2020-06

2020年06月30日

ツイッター上の逮捕歴に関する記事の削除請求事件(東京高裁)

 2012年に建造物侵入罪の容疑で逮捕され、罰金の略式命令を受けた事件に関し、実名で報じた複数の記事がリツイートされ、就職活動や交遊関係に支障が出たと訴えていた事件において、東京地裁は、ツイッターの検索機能について「投稿日時の順に表示しているにすぎない。グーグルなどと違い、表現行為の側面は認められない」と指摘。その上で「利用者は多いものの、ウェブサイトの一つにすぎない。情報流通の基盤とまではいえない」として投稿の削除を命じていたが、その控訴審である東京高裁は、2020年6月29日、公表の利益と比べてプライバシーの保護が「明らかに優越するとはいえない」と認定し、ツイッター上の記事の削除を認めなかった。
 これまでの裁判例では、第1審(地裁)においてはプライバシー保護(公表されない利益)の観点等より、ネット上の記事や検索結果の削除要求が認められる事案はあるものの、上級審では厳しい判断がなされる傾向にあると言えそうである。一般ユーザーの利便性(情報の自由流通)や表現の自由が極めて重要であることは言うまでもないが、記事を書かれた側は1個人の利益と過小評価されてしまう危険性があり、より緻密なネット調査や事案分析が必要であると言えそうである。

<参考判例>
・平成29年1月31日最高裁判決
 「検索事業者が,ある者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは,当該事実の性質及び内容,当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。」 「児童買春をしたとの被疑事実に基づき逮捕されたという本件事実は,他人にみだりに知られたくない抗告人のプライバシーに属する事実であるものではあるが,児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており,社会的に強い非難の対象とされ,罰則をもって禁止されていることに照らし,今なお公共の利害に関する事項であるといえる。また,本件検索結果は抗告人の居住する県の名称及び抗告人の氏名を条件とした場合の検索結果の一部であることなどからすると,本件事実が伝達される範囲はある程度限られたものであるといえる。以上の諸事情に照らすと,抗告人が妻子と共に生活し,前記1(1)の罰金刑に処せられた後は一定期間犯罪を犯すことなく民間企業で稼働していることがうかがわれることなどの事情を考慮しても,本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない。」

・令和元年12月12日札幌地裁判決
 「原告は、強姦の被疑事実(本件被疑事実)で逮捕(本件逮捕)されているところ、、、その書き込みがされた当時においては、本件事実は、社会における正当な関心事として、公共の利害に関する事項であったということができる。」
 「その一方、原告は、本件被疑事件について、平成24年〇〇〇〇に嫌疑不十分を理由として不起訴処分となり、釈放された後一度も取調べを受けることがないまま、7年以上が経過しているのであって、このような本件被疑事件の捜査経過に鑑みれば、原告が真実本件被疑事実に係る行為を行ったと認めるに足りる十分な証拠があるとは到底考え難いし、公訴時効は完成していないものの(刑事訴訟法250条2項3号)、今後本件被疑事件について起訴がされる現実的な可能性は既に事実上なくなっているということができる。そうすると、ある被疑事実について、刑事裁判手続が進行している場合や有罪判決がされた場合と比して、本件事実を公衆に知らせたとしても、公共の利益増進のために批判や評価がされる可能性は小さく、社会における正当な関心事として、これを公表する社会的意義は乏しくなっているということができる。」
 「本件被疑事実について、嫌疑不十分で釈放されてから7年以上を経過した現在においても、本件被疑事実を行ったという有罪の嫌疑を身近な人々に抱かれたまま、日常生活を送ることとなっているのであり、本件被疑事実について嫌疑不十分を理由に不起訴処分となり、裁判を受けることもなかった原告にとって、本件検索結果が表示されることの私生活上の現実的な不利益は大きいということができる。」
 「平成29年最決を参照しても、平成29年最決と事案の異なる本件において、URL等情報の検索結果の削除が認められるかについて、一義的な判断ができるわけではない。」「被告が、原告の訴外における本件検索結果の削除を求める要請に応じなかったとしても、不法行為になるということはできない。」

Category: Author: 近藤 剛史

2020年06月14日

リーチサイト対策とダウンロード違法化(令和2年著作権法改正)

 「著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律案」が令和2年6月5日参議院において可決・成立し、令和3年1月1日(1.①及び2.①から③までは令和2年10月1日、2.⑥(ⅰ)は公布日 から1年を超えない範囲内で政令で定める日)から施行されることになりました。
 一般のインターネット利用者にとっては、令和3年1月1日から適用される1.②の「侵害コンテンツのダウンロード違法化」と、令和2年10月1日から適用される2.①「スクショにおける写り込み適法化」に注意が必要です。
            記
1.インターネット上の海賊版対策の強化
 ①リーチサイト対策
 ・リーチサイト(侵害コンテンツへのリンク情報等を集約したウェブサイト)等を運営する行為等を、刑事罰の対象とする。
 ・リーチサイト等において侵害コンテンツへのリンクを掲載する行為等を、著作権等を侵害する行為とみなし、民事上・刑事上の責任を問いうるようにする。
 ②侵害コンテンツのダウンロード違法化
 ・違法にアップロードされたものだと知りながら侵害コンテンツをダウンロードすることについて、一定の要件の下で私的使用目的であっても違法とし、正規版が有償で提供されているもののダウンロードを継続的に又は反復して行う場合には、刑事罰の対象にもする。
2.その他の改正事項
 ①写り込みに係る権利制限規定の対象範囲の拡大
 ・写り込みに係る権利制限規定について、生配信やスクリーンショットを対象に含めるなど 対象範囲の拡大を行う。
 ②行政手続に係る権利制限規定の整備(地理的表示法・種苗法関係)
 ・権利制限の対象となる行政手続として、現行法で対象とされている特許審査手続等に加え、種苗法・地理的表示(GI法)の審査等に関する手続を規定するとともに、これらに類する手続を政令で定めることができることとする。
 ③著作物を利用する権利に関する対抗制度の導入
 ・著作権者等から許諾を受けて著作物等を利用する権利について、その著作権等を譲り受けた者その他の第三者に対抗することができることとする。
 ④著作権侵害訴訟における証拠収集手続の強化
 ・裁判所は、書類の提出命令の要否を判断するために必要があると認めるときは、書類の所持者に当該書類の提示をさせることができることとするとともに、当事者の同意を得て、専門委員(技術専門家)に対し、当該書類を開示することができることとする。
 ⑤アクセスコントロールに関する保護の強化
 ・著作物等の不正使用を防止するためのアクセスコントロール技術について、最新の技術動向を踏まえて保護対象の明確化を行うとともに、これを回避する機能を有する不正なシリアルコード(ソフトウェアのライセンス認証等の際に入力する符号)の提供等を著作権等を侵害する行為とみなし、民事上・刑事上の責任を問いうるようにする。
 ⑥プログラムの著作物に係る登録制度の整備(プログラム登録特例法)
 (ⅰ)プログラムの著作物に関し、著作権者等の利害関係者が、自らの保有する著作物 と登録されている著作物が同一であることの証明を請求できることとする。
 (ⅱ)国又は独立行政法人が登録を行う場合の手数料の免除規定を廃止することとする。

Category: Author: 近藤 剛史

2020年06月07日

「クッキー」の利用規制等(個人情報保護法の改正法成立)

 いわゆる個人情報保護法(平成15年法律第57号)に関する改正法が2020年6月5日参院本会議で可決、成立し、2022年6月までに施行される見通しとなりました。
 個人情報に対する意識の高まり、技術革新を踏まえた保護と利用のバランス、個人情報が多様に利活用される時代における事業者責任の在り方及び越境データの流通増大に伴う新たなリスクへの対応等の観点から、個人情報の漏えい等が生じた場合における委員会への報告及び本人への通知を義務付け、個人情報等の外国における取扱いに対する個人情報の保護に関する法律の適用範囲を拡大するとともに、個人情報に含まれる記述等の削除等により他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができないように加工した仮名加工情報(いわゆる「クッキー」)の取扱いについての規律を定める等の措置を講ずるものとされています。
 「クッキー」(ビックデータ)の利用を巡っては、2019年8月にリクルート社の就職情報サイト「リクナビ」が学生(就活生)の内定辞退率のデータを収集・分析して企業に販売していたことが発覚してその問題性が指摘されるようになり、その法規制が求められていたところでしたが、さらに、改正法により、個人が企業(例えば巨大IT企業等)に対し、個人の権利や利益が損なわれるおそれがある場合にも、個人情報の利用停止を求めることができることになりました。
 今後、個人及び企業の双方において、「クッキー」の利用のあり方、あるいは利用停止を求め得るのはどのような場合であるのか、具体的・実務的に検討して行くことが必要と言えます。

<主な新設条文>
第2条(定義)
9 この法律において「仮名加工情報」とは、次の各号に掲げる個人情報の区分に応じて当該各号に定める措置を講じて他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報をいう。
  一 第一項第一号に該当する個人情報 当該個人情報に含まれる記述等の一部を削除すること(当該一部の記述等を復元することのできる規則性を有しない方法により他の記述等に置き換えることを含む。)。
  二 第一項第二号に該当する個人情報 当該個人情報に含まれる個人識別符号の全部を削除すること(当該個人識別符号を復元することのできる規則性を有しない方法により他の記述等に置き換えることを含む。)。
 10 この法律において「仮名加工情報取扱事業者」とは、仮名加工情報を含む情報の集合物であって、特定の仮名加工情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものその他特定の仮名加工情報を容易に検索することができるように体系的に構成したものとして政令で定めるもの(第三十五条の二第一項において「仮名加工情報データベース等」という。)を事業の用に供している者をいう。ただし、第五項各号に掲げる者を除く。

第16条の2(不適正な利用の禁止)
 個人情報取扱事業者は、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法により個人情報を利用してはならない。

第30条(利用停止等)
 【第一項中「第十六条」の下に「若しくは第十六条の二」を加え、「とき又は」を「とき、又は」に改め、同条第五項中「第一項」及び「第三項」の下に「若しくは第五項」を加え、同項を同条第七項とし、同条第四項の次に次の二項を加える。】
 5 本人は、個人情報取扱事業者に対し、当該本人が識別される保有個人データを当該個人情報取扱事業者が利用する必要がなくなった場合、当該本人が識別される保有個人データに係る第二十二条の二第一項本文に規定する事態が生じた場合その他当該本人が識別される保有個人データの取扱いにより当該本人の権利又は正当な利益が害されるおそれがある場合には、当該保有個人データの利用停止等又は第三者への提供の停止を請求することができる。
 6 個人情報取扱事業者は、前項の規定による請求を受けた場合であって、その請求に理由があることが判明したときは、本人の権利利益の侵害を防止するために必要な限度で、遅滞なく、当該保有個人データの利用停止等又は第三者への提供の停止を行わなければならない。ただし、当該保有個人データの利用停止等又は第三者への提供の停止に多額の費用を要する場合その他の利用停止等又は第三者への提供の停止を行うことが困難な場合であって、本人の権利利益を保護するため必要なこれに代わるべき措置をとるときは、この限りでない。

第35条の2(仮名加工情報の作成等)
 個人情報取扱事業者は、仮名加工情報(仮名加工情報データベース等を構成するものに限る。以下同じ。)を作成するときは、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができないようにするために必要なものとして個人情報保護委員会規則で定める基準に従い、個人情報を加工しなければならない。

第35条の3(仮名加工情報の第三者提供の制限等)
 仮名加工情報取扱事業者は、法令に基づく場合を除くほか、仮名加工情報(個人情報であるものを除く。次項及び第三項において同じ。)を第三者に提供してはならない。

Category: Author: 近藤 剛史

2020年06月04日

ニューノーマルにおける発信者情報開示のあり方

 総務省の発信者情報開示の在り方に関する研究会(第1回)の配布資料の1つである主な検討課題(案)として、以下の3項目が挙げられている(2020年4月30日)。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000686000.pdf
(1)現行の省令に定められている発信者情報開示の対象のみでは、発信者を特定することが技術的に困難な場面が増加。
(2)権利侵害が明白と思われる場合であっても、発信者情報が裁判外で(任意に)開示されないケースが多い。
(3)裁判外で開示がなされない場合、発信者の特定のための裁判手続に時間・コストがかかり(特に海外プロバイダを相手として訴訟提起する場合は、訴状の送達手続に多くの時間を要している。)、救済を求める被害者にとって負担。

 確かに、コンテンツプロバイダ(Line、Twitter、Facebook、YoutubeなどのSNS事業者等)は、加害者(発信者)の氏名・住所等の発信者情報を保有していないことが多く、被害者が被害救済を図るためには、通信経路を辿って発信者を特定していくことが必要であり、具体的には、①コンテンツプロバイダ(SNS事業者等)への開示請求、②アクセスプロバイダ(ISP、携帯キャリア)への開示請求を経てようやく発信者を特定した上で、③発信者に対する差止、損害賠償請求等を行うという3段階の裁判手続が必要になることから、実際には被害者救済のハードルがかなり高いものとなってしまっており、かなり深刻な事態となっている。
 しかし他方では、コンテンツプロバイダやアクセスプロバイダの立場においては、広い免責事由が認められているものの、当該書き込みが果たして名誉毀損となるのか、プライバシー侵害となるのか、著作権侵害となるのかの法的判断は現場では相当困難であり、この権利侵害性に関する判断につき、迅速かつ適切に行う新たな仕組みが作れないかということが最も重要な課題になっていると考える。特に、最近の痛ましい女性プロレスラーの事件においては、投稿者による心ない書き込みが名誉毀損や侮辱罪を構成する行為となるかどうかの判断についてはかなり微妙な判断が要求されるとも推察されるところであり、ニューノーマルの時代において、IT技術を駆使しながら、如何に一般常識や社会通念を考慮しつつ(場合によっては、AI技術による調査分析も必要)、経験豊かな法律実務家の専門性を活用して行けるかどうかというところに議論が集約されるべきではないかと思う。

Category: Author: 近藤 剛史

2020年06月01日

ニューノーマルにおけるパワハラ防止

 新型コロナウィルスの感染拡大により、これまでの店舗での対面販売や外回りなどの営業活動等が自粛・縮小されたり、在宅勤務(テレワーク)が広がるなど、職場環境も大きく様変わりしていると言えます。そのような中で、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(いわゆる「パワハラ防止法」)が、2020年6月1日より、施行されることになりました(ただし、中小企業においては、令和4年3月31日までは努力義務に留まる)。
 雇用主(経営者)においては、特に下記条項の遵守が重要となります。
           記
第30条の2(雇用管理上の措置等)
①事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
②事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
 (以下、略)

 また、「労基法違反となるような長時間労働などがある職場では、パワーハラスメントが起きやすくなります。パワーハラスメントを防止するためには、労働施策総合推進法で定める雇用管理上の措置を講じるだけでなく、労基法等の関係法令を守るなど、働く方が安心して働くことができる職場を作ることも重要」(東京労働局「パワーハラスメント対策等)であることから、労働基準法等遵守の再確認が必要になるともに、「新型コロナウイルスへの対応で広がるテレワークに特有のハラスメントリスクを専門家が指摘している。文字だけの業務指示は強圧的な印象を与えやすく、在宅勤務で垣間見える私生活への言及は相手に不快感を与える恐れがある。」(日経デジタル2020年6月1日)という目新しい指摘もあり、「新しいワインは、新しい革袋に入れるものだ」(マタイ福音書)という諺もある通り、新しい働き方の実践においては、新しい法制度の認識・発見やその遵守(コンプライアンス)が不可欠と言えます。

Category: Author: 近藤 剛史
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