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2010年06月04日

インターネット・メディアにおける表現の自由


機ゥぅ鵐拭璽優奪函Ε瓮妊アにおける変容
1 問題の所在
   現実社会における法が、ネットワーク社会において変容されるか。
2 ネット上における「対抗言論」(more speech)
 1)「名誉は毀損されても対抗言論により回復しうるので、結果として名誉毀損は生じない」(高橋和之教授)
インターネット・メディアにおいては、紙面、放送時間、情報伝達範囲、コスト等の物理的制約が少なく、自由な反論をなし得る環境にあると言えるのではないか。
対抗言論を課す条件として、‥事者が対等な言論手段を有していること、反論の負担を要求しても不公平とはいえない事情が存することが必要。
 2)射程範囲の検討
・人種差別的表現や前科・前歴に関わる情報などについては、果たして反論することに意味があるのかどうか?
・事実の摘示による名誉毀損の場合は事実の真偽はわからず、意見ないし論評の表明による名誉毀損の場合に限られるのか?
・ネット上において反論することは、いわゆる「フレーミング(flaming)」や「祭り」を招くだけではないのか?
 3) 実務的対処法
・「人を見て、法を説け。」
文書(書面)  ←→  口頭(面談)
 話す速度   早い ←→ ゆっくり 
・イソップ物語「北風と太陽」
・「窮鼠猫を噛む」
3 各論(修正原理を考えるべきか)
 1)公職選挙法
  文書図画の頒布制限(法142条)の立法趣旨(立法事実)は?
  Q ネット上での選挙活動の自由を広く認め得ないのか?
 2) 商業的表現の自由
  ダイレクトメール(郵便物)と異なり、スパム(迷惑メール)は、受信者のシステムのリソース(電気代、メモリー容量)や時間を不当に奪っている。
2008年6月6日 「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律の一部を改正する法律案」公布
 第3条(特定電子メールの送信の制限)
 送信者は、次に掲げる者以外の者に対し、特定電子メールの送信をしてはならない。
 一 あらかじめ、特定電子メールの送信をするように求める旨又は送信をすることに同意する旨を送信者又は送信委託者(電子メールの送信を委託した者(営利を目的とする団体及び営業を営む場合における個人に限る。)をいう。以下同じ。)に対し通知した者
 二 前号に掲げるもののほか、総務省令で定めるところにより自己の電子メールアドレスを送信者又は送信委託者に対し通知した者
 三 前二号に掲げるもののほか、当該特定電子メールを手段とする広告又は宣伝に係る営業を営む者と取引関係にある者
 四 前三号に掲げるもののほか、総務省令で定めるところにより自己の電子メールアドレスを公表している団体又は個人(個人にあっては、営業を営む者に限る。)
の他のこれに類する場合として総務省令で定める場合は、この限りでない。
 3) 少年法61条(記事等の掲載の禁止)
  氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。
 「本条は、罪を犯した少年に実名で報道されない権利を付与したものではなく、表現の自由との関係で同条が当然に優先するとは解されないから、社会の正当な関心事である重大事犯について実名報道することが直ちに権利侵害にはならず、少年の顔写真掲載も、表現内容・方法として不当なものとはいえず、不法行為に当たらない」(大阪高判平成12年2月29日、判時1710号121頁)
  →出版物ではないインターネット上の表現でも適用あるいは類推適用されるべきであろうか。

供ゥぅ鵐拭璽優奪函Ε瓮妊アにおけるプロバイダーの地位
1 プロバイダー(電気通信事業者)の性質論
  内容に関知しているか、内容に関知していないか。
2 外国の立法
 1) 米国
 「1998年デジタルミレニアム著作権法」Digital Millennium Copyright Act(DMCA)
米国では、著作権侵害に関し直接責任が問われる場合には、損害賠償義務は故意・過失がなくても発生するため、「デジタル・ミレニアム著作権法(DMCA)」において、サービス・プロバイダーの法的責任に関する規定を設け、ルールを明確化した。具体的には、ユーザーによりアップロードした素材の蓄積、システム・キャッシングにおける中間的・一時的蓄積などに関し、サービス・プロバイダーについて一定要件の下、著作権侵害による金銭的責任を免除している。
 また、ノーティス・テイクダウン(通知及び削除)の免責のための要件を規定し、サービス・プロバイダーは、著作権者から一定要件を備えた著作権侵害主張の通知を受けた場合、速やかに素材を削除し、アクセスを禁止しなければならない。
 2) EU指令(EUディレクティブ)
EUは、2000年(平成12年)5月に欧州議会で承認された「電子商取引の法的側面に関するEU指令案」において、著作権だけでない分野横断的な視点から、サービス・プロバイダーの法的責任について規定している。
3 日本の裁判例
 1)ニフティ現代思想フォーラム事件(東京地裁平成9年5月25日、判時1610号22頁)
 管理者の責任について、サービスの利用に際して、その中での会員相互のやりとりの内容にまで契約上の責任が当然に生じるとは言えないが、明らかな名誉毀損的表現を認知した者は、条理上の削除すべき立場に立つとして、一部についての責任を肯定。
書き込みを行った者に対し50万円、プロバイダー、シスオペに対し10万円の慰謝料請求を認めた。
 2)都立大学事件(東京地裁平成11年9月24日、判時1707号139頁)
・3,000円ずつの損害賠償義務を認定。
「名誉毀損文書に該当すること、加害行為の態様が甚だしく悪質であること及び被害の程度も甚大であることなどが一見して明白であるような極めて例外的な場合に限られるというべきである」
 3)ニフティサーブ・現代思想フォーラム事件(東京高裁平成13年9月5日)
1)の控訴事件
「シスオペは、フォーラムの運営及び管理上、運営契約に基づいて当該発言を削除する権限を有するにとどまらず、これを削除すべき条理上の義務を負う」としたが、「議論の積み重ねにより発言の質を高めるとの考えに従って本件フォーラムを運営しており、このこと自体、思想について議論することを目的とする本件フォーラムの性質を考慮すると、運営方法として不当なものとすることはできない」として、その責任を否定した。
Q 本件は、会員制のパソコン通信に関する事例であるが、インターネット上の電子掲示板の場合に、何か理論的な違いがあるであろうか。
Q 本件は、「対策を講じても、なお奏功しない等一定の場合」に作為義務の一種である削除義務が成立するとしているが、シスオペとして、どのような対策が考えられるであろうか。
Q シスオペには、常時監視義務まではないとされているが、毎日、真面目にモニタリング(チェック)をすればするほど、いくつもの問題のある書き込みを知るようになってしまい、かえってその責任が重くなってしまうのは、不合理であるとは言えないであろうか。
 4)日本生命仮処分事件(東京地裁平成13年8月31日)
匿名による書き込みにより、日本生命に対する誹謗中傷的発言が繰り返されたケースについて、2ちゃんねるの管理者に対し、債権者の主張をほぼすべて認める形で、特定された書き込みについての削除が命じられた。
 5)ニフティサーブ・本と雑誌フォーラム事件(東京地裁平成13年8月27日)
「言論による侵害に対しては、言論で対抗するというのが表現の自由(憲法21条1項)の基本原理であるから、被害者が、加害者に対し、十分な反論を行い、それが功を奏した場合は、被害者の社会的評価は低下していないと評価することが可能である」とし、対抗言論というべき判断を尊重し、発言を総合的に判断し、不法行為を構成しないものと判示した。
Q 原告は、なぜニフティサーブに対し、Aの氏名、住所の開示を求めたのであろうか。
Q 先行する名誉毀損的言明に対してなされた後行の名誉毀損的言明につき、刑法上の正当防衛と考えることはできるであろうか。
Q 反論すればなにゆえに被害者の社会的評価は低下していないということになるのであろうか。
 6)2ちゃんねる・動物病院事件(東京地裁平成14年6月26日、判時1810号78頁)
 「本件掲示板における発言によって名誉権等の権利を侵害された者は、前記のとおり、Yが、利用者のIPアドレス等の接続情報を原則として保存していないから、当該発言者を特定して責任を追及することが事実上不可能であり、しかも、Yが定めた削除ガイドラインもあいまい、不明確であり、また、他に本件掲示板において違法な発言を防止するための適切な措置を講じているものとも認められないから、設置・運営・管理しているYの責任を追及するほかないのであって、このようなYを相手方とする訴訟において、発言の公共性、目的の公益性及び真実性が存在しないことを削除を求める者が立証しない限り削除を請求できないのでは、被害者の被害を回復する方途が著しく狭められ、公平を失する結果となる。」
 「このことからすれば、本件において、本件各発言に関する真実性の抗弁、相当性の抗弁についての主張・立証責任は、管理者であるYに存するものと解すべきであり、本件各発言の公共性、公益目的、真実性等が明らかではないことを理由に、削除義務の負担を免れることはできないというべきである。」
「被告は、本件掲示板上の発言を削除することが技術的に可能である上、通知書、本件訴状、請求の趣旨訂正申立書等により、本件1ないし3のスレッドにおいて原告らの名誉を毀損する本件各名誉毀損発言が書き込まれたことを知っていたのであり、これにより原告らの名誉権が侵害されていることを認識し、又は、認識し得たのであるから、プロバイダー責任法3条1項に照らしても、これにより責任を免れる場合には当たらないというべきである」
 「本件各名誉毀損発言の書き込みをしたのは、複数人と思われる匿名の者であり、被告自身が本件各名誉毀損発言の書き込みに直接関与したものとは認められないことなどの事情を考慮しても、被告が本件各名誉毀損発言を削除するなどの措置をとらなかったことにより、原告らが被った精神的損害、経営上の損害は、各200万円を下らないものと認めるのが相当である。」
 7)2ちゃんねる・動物病院事件(東京高裁平成14年12月25日、メ百選113)
  6)の控訴事件
  控訴棄却。言論に対しては言論をもって対処することにより解決を図ることが望ましいことはいうまでもないが、それは、対等に言論が交わせる者同士であるという前提があって初めていえることであり、このような言論による対処では解決を期待することができない場合があることも否定できないとし、削除義務に違反しているとした。
Q 匿名の表現の自由を確保することはなぜ健全な民主主義の発展のためには不可欠と言えるのか?
Q プロバイダーに、真実性、相当性の抗弁についての主張立証責任を負わせることは酷ではないのか?
Q 本件において、比較的高額な200万円もの損害賠償請求が認められた理由は何であろうか?
4 立法
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律
(いわゆる「プロバイダー責任制限法」)
平成14年6月26日施行