【著作物性に関する判例】
・当落予想表事件(東京高判昭和62年2月19日、判時1225号111頁)
符号(○△▲)を付けた総選挙の当落予想表のの著作物性が争われた事件であるが、東京高裁は、著作物の定義について「『思想又は感情』とは、人間の精神活動全般を指し、『創作的に表現したもの』とは、厳格な意味での独創性があるとか他に類例がないとかが要求されているわけではなく、『思想又は感情』の外部的表現に著作者の個性が何らかの形で現れていれば足り、『文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する』というのも、知的、文化的精神活動の所産全般を指すものと解するのが相当である」とし、当落予想表は「国政レベルにおける政治動向の一環としての総選挙の結果予測を立候補予定者の当落という局面から記述したもので、一つの知的精神活動の所産ということができ、しかもそこに表現されたものには控訴人の個性が現れていることは明らかであるから、控訴人の著作に係る著作物であると認めるのが相当である。」として著作物性を認めた。
・交通標語事件(東京高判平成13年10月30日、判時1773号127頁)
交通標語を創作した者が、自己の交通標語と実質的に同一である交通標語が交通事故防止キャンペーンのためのテレビ広告において使用されたとして訴えた事件であるが、東京高裁は、交通標語の著作物性につき、「交通標語の著作物性の有無あるいはその同一性ないし類似性の範囲を判断するに当たっては、?表現一般について、ごく短いものであったり、ありふれた平凡なものであったりして、著作権法上の保護に値する思想ないし感情の創作的表現がみられないものは、そもそも著作物として保護され得ないものであること、?交通標語は、交通安全に関する主題(テーマ)を盛り込み必要性があり、かつ、交通標語としての簡明さ、分かりやすさも求められることから、これを作成するに当たっては、その長さ及び内容において内在的に大きな制約があること、?交通標語は、もともと、なるべく多くの公衆に知られることをその本来の目的として作成されるものであること」を十分考慮に入れて検討することが必要であるとしたうえで、「ボク安心 ママの膝よりチャイルドシート」との交通標語について、5・7・5調の表現全体にのみ著作物性を認めた。
・三島由紀夫手紙事件(東京高判平成12年5月23日、判時1725号165頁)
三島由紀夫の未公表の手紙について、出版社が遺族に無断で掲載した書籍を発行した事件につき、東京高裁は、「著作権法は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定義し、特に「手紙」を除外していないから、右の定義に該当する限り、手紙であっても、著作物であることは明らかである」とし、本件手紙については原判決(東京地判平成11年10月8日)を引用し、「本件各手紙には、単に時候の挨拶、返事、謝礼、依頼、指示などの事務的な内容のみが記載されているのではなく、三島由紀夫の自己の作品に対する感慨、抱負、被告福島の作品に対する感想、意見、折々の心情、人生観、世界観等が、文芸作品とは異なり、飾らない言葉を用いて述べられている。本件各手紙は、いずれも、三島由紀夫の思想又は感情を、個性的に表現したものであることは明らかである。」として、その著作物性を認めた。
・YOL記事見出し事件(知財高判平成17年10月6日)
ウェブ上のニュースサイトの記事見出しが無断使用された事件につき、第一審である東京地裁(東京地判平成17年3月24日)は、新聞記事は使用された見出しは著作物に当たらないとして原告(新聞社)の請求を棄却し、知財高裁も、本件記事見出しの著作物性について、「一般にニュース報道における記事見出しは、報道対象となる出来事などの内容を簡潔な表現で正確に読者に伝えるという性質から導かれる制約があるほか、使用できる字数にもおのずと限界があることなどにも起因して、表現の選択の幅は広いとは言い難い。創作性を発揮する余地が比較的少ないことは否定し難いところであり、著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないと考えられる」「しかし、ニュース報道における記事見出しが、直ちに著作権法10条2項に該当して著作物性が否定されるものと即断すべきものではなく、その表現いかんでは、創作性を肯定し得る余地もないではないのであって、結局は各記事見出しの表現を個別具体的に検討し、創作的表現であるといえるかを判断すべきである」とし、いずれも各見出しの表現が著作物として保護されるための創作性を有するとはいえないとして著作物性を否定した。しかし、「不法行為(民法709条)が成立するには、必ずしも著作権など法律に定められた厳密な意味での権利が侵害された場合に限らず、法的保護に値する利益となり得るものというべきである」として、本件記事見出しの無断使用につき不法行為に基づく損害賠償を認めた。