2021年1月19日

自筆証書遺言における押印日のズレ(最高裁判決)

 自筆証書遺言の有効性が争われていた事件につき,最高裁(第一小法廷)は,令和3年1月18日,「民法968条1項が,自筆証書遺言の方式として,遺言の全文,日付及び氏名の自書並びに押印を要するとした趣旨は,遺言者の真意を確保すること等にあるところ,必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは,かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがある。したがって,Aが,入院中の平成27年4月13日に本件遺言の全文,同日の日付及び氏名を自書し,退院して9日後の同年5月10日に押印したなどの本件の事実関係の下では,本件遺言書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって直ちに本件遺言が無効となるものではないというべきである。」(平成31年(受)第427号,第428号 遺言無効確認請求本訴,死因贈与契約存在確認等請求反訴事件)と判示した。
 表面的な形式論だけで判断すると遺言は無効だと判断される余地もあったと言えるが、今後高齢化社会が進んで行き、様々な内容、記載、形式の遺言が多くなることが予想されること、本件では押印日がわずか9日遅れているに過ぎないこと、さらには「遺言の解釈にあたっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたっても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当である」(最高裁昭55年(オ)第973号、昭58・3・18(二小)判決)という判例法理の延長戦上にあることを考えると、妥当は判断であると言えよう。

Category: Author: 近藤 剛史
近藤総合法律事務所
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