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2010年02月26日

株主と企業経営

今月19日、会社更生法の手続き中である、日本航空の株式が、東京証券取引所で最終売買日を迎えました。日本航空の株式は20日に上場廃止され、その後の100%減資で株券は無価値となります。
減資とは、一言で言うと、企業が、債権者に対する最低限の担保金である、資本金の額を減少させることですが、この資本金は、企業への資金拠出をする人(株主)からの拠出(株の購入)により構成されるものです。
つまり、株主が拠出した資本(資産)を減少させることなのです。
この減資には、企業の肥大した資本を買い取る形で減らす、有償減資の方法もありますが、日本航空にそのような資金があるはずもなく、今回の減資は無償減資です。さらに、100%減資ですから、資本が100%(すべて)無くなるということで、株式が価値を失うということなのです。


むろん、株主にとっては大きな損害ですし、会社債権者にとっても大きな問題ですので、減資は慎重に判断されるように、法的な規定が設けられています。
それでも今回100%減資が行われたわけですが、一方で日本航空は多額の融資を受け維持され、退職者の企業年金もある程度維持される。
このことに疑問を感じる方もいるかもしれませんし、なぜ株主だけがこんな損失を受けなくてはならないんだと言う人もいるかもしれません。


では、企業の経営権を握る人とは誰でしょうか。
もちろん現場指揮を執るのは代表取締役であり、企業の役員です。
では、その代表取締役や取締役等の役員を決定するのは誰でしょうか。
それが株主なのです。


むろん株主は企業経営のプロではありませんから、出資はできても企業の具体的経営指揮を執ることはできません。そこで、会社法では、企業における所有と経営を分離し、企業の出資者である株主に代表取締役等の人事権を認める一方、経営判断そのものについては切り離して、代表取締役等の役員に広範な権限を認めているわけです。そして、企業の経営を判断する役員を決定するのは株主であるということで、終局的には、企業の損失は株主に帰着するという形を取っているのです。
日本航空の100%減資も同様で、旧株主に責任を取らせる一方で、同時にまた、100%減資をすれば株主がいなくなるわけですから、新しい出資者が新しい日本航空の株主(所有者)ということになり、新規の出資者を募りやすくし、日本航空の再建をスムーズにする。
このような効果も狙っているわけです。
企業と株主は切っても切れない関係にあるのです。


(弁護士 武田大輔)