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2010年03月24日
 ■ ネット上の名誉毀損の判断基準(最高裁)

平成22年3月15日、インターネット上の表現行為に関する名誉毀損罪の成否につき、最高裁は、注目すべき判決を下しました。
個人ユーザーにおきましても、厳格な基準で名誉毀損罪の成否を検討するという立場が明らかにされましたので、注意が必要です。

(最高裁判決の抜粋)
 所論は,被告人は,一市民として,インターネットの個人利用者に対して要求される水準を満たす調査を行った上で,本件表現行為を行っており,インターネットの発達に伴って表現行為を取り巻く環境が変化していることを考慮すれば,被告人が摘示した事実を真実と信じたことについては相当の理由があると解すべきであって,被告人には名誉毀損罪は成立しないと主張する。
 しかしながら,個人利用者がインターネット上に掲載したものであるからといって,おしなべて,閲覧者において信頼性の低い情報として受け取るとは限らないのであって,相当の理由の存否を判断するに際し,これを一律に,個人が他の表現手段を利用した場合と区別して考えるべき根拠はない。そして,インターネット上に載せた情報は,不特定多数のインターネット利用者が瞬時に閲覧可能であり,これによる名誉毀損の被害は時として深刻なものとなり得ること,一度損なわれた名誉の回復は容易ではなく,インターネット上での反論によって十分にその回復が図られる保証があるわけでもないことなどを考慮すると,インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても,他の場合と同様に,行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り,名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって,より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきものとは解されない(最高裁昭和41年(あ)第2472号同44年6月25日大法廷判決・刑集23巻7号975頁参照)。
 これを本件についてみると,原判決の認定によれば,被告人は,商業登記簿謄本,市販の雑誌記事,インターネット上の書き込み,加盟店の店長であった者から受信したメール等の資料に基づいて,摘示した事実を真実であると誤信して本件表現行為を行ったものであるが,このような資料の中には一方的立場から作成されたにすぎないものもあること,フランチャイズシステムについて記載された資料に対する被告人の理解が不正確であったこと,被告人が乙株式会社の関係者に事実関係を確認することも一切なかったことなどの事情が認められるというのである。
 以上の事実関係の下においては,被告人が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があるとはいえないから,これと同旨の原判断は正当である。

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2010年03月14日
 ■ 新聞社における情報管理体制

日本経済新聞社における従業員によるインサイダー取引に関し、同社の取締役らの責任が問われた事件において、東京地裁は、一般論として「株式会社の取締役は、会社の事業の規模や特性に応じて、従業員による不正行為などを含めて、リスクの状況を正確に把握し、適切にリスクを管理する体制を構築し、また、その職責や必要の限度において、個別リスクの発生を防止するために指導監督すべき善管注意義務を負うものと解される。」「補助参加人(日経新聞社)は、経済情報を中心として日経新聞など5紙をお発行する我が国有数の報道機関であり、その報道機関としての性質上、多種多様な情報を大量に取り扱っており、その従業員は、報道部門や広告部門なども含めて、業務遂行上、秘密性のある情報や未公表情報などのインサイダー情報に接する機会が多いといえる。したがって、補助参加人の取締役としては、それらの事情を踏まえ、一般的に予見できる従業員によるインサイダー取引を防止し得る程度の管理体制を構築し、また、その職責や必要の限度において、従業員によるインサイダー取引を防止するために指導監督すべき善管注意義務を負うものと解される。」としつつ、本件においては、クローズドシステムが構築されていたこと、情報管理規定が制定され、同規定に基づいた運用がなされていたこと等の事情を勘案し、「情報管理体制は、情報管理に関して、一般的にみて合理的な管理体制であった」と判示した。

(判例時報2064号139頁)

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