裁判員裁判を考える
まもなく裁判員裁判の制度がスタートしようとしています。
最近のニュースでも頻繁に取り上げられている通り、裁判員となった人は、事実認定、法令の適用、量刑判断について裁判官と協議して刑事裁判を進めていくということとなります。
ただ、これまでの刑事裁判では、事実認定等に争いがある場合、山のような証拠の数々が裁判所に提出されることが少なくありませんでした。
そこで、短期間での集中審理の求められる裁判員裁判では、実際に公開される裁判手続に先立って、非公開の公判前整理手続によって争点の絞り込みが行なわれたり、証拠についても要点を絞り、証拠のスリム化を目指すなどの配慮がなされるようになっています。
この点、確かに裁判の迅速化、証拠を要点に絞ると言えば聞こえはよいのですが、もし自分や身内の人が裁かれる側であったならということをここで考えてみてください。
当然自分の裁判は、細かな点にわたるまで正確かつ公正に審理してもらわないと困りますし、万が一にも身に覚えのない罪で有罪となるなど、考えただけでも目の前が真っ暗になるような事態も起こりうるのです。国民に刑を科すことになる刑事裁判という手続きには、決して間違いは許されないのです。
確かに刑事裁判に市民感情、市民の常識を反映させるという制度趣旨は、裁判所は国民の納得できる判断をしなければならないという観点からも、もっともなものであり、推進されるべきです。しかし、その制度趣旨のために、刑事裁判における真実の発見がおろそかになることは決して許されるものではありません。
昨年12月の広島少女殺害事件(下校途中の小学1年、木下あいりちゃん(当時7歳)が殺害された事件。ペルー人、ホセ・マヌエル・トレス・ヤギ被告(36)が殺人や強制わいせつ致死等の罪に問われた事件。)において広島高裁が差戻し判決を出したことに疑問を感じられた方も多いと思いますが、裁判の迅速化を図る一方では、審理が不十分になってしまうというリスクが常に付きまとってしまいます(広島少女殺害事件で問題となったのは、正確にはこの点だけではありませんが)。
現実問題として、今さら嘆いていても何も始まりません。刑事裁判の迅速化を図る一方で、審理が不十分なものとならないよう、裁判官、検察官、弁護士の法曹三者に加えて裁判員の方々が一致団結して、裁判員裁判に真剣に取り組む必要があるのではないでしょうか。「拙速は巧遅に優る」という言葉もありますが、刑事裁判においては、裁判の迅速さだけではなく、「疑わしきは被告人の利益に(無罪の推定)」という大原則につき決して蔑ろにされてはなりません。
(弁護士 武田大輔)