(1) 総論
企業が倒産する原因としては様々な要因が考えられるが、企業が倒産した場合、結果責任として必ず取締役等の経営者に法的責任があるとされるわけではない。しかしながら、経営者による違法行為あるいは放漫経営が原因となり、企業が破綻に至るケースも多い。また、経営者の違法行為等が直接の破綻原因ではない場合においても、損害賠償請求を行うことによって、債務者財産などを増加ないし回復させて債権者に対する返済財源に充てたり、事業継続のための原資を充実させることができる。
(2)違法融資
放漫経営が行われたり、杜撰な管理体制しか行われなかった結果、会社財産が社外に流出してしまう典型例として、金融機関における違法融資あるいは事業会社の子会社支援等の名目のもとになされる違法融資ケースが考えられる。
ア:破綻金融機関の経営者責任
1)責任肯定例
・なにわ銀行(なみはや銀行)事件
(註 大阪地裁平成14年3月27日、判タ1119号194頁)
・長銀初島事件
(註 東京地判平成14年4月25日、判例時報1793号140頁)
・国民銀行判決
(註 平成14年10月31日、判例時報1810号110頁)
2)責任否定例
・長銀EIE訴訟
(註 東京地裁平成14年7月18日、判時1794号131頁)
・福岡商銀事件
(註 福岡地裁平成15年4月17日)
・拓銀エスコリース事件
(註 札幌地裁平成15年9月16日、判時1842号130頁)
イ:事業会社における違法融資責任
・福岡県魚市場事件
(註 福岡高裁昭和55年10月8日、判時1012号117頁)
・東京都観光汽船事件
(註 東京地裁平成7年10月26日、判時1549号125頁、東京高裁平成8年12月11日金融・商事判例1105号23頁、最高裁平成12年9月28日上告棄却)
・ そごう旧取締役損害賠償査定事件
(註 東京地裁平成12年12月8日、金融・商事判例1111号40頁)
(3) 商法規定違反
ア:違法配当
・和歌山県商工組合事件
(註 和歌山地裁平成13年8月9日、大阪高裁平成14年12月27日控訴棄却)
・損害賠償請求権査定決定に対する異議事件
(註 神戸地裁平成13年9月25日)
・そごう旧取締役損害賠償査定事件
(前述)
イ:重要なる財産の取得
(商法260条2 項1号)
・石油海運株主代表訴訟事件
ウ:利益相反取引違反
(商法265条)
・ネオ・ダイキョー自動車学院事件
(註 神戸地裁尼崎支部平成7年11月17日、判例タイムズ901号233頁)
エ:自己株式の取得
・三井鉱山事件
(註 最判平成5年9月9日、民集47巻7号4893頁)
・片倉工業事件
(註 東京地裁平成3年4月18日、判時1395号144頁、東京高裁平成6年8月29日控訴棄却)
オ:第三者割当増資
・サイボー株式会社事件
(註 浦和地裁平成7年8月29日、資料版/商事法務138号158頁、東京高裁平成8年2月28日控訴棄却)
(4)個別法令違反行為
ア:贈賄行為
・ハザマ株主代表訴訟事件
(註 東京地裁平成6年12月22日、商事法務1377号91頁)
イ:関税法・外為法違反
・日本航空電子工業代表訴訟事件
(註 東京地裁平成8年6月20日、判例時報1572号27頁)
ウ:損失補填行為
・野村證券損失補填事件
(註 最高裁平成12年7月7日、判例時報1729号28頁)
エ:大口融資規制
(大口信用供与規制)違反
・大和信組控訴審判決
(註 大阪高裁平成14年3月29日、金融・商事判例1143号16頁)
(5)一般的善管注意義務違反・忠実義務違反
前述した各個別事案においても、責任原因としては、善管注意義務違反(商254条3項)・忠実義務違反(商254条の3)となるものであるが、ここでは、違法融資、商法規定違反及び個別法令違反以外の事例について紹介を行う。
ア:投資・投機型
(余資運用)
・日本サンライズ訴訟
(註 東京地裁平成5年9月21日、判例時報1480号154頁)
・福岡魚市場事件
(註 福岡地裁平成8年1月30日、判例タイムズ247頁)
・ヤクルト株主代表訴訟事件
(註 東京地裁平成13年1月18日、判時1758号143頁)
イ:企業買収型
・セメダイン事件
(註 東京地裁平成8年2月8日、資料版/商事法務144号111頁)
ウ:債務保証型
・大日本土木事件
(註 岐阜地裁平成9年1月16日、資料版/商事法務155号146頁)
エ:債務引受
・蛇の目事件
(東京高裁平成7年7月31日、資料版商事法務137号212頁、最高裁平成7年11月16日却下)
オ:子会社支援
・ミネベア株主代表訴訟担保提供命令申立事件
(註 長野地裁佐久支部平成7年9月20日、資料版/商事法務139号196頁、東京高裁平成8年9月5日抗告棄却)
(6)間接的責任原因
ア:代表者としての地位
代表取締役や代表理事については、自らが指示し、あるいは決裁した事項について責任を問われることがあるのは言うまでもないが、たとえ、自らが案件に関与していなかったとしても、その地位に基づく高度の責任が認められる可能性がある。
したがって、代表取締役や代表理事においては、高度の注意義務を負っており、不当な職務の執行を制するための考え得る手段をすべて尽くしていた(最善を尽くした)というような特段の事情のない限り、たとえ自らが決裁権限を有しない規定に変えたとしても、そのような権限委譲(いわば権限放棄)だけによって責任を免れることはできないと考えるべきであろう。
イ:監視義務違反
・浅沼組株主代表訴訟担保提供命令申立事件(註 大阪地裁平成8年8月28日、判例タイムズ924号259号)
・ミドリ十字株主代表訴訟担保提供命令申立事件(註 大阪地裁平成9年3月21日、資料版/商事法務157号152頁)
・ヤクルト株主代表訴訟事件(前掲)
ウ:内部統制システム構築義務違反
・大和銀行株主代表訴訟担保提供命令事件(註 大阪高裁平成9年12月8日、資料版/商事法務166号138頁)
本件は、いわゆる「システム構築責任」と呼ばれる責任を肯定した裁判例である。