2020年6月4日

ニューノーマルにおける発信者情報開示のあり方

 総務省の発信者情報開示の在り方に関する研究会(第1回)の配布資料の1つである主な検討課題(案)として、以下の3項目が挙げられている(2020年4月30日)。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000686000.pdf
(1)現行の省令に定められている発信者情報開示の対象のみでは、発信者を特定することが技術的に困難な場面が増加。
(2)権利侵害が明白と思われる場合であっても、発信者情報が裁判外で(任意に)開示されないケースが多い。
(3)裁判外で開示がなされない場合、発信者の特定のための裁判手続に時間・コストがかかり(特に海外プロバイダを相手として訴訟提起する場合は、訴状の送達手続に多くの時間を要している。)、救済を求める被害者にとって負担。

 確かに、コンテンツプロバイダ(Line、Twitter、Facebook、YoutubeなどのSNS事業者等)は、加害者(発信者)の氏名・住所等の発信者情報を保有していないことが多く、被害者が被害救済を図るためには、通信経路を辿って発信者を特定していくことが必要であり、具体的には、①コンテンツプロバイダ(SNS事業者等)への開示請求、②アクセスプロバイダ(ISP、携帯キャリア)への開示請求を経てようやく発信者を特定した上で、③発信者に対する差止、損害賠償請求等を行うという3段階の裁判手続が必要になることから、実際には被害者救済のハードルがかなり高いものとなってしまっており、かなり深刻な事態となっている。
 しかし他方では、コンテンツプロバイダやアクセスプロバイダの立場においては、広い免責事由が認められているものの、当該書き込みが果たして名誉毀損となるのか、プライバシー侵害となるのか、著作権侵害となるのかの法的判断は現場では相当困難であり、この権利侵害性に関する判断につき、迅速かつ適切に行う新たな仕組みが作れないかということが最も重要な課題になっていると考える。特に、最近の痛ましい女性プロレスラーの事件においては、投稿者による心ない書き込みが名誉毀損や侮辱罪を構成する行為となるかどうかの判断についてはかなり微妙な判断が要求されるとも推察されるところであり、ニューノーマルの時代において、IT技術を駆使しながら、如何に一般常識や社会通念を考慮しつつ(場合によっては、AI技術による調査分析も必要)、経験豊かな法律実務家の専門性を活用して行けるかどうかというところに議論が集約されるべきではないかと思う。

Category: Author: 近藤 剛史
近藤総合法律事務所
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