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2010年05月09日

プライバシー権に関する一考察

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 1 背景事情
 いわゆる Yellow Journalism(新聞の発行部数等を伸ばすために、「事実報道」よりも「扇情的である事」を売り物とする形態のジャーナリズムのこと。)が跋扈するメディア状況において、個人に関する事柄が公開されないように保護する必要があると考えられるにようになってきた。
 1890年、ウォーレン、ブランダイズは、その著書「The Right to Privacy」において、「ひとりでほっておいてもらう権利」(Right to be let alone)を提唱した。

 2 プロッサー教授による分類
 米国の判例を分析、整理し、次の4類型に分けられるとした(1960年、佐伯仁志「プライヴァシーと名誉の保護」、伊藤正己「プライバシーの権利」参照)。
   峪篝験茲悗凌入」
  ◆峪篁の公開」
  「誤認を生ずる表現」  ex.○○教の信者である、○○病である
  ぁ峪篁の営利的利用」

供テ本におけるプライバシー概念
 1「宴のあと」事件(東京地裁昭和39年9月28日)
 作家三島由紀夫のモデル小説「宴のあと」に関し、元外務大臣がプライバシー侵害を理由に、謝罪広告および損害賠償を請求する訴訟を提起した事件。 
 なお、「モデル小説」とは、実在の事実の枠組みを借用しつつ、それを換骨奪胎して著者個人の美意識や思想を表現する小説のことを言う。
「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」と定義し、法的救済を与えるための要件を次の3つであるとした。
 (イ)私生活上の事実、または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがら
 (ロ)一般人の感受性を基準にして、当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないであると認められることがら
 (ハ)一般の人々に、まだ知られていないことがらであること、(このような公開によって当該私人が実際に不快、不安の念を覚えたこと)
 プライバシーという表現は用いていないが、「前科及び犯罪経歴は、人の名誉信用に直接かかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」と判示しており、ここにいうみだりに公開されない法律上の利益は、従来の名誉・信用の法概念とは別個の法律上の利益であり、少なくともプライバシーの一部を不法行為法の保護法益として容認したものと言える。

 2 表現の自由との調整
 ・一般的に、プライバシー侵害の場合、真実性の証明に基づく免責は認められないという見解。
 ・名誉毀損とプライバシー侵害につき、下記の同じ免責法理で考えてもよいという見解(佃克彦「プライバシー権・肖像権の法律実務」169頁)
  〔祥脊迷察▲廛薀ぅ丱掘漆害言論は、原則的には真実であっても言ってはならない。
  △靴し、公的言論であれば、それが「真実性」「相当性」を満たす限り言ってもよい。
  B省、「真実性」「相当性」がないことは言ってはならない。

 3 現代のプライバシー概念
  ・「社会がコンピュータ時代に入り、そこに収集される自己に関する情報について、個人がどのような権利をもち得るかがプライバシー保護の主要な関心事となり、アメリカをはじめとする諸外国でプライバシー保護立法が制定されつつある現在であれは、プライバシーの権利は、『ひとりにしておいてもらう権利』という消極的定義にとどまらず、同時に、『自己に関する情報の流れをコントロールする権利』という積極的な定義を必要とすると解されている」(竹田稔「名誉・プライバシー侵害に関する民事責任の研究」5頁)
  現代の積極国家化と技術の進歩により、行政や企業が膨大な情報を収集・保有・利用するシステムを構築している状態がプライバシーに対する脅威となっているという問題意識を背景にしている。
  ・情報コントロール権説(佐藤幸治)
「個人が道徳的自立の存在として、自ら善であると判断する目的を追求して、他社とコミュニケートし、自己の存在にかかわる情報を開示する範囲を選択できる権利」(憲法〔新版〕408頁)
  ・自己イメージのコントロール権説(棟居快行)
  ・社会的評価からの自由説(阪本昌成)

 4 社会的評価との関係
 私生活などをみだりに公開されないという点に重点を置き、社会的評価の低下があったか否かは問われない。 
 プライバシーは、「自分に関する」情報が他者に知られてしまった「段階」で害されるものであるが、それに対して、名誉は、自分に関する情報が社会に流布(つまり公開)された結果として「自分の社会的評価」が傷ついてしまった「場合」に害される」(小林節「名誉権・プライバシーの権とその保護」ジュリスト884号194頁)

 5 各法令におけるプライバシー保護
 信書開披罪、秘密漏泄罪、住居侵入罪、軽犯罪法違反、郵便法、電気通信事業法、ストーカー行為規制法、個人情報保護法 etc.

 6 プライバシーは、なぜ守られる必要があるのか?
  真実のことである限り、すべての情報をオープンにしてもよいはずと割り切れないのは、なぜであろうか?
  「人間にとって最も基本的な、愛、友情および信頼の関係にとって不可欠の環境の充足」(佐藤幸治)
  「人間そのものが大切なのではなく、人間関係が大切なのである。」

掘ド集修亮由とプライバシー保護との調整
 1 ノンフィクション事件
 ノンフィクションとは、ジャーナリズムの一種であり、細部に至るまで事実にこだわり、本質的に「事実に語らせる」ことによって、単なるニュース伝達の枠を超えて、時代や人間の本質に迫ろうという要素をもつ小説のことをいう。
  ・「逆転」事件(最高裁平成6年2月8日)
   被告が陪審員をしていた経験に基づき、ノンフィクション小説「逆転」を書いたことがプライバシー侵害になるかどうかが争われた事件。
   1審東京地裁は、「社会の構成員が一定の事実を知ることに正当な関心をもち、それを知ることが社会全体の利益になるような場合(=公共性のある場合)に公益を図る目的でその事実(私的事柄)を公表したときには、私的事柄の公表が公の利益になるものとして右の公表する行為は許容されるべきである」として、慰謝料50万円を認めた。
   2審東京高裁も、控訴棄却。
最高裁は、「その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性を併せて判断し、右に前科等にかかわる事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するときは、右の者は、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる」として、原審を認容し、上告を棄却した。
いわゆる利益衡量論を採用した。

2 モデル小説事件
(1) 裁判例
 ・東京地判平成7年5月19日(判時1550号49頁)
  小説「名もなき道を」につき、「一般読者をして小説全体が作者の芸術的創造力の生み出した創作であって虚構であると受け取られるに至っている場合には、名誉・プライバシー侵害」とはならないとし、「実在人物の行為・性格がそのまま叙述されていて真実であると受け取る読み方をすることはないと考えられる」とした。
 ・大阪高判平成9年10月8日(判時1631号80頁)
 小説「捜査一課長」につき、「本件小説は、素材事実と虚構事実が渾然一体となり、その演繹的事実として、一般読者に対し、モデルとされた者が『甲山事件』をモデルとする本件小説の殺人事件の犯人であり、ひいては『甲山事件』の犯人であるとの印象を与え、右事実をその骨格的要素として摘示することにより、モデルとされた者の社会的評価を低下させ、その名誉を侵害するものである」として、約80万円の損害賠償を認めた。
 ・「石に泳ぐ魚」事件(最高裁平成14年9月24日、メ百選74)
  小説「石に泳ぐ魚」につき、東京地裁は、「読者にとって、右の記述が、モデルに関わる現実の事実であるか、作者が創作した虚構の事実であるかを截然と区別することができない場合においては、小説中の登場人物についての記述がモデルの名誉を毀損し、モデルのプライバシー及び名誉感情を侵害する場合がある」として、名誉毀損等の成立を認め、最高裁も上告棄却を行った。

 (2) 考慮要素
  a) 登場人物と実在人物との同定可能性
    著名ではなくても、実在人物を想起させる表現がなされれば、必ずその人物の周囲の一定の人間はその人物を想起するものであるから、同定可能性の要件は満たされる。
  b) 創作性・虚構性と社会的評価の低下
    一般的に、社会的評価の低下があったか否かは問われない。

3 プライバシー侵害の判断基準
 (1) 学説
 ・プライバシー侵害では、真実性の証明が言論を正当化することにはならず、一旦侵害されたプライバシーの回復が不可能であること、プライバシー侵害では市場の自由競争での自力救済手段を持ち得ないこと、一般的に価値が高くない性質の言論であることなどを根拠に、プライバシー侵害を名誉毀損の言論よりも厳しく制限すべきとする説も有力。 
 ・”集醜坩戮社会の正当な関心事であること、△修良集銃睛読集淑法が不当なものでないことの要件が満たされる場合には、表現行為は違法性を欠き、プライバシー侵害とはならない(竹田稔)。
 (2) 比較衡量のアプローチ
  ・東京高裁平成13年7月18日(判時1751号75頁)
   報道に関して、考慮すべき要素として、
    崚該報道の意図・目的(公益を図る目的か、興味本位の私事暴露が目的かなど)」
   ◆屬海譴箸隆愀犬濃篝験莨紊了実や個人的情報を公表することの意義ないし必要性(これをしなければ公益目的を達成することができないかなど)」
   「情報入手手段の適法性・相当性(例えば盗聴などの違法な手段によって入手したものかなど)」
   ぁ峙事内容の正確性(真実に反する記述を含んでいるかなど)」
   ァ崚該私人の特定方法(実名・仮名・匿名の別など)」
   Α嵒集淑法の相当性(暴露的・侮辱的表現か、謙抑的表現かなど)」
  プライバシーに関して、考慮すべき要素として、
    峺表される私生活上の事実や個人的情報の種類・内容(どの程度に知られたくない事実・情報なのか、既にある程度知られている事実・情報かなど)」
   ◆崚該私人の社会的地位・影響力(いわゆる公人・私人の別、有名人か無名人かなど)」
   「その公表によって実際に受けた不利益の態様・程度(どの範囲の者に知られたか、どの程度の精神的苦痛を被ったかなど)」
  等を考慮すべきとした。

 4 私見
  表現の自由につき、優越的地位が認められるのは、ー己統治の価値と⊆己実現の価値があるからであるが、政治的・公益目的の表現でない場合には、上記,硫礎佑惑Г瓩蕕譴此結局、上記△良集充圓痢崕颪たい」という自己欲求の価値と、その表現対象者の「書かれたくない」という静的利益との調整に帰着することになるが、公権力や他者からの干渉を排除することが基本的人権のベースであると考える場合、表現者は、他人の家に土足で入り込むような表現行為は避けなければならず、そう解しても、表現の自由に対する不当な制限にならないのではないか。