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2006年01月16日

三越株主代表訴訟事件

株式会社三越の株主である原告が、取締役に対し、千葉興銀等に対し損害賠償請求を行わなかったことにつき、善管注意義務違反の存否が争われた事件である。
本件に関し、東京地裁(平成16年7月28日)は、「会社が特定の債権を有し、ある一定時点においてその全部又は一部の回収が可能であったにもかかわらず、取締役が適切な方法で当該債権の管理・回収を図らずに放置し、かつ、そのことに過失がある場合において、取締役に善管注意義務違反が認められる余地があるというべきである」もっとも、債権管理・回収の具体的方法については、債権の存在の確度、債権行使による回収の確実性、回収可能利益とそのためのコストとのバランス、敗訴した場合の会社の信用毀損のリスク等を考慮した専門的かつ総合的判断が必要となることから、その分析と判断には、取締役に一定の裁量が認められると解するのが相当である」「取締役の裁量の逸脱があったというためには、取締役が訴訟を提起しないとの判断を行った時点において収集された又は収集可能であった資料に基づき、?当該債権の存在を証明して勝訴し得る高度の蓋然性があったこと、?債務者の財産状況に照らし勝訴した場合の債権回収が確実であったこと、?訴訟追行により回収が期待できる利益がそのために見込まれる諸費用等を上回ることが認められることが必要」「これに加えて、、、訴訟提起を行った場合に会社が現実に回収し得た具体的金額の立証も必要である」と判示し、本件においては勝訴し得る高度の蓋然性及び債権回収の確実性があったとは認められないとして、原告の請求を棄却したものである。なお、東京高裁も控訴を棄却し、最高裁も上告棄却したため、判決が確定した。
(金融法務事情1759号62頁)