オープンソースソフトウェアの法的問題
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オープンソース（Open Source Software）の利用が、プラットフォームから各種ミドルウェア、セキュリティまで幅広い領域に広がっている。 2007年5月3日付け日本経済新聞によると、米オラクル、ＩＢＭ、ＮＥＣなど有力ＩＴ企業１０社以上が「リナックス」販売で企業連合を発足させると報道されている。
また、
(1) ﾚﾃﾞﾄﾞﾊｯﾄ社のようにOSSを製品として販売するﾋﾞｼﾞﾈｽ（ﾃﾞｨｽﾄﾘﾋﾞｭｰｼｮﾝ型）
(2) OSSを使ったﾌﾚｰﾑﾜｰｸ上でシステム構築を行うﾋﾞｼﾞﾈｽ（ﾌﾚｰﾑﾜｰｸ提供型）
(3) ﾕｰｻﾞｰの業務ｼｽﾃﾑの運用委託（ｻﾎﾟｰﾄ、ｶｽﾀﾏｲｽﾞ）を受けるﾋﾞｼﾞﾈｽ（ASP型）
(4) Linux認定ｴﾝｼﾞﾆｱの育成や書籍販売などのﾋﾞｼﾞﾈｽ（教育、出版型）
など様々なビジネスも生まれている。
�供�OSSライセンスの考え方
１）「オープンソース」とは
「オープンソース（Open Source）」という言葉は、1998年Netscape(Mozilla)のソースコードを公開した際、フリー・ソフトウェアに対する曲解されたイメージを払拭するために用いられた。ソースコードが公開されているソフトウェアのこと。
OSSの場合、著作権の放棄がなされているわけではなく、各OSSにはそれぞれのライセンスがあり、その規定する範囲内での自由な利用が認められているに過ぎない。
２）沿革
1970年代以降 ソフトウェア産業の隆盛
1980年 米国著作権法においてソフトウェア・プログラムの法的保護が明文化
1983年 Richard M. Stallman GNUプロジェクト「フリー・ソフトウェア宣言」
1985年 FSF(Free Software Foundation)設立
1990年代後半 IBMをはじめOSSへの投資を活発化
３）OSS概念図
４）OSI(Open Source Initiative)が定める定義（10条件）
(1) 自由な再配布ができること
(2) ソースコードを入手できること
(3) 派生（二次的）ソフトウェアを作成し、それを同じライセンスで頒布できること
(4) パッチ・ファイルの頒布を認める場合には、完全性の保持を要求できること
(5) 特定の個人やグループに対して差別しないこと
(6) 利用する分野に対して差別しないこと
(7) 再頒布において追加ライセンスへの同意を必要としないこと
(8) 特定の製品に依存しないこと
(9) 一緒に頒布される他のソフトウェアを制限しないこと
(10)特定の技術やインターフェースの様式に依存しないこと
５）OSSライセンスの種類
OSIが認定したOSSライセンス 58種類(2006-09-18)
http://www.opensource.org/licenses/alphabetical
現在、Linuxをはじめ、全OSSの約70%がGPLv2(1991年策定)を採用。
上記３類型の相違点
�掘�GPL
１）GNU GPLの概要
GNUプロジェクトが策定したライセンスは、次の通り。
(1) GNU General Public License(GPL) 「一般公衆利用許諾契約」
(2) GNU Lesser General Public License(LGPL) 「劣等一般利用許諾契約」
(3) GNU Free Documentation License(FDL) 「自由公開文書利用許諾」
単に、GPLという場合には、このGNU GPLを指す場合が多い。
２）GPLの特徴
(1) 著作権者は、自己のソフトウェアに対する著作権を主張しつつ、GPLの定める条件の下で当該ソフトウェアを複製・頒布・改変する権利をユーザーに与える。
(2) 複製物または改変物の再頒布にも同一の条件を付す。
(3) ソースコードを付すか、あるいは求めに応じて開示する。
(4) 無保証
３）法的論点
「オープンソース・ソフトウェアの現状と今後の課題について」（SOFTIC研究会報告書 2004年10月）「GPLに関する法的問題の整理」
a) 単なる宣言なのか、使用許諾契約なのか？
当事者間に意思の合致が存するかどうかによって結論が異なる。ただ、著作権者による宣言であるとした場合でも、これに反する権利行使は、権利濫用あるいは禁反言により許されないと解される。
b) GPLの契約成立問題
著作権者と利用者とが明示的に合意を行うということがないため、いわゆるシュリンクラップ契約やクリックオン契約と類似する問題が生ずる。
c) GPLの対象範囲はどこまでか？
GPLが規定する「派生物(derivative work)」の範囲が不明確であり、各国における著作権法上の派生物や二次的著作物の概念よりも広いと考えられていることから疑義が生じている。
d) どこの国の法律が適用されるのか（準拠法）？
法の適用に関する通則法（2006年全部改正、旧「法例」）
Cf. 欧州委員会レポート「POOLING OPENSOURCE SOFTWARE」
契約に明記されていない場合には、一定の条件のもとにユーザー国の
法律が準拠法になるとする。
e) 著作権法をオーバーライドできるのか？
一般的には、強行法規性を持つ条文に反する条項は無効となり法的拘束力は持たないと言い得る。ただ、当該条項が強行法規と言えるかどうかについては、それぞれの条文の解釈に委ねられている。
f) 日本の著作権法との関係
「公衆送信権」や「著作者人格権」との関係が問題となる。
g) 特許問題
GPLの対象であるソフトウェアが他人の特許権を侵害する可能性がある。
�検�GPLv３
１）経過
・GPLv3 Discussion Draft 1
2006年9月06日 日本語訳 (Open Tech Press)
http://opentechpress.jp/opensource/article.pl?sid=06/09/05/195246
・GPLv3 Discussion Draft 2
2006年9月26日 日本語訳 (Open Tech Press)
http://opentechpress.jp/opensource/article.pl?sid=06/09/26/0422219
・GPLv3 - Third discussion draft
2007年3月28日 (Discussion Draft 3 of Version 3)
http://gplv3.fsf.org/gpl-draft-2007-03-28.html
２）概念図
��) ”Proprietary Software” ソフトウェアの利用や再配布、改変が禁止されているか、許可を得ることが必要とされているか、あるいは厳しい制限が課せられていて自由にそうすることが事実上できなくなっているもの。
��) ”essential patent claims” 既に取得しているか取得する予定であり、著作物を作成、利用、販売することによって侵害される可能性がある、当事者が行使する許可を与えうるすべてのパテントクレーム。
��) “Sharedsource Initiative” 2001年5月、Microsoft社が顧客企業や研究者に対し、ウィンドウズのソースコード開示のためのフレームワークを策定。
��) 「自分が（再）頒布したGPLv3の適用されたソフトウェアに含まれる自分の特許に関して、下流のユーザーを訴えてはいけない。」（第11項）
３）概念の整理
・「派生的著作物」(derivative work)、「含む」(containing) → 「『プログラム』を基にした著作物」(work based on the Program)
・「頒布」(distribute) → 「伝播」(propagate) ・・・複製、頒布（改変の有無を問わない）、公衆への利用化が含まれ、またいくつかの国々では他の活動も含まれる可能性がある。
・「伝達」(convey) ・・・伝播のすべてを意味するが、再許諾を除く。
・「明示的なパテントライセンス」 → 「主要パテントクレーム」(essential patent claims)
・「対応するソースコード」(Corresponding Source Code)
その著作物を生成、インストール、（実行可能な著作物に関しては）オブジェクトコードを実行、または著作物を改変する上で必要とされるソースコードすべてを意味する。
ただし、『システムライブラリ』や、いま列挙した活動を行う上で利用はされるが、著作物の一部ではない汎用のツール、あるいは一般的に利用可能なフリープログラムのうち、そうした活動で改変されずに利用されるものは除外される。
「システムライブラリ」(System Libraries)
以下の下位ユニットのすべてが含まれる。
(a)同一の下位ユニットが、オブジェクトコードが実行される（もし必要なら）特定のオペレーティングシステムの重要かつ主要なコンポーネント（カーネル、ウィンドウシステムなど）としてか、オブジェクトコードを作成するのに使われるコンパイラか、それを実行するのに使われるオブジェクトコード・インタープリタかの付属物として通常含まれているもの
あるいは、
(b)（付随的な拡張がある可能性は別として）下位ユニットが、そのシステムコンポーネントかコンパイラかインタープリタでの著作物の利用を可能とするためにのみ機能するか、広く使われている、あるいは標準的なインターフェースを実装するためのみに機能し、その実装が、ソースコード形式で公衆に対して利用可能となっているもの。
４）v3の特徴
(1)特許問題に対する対応
・特許侵害訴訟を提起した場合、そのような改変されたバージョンすべてに関してここで与えた許可は終了する。
・自らのすべての主要パテントクレームを、あなたに対して、あなたが本許諾書の下で権利を行使することに関して主張する（あるいは他者に主張させる）ことがないということを述べていなければならない。
(2)伝播性の範囲の明確化
(3)ＤＲＭへの対応
・技術的手段回避を禁止する法的権力をすべて放棄し、また第三者が著作物のユーザーに法的権利を行使する手段として著作物の実行や改変を制限するという意図をすべて放棄することになる。
�后�GPLを利用してシステム開発する際の一般的留意点
１）GPLの遵守
著作物の利用につき、ライセンスが存在することが抗弁（正当化事由）となるため、ライセンス契約の成立を主張することとなるため、その遵守が必要。
「本許諾書を受諾しないのであれば著作権侵害である」
なお、英語版のみが法的に有効なものとされている。
“only the original English text of the GNU GPL” legally state
２）著作権表示
GPLでは、すべてのソフトウェアに適切な著作権表示を載せることを要求している。
Cf.氏名表示権（著作権法19条）
３）GPLの撤回不可
一旦GPLによって公開した場合、後日、特定の者に対して排他的利用を行わせる（ライセンス契約を結ぶ）ということはできない。
４）モジュール追加の場合
GPLでは、結合されたプログラムの全体は、GPLのもとで公開されなければならないとされているので、新しく作成されたモジュールについても、GPLが適用される。
５）不正コード混入
Apache Software Foundationの公開サーバーが不正アクセスされた事例
http://www.apache.org/info/20010519-hack.html
６）著作権侵害コードの混入
2003年3月、米国SCO社がＩＢＭ社に対して、SCO社のUNIX技術がＩＢＭによってLinuxへと不正流用されたとして訴えた事件。
http://www.sco.com/scoip/lawsuits/ibm/index.html
７）GPL違反の場合
・License-violation@gnu.org への通報
・ソース公開の強制
・独フランクフルト地裁判決(LG Frankfurt Urt.vom 6.9.2006)
http://opentechpress.jp/opensource/article.pl?sid=06/09/27/0034210
D-LINK社が自社製品にLinuxカーネルなどのGPLソフトウェアを使っていながら、ライセンス規約を添付せず、全ソースコードの同梱もソースコードの入手方法に関する書面の提示を行っていなかった事例に関し、独裁判所は、GPL違反を認め、約2,800ユーロの損害賠償を命じた。
８）特許権侵害の危険性
GPLライセンスによるソフトウェアは、オープンソースすなわちソースコードを開示することを前提としているから、特許権者において、侵害ソフトウェアの内容を調査することが通常のバイナリープログラムの場合と比較して容易である。
第三者からの特許権侵害の主張に対しては、GPLライセンスを受けていることを抗弁とすることはできず、非侵害の主張を行う以外には防御方法が存しない。
Cf. 2006年、IBM、ノベル、フィリップス、ソニー、レッド・ハットの５社は、オープン・インベンション・ネットワーク(http://www.openinventionnetwork.com/)を設立。
�此ゼ�社技術（製品）をGPLとして用いる場合の留意点
１）ソース・コードの開示義務
GPLの場合、頒布されたライブラリなどのプログラムとプロプライエタリ(Proprietary)なプログラムをリンクして１つのソフトウェアとして再頒布する場合に、そのソフトウェア全体にGPLが適用されるため、プロプライエタリ・ソフトウェアのソースコードを開示する義務が生じてしまう。
Cf. LGPL(GNU Lesser General Public License)の場合、LGPLで頒布されているライブラリに静的にリンクしたソフトウェアを再頒布する場合には、そのソースコードの開示が必要となるが、動的にリンクしたソフトウェアを再頒布する場合には、そのソースコードを開示する必要はない。ただし、リバース・エンジニアリングを禁止する条項を含めることはできない。
２）内部的利用の後、事業売却(M&A)する場合
GPLプログラムを内部的に利用し、そのソフトウェアの改良点に企業秘密を実装していた場合、その後、事業売却(M&A)を行う場合には、バイナリだけの提供は認められず、ソースコードも提供せざるを得ない。
３）秘密保持契約（NDA）による譲渡の可否
ソフトウェアの譲渡に関しては、GPLよりも厳しい制限をかけることはできず、秘密保持契約（NDA）下における譲渡は認められていない。ただし、委託先がＯＫを出すまで公開しないというＮＤＡの下で、開発、改変を行うことは問題がない。
４）自社が特許権を有している場合
当該ソフトウェアの再配布の際、特許権の行使が可能であるのか？
GPLは、ライセンシーは、第三者から特許実施料の支払を義務付けられた場合にも、当該実施料の支払をソフトウェアの再配布者に対して請求することができない旨規定しており、そのことからすると、自らの権利についても実施料を請求できないと考えられる。
�察�GPLを利用した製品を再配布、販売する際の留意点
１）瑕疵担保責任
プログラムのバグ（不具合）については、目的たるプログラムの取引通念に照らし、合理的に期待される通常有すべき機能・品質を有していない場合で、かつ通常予見可能な使用環境・使用方法の範囲内で動作上の不具合が発生した場合、瑕疵に該当するとされている。
「電子商取引等に関する準則」(2003年6月、経済産業省)
http://www.meti.go.jp/kohosys/press/0004141/
２）消費者契約法との関係
隠れた瑕疵については、無償契約の場合、消費者契約法8条1項5号の適用はなく、GPLによる免責（無保証）が考えられる。
３）製造物責任
製造物責任法では、製造物につき、「製造又は加工された動産」と規定しており（同法2条1項）、ソフトウェアそれ自体は製造物責任法の対象とはならない。
ただ、ハードウェアが組み込まれたソフトウェアの場合には、製造物責任が発生するという説もあり、GPLの免責条項は、ライセンス契約の当事者ではない消費者には及ばないと考えられる。