
 送信者は、次に掲げる者以外の者に対し、特定電子メールの送信をしてはならない。
 一 あらかじめ、特定電子メールの送信をするように求める旨又は送信をすることに同意する旨を送信者又は送信委託者(電子メールの送信を委託した者(営利を目的とする団体及び営業を営む場合における個人に限る。)をいう。以下同じ。)に対し通知した者
 二 前号に掲げるもののほか、総務省令で定めるところにより自己の電子メールアドレスを送信者又は送信委託者に対し通知した者
 三 前二号に掲げるもののほか、当該特定電子メールを手段とする広告又は宣伝に係る営業を営む者と取引関係にある者
 四 前三号に掲げるもののほか、総務省令で定めるところにより自己の電子メールアドレスを公表している団体又は個人(個人にあっては、営業を営む者に限る。)
の他のこれに類する場合として総務省令で定める場合は、この限りでない。
 3) 少年法61条(記事等の掲載の禁止)
  氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。
 「本条は、罪を犯した少年に実名で報道されない権利を付与したものではなく、表現の自由との関係で同条が当然に優先するとは解されないから、社会の正当な関心事である重大事犯について実名報道することが直ちに権利侵害にはならず、少年の顔写真掲載も、表現内容・方法として不当なものとはいえず、不法行為に当たらない」(大阪高判平成12年2月29日、判時1710号121頁)
  →出版物ではないインターネット上の表現でも適用あるいは類推適用されるべきであろうか。

供ゥぅ鵐拭璽優奪函Ε瓮妊アにおけるプロバイダーの地位
1 プロバイダー(電気通信事業者)の性質論
  内容に関知しているか、内容に関知していないか。
2 外国の立法
 1) 米国
 「1998年デジタルミレニアム著作権法」Digital Millennium Copyright Act(DMCA)
米国では、著作権侵害に関し直接責任が問われる場合には、損害賠償義務は故意・過失がなくても発生するため、「デジタル・ミレニアム著作権法(DMCA)」において、サービス・プロバイダーの法的責任に関する規定を設け、ルールを明確化した。具体的には、ユーザーによりアップロードした素材の蓄積、システム・キャッシングにおける中間的・一時的蓄積などに関し、サービス・プロバイダーについて一定要件の下、著作権侵害による金銭的責任を免除している。
 また、ノーティス・テイクダウン(通知及び削除)の免責のための要件を規定し、サービス・プロバイダーは、著作権者から一定要件を備えた著作権侵害主張の通知を受けた場合、速やかに素材を削除し、アクセスを禁止しなければならない。
 2) EU指令(EUディレクティブ)
EUは、2000年(平成12年)5月に欧州議会で承認された「電子商取引の法的側面に関するEU指令案」において、著作権だけでない分野横断的な視点から、サービス・プロバイダーの法的責任について規定している。
3 日本の裁判例
 1)ニフティ現代思想フォーラム事件(東京地裁平成9年5月25日、判時1610号22頁)
 管理者の責任について、サービスの利用に際して、その中での会員相互のやりとりの内容にまで契約上の責任が当然に生じるとは言えないが、明らかな名誉毀損的表現を認知した者は、条理上の削除すべき立場に立つとして、一部についての責任を肯定。
書き込みを行った者に対し50万円、プロバイダー、シスオペに対し10万円の慰謝料請求を認めた。
 2)都立大学事件(東京地裁平成11年9月24日、判時1707号139頁)
・3,000円ずつの損害賠償義務を認定。
「名誉毀損文書に該当すること、加害行為の態様が甚だしく悪質であること及び被害の程度も甚大であることなどが一見して明白であるような極めて例外的な場合に限られるというべきである」
 3)ニフティサーブ・現代思想フォーラム事件(東京高裁平成13年9月5日)
1)の控訴事件
「シスオペは、フォーラムの運営及び管理上、運営契約に基づいて当該発言を削除する権限を有するにとどまらず、これを削除すべき条理上の義務を負う」としたが、「議論の積み重ねにより発言の質を高めるとの考えに従って本件フォーラムを運営しており、このこと自体、思想について議論することを目的とする本件フォーラムの性質を考慮すると、運営方法として不当なものとすることはできない」として、その責任を否定した。
Q 本件は、会員制のパソコン通信に関する事例であるが、インターネット上の電子掲示板の場合に、何か理論的な違いがあるであろうか。
Q 本件は、「対策を講じても、なお奏功しない等一定の場合」に作為義務の一種である削除義務が成立するとしているが、シスオペとして、どのような対策が考えられるであろうか。
Q シスオペには、常時監視義務まではないとされているが、毎日、真面目にモニタリング(チェック)をすればするほど、いくつもの問題のある書き込みを知るようになってしまい、かえってその責任が重くなってしまうのは、不合理であるとは言えないであろうか。
 4)日本生命仮処分事件(東京地裁平成13年8月31日)
匿名による書き込みにより、日本生命に対する誹謗中傷的発言が繰り返されたケースについて、2ちゃんねるの管理者に対し、債権者の主張をほぼすべて認める形で、特定された書き込みについての削除が命じられた。
 5)ニフティサーブ・本と雑誌フォーラム事件(東京地裁平成13年8月27日)
「言論による侵害に対しては、言論で対抗するというのが表現の自由(憲法21条1項)の基本原理であるから、被害者が、加害者に対し、十分な反論を行い、それが功を奏した場合は、被害者の社会的評価は低下していないと評価することが可能である」とし、対抗言論というべき判断を尊重し、発言を総合的に判断し、不法行為を構成しないものと判示した。
Q 原告は、なぜニフティサーブに対し、Aの氏名、住所の開示を求めたのであろうか。
Q 先行する名誉毀損的言明に対してなされた後行の名誉毀損的言明につき、刑法上の正当防衛と考えることはできるであろうか。
Q 反論すればなにゆえに被害者の社会的評価は低下していないということになるのであろうか。
 6)2ちゃんねる・動物病院事件(東京地裁平成14年6月26日、判時1810号78頁)
 「本件掲示板における発言によって名誉権等の権利を侵害された者は、前記のとおり、Yが、利用者のIPアドレス等の接続情報を原則として保存していないから、当該発言者を特定して責任を追及することが事実上不可能であり、しかも、Yが定めた削除ガイドラインもあいまい、不明確であり、また、他に本件掲示板において違法な発言を防止するための適切な措置を講じているものとも認められないから、設置・運営・管理しているYの責任を追及するほかないのであって、このようなYを相手方とする訴訟において、発言の公共性、目的の公益性及び真実性が存在しないことを削除を求める者が立証しない限り削除を請求できないのでは、被害者の被害を回復する方途が著しく狭められ、公平を失する結果となる。」
 「このことからすれば、本件において、本件各発言に関する真実性の抗弁、相当性の抗弁についての主張・立証責任は、管理者であるYに存するものと解すべきであり、本件各発言の公共性、公益目的、真実性等が明らかではないことを理由に、削除義務の負担を免れることはできないというべきである。」
「被告は、本件掲示板上の発言を削除することが技術的に可能である上、通知書、本件訴状、請求の趣旨訂正申立書等により、本件1ないし3のスレッドにおいて原告らの名誉を毀損する本件各名誉毀損発言が書き込まれたことを知っていたのであり、これにより原告らの名誉権が侵害されていることを認識し、又は、認識し得たのであるから、プロバイダー責任法3条1項に照らしても、これにより責任を免れる場合には当たらないというべきである」
 「本件各名誉毀損発言の書き込みをしたのは、複数人と思われる匿名の者であり、被告自身が本件各名誉毀損発言の書き込みに直接関与したものとは認められないことなどの事情を考慮しても、被告が本件各名誉毀損発言を削除するなどの措置をとらなかったことにより、原告らが被った精神的損害、経営上の損害は、各200万円を下らないものと認めるのが相当である。」
 7)2ちゃんねる・動物病院事件(東京高裁平成14年12月25日、メ百選113)
  6)の控訴事件
  控訴棄却。言論に対しては言論をもって対処することにより解決を図ることが望ましいことはいうまでもないが、それは、対等に言論が交わせる者同士であるという前提があって初めていえることであり、このような言論による対処では解決を期待することができない場合があることも否定できないとし、削除義務に違反しているとした。
Q 匿名の表現の自由を確保することはなぜ健全な民主主義の発展のためには不可欠と言えるのか?
Q プロバイダーに、真実性、相当性の抗弁についての主張立証責任を負わせることは酷ではないのか?
Q 本件において、比較的高額な200万円もの損害賠償請求が認められた理由は何であろうか?
4 立法
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律
(いわゆる「プロバイダー責任制限法」)
平成14年6月26日施行

2010年05月24日

マス・メディアの媒体責任論

マス・メディアの性質論
 ある被害者や市民からのいわゆるマス・メディアに対するアクセス権につき検討する場合、マス・メディアに対する表現の自由の侵害や萎縮的効果(chilling effect)につき検討する必要がある。
また、新聞社、雑誌社、放送局、インターネット等には、自由な言論を支えるインフラとしての公共的な側面があるといえるが、他方、それぞれの媒体の性質の違いが存する。たとえば、訂正や謝罪を行う場合、新聞紙面や地上波の放送時間帯については物理的な制約があると考えられるが、たとえばCATV、衛星放送あるいはインターネットについては、物理的な制約につきあまり考える必要はないのではないか。

新聞社に対する反論文掲載請求
 1 問題の所在
  マス・メディアに対する自由の制約にならないか?
 2 反論権(アクセス権)の背景
  近代社会においては、表現の送り手と受け手の立場の互換性があったが、現代社会においては、少数のマス・メディアが報道をほぼ寡占しており、一般国民には、広い範囲の公衆に対して表現を行う機会が失われていると認識されるようになった(いわゆる表現の送り手と受け手の分離)。
  そこで、あらためて一般公衆に情報の送り手としての地位をさせようという見解が有力に主張されるようになってきた。
 3 反論権の概念
 (狭義)名誉毀損の成立を前提とし、名誉を回復する手段として、無料で反論の掲載等を求める権利(民法723条)
 (広義)必ずしも名誉毀損の成立を前提とせず、無料で反論の掲載等を求める権利(明文規定なし)
 4 狭義の反論権
  民法723条の「名誉を回復するのに適当な処分」に、反論文の掲載請求まで含まれるかどうかが問題となる。
 5 広義の反論権
  (1) 理論的根拠
 現代では、マス・メディアの集中・独占化が進み、多くの人々にとってマス・メディアへのアクセスが困難になっていることを問題視し、国家は、「自由な言論空間」を確保すべき責務を負っているとする。
  (2) 問題点
 広義の反論権を認めるということは、むしろ「自由な言論空間」を確保するという目的に反することになるのではないか。
 萎縮的効果(chilling effect)
 具体的な成文法が存在しない。
 6 サンケイ新聞事件判決(最高裁昭和62年4月24日)
  「反論権の制度は、民主主義社会に・・・に対し重大な影響を及ぼすもの」であり、たとえ新聞記事が「特定の者の名誉ないしプライバシーに重大な影響を及ぼすことがあるとしても、不法行為が成立する場合にその者の保護を図ることは別論として、反論権の制度について具体的成文法がないのに、反論権を認めるに等しい上告人主張のような反論文掲載請求権をたやすく認めることはできない。」
  上告人の名誉が毀損され不法行為が成立したとすることはできない。

掘…正放送請求
 1 問題の所在
 放送法第4条(訂正放送等)
 放送事業者が真実でない事項の放送をしたという理由によって、その放送により権利の侵害を受けた本人又はその直接関係人から、放送のあつた日から3箇月以内に請求があつたときは、放送事業者は、遅滞なくその放送をした事項が真実でないかどうかを調査して、その真実でないことが判明したときは、判明した日から2日以内に、その放送をした放送設備と同等の放送設備により、相当の方法で、訂正又は取消しの放送をしなければならない。
放送事業者がその放送について真実でない事項を発見したときも、前項と同様とする。
前2項の規定は、民法 (明治二十九年法律第八十九号)の規定による損害賠償の請求を妨げるものではない。
(問題点)
・被害者が放送事業者に対し、放送法4条1項の規定に基づく訂正または取消しの放送を求める私法上の権利を有するか否か。
・民法723条に基づく謝罪放送について、憲法19条や21条に反しないか。
Q 放送法4条3項をどのように解釈すべきであろうか。民法723条と放送法4条1項の関係につき、どのように考えるべきであろうか。
 2 学説
  否定説(多数説)の根拠
 ・裁判所が訂正放送等を命ずることができる旨の明文規定が存しない。
 ・立法の沿革
 ・放送事業者の番組編集の自由に対する重大な侵害となる。
 ・民法723条との均衡を失する。
 3 判例
 「生活ほっとモーニング」事件(最高裁平成16年11月25日)
 「放送事業者に対し、自律的に訂正放送等を行うことを国民全体に対する公法上の義務として定めたものであって、被害者に対して訂正放送等を求める私法上の請求権を付与する趣旨の規定ではない。」
 「法4条1項は・・・放送事業者が当該放送の真実性に関する調査及び訂正放送等を行うための端緒と位置づけているものと解するのが相当であって、これをもって、上記の私法上の請求権の根拠と解することはできない。」

検/景更告の媒体責任
 1 マス・メディアの媒体責任につき争われた事例
 ・全国紙に掲載された分譲マンションの広告に関して新聞社等の責任が問われた事件(下記判例)
 ・地方紙「大阪スポーツ」に掲載されたサラ金広告に関し、新聞社の責任が否定された事件(大阪地裁平成9年11月27日、判時1654号67頁)
 ・月刊誌「ニュー共済ファミリー」に掲載された分譲地の広告が悪用され、月刊誌の発行者の不法行為責任が肯定された事件(東京地裁昭和60年6月27日、判時1199号94頁)
 ・関西版「ぴあ」の広告の誤りにつき、不法行為責任が肯定された事件(大阪高裁平成6年9月30日、判時1516号87頁)
 ・投資ジャーナルグループがテレビ番組のテロップを悪用したケースにつき、テレビ神奈川の責任を否定した事件(東京地裁平元年12月25日、メ百選66)
 2 問題の所在
  新聞社は、単に紙面(広告すべき場所)を提供しただけであり、内容については一切関知していないとして責任を問われる場合はないと考えられるかどうか。
また、新聞記事の部分と広告の部分とで、注意義務の程度にどのような違いがあるであろうか。
 3 判例
 「日本コーポ」事件(最高裁平成元年9月19日)
 (1) 注意義務違反が存するか否か
 「掲載等をした当時、広告主であるAが広告商品である前記建物を竣工する意思・能力を欠く等、広告内容の真実性について社会通念上疑念を抱くべき特別の事情があって読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し、又は予見しえたのに、真実性の調査確認をせずにその掲載等をしたものとは認められない。」
 (2) 注意義務の程度
「広告掲載に当たり広告内容の真実性を予め十分に調査確認した上でなければ新聞紙上にその掲載をしてはならないとする一般的な法的義務が新聞社等にあるということはできない。」

2010年05月16日

マスメディアと肖像権・パブリシティ権

機‐啻権の概念
 1 定義
 肖像権とは、「人がみだりに他人から写真をとられたり、とられた写真がみだりに世間に公表、利用されることがないよう対世的に主張しうる権利」(大塚重夫)であり、一種の人格権であると解されている。
2 内容
 ,澆世蠅忙1討鬚気譴覆じ⇒        肖像権(人格権)
 ∋1討気譴深命拭∈鄒された肖像を利用されない権利  パブリシティ(財産権)
 肖像の利用に対する本人の財産的価値を保護する権利  〃
 3 最高裁(昭和44年12月24日、京都府学連デモ事件)
   刑事事件に関し、「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。」と判示した。

供‐啻権に関する紛争
 1 肖像権を認めた裁判例
 ・東京地裁平成2年5月22日(判時1357号93頁)
 「何人も自己の容貌や姿態を無断で撮影され、公表されない人格的な権利、すなわち肖像権を有しており」と「肖像権」と定義した上で、要保護性を肯定した。
  その後も、「肖像権」と明確に判示した下級審が相次いでいる。
 2 写真撮影及び公表による侵害
 ・フライデー無断写真撮影事件(東京高裁平成2年7月24日、メ百選51)
 写真週刊誌が、居宅内における容貌・姿態を第三者が無断で写真撮影し、広く公表した事例。
 Q カメラマンの写真撮影行為は、被告Y(講談社)との関係において、どのような法的評価、法的構成がなされていると推察されるか。
 Q 塀越しの撮影ではなく、原告女性Xが早朝ゴミ出しする姿を撮影した場合でも、同様に結論になるであろうか。
 Q 撮影対象が原告女性Xではなく、井上ひさし氏であった場合は、どうか。
 Q 本件が写真週刊誌フライデーではなく、「肖像権侵害が認められた事例」として判例雑誌に当該写真が参考資料として掲載された場合はどうか。
 3 イラスト画掲載による侵害
 ・「新ゴーマニズム宣言」事件(東京高裁平成15年7月31日、判時1831号107頁)
  漫画「新ゴーマニズム宣言」に似顔絵を描かれた大学講師が漫画家に対し肖像権等の侵害を理由に損害賠償等を請求した事案。
 「絵画は、写真撮影又はビデオ撮影のように被写体を機械的に記録するものとは異なり、作者の主観的、技術的作用が介在するものであるから、肖像画のように写真と同程度に対象者の容貌ないし姿態を写実的に性格に描写する場合はともかく、少なくとも作者の技術により主観的に特徴を捉えて描く似顔絵については、これによってその人物の容貌ないし姿態の情報をありのまま取得させ、公表したとは言い難く、別途名誉権、プライバシー権等他の人格的利益の侵害による不法行為が成立することはあり得るとしても、肖像権侵害には当たらないと解すべきである。」
 ・和歌山カレー事件報道事件(最高裁平成17年11月10日、メ百選52)
  「人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する」「人は、自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当である」
 Q 勾留理由開示手続が公開裁判で行われる理由は何であろうか。
 Q 最高裁が「みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益」があるとしながら、「肖像権」という言葉を使わなかったのは、なぜであろうか。
 Q 最高裁は、原審の〇実の公共性、¬榲の公益性、手段の相当性という3要件の判断枠組みをとらず、受忍限度論という立場をとったが、基準が曖昧になるということはないであろうか。
 Q 刑事訴訟法規則において、公判廷における写真撮影が制限されている制度趣旨な何であろうか。また、隠し撮りを行った場合にも、その制度趣旨との関係で不都合はあるであろうか。
 Q 原告Xが手錠、腰縄により身体拘束を受けてる状態を描いたイラストにおいて、テレビ撮影の場合と同様、モザイクを入れたり、黒塗りした場合でも、名誉毀損になると言えるであろうか。

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 1 発生経緯
  芸能人やスポーツ選手などの著名人の肖像や指名について、米国コモン・ロー上生成発展してきたもの。
 2 日本の裁判例
 ・おニャン子クラブ事件(東京高裁平成3年9月26日、メ百選54)
  著名な芸能人の氏名・肖像のもつ顧客吸引力に専ら依存して作成されたカレンダーの販売行為について、パブリシティ権の侵害を理由として差止及び損害賠償請求を認めた事例。
 Q 肖像権とパブリシティ権とは、どこに共通点があって、どこに違いがあると言えるか。
 Q 芸能人の肖像写真の利用態様や利用回数に応じての事後的金銭賠償だけでなく、将来の差止請求まで認める実質的根拠は何か。
 Q 特許や著作権等の知的財産権については存続期間が認められているが、パブリシティ権の場合の存続期間は、どう考えるべきであろうか。
 3 物に関するパブリシティ権
 ・「ギャロップレーサー」事件(名古屋高裁平成13年3月8日、判タ1071号294号)
 「『著名人』でない『物』の名称等についても、パブリシティの価値が認められる場合があり、およそ『物』についおてパブリシティ権を認める余地がないということはできない。また、著名人についてパブリシティ権は、プライバシー権や肖像権といった人格権とは別個独立の経済的価値と解されているから、必ずしも、パブリシティの価値を有するものを人格権を有する『著名人』に限定する理由はないものと言わなければならない。」とし、物に関するパブリシティ権を肯定した。
 ・「ダービースタリオン」事件(東京高裁平成14年9月12日、判時1809号140頁)
 物に関するパブリシティ権を否定した(上告棄却)。
  「競走馬という物について,人格権に根ざすものとしての,氏名権,肖像権ないしはパブリシティ権を認めることができないことは明らかである。また,控訴人らが本件各競走馬について所有権を有し,所有権に基づき,これを直接的に支配している(民法206条)ということはできるものの,単に本件各競走馬の馬名・形態が顧客吸引力を有するという理由だけで,本件各競走馬の馬名,形態等について,その経済的利益ないし価値を排他的に支配する財産的権利であるパブリシティ権を有している,と認め得る実定法上の根拠はなく,控訴人らの主張を認めることはできない。(仮に,社会情勢の変化等により,このような権利を認める必要が生じていると考える者があるとしても,権利として認めるべきか否か,認めるとしてどのような形で認めるべきかは,立法的手続の中で幅広く社会の意見を集約した上で,決するにふさわしい問題であるというべきである。)。」
 ・ギャロップレーサー事件最高裁判決(平成16年2月16日、判時1863号25頁)
  「競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても,物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき,法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく,また,競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為の成否については,違法とされる行為の範囲,態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において,これを肯定することはできないものというべきである。」
  「なお,原判決が説示するような競走馬の名称等の使用料の支払を内容とする契約が締結された実例があるとしても,それらの契約締結は,紛争をあらかじめ回避して円滑に事業を遂行するためなど,様々な目的で行われることがあり得るのであり,上記のような契約締結の実例があることを理由として,競走馬の所有者が競走馬の名称等が有する経済的価値を独占的に利用することができることを承認する社会的慣習又は慣習法が存在するとまでいうことはできない。」
 4 検討
  マスメディアとの関係では、報道目的を超えた顧客吸引力を利用した「引用」(著作権法32条)などが問題となり得る。

2010年05月09日

プライバシー権に関する一考察

機ゥ廛薀ぅ丱掘竺鞠阿侶狙
 1 背景事情
 いわゆる Yellow Journalism(新聞の発行部数等を伸ばすために、「事実報道」よりも「扇情的である事」を売り物とする形態のジャーナリズムのこと。)が跋扈するメディア状況において、個人に関する事柄が公開されないように保護する必要があると考えられるにようになってきた。
 1890年、ウォーレン、ブランダイズは、その著書「The Right to Privacy」において、「ひとりでほっておいてもらう権利」(Right to be let alone)を提唱した。

 2 プロッサー教授による分類
 米国の判例を分析、整理し、次の4類型に分けられるとした(1960年、佐伯仁志「プライヴァシーと名誉の保護」、伊藤正己「プライバシーの権利」参照)。
   峪篝験茲悗凌入」
  ◆峪篁の公開」
  「誤認を生ずる表現」  ex.○○教の信者である、○○病である
  ぁ峪篁の営利的利用」

供テ本におけるプライバシー概念
 1「宴のあと」事件(東京地裁昭和39年9月28日)
 作家三島由紀夫のモデル小説「宴のあと」に関し、元外務大臣がプライバシー侵害を理由に、謝罪広告および損害賠償を請求する訴訟を提起した事件。 
 なお、「モデル小説」とは、実在の事実の枠組みを借用しつつ、それを換骨奪胎して著者個人の美意識や思想を表現する小説のことを言う。
「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」と定義し、法的救済を与えるための要件を次の3つであるとした。
 (イ)私生活上の事実、または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがら
 (ロ)一般人の感受性を基準にして、当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないであると認められることがら
 (ハ)一般の人々に、まだ知られていないことがらであること、(このような公開によって当該私人が実際に不快、不安の念を覚えたこと)
 プライバシーという表現は用いていないが、「前科及び犯罪経歴は、人の名誉信用に直接かかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」と判示しており、ここにいうみだりに公開されない法律上の利益は、従来の名誉・信用の法概念とは別個の法律上の利益であり、少なくともプライバシーの一部を不法行為法の保護法益として容認したものと言える。

 2 表現の自由との調整
 ・一般的に、プライバシー侵害の場合、真実性の証明に基づく免責は認められないという見解。
 ・名誉毀損とプライバシー侵害につき、下記の同じ免責法理で考えてもよいという見解(佃克彦「プライバシー権・肖像権の法律実務」169頁)
  〔祥脊迷察▲廛薀ぅ丱掘漆害言論は、原則的には真実であっても言ってはならない。
  △靴し、公的言論であれば、それが「真実性」「相当性」を満たす限り言ってもよい。
  B省、「真実性」「相当性」がないことは言ってはならない。

 3 現代のプライバシー概念
  ・「社会がコンピュータ時代に入り、そこに収集される自己に関する情報について、個人がどのような権利をもち得るかがプライバシー保護の主要な関心事となり、アメリカをはじめとする諸外国でプライバシー保護立法が制定されつつある現在であれは、プライバシーの権利は、『ひとりにしておいてもらう権利』という消極的定義にとどまらず、同時に、『自己に関する情報の流れをコントロールする権利』という積極的な定義を必要とすると解されている」(竹田稔「名誉・プライバシー侵害に関する民事責任の研究」5頁)
  現代の積極国家化と技術の進歩により、行政や企業が膨大な情報を収集・保有・利用するシステムを構築している状態がプライバシーに対する脅威となっているという問題意識を背景にしている。
  ・情報コントロール権説(佐藤幸治)
「個人が道徳的自立の存在として、自ら善であると判断する目的を追求して、他社とコミュニケートし、自己の存在にかかわる情報を開示する範囲を選択できる権利」(憲法〔新版〕408頁)
  ・自己イメージのコントロール権説(棟居快行)
  ・社会的評価からの自由説(阪本昌成)

 4 社会的評価との関係
 私生活などをみだりに公開されないという点に重点を置き、社会的評価の低下があったか否かは問われない。 
 プライバシーは、「自分に関する」情報が他者に知られてしまった「段階」で害されるものであるが、それに対して、名誉は、自分に関する情報が社会に流布(つまり公開)された結果として「自分の社会的評価」が傷ついてしまった「場合」に害される」(小林節「名誉権・プライバシーの権とその保護」ジュリスト884号194頁)

 5 各法令におけるプライバシー保護
 信書開披罪、秘密漏泄罪、住居侵入罪、軽犯罪法違反、郵便法、電気通信事業法、ストーカー行為規制法、個人情報保護法 etc.

 6 プライバシーは、なぜ守られる必要があるのか?
  真実のことである限り、すべての情報をオープンにしてもよいはずと割り切れないのは、なぜであろうか?
  「人間にとって最も基本的な、愛、友情および信頼の関係にとって不可欠の環境の充足」(佐藤幸治)
  「人間そのものが大切なのではなく、人間関係が大切なのである。」

掘ド集修亮由とプライバシー保護との調整
 1 ノンフィクション事件
 ノンフィクションとは、ジャーナリズムの一種であり、細部に至るまで事実にこだわり、本質的に「事実に語らせる」ことによって、単なるニュース伝達の枠を超えて、時代や人間の本質に迫ろうという要素をもつ小説のことをいう。
  ・「逆転」事件(最高裁平成6年2月8日)
   被告が陪審員をしていた経験に基づき、ノンフィクション小説「逆転」を書いたことがプライバシー侵害になるかどうかが争われた事件。
   1審東京地裁は、「社会の構成員が一定の事実を知ることに正当な関心をもち、それを知ることが社会全体の利益になるような場合(=公共性のある場合)に公益を図る目的でその事実(私的事柄)を公表したときには、私的事柄の公表が公の利益になるものとして右の公表する行為は許容されるべきである」として、慰謝料50万円を認めた。
   2審東京高裁も、控訴棄却。
最高裁は、「その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性を併せて判断し、右に前科等にかかわる事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するときは、右の者は、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる」として、原審を認容し、上告を棄却した。
いわゆる利益衡量論を採用した。

2 モデル小説事件
(1) 裁判例
 ・東京地判平成7年5月19日(判時1550号49頁)
  小説「名もなき道を」につき、「一般読者をして小説全体が作者の芸術的創造力の生み出した創作であって虚構であると受け取られるに至っている場合には、名誉・プライバシー侵害」とはならないとし、「実在人物の行為・性格がそのまま叙述されていて真実であると受け取る読み方をすることはないと考えられる」とした。
 ・大阪高判平成9年10月8日(判時1631号80頁)
 小説「捜査一課長」につき、「本件小説は、素材事実と虚構事実が渾然一体となり、その演繹的事実として、一般読者に対し、モデルとされた者が『甲山事件』をモデルとする本件小説の殺人事件の犯人であり、ひいては『甲山事件』の犯人であるとの印象を与え、右事実をその骨格的要素として摘示することにより、モデルとされた者の社会的評価を低下させ、その名誉を侵害するものである」として、約80万円の損害賠償を認めた。
 ・「石に泳ぐ魚」事件(最高裁平成14年9月24日、メ百選74)
  小説「石に泳ぐ魚」につき、東京地裁は、「読者にとって、右の記述が、モデルに関わる現実の事実であるか、作者が創作した虚構の事実であるかを截然と区別することができない場合においては、小説中の登場人物についての記述がモデルの名誉を毀損し、モデルのプライバシー及び名誉感情を侵害する場合がある」として、名誉毀損等の成立を認め、最高裁も上告棄却を行った。

 (2) 考慮要素
  a) 登場人物と実在人物との同定可能性
    著名ではなくても、実在人物を想起させる表現がなされれば、必ずその人物の周囲の一定の人間はその人物を想起するものであるから、同定可能性の要件は満たされる。
  b) 創作性・虚構性と社会的評価の低下
    一般的に、社会的評価の低下があったか否かは問われない。

3 プライバシー侵害の判断基準
 (1) 学説
 ・プライバシー侵害では、真実性の証明が言論を正当化することにはならず、一旦侵害されたプライバシーの回復が不可能であること、プライバシー侵害では市場の自由競争での自力救済手段を持ち得ないこと、一般的に価値が高くない性質の言論であることなどを根拠に、プライバシー侵害を名誉毀損の言論よりも厳しく制限すべきとする説も有力。 
 ・”集醜坩戮社会の正当な関心事であること、△修良集銃睛読集淑法が不当なものでないことの要件が満たされる場合には、表現行為は違法性を欠き、プライバシー侵害とはならない(竹田稔)。
 (2) 比較衡量のアプローチ
  ・東京高裁平成13年7月18日(判時1751号75頁)
   報道に関して、考慮すべき要素として、
    崚該報道の意図・目的(公益を図る目的か、興味本位の私事暴露が目的かなど)」
   ◆屬海譴箸隆愀犬濃篝験莨紊了実や個人的情報を公表することの意義ないし必要性(これをしなければ公益目的を達成することができないかなど)」
   「情報入手手段の適法性・相当性(例えば盗聴などの違法な手段によって入手したものかなど)」
   ぁ峙事内容の正確性(真実に反する記述を含んでいるかなど)」
   ァ崚該私人の特定方法(実名・仮名・匿名の別など)」
   Α嵒集淑法の相当性(暴露的・侮辱的表現か、謙抑的表現かなど)」
  プライバシーに関して、考慮すべき要素として、
    峺表される私生活上の事実や個人的情報の種類・内容(どの程度に知られたくない事実・情報なのか、既にある程度知られている事実・情報かなど)」
   ◆崚該私人の社会的地位・影響力(いわゆる公人・私人の別、有名人か無名人かなど)」
   「その公表によって実際に受けた不利益の態様・程度(どの範囲の者に知られたか、どの程度の精神的苦痛を被ったかなど)」
  等を考慮すべきとした。

 4 私見
  表現の自由につき、優越的地位が認められるのは、ー己統治の価値と⊆己実現の価値があるからであるが、政治的・公益目的の表現でない場合には、上記,硫礎佑惑Г瓩蕕譴此結局、上記△良集充圓痢崕颪たい」という自己欲求の価値と、その表現対象者の「書かれたくない」という静的利益との調整に帰着することになるが、公権力や他者からの干渉を排除することが基本的人権のベースであると考える場合、表現者は、他人の家に土足で入り込むような表現行為は避けなければならず、そう解しても、表現の自由に対する不当な制限にならないのではないか。