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2010年05月24日

マス・メディアの媒体責任論

マス・メディアの性質論
 ある被害者や市民からのいわゆるマス・メディアに対するアクセス権につき検討する場合、マス・メディアに対する表現の自由の侵害や萎縮的効果(chilling effect)につき検討する必要がある。
また、新聞社、雑誌社、放送局、インターネット等には、自由な言論を支えるインフラとしての公共的な側面があるといえるが、他方、それぞれの媒体の性質の違いが存する。たとえば、訂正や謝罪を行う場合、新聞紙面や地上波の放送時間帯については物理的な制約があると考えられるが、たとえばCATV、衛星放送あるいはインターネットについては、物理的な制約につきあまり考える必要はないのではないか。

新聞社に対する反論文掲載請求
 1 問題の所在
  マス・メディアに対する自由の制約にならないか?
 2 反論権(アクセス権)の背景
  近代社会においては、表現の送り手と受け手の立場の互換性があったが、現代社会においては、少数のマス・メディアが報道をほぼ寡占しており、一般国民には、広い範囲の公衆に対して表現を行う機会が失われていると認識されるようになった(いわゆる表現の送り手と受け手の分離)。
  そこで、あらためて一般公衆に情報の送り手としての地位をさせようという見解が有力に主張されるようになってきた。
 3 反論権の概念
 (狭義)名誉毀損の成立を前提とし、名誉を回復する手段として、無料で反論の掲載等を求める権利(民法723条)
 (広義)必ずしも名誉毀損の成立を前提とせず、無料で反論の掲載等を求める権利(明文規定なし)
 4 狭義の反論権
  民法723条の「名誉を回復するのに適当な処分」に、反論文の掲載請求まで含まれるかどうかが問題となる。
 5 広義の反論権
  (1) 理論的根拠
 現代では、マス・メディアの集中・独占化が進み、多くの人々にとってマス・メディアへのアクセスが困難になっていることを問題視し、国家は、「自由な言論空間」を確保すべき責務を負っているとする。
  (2) 問題点
 広義の反論権を認めるということは、むしろ「自由な言論空間」を確保するという目的に反することになるのではないか。
 萎縮的効果(chilling effect)
 具体的な成文法が存在しない。
 6 サンケイ新聞事件判決(最高裁昭和62年4月24日)
  「反論権の制度は、民主主義社会に・・・に対し重大な影響を及ぼすもの」であり、たとえ新聞記事が「特定の者の名誉ないしプライバシーに重大な影響を及ぼすことがあるとしても、不法行為が成立する場合にその者の保護を図ることは別論として、反論権の制度について具体的成文法がないのに、反論権を認めるに等しい上告人主張のような反論文掲載請求権をたやすく認めることはできない。」
  上告人の名誉が毀損され不法行為が成立したとすることはできない。

掘…正放送請求
 1 問題の所在
 放送法第4条(訂正放送等)
 放送事業者が真実でない事項の放送をしたという理由によって、その放送により権利の侵害を受けた本人又はその直接関係人から、放送のあつた日から3箇月以内に請求があつたときは、放送事業者は、遅滞なくその放送をした事項が真実でないかどうかを調査して、その真実でないことが判明したときは、判明した日から2日以内に、その放送をした放送設備と同等の放送設備により、相当の方法で、訂正又は取消しの放送をしなければならない。
放送事業者がその放送について真実でない事項を発見したときも、前項と同様とする。
前2項の規定は、民法 (明治二十九年法律第八十九号)の規定による損害賠償の請求を妨げるものではない。
(問題点)
・被害者が放送事業者に対し、放送法4条1項の規定に基づく訂正または取消しの放送を求める私法上の権利を有するか否か。
・民法723条に基づく謝罪放送について、憲法19条や21条に反しないか。
Q 放送法4条3項をどのように解釈すべきであろうか。民法723条と放送法4条1項の関係につき、どのように考えるべきであろうか。
 2 学説
  否定説(多数説)の根拠
 ・裁判所が訂正放送等を命ずることができる旨の明文規定が存しない。
 ・立法の沿革
 ・放送事業者の番組編集の自由に対する重大な侵害となる。
 ・民法723条との均衡を失する。
 3 判例
 「生活ほっとモーニング」事件(最高裁平成16年11月25日)
 「放送事業者に対し、自律的に訂正放送等を行うことを国民全体に対する公法上の義務として定めたものであって、被害者に対して訂正放送等を求める私法上の請求権を付与する趣旨の規定ではない。」
 「法4条1項は・・・放送事業者が当該放送の真実性に関する調査及び訂正放送等を行うための端緒と位置づけているものと解するのが相当であって、これをもって、上記の私法上の請求権の根拠と解することはできない。」

検/景更告の媒体責任
 1 マス・メディアの媒体責任につき争われた事例
 ・全国紙に掲載された分譲マンションの広告に関して新聞社等の責任が問われた事件(下記判例)
 ・地方紙「大阪スポーツ」に掲載されたサラ金広告に関し、新聞社の責任が否定された事件(大阪地裁平成9年11月27日、判時1654号67頁)
 ・月刊誌「ニュー共済ファミリー」に掲載された分譲地の広告が悪用され、月刊誌の発行者の不法行為責任が肯定された事件(東京地裁昭和60年6月27日、判時1199号94頁)
 ・関西版「ぴあ」の広告の誤りにつき、不法行為責任が肯定された事件(大阪高裁平成6年9月30日、判時1516号87頁)
 ・投資ジャーナルグループがテレビ番組のテロップを悪用したケースにつき、テレビ神奈川の責任を否定した事件(東京地裁平元年12月25日、メ百選66)
 2 問題の所在
  新聞社は、単に紙面(広告すべき場所)を提供しただけであり、内容については一切関知していないとして責任を問われる場合はないと考えられるかどうか。
また、新聞記事の部分と広告の部分とで、注意義務の程度にどのような違いがあるであろうか。
 3 判例
 「日本コーポ」事件(最高裁平成元年9月19日)
 (1) 注意義務違反が存するか否か
 「掲載等をした当時、広告主であるAが広告商品である前記建物を竣工する意思・能力を欠く等、広告内容の真実性について社会通念上疑念を抱くべき特別の事情があって読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し、又は予見しえたのに、真実性の調査確認をせずにその掲載等をしたものとは認められない。」
 (2) 注意義務の程度
「広告掲載に当たり広告内容の真実性を予め十分に調査確認した上でなければ新聞紙上にその掲載をしてはならないとする一般的な法的義務が新聞社等にあるということはできない。」