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2017年12月05日

最高裁「シートカッター」事件判決(平成29年7月10日)

 原告(特許権者)が被告からの無効の抗弁に対して訂正の再抗弁を提出した事案につき、最高裁は「特許権者が,事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず,その後に訂正審決等が確定したことを理由に事実審の判断を争うことは,訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情がない限り,特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものとして,特許法104条の3及び104条の4の各規定の趣旨に照らして許されないものというべきである。」と判断しました。

 当職が控訴審より受任しておりましたナイフ加工装置事件(最高裁平成20年4月24日)において、最高裁が「上告人は,第1審においても,被上告人らの無効主張に対して対抗主張を提出することができたのであり,上記特許法104条の3の規定の趣旨に照らすと,少なくとも第1審判決によって上記無効主張が採用された後の原審の審理においては,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を理由とするものを含めて早期に対抗主張を提出すべきであったと解される。そして,本件訂正審決の内容や上告人が1年以上に及ぶ原審の審理期間中に2度にわたって訂正審判請求とその取下げを繰り返したことにかんがみると,上告人が本件訂正審判請求に係る対抗主張を原審の口頭弁論終結前に提出しなかったことを正当化する理由は何ら見いだすことができない。したがって,上告人が本件訂正審決が確定したことを理由に原審の判断を争うことは,原審の審理中にそれも早期に提出すべきであった対抗主張を原判決言渡し後に提出するに等しく,上告人と被上告人らとの間の本件特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものといわざるを得ず,上記特許法104条の3の規定の趣旨に照らしてこれを許すことはできない。」と判断したものの延長線上にあると思われますが、特許庁における訂正審判の実務・実情やどこまでの権利範囲が認められるのかという予測可能性に乏しいことを考えますと、特許権利者にかなり厳しい判断と言えます。