« 「改正独禁法の論点から(上)」 白石忠志教授 | TOP | 遺産分割協議中の賃料債権帰属事件 »

2006年02月01日

キャノン・インクタンク事件

 本件訴訟において,被控訴人は,被控訴人製品のうち,我が国の国内において販売された控訴人製品にインクを再充填するなどしたものについては,本件特許権が消尽したことにより,控訴人は本件特許権に基づく差止め及び廃棄請求権を行使することはできないと主張し,控訴人は,その工程等に照らせば,改めて本件発明10に係る生産方法を実施して本件発明1の技術的範囲に属する製品を新たに生産する行為により製造されたものであるから,被控訴人製品について控訴人が本件特許権に基づく権利行使をすることは妨げられないと主張して争われた事件である。
 本件につき、知財高裁は、「特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国の国内において当該特許発明に係る製品(以下「特許製品」という。)を譲渡した場合には,当該特許製品については特許権はその目的を達したものとして消尽し,もはや特許権者は,当該特許製品を使用し,譲渡し又は貸し渡す行為等に対し,特許権に基づく差止請求権等を行使することができないというべきである(BBS事件最高裁判決参照),(ア) 当該特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後に再使用又は再生利用がされた場合(以下「第1類型」という。),又は,(イ) 当該特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合(以下「第2類型」という。)には,特許権は消尽せず,特許権者は,当該特許製品について特許権に基づく権利行使をすることが許されるものと解するのが相当である。その理由は,第1類型については,? 一般の取引行為におけるのと同様,特許製品についても,譲受人が目的物につき特許権者の権利行使を離れて自由に業として使用し再譲渡等をすることができる権利を取得することを前提として,市場における取引行為が行われるものであるが,上記の使用ないし再譲渡等は,特許製品がその作用効果を奏していることを前提とするものであり,年月の経過に伴う部材の摩耗や成分の劣化等により作用効果を奏しなくなった場合に譲受人が当該製品を使用ないし再譲渡することまでをも想定しているものではないから,その効用を終えた後に再使用又は再生利用された特許製品に特許権の効力が及ぶと解しても,市場における商品の自由な流通を阻害することにはならず,? 特許権者は,特許製品の譲渡に当たって,当該製品が効用を終えるまでの間の使用ないし再譲渡等に対応する限度で特許発明の公開の対価を取得しているものであるから,効用を終えた後に再使用又は再生利用された特許製品に特許権の効力が及ぶと解しても,特許権者が二重に利得を得ることにはならず,他方,効用を終えた特許製品に加工等を施したものが使用ないし再譲渡されるときには,特許製品の新たな需要の機会を奪い,特許権者を害することとなるからである。また,第2類型については,特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合には,特許発明の実施品という観点からみると,もはや譲渡に当たって特許権者が特許発明の公開の対価を取得した特許製品と同一の製品ということができないのであって,これに対して特許権の効力が及ぶと解しても,市場における商品の自由な流通が阻害されることはないし,かえって,特許権の効力が及ばないとすると,特許製品の新たな需要の機会を奪われることとなって,特許権者が害されるからである。」と判示した。
(最高裁HP、知財高裁平成17年1月31日、平成17年(ネ)第10021号 特許権侵害差止請求控訴事件)