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2013年01月03日

「ケイコとマナブ」事件(東京地裁平成16年3月30日)

 ビジネスあるいは社会常識的な価値観と法律的な価値観とでは、結論が異なる場合がよくあります。例えば、「真似をするのは、よくない」「二番煎じじゃあないか」というのが常識的には言えても、レイト・ラインナーの経済活動を法律で規制すべきかどうかは、別の問題となります。

 リクルート社の「ケイコとマナブ」というスクール情報誌の著作権侵害が争われたケースも、まさにそのような事案と言えそうです。東京地裁は、下記のように判示して、編集著作物の侵害とは認めませんでした。

                   記

 著作権法12条に規定する編集著作物は,あくまでも具体的な編集物に具現化された編集方法を保護するものであって,具体的な編集対象物を離れた,編集方法それ自体をアイデアとして保護するものではない。原告は,抽象的な「学ぶ内容」(カプセルとして設定された項目),あるいはツメ見出しの項目及びカプセルの項目がそれぞれ編集著作物の素材となり得るものと主張するが,これらの項目は,あくまでも具体的な広告記事を分類配列するための指標にすぎず,これらを関連付けしたものは,抽象的な体系的構成ということはできるにしても,編集著作物ということはできない。具体的な編集対象物を離れた体系的な構成は,データベースの著作物(著作権法12条の2)として保護されることがあるとしても,編集著作物として保護されることはない。原告の主張は,データベースの著作物と編集著作物を区別しないで論ずるものであって失当である。

 原告は,スーパーインデックスにおいて大分類,小分類を設け,これを関連付けた編集体系そのものが,編集著作物として保護されると主張するが,スーパーインデックスにおいて記載されている具体的なスクール名及び当該スクールの広告記事掲載ページを離れて,当該分類体系自体が編集著作物となる旨の原告の主張は,上記(4)において説示したところと同様の理由により,失当といわざると得ない。したがって,スーパーインデックスにつき,大分類及び小分類による分類体系自体を編集著作物と主張して,これと同様の分類体系による索引を掲載した情報誌の製作・発売等の差止めを求める原告の請求は,その前提を欠くものであり,理由がない。

 原告は,スーパーインデックスにおいて大分類,小分類を設け,これを関連付けた編集体系そのものが,編集著作物として保護されると主張するが,スーパーインデックスにおいて記載されている具体的なスクール名及び当該スクールの広告記事掲載ページを離れて,当該分類体系自体が編集著作物となる旨の原告の主張は,上記(4)において説示したところと同様の理由により,失当といわざると得ない。したがって,スーパーインデックスにつき,大分類及び小分類による分類体系自体を編集著作物と主張して,これと同様の分類体系による索引を掲載した情報誌の製作・発売等の差止めを求める原告の請求は,その前提を欠くものであり,理由がない。

 原告通学アイコン一覧表及び原告通信アイコン一覧表は,原告各情報誌に掲載されている広告記事中に用いられているこれらのアイコンについて,まとめてその意味を説明するいわば「凡例」であり,個別のアイコンを素材とする編集著作物ととらえ得るとしても,上記各アイコン一覧表は,素材たるアイコンの選択又は配列において創作性を認め得るものではないから,編集著作物と認めることはできない(さらにいえば,原告各情報誌(平成14年4月号)に掲載されている原告通学アイコン一覧表及び原告通信アイコン一覧表と,別紙「雑誌目録」記載の被告各情報誌における通学アイコン一覧表及び通信アイコン一覧表を比較すると,アイコンの個数,種類及び名称並びにその配列の順序は完全に一致するものではなく,異なる部分も存在するものであるから,両者を類似すると直ちに認めることはできないのであり,この点からも原告の主張は失当である)。


 以上のような法律判断としてはやむを得ないものと思いますが、「本当にそれでいいのだろうか」と少し違和感を覚える結論であり、先行者の利益をどう図り、また、自由な経済的活動や表現の自由をどう確保していくのか、難しい問題と言えます。