【著作権侵害の主体に関する判例】
・クラブ・キャッツアイ事件(最判昭和63年3月15日、判時1270号34頁)
カラオケスナックにおいて、カラオケ装置と音楽著作物であるカラオケテープを備え置き、著作権管理者に無許諾で客に歌唱させた経営者に対し、演奏権侵害に基づく差止及び損害賠償請求を行った事件であるが、最高裁は、客は、カラオケスナックの経営者と無関係に歌唱しているわけではなく、カラオケスナックの従業員による歌唱の誘致、設置されたカラオケテープの範囲内での選曲、カラオケ装置の従業員による操作を通じて、経営者の管理のもとに歌唱しているものと解され、他方、経営者は、客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ、これを利用して店の雰囲気を醸成し、営業上の利益を増大させることを意図しており、客による歌唱も、著作権法上の規律の観点からは経営者による歌唱と同視しうるものであるから客のみが歌唱する場合でも、演奏(歌唱)という形態による当該音楽著作物の利用主体は経営者であると判示した。
・ファイルローグ事件(東京高判平成17年3月31日)
ファイル交換ソフトの一種である「ファイルローグ(File Rogue)」を一般に頒布し、これを使ったインターネット上の電子ファイル交換サービスを運営する会社に対して、同サービスを利用した音楽ファイルの交換による著作権侵害を理由に、音楽著作権管理事業者が同サービス提供の差止めと損害賠償を求めた事件であるが、東京高裁は、原審(東京地裁中間判決平成15年1月29日、東京地判平成15年12月17日)を一部変更し、控訴を棄却した。
原審判決は、前提として、本サービスの利用者が、著作権者に無許諾で音楽ファイルをMP3形式に変換して公開する行為が著作権侵害(複製権侵害、自動公衆送信権侵害及び送信可能化権侵害)を構成するとしたうえで、被告自らは、本件各MP3ファイルをパソコンに蔵置し、その状態でパソコンを被告サーバに接続するという物理的行為をしているわけではないため、被告が、送信可能化権及び自動公衆送信権を侵害していると解すべきか否かについては、?被告の行為の内容・性質、?利用者のする送信可能化状態に対する被告の管理・支配の程度、?被告の行為によって受ける同被告の利益の状況等を総合斟酌して判断すべきであるとし、被告は、本件各著作物の自動公衆送信及び送信可能化を行っているものと評価することができ、原告の有する自動公衆送信権及び送信可能化権の侵害の主体であると解するのが相当であると判示した。
・「2ちゃんねる」対小学館事件(東京高判平成17年3月3日)
インターネットの掲示板「2ちゃんねる」に対談記事を無断転載された漫画家と出版社が、書き込みを放置した掲示板運営者に対し掲載差止めと損害賠償を求めた事件であるが、東京高裁は、「自己が提供し発言削除についての最終権限を有する掲示板の運営者は、これに書き込まれた発言が著作権侵害(公衆送信権の侵害)に当たるときには、そのような発言の提供の場を設けた者として、その侵害行為を放置している場合には、その侵害態様、著作権者からの申し入れの態様、さらには発言者の対応いかんによっては、その放置自体が著作権侵害行為と評価すべき場合もあるというべきである。」とし、「インターネット上においてだれもが匿名で書き込みが可能な掲示板を開設し運営する者は、著作権侵害となるような書き込みをしないよう、適切な注意事項を適宜な方法で案内するなどの事前の対策を講じるだけでなく、著作権侵害となる書き込みがあった際には、これに対し適切な是正措置を速やかに取る態勢で臨むべき義務がある。掲示板運営者は、少なくとも、著作権者等から著作権侵害の事実の指摘を受けた場合には、可能ならば発言者に対してその点に関する照会をし、更には、著作権侵害であることが極めて明白なときには当該発言を直ちに削除するなど、速やかにこれに対処すべきものである。」としたうえで、「直ちに本件著作権侵害行為に当たる発言が本件掲示板上で書き込まれていることを認識することができ、発言者に照会するまでもなく速やかにこれを削除すべきであった」管理人が削除要請に対する是正措置を取らなかったことは、「故意又は過失により著作権侵害に加担していた」として、管理人は「著作権法112条にいう「著作者、著作権者、出版権者・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に該当」すると判示した。
・「選撮見録」事件(大阪地裁平成17年10月24日)
テレビ放送事業者である原告らが、被告が販売する商品が、原告らがテレビ番組の著作者として有する著作権(複製権及び公衆送信権)並びに原告らが放送事業者として有する著作隣接権(複製権及び送信可能化権)の侵害にもっぱら用いられるものであると主張し、上記各権利に基づいて、被告に対し、その商品の使用等及び販売の差止め並びに廃棄を請求した事件であるが、大阪地裁は、「直接には、複製行為あるいは送信可能化行為をしない者であっても、現実の複製行為あるいは送信可能化行為の過程を管理・支配し、かつ、これによって利益を受けている者がいる場合には、その者も、著作権法による規律の観点からは、複製行為ないし送信可能化行為を直接に行う者と同視することができ、その結果、その者も、複製行為ないし送信可能化行為の主体となるということができると解するのが相当である」と判示し、さらに「侵害行為の差止め請求との関係では、被告商品の販売行為を直接の侵害行為と同視し、その行為者を「著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれのある者」と同視することができるから、著作権法112条1項を類推して、その者に対し、その行為の差止めを求めることができるものと解するのが相当である」として差し止め請求を認めたものである。