「お金を借りたのは自分だから、返済も自分の手で何とかしたい」
「借金問題で他人に相談するのは恥ずかしい」
「せっかくローンで買った自宅を手放したくない」
多額の借金を抱えている方の中には、上記のような考えをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
確かに、借金は契約である以上、「借りたお金は返す」のが法律上当然のことといえます。しかし、返済が苦しくなった状況にもかかわらず自分で何とかしようとすると、ある業者からの借金を返済するために別の業者から借金をするという「自転車操業」の状態となってしまい、その結果、借金の額が一気に膨らんで、自己破産しか選択肢がなくなってしまう(=自宅などを手放すしかない)という結末を辿ることも多いのです。
そこで、法律は、多額の借金を抱えて約束どおりの返済が不可能または困難になった方が、借金を整理して生活の建て直しを行うことができる制度を用意しています。
■ 弁護士へ依頼するメリット
法律が用意する借金整理のための各種の制度は、借金を抱えている方が自分自身で申立てを行うことも可能です。
しかし、弁護士が債務整理の依頼を受けた場合、まず、弁護士から債権者に対し、代理人に就任したという通知(これを「就任通知」または「介入通知」といいます)を送ります。就任通知を受け取った債権者は、以後は直接本人へ連絡することができなくなり、すべて弁護士との間で交渉することになりますので、依頼者は、債権者からの連絡が来なくなると同時に、個人再生や任意整理など以後の返済が必要になる場合でも、返済開始までの間は返済を一時ストップできるため、生活の建て直しを第一に考えることができるわけです。
また、自己破産や個人再生を弁護士が代理人となって申し立てた場合、基本的に裁判所の手続は書類審査となり、依頼者である本人が裁判所へ出頭する回数(平日の昼間に開催されるため、仕事を休んだりする必要があります)は1回程度で済み、特に個人再生の場合は、裁判所へ出頭する必要はほとんどありません。
このように、弁護士に依頼すれば、早い段階で債権者からの督促から開放されると同時に、裁判所への申立においても、法律の専門家としての知識と経験を最大限に活用することができるのです。
借金の支払いが難しいと感じ始めたら、なるべく早いうちに弁護士のアドバイスを受けることをお勧めします。
■ 借金を整理する方法
自分で事業を行っていない個人の借金を整理する方法は、(1)自己破産、(2)個人再生(小規模個人再生,給与所得者再生)、(3)特定調停、(4)任意整理 の方法があります。
<自己破産>
自己破産とは、裁判所へ破産申立てを行い、破産手続開始決定を受けることにより、財産の精算と借金の整理を行う手続きです。
破産手続開始決定を受けると、裁判所から破産管財人が選任され、その時点で所有していた財産はすべて破産管財人により処分され、債権者への配当に回されることになりますが(管財事件)、本人に目ぼしい財産がない場合には破産管財人は選任されず、破産手続は終了します(同時廃止)。
ただし、破産手続開始決定を受けただけでは借金の支払義務がなくなるわけではなく、裁判所の「免責決定」が必要になります。通常、破産開始決定を受けた日から約2か月後に裁判所による面談(免責審尋)が行われ、債権者から特に異議が出なければ裁判所から免責決定が出され、借金の支払を法律上免れることになります。
なお、破産開始決定を受けても、戸籍や住民票にそれが記載されることはありませんし、裁判所から勤務先へ通知されることもありません。会社の取締役や警備員、保険外交員などの一部の職業は免責決定が確定するまでの間は就くことができないものの、多くの場合、破産前と同じ日常生活を送ることができます。
<個人再生>
個人再生とは、裁判所の再生手続開始決定を受けることで開始され、債務者が所定の返済計画(再生計画案)を裁判所へ提出し、裁判所がこれを認可すれば、再生計画に従った返済をすれば残りの借金が免除されるという手続であり、民事再生法の改正により平成13年4月からスタートした制度です。
個人再生には、個人再生の基本的な形態である「小規模個人再生」と、給与所得など継続的な収入がありその額の変動が小さい場合に利用できる「給与所得者再生」の2種類の手続きが用意されています。2つの手続きには一長一短があります。小規模個人再生は、債権者へ返済する最低額が負債総額の20%に相当する金額を原則として3年間で分割して支払うことになりますが、再生計画案が認可されるためには債権者の多数決による同意が必要になります。一方、給与所得者再生は、裁判所が定めた算定式を利用して債務者の毎月の返済可能額を算出し、その2年分を3年間で分割して支払うこととなる代わり、再生計画案の認可に際して債権者の同意は必要ありません。また、どちらの手続においても、債権者に返済する最低額は100万円以上である必要があります。
さらに、小規模個人再生・給与所得者再生いずれにおいても、自宅不動産を住宅ローンで購入している場合に、所定の条件を満たせば、住宅ローンの返済について他の借金とは異なる扱い(住宅特別条項)を定めることで、借金の整理をしつつ、自宅不動産を処分せず住宅ローンの返済を続けることが可能となっています。
上に述べたとおり、個人再生は債権者に一定額を支払うことになるため、過去に破産・免責を受けたことがある方や、事情により自己破産を申し立てることができない場合、自宅不動産があり住宅ローンを支払っている方が自宅を手放さずに返済を続けたいという場合などには非常に有効な制度です。
ただし、個人再生を利用するためには、負債総額の上限(住宅ローン等を除いて5,000万円以下)があることに注意して下さい。また、あくまで今後3年間返済を続ける必要があるため、無職・無収入の場合は事実上個人再生を利用することができません。
<特定調停>
特定調停とは、「特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律」(特定調停法)という法律に基づく民事調停の制度です。
個人が特定調停を申し立てた場合、通常、債権者から借入れと返済の経過(取引明細)の提出を求め、これをもとに、利息制限法に基づいた利息の再計算(引き直し)を行って債務の減額を図ります。こうして決められた負債総額を前提に、債権者との間で返済条件を話し合うことになります。
特定調停は、裁判所の民事調停の手続の一つであり、申立てを行えば債権者からの督促がストップされるなどの効果があるため、弁護士を依頼しなくても自分で手続を行える、手続費用が安い、といったメリットがあります。
しかし一方で、個人再生のような大幅な借金の減額は通常期待できないことや、多数の債権者がいる場合は裁判所へ何度も出頭する必要があるというデメリットもあります。
<任意整理>
任意整理とは、上に述べたような裁判所への申立てを行わず、弁護士が代理人となって、債権者と裁判外で借金の返済額と方法について話し合いを行う方法による借金の整理方法です。多くの場合、特定調停と同様に利息制限法基づく引き直し計算を行い、その結果をもとに、返済総額の減額や分割支払の条件について交渉するのが通例です。
任意整理は、あくまで債権者との合意が必要になるため、債権者の態度がかたくなであれば交渉自体が難航することもあり、場合によって訴訟に移行してしまうこともあります。しかし、本人や親族から一定のまとまった返済原資(負債総額の6〜8割)を提供できる場合は、これを一括で支払って残りを免除してもらう、といった解決方法が可能であることも多く、また引き直し計算の結果払い過ぎであることが判明した場合は、逆に債権者に対し過払い金の返還を求める交渉ができることもあります。
■ 各手続の使い分け
弁護士が借金の整理を依頼された場合、依頼者にとってどの手続を利用するのが最も妥当かを考えることになります。
あくまで一般論ですが、自宅を所有しており、住宅ローンを返済している人が、それ以外の借金を減額できれば住宅ローンを支払い続けることが可能な場合は、個人再生を選択するケースが多いと思われますし、サラ金などからの借金が7〜10年続いており、これまで延滞がほとんどないような場合は、任意整理により過払い金があるかどうかを調べた方がよいことも多いでしょう。
冒頭でも触れたとおり、「自己破産はしたくない」という方も少なくないようですが、自己破産は、借金を全額支払わなくてもよくなるという意味では最も有効な手続であり、また多くの方は破産しても日常生活に支障がないことから、自己破産を申し立てた方がよいという場合も非常に多いのです。
借金問題で大切なのは何よりも「今の生活を建て直すこと」であり、例えば「自宅を手放さないようにすること」は生活を建て直すための手段でしかないことに注意してください。自宅を守れても、家庭崩壊を招いてしまったら何の意味もないのですから。