近藤 剛史

2022年02月22日

■財産分与について(その1)

 夫婦が離婚する際、財産分与(民法768条)が問題となることも多いです。

 財産分与の法的性質には、①清算的②慰謝料的③扶養的の3つの性質がありますが、世間一般で「財産分与」といわれているものは、このうちの①を指していることが多いかと思います。実際の財産分与は、①の要素から財産分与を検討し、②や③の要素を加味する、というイメージです。

 

 清算的要素による財産分与の分与財産確定の基準時は、夫婦の経済的協力関係が終了する時です。

そのため、夫婦が別居している場合、原則は、夫婦の別居時が基準時となります。ただし、別居後も配偶者の事業を手伝っていたり、子の監護・養育等があったりという場合には、別居後も財産の維持形成に寄与したといえることから、例外的に、別居後増減した財産を対象にすることも考えられます。

また、別居していない夫婦の場合には、離婚時を基準時とし、離婚時に存在した財産を分与の対象とすることになります。

 

財産分与の対象は、婚姻中に夫婦で築いた財産です。そのため、夫婦の一方が、他方とは無関係に取得・形成した財産(特有財産)は、原則として対象に含まれません。婚姻前に既に有していた預貯金などの他、配偶者の寄与が全くなく増えた財産も、除外して考えられています。そうだとすると、個別的な事情にもよりますが、宝くじや相続により取得した財産も、特有財産に含まれ分与の対象とはならない可能性があります。

もっとも、家計に用いる口座で特有財産も同時に管理しているような場合には、特有財産を明確に区別することが難しいことも少なくありません。

予め離婚を想定してお互いの財産を管理することは稀だと思いますが、別居した後では相手の財産を把握することは困難になるため、少しでも離婚を考え始めたときには、財産関係について精査を始めた方がよいかもしれません。
 

そして、財産分与の分与割合については、2分の1とすることが原則とされており、寄与度に差をつけなければよほど不公平となるような場合、たとえば、財産の増加が一方の特別の才能や特有の事情による寄与が著しく大きい場合を除いては、基本的には2分の1ルールによるべきとされています。具体的には、スポーツ選手や芸能人、医師等で修正が考えられます。

上記のような場合を除いては、夫婦の勤務形態(共稼ぎ、専業主婦等)にかかわらず、分与割合は2分の1とするのが公平と考えられています。専業主婦であっても、家事の分担や子の監護養育などによって、共有財産の形成・維持に寄与したと考えるべきだからです。

 

次回は、財産分与の具体的な方法などについて記載する予定です。

弊所では、離婚事件も取り扱っておりますので、財産分与等、離婚に関するお悩みもお気軽にご相談ください。

 

  弁護士 前田 彩

Category: Author: スタッフ

2022年01月01日

新年のご挨拶

Category: Author: スタッフ

2021年12月28日

年末年始営業のお知らせ

誠に勝手ながら、令和3年12月29日(水)~令和4年1月5日(水)は休業とさせていただきます。

Category: Author: スタッフ

2021年10月14日

養育費の支払について

 夫婦が離婚する際、未成熟子がいる場合には、養育費の支払が問題となることが多くあります。未成熟子に対する養育費の支払義務は、親族間の扶養義務(民法877条)のうち、生活保持義務(自分の生活と同程度の生活を保持すべき義務)であると考えられています。したがって、養育費は、扶養義務者である親が扶養権利者である子について、自己と同程度の生活を保持できるよう定められるべきとされています。

 

 養育費の具体的な金額等については、夫婦双方の収入等を考慮した上での話し合いで決めることになりますが、話し合いをしてもまとまらない場合に、家庭裁判所に調停を申し立てることも可能です。

 調停においては、多くの場合、裁判所が公表している算定表を基礎として協議されます。

平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について | 裁判所 (courts.go.jp)

 

 養育費支払義務の終期についても取り決めておく必要があります。民法上は、扶養を受ける子の年齢について具体的な規定はされていないため、子が20歳になるまでとするのか、18歳になるまでとするのか、あるいは大学を卒業するまでとするのか、その終期が問題となることがあります。

 一般に、養育費の支払対象となる子は「未成熟子」、すなわち「身体的、精神的、経済的に成熟化の過程にあるため就労が期待できず、第三者による扶養を受ける必要がある子」とされているので、子が成年に達していても、親の資力、学歴、社会的地位等から通常大学卒業以上の高等教育を受ける家庭環境であると判断される場合には、親に具体的な扶養義務(教育費の負担)を負わせることができると考えられます。

なお、離婚訴訟において判決で養育費の支払が命じられる場合には、「子が成年に達する月まで」とされることが多いです。

ところで、令和4年4月1日から「民法の一部を改正する法律」が施行され、成年年齢が18歳に引き下げられます。今後、かかる改正が養育費の支払義務の終期に影響を与える可能性もありますが、直ちに18歳に達するまでという条件が主流となることはないのではないかと考えます。

養育費等、離婚に関するお悩みも、お気軽にご相談ください。

 

                                                                                              弁護士 前田 彩

Category: Author: スタッフ

2021年09月08日

公益通報者保護法改正法の施行に向けて

 公益通報者保護法改正法の施行(令和4年6月1日予定)に備え、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(2021年08月20日)が公表されました(令和3年8月20日内閣府告示第118号)。
https://www.caa.go.jp/notice/entry/025523/

 この指針は、公益通報者保護法第11条第4項の規定に基づき、同条第1項に規定する公益通報対応業務従事者の定め及び同条第2項に規定する事業者内部における公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な事項を定めたものであるとされています。

 以下はその抜粋ですが、今後、各企業においてその対応が必要になってきますので注意が必要です。

  ********************

第3 従事者の定め(法第 11 条第1項関係)
1 事業者は、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者を、従事者として定めなければならない。
2 事業者は、従事者を定める際には、書面により指定をするなど、従事者の地位に就くことが従事者となる者自身に明らかとなる方法により定めなければならない。

第4 内部公益通報対応体制の整備その他の必要な措置(法第 11 条第2項関係)
1 事業者は、部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備として、次の措置をとらなければならない。
(1) 内部公益通報受付窓口の設置等
 内部公益通報受付窓口を設置し、当該窓口に寄せられる内部公益通報を受け、調査をし、是正に必要な措置をとる部署及び責任者を明確に定める。
(2) 組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に係る公益通報対応業務に関して、組織の長その他幹部に関係する事案については、これらの者からの独立性を確保する措置をとる。
(3) 公益通報対応業務の実施に関する措置
 内部公益通報受付窓口において内部公益通報を受け付け、正当な理由がある場合を除いて、必要な調査を実施する。そして、当該調査の結果、通報対象事実に係る法令違反行為が明らかになった場合には、速やかに是正に必要な措置をとる。また、是正に必要な措置をとった後、当該措置が適切に機能しているかを確認し、適切に機能していない場合には、改めて是正に必要な措置をとる。
(4) 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置
 内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関し行われる公益通報対応業務について、事案に関係する者を公益通報対応業務に関与させない措置をとる。

2 事業者は、公益通報者を保護する体制の整備として、次の措置をとらなければならない。
(1) 不利益な取扱いの防止に関する措置
イ 事業者の労働者及び役員等が不利益な取扱いを行うことを防ぐための措置をとるとともに、公益通報者が不利益な取扱いを受けていないかを把握する措置をとり、不利益な取扱いを把握した場合には、適切な救済・回復の措置をとる。
ロ 不利益な取扱いが行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。
(2) 範囲外共有等の防止に関する措置
イ 事業者の労働者及び役員等が範囲外共有を行うことを防ぐための措置をとり、範囲外共有が行われた場合には、適切な救済・回復の措置をとる。
ロ 事業者の労働者及び役員等が、公益通報者を特定した上でなければ必要性の高い調査が実施できないなどのやむを得ない場合を除いて、通報者の探索を行うことを防ぐための措置をとる。
ハ 範囲外共有や通報者の探索が行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。

3 事業者は、内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置として、次の措置をとらなければならない。
(1) 労働者等及び役員並びに退職者に対する教育・周知に関する措置
イ 法及び内部公益通報対応体制について、労働者等及び役員並びに退職者に対して教育・周知を行う。また、従事者に対しては、公益通報者を特定させる事項の取扱いについて、特に十分に教育を行う。
ロ 労働者等及び役員並びに退職者から寄せられる、内部公益通報対応体制の仕組みや不利益な取扱いに関する質問・相談に対応する。
(2) 是正措置等の通知に関する措置
書面により内部公益通報を受けた場合において、当該内部公益通報に係る通報対象事実の中止その他是正に必要な措置をとったときはその旨を、当該内部公益通報に係る通報対象事実がないときはその旨を、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において、当該内部公益通報を行った者に対し、速やかに通知する。
(3) 記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者等及び役員への開示に関する措置
イ 内部公益通報への対応に関する記録を作成し、適切な期間保管する。
ロ 内部公益通報対応体制の定期的な評価・点検を実施し、必要に応じて内部公益通報対応体制の改善を行う。
ハ 内部公益通報受付窓口に寄せられた内部公益通報に関する運用実績の概要を、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において労働者等及び役員に開示する。
(4) 内部規程の策定及び運用に関する措置
この指針において求められる事項について、内部規程において定め、また、当該規程の定めに従って運用する。

Category: Author: 近藤 剛史

2021年09月03日

ビジネス関連発明に関する最近の動向

特許庁の審査第四部 審査調査室より、2021年8月「ビジネス関連発明の最近の動向について」という報告がなされています。
https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/sesaku/biz_pat.html

ビジネス関連発明とは、ビジネス方法がICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を利用して実現された発明のことを言うのですが、特許庁ではIPC又はFIとしてG06Qが付与された特許出願をビジネス関連発明とする定義されています。

第四次産業革命の関係では、IoT(Internet of Things)やAI(Artificial Intelligence)等の新たな技術が進展する中、具体的には、IoTの一つのモデルとして、(1)様々なセンサ等からデータを取得、(2)取得されたデータを通信、(3)通信されたデータをクラウド等にビッグデータ化し蓄積、(4)当該データをAI等によって分析、(5)分析によって生まれた新たなデータを、何らかのサービスへ利活用、(6)IoTにおけるビジネスモデルの確立、という(1)~(6)からなるモデルを想定した場合、(5)の利活用や、(6)のビジネスモデルの確立において、自社のビジネスモデルが化体したシステムをビジネス関連発明の特許として保護することが可能な場合があるとされており、その技術の有用性・発展性は言うまでもありません。

また、国内のビジネス関連発明の特許出願件数については、2000年に生じた出願ブーム後の減少傾向は2011年で底を打ち、2012年頃から右肩上がりの増加が続いており、今後も増加傾向が続くと思われることから、そのような点からも注目に値します。

Category: Author: 近藤 剛史

2021年07月09日

夏季休業についてのお知らせ

誠に勝手ながら、 8月11日(水)~8月12日(木)は夏季休業 とさせていただきます。

Category: Author: スタッフ

2021年03月10日

取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律案

 取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律案が令和3年3月5日閣議決定され、衆議院に提出された。

 情報通信技術の進展に伴い、オンラインモールなどの「取引デジタルプラットフォーム(取引DPF)」が国民の消費生活にとって重要な基盤となっていることに鑑み、取引デジタルプラットフォームを利用して行われる通信販売に係る取引の適正化及び紛争の解決の促進に関し、取引デジタルプラットフォーム提供者の協力を確保するため、取引デジタルプラットフォーム提供者による消費者の利益の保護に資する自主的な取組の促進、内閣総理大臣による取引デジタルプラットフォームの利用の停止等に係る要請及び消費者による販売業者等情報の開示の請求に係る措置並びに官民協議会の設置について定める必要があるとするものである。
 これまで違法な商品や危険商品等の流通や販売業者が特定できず紛争解決が困難となる等の問題が発生していたため、消費者利益の保護を図るためのものである。

(1)取引DPF提供者の努力義務(第3条)
(2)商品等の出品の停止(第4条)
(3)販売業者に係る情報の開示請求権(第5条)
(4)官民協議会(第6条~第9条)・申出制度(第10条)

https://www.caa.go.jp/law/bills/assets/consumer_system_cms101_210305_01.pdf

 取引DPF提供者の義務が努力義務に留まっていることから必ずしも十分な法規制がなされるとは言えないが、個別事案において、取引DPF提供者が違法な出品を現認しながら放置していた場合などについては、その法的責任を追及することは可能であろう。

Category: Author: 近藤 剛史

2021年02月01日

「働き方改革」の一生涯型への変容(高齢者雇用安定法の改正)

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(令和2年4月1日施行(未施行あり))

 西欧では、若い時に短期間集中して働き、その後は夫婦でアーリー・リタイアメントを楽しむというライフスタイルや人生観が根強く存在し、日本でも「ご隠居様」や「隠居生活」という言葉があったりしたのですが、少子高齢化社会の進展や年金財政の破綻的状況により、政府は、どうやら事実上の定年制度廃止に(水面下で)舵を切ったと言えそうです。
 そうなってくると、我々の老後においては、年金に頼らない、一生涯働き続ける生活設計が必要となってくるということになり、今後は、ますます会社や組織にとらわれない、個人のスキルや経験をもとにした働き方や人事評価のあり方、労働時間の自己管理(在宅勤務)、マルチ・タスク(副業)、ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)、年齢に応じて職種や労働時間配分を変えること(アロケーション)などが重要になってくると言えそうです。

<参照条文>
第1条(目的)
 この法律は、定年の引上げ、継続雇用制度の導入等による高年齢者の安定した雇用の確保の促進、高年齢者等の再就職の促進、定年退職者その他の高年齢退職者に対する就業の機会の確保等の措置を総合的に講じ、もつて高年齢者等の職業の安定その他福祉の増進を図るとともに、経済及び社会の発展に寄与することを目的とする。

第3条(基本的理念)
 高年齢者等は、その職業生活の全期間を通じて、その意欲及び能力に応じ、雇用の機会その他の多様な就業の機会が確保され、職業生活の充実が図られるように配慮されるものとする。
2 労働者は、高齢期における職業生活の充実のため、自ら進んで、高齢期における職業生活の設計を行い、その設計に基づき、その能力の開発及び向上並びにその健康の保持及び増進に努めるものとする。

第9条(高年齢者雇用確保措置)
 定年(六十五歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。
 一 当該定年の引上げ
 二 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
 三 当該定年の定めの廃止
2 (略)
3 (略)
4 (略)

Category: Author: 近藤 剛史

2021年01月19日

自筆証書遺言における押印日のズレ(最高裁判決)

 自筆証書遺言の有効性が争われていた事件につき,最高裁(第一小法廷)は,令和3年1月18日,「民法968条1項が,自筆証書遺言の方式として,遺言の全文,日付及び氏名の自書並びに押印を要するとした趣旨は,遺言者の真意を確保すること等にあるところ,必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは,かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがある。したがって,Aが,入院中の平成27年4月13日に本件遺言の全文,同日の日付及び氏名を自書し,退院して9日後の同年5月10日に押印したなどの本件の事実関係の下では,本件遺言書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって直ちに本件遺言が無効となるものではないというべきである。」(平成31年(受)第427号,第428号 遺言無効確認請求本訴,死因贈与契約存在確認等請求反訴事件)と判示した。
 表面的な形式論だけで判断すると遺言は無効だと判断される余地もあったと言えるが、今後高齢化社会が進んで行き、様々な内容、記載、形式の遺言が多くなることが予想されること、本件では押印日がわずか9日遅れているに過ぎないこと、さらには「遺言の解釈にあたっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたっても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当である」(最高裁昭55年(オ)第973号、昭58・3・18(二小)判決)という判例法理の延長戦上にあることを考えると、妥当は判断であると言えよう。

Category: Author: 近藤 剛史
タイトルとURLをコピーしました