近藤総合法律事務所
ソフトウェア取引と法律実務
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 日本においては、1億円を超えるソフトウェア開発委託契約においても、契約書が作成されないケースも多く見られ、深刻な事態となることもあります。予防法学という観点から、当該ソフトウェアの内容について十分に吟味した上で、合意内容を契約書だけではなく、仕様書や議事録において、できるだけ詳細に明文化しておく必要があると言えるでしょう。



1.はじめに

1)IT革命、eビジネスの時代

・「阿吽の呼吸」からグローバル・スタンダードへ


2)重要性を増す知的財産権(intellectual property)

(1) 人の知的・精神的活動による成果物

・著作物  → 著作権
・発明   → 特許法

※「コンピュータ・ソフトウエア関連発明の審査基準」の改訂(2000年12月28日)

a 媒体に記録されていないコンピュータ・プログラムを「物の発明」として取扱うことを明らかにした。

b ハードウエアとソフトウエアを一体として用い、あるアイデアを具体的に実現しようとする場合には、そのソフトウエアの創作は、特許法上の「発明」に該当することを明らかにした。

c ビジネス関連発明の進歩性の判断に関する事例の充実させ、個別のビジネス分野とコンピュータ技術分野の双方の知識を備えた者が、容易に思いつくものは進歩性を有しないことを明らかにした。

・意匠    → 意匠法
・営業秘密  → 不正競争防止法

(2) 営業上の信用を化体した標識

・商標(サービスマークを含む) → 商標法
・商号      → 商法
・品質等の標識 → 不正競争防止法

※不正競争防止法の改正(2001年6月22日成立、同月29日公布)

第二条第一項中第十四号を第十五号とし、第十三号を第十四号とし、第十二号を第十三号とし、第十一号の次に次の一号を加える。

十二 不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的で、他人の特定商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表示するものをいう。)と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得し、若しくは保有し、又はそのドメイン名を使用する行為

http://www.shugiin.go.jp/itdb_main.nsf/html/index_gian.htm


2.著作権法概説

1)著作権法の目的

 「この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作権者当の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする。」(第1条)

2)著作物とは

著作物とは、「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術または音楽の範囲に属するものをいう(2条1項2号)。

(1)思想又は感情の表現

・長尾鶏写真事件(高知地判昭和59年10月29日)

「長尾鶏は著作権法2条1項1号に定める著作物の概念中の美術その他の範囲に属するものともいえないことに帰する。」

(2)創作性の要件

a 単純な模倣
b ささいな改変
「地球儀用地図事件」
c アイデアの不可避的表現
「発光ダイオード事件」
d アイデアの平凡な表現
「簿記仕訳盤事件」

(3)表現とアイデアの二分法(Idea-Expression Dichotomy)

ウェラン事件判決「コンピュータ・プログラムの著作権保護は、プログラムの文字的コード(literal code)を越えて、構造・手順・組織(structure,sequence and organization)に及ぶ」と判示し、物議を醸した。

3)著作権の内容

(1) 著作者人格権(moral right)

・公表権(18条)
・氏名表示権(19条)
・同一性保持権(20条)
・著作権法113条3項のみなし規定

「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす。」

(2) 著作財産権(支分権) 「権利の束」(bundle of rights)

・複製権(21条) ‥‥‥最も基本となる権利
・上演権・演奏権(22条)
・上映権(22条の2)
・公衆送信権等(23条)
・口述権(24条)
・展示権(25条)
・頒布権(26条)
・譲渡権(26条の2)
・貸与権(26条の3)
・翻訳権・翻案権(27条)
・二次的著作物の利用権(28条) (参考)
    ┌放送、有線放送
公衆送信┼自動公衆送信(インタラクティブ送信)
    └送信可能化

(3) 著作権の制限される場合

私的使用のための複製(30条)、引用(32条)、プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等(47条の2)

4)法理論の展開

(1)米国の著作権法

・マージ理論(merger doctrine)
・ありふれた情景の理論(scenes a faire doctrine)
・パブリック・ドメイン(public domain)
・フェアユース(fair use)

(2)デジタル化に関する問題

・「額の汗理論」(sweat of the brow)
・独自の権利(sui generis)

5)著作権侵害(無許諾利用)

・ 判断基準
a 依拠性(アクセス可能性)
b 実質的類似性
・ 効果
(民事責任)
a 差止請求
b 損害賠償請求
(刑事責任)

 懲役3年以下又は罰金300万円以下に処せられる犯罪行為(著作権法119条1号)。また、2001年(平成13年)1月1日以後、法人等がその業務に関し著作権犯罪行為を行った場合には1億円以下の罰金刑が科されること(著作権法124条1項1号)。

最近の裁判例(LEC事件、判例時報1749号19頁)

「被告の原告らに対する著作権侵害行為(不法行為)は,被告が本件プログラムをインストールして複製したことによって成立し,これにより,被告は,本件プログラムの複製品の使用を中止すべき不作為義務を負うとともに,上記著作権侵害行為によって,原告らに与えた損害を賠償すべき義務を負う。そして,本件のように,顧客が正規品に示された販売代金を支払い,正規品を購入することによって,プログラムの正規複製品をインストールして複製した上,それを使用することができる地位を獲得する契約態様が採用されている場合においては,原告らの受けた損害額は,著作権法114条1項又は2項により,正規品小売価格と同額と解するのが最も妥当であることは前記のとおりである。」

3.ソフトウェア開発を巡る契約関係

1)社内開発における法律関係

(1)職務著作(著作権法15条)

・「法人その他使用者の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。」(1項)「法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。」(同条2項)

※外注契約の場合にも、職務著作の規定が適用されるか?

企業内の従業員に対すると同程度に著作行為に指揮監督を与えうる関係が存在する場合には、外注契約の場合であっても職務著作の規定が適用されるという学説もある。しかし、通説は、職務著作となるためには従業員であることを要し、外注業者については適用を否定(加戸守行「著作権法逐条講義〔改訂新版〕著作権情報センター116頁」 なお、米国著作権法にも同様の職務著作(works made for hire)という規定があり、代表的な解説書の注釈によりますと、使用関係を確定する決定的な要素は、契約上「雇用(employment)」という用語を使っているかどうかではなく、使用者が製作者の著作行為に対して指揮監督権を有するかどうかであり、委託関係(commission)によって成立した著作物であっても職務著作になりうると言われています(Nimmer on Copyright Vlo.1,5-10)。)

(2)雇用契約上の守秘義務、秘密保持契約

(1)問題の所在

外注契約の場合には、注文者は職務著作により自己に著作権を帰属させることはできない。ところが、実際には契約書を交わすことなく口頭で製作を依頼するというケースも少なくない。その結果、このように外注したが委託契約書を作成していない場合などに、その成果物が注文者、発注者のいずれの著作物になるのかの問題を巡って問題となることがあります(現代世界総図事件―東京地裁昭和54年3月30日判タ397号148頁)。発注者としては、外注業者に製作を委託し、その代金を支払ったにもかかわらず、極めて権利関係が不安定な立場に置かれます。

したがって、外注契約の場合には、注文者は自己に著作権を帰属させるために、外注業者との間でその旨の合意を結んでおくことが必要であり、その合意内容として、実務上は、注文者に原始的に著作権が帰属する旨の確認条項を入れるか、外注業者から著作権の譲渡を受ける旨の条項を入れておくのが通常です。

(2)開発委託契約(著作権譲渡契約)における留意事項

a 著作権法61条2項との関係

「著作権を譲渡する契約において、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。」

「翻訳権・映画化権その他の翻案権を含むすべての著作権」とか、「21条乃至29条の権利」というように、二次的利用権をきっちりと明記しておく必要

b 著作者人格権の不行使特約

著作者人格権については59条で譲渡ができない。しかし、著作財産権の譲渡を受けた者が当該著作物を改変しようとした場合に、譲渡人から著作者人格権のひとつである同一性保持権を主張された場合には自由に改変できなくなってしまいかねないことになりますし、また、氏名表示権を主張された場合にも困惑せざるを得ない立場に置かれる。そこで、著作者人格権の譲渡を受けることはできないとしても、それに代わるものとして、著作者人格権を行使しないという不行使特約を結ぶことが通常

c 承継取得の場合

受託者が孫請業者に再委託する場合、受託者が当該孫請業者から著作権の譲渡を受ける義務を負う旨の契約条項を入れておくべきであり、最も慎重に考えれば、当該孫請け業者からの著作権譲渡についての契約書等のコピーを交付すべき義務を課しておくという方法もある。

d 保証条項

受託者が、契約により譲渡の対象となる権利が受託者に帰属しており、如何なる第三者の権利を侵害するものではないことを保証し、もし第三者から権利主張を受けた場合には、注文者に外注契約の解除権が発生するとともに、受託者は敗訴等によって注文者が負担を余儀なくされた損害賠償義務等についての求償に応じるという責任などを負うという条項

e その他

・出来高払いの有無(委任契約か請負契約か)
・開発業務の特定(仕様変更、修正要求)
・納期の問題(納期延長の同意)
・原始資料の取扱
・秘密保持義務
・検収及び瑕疵修補責任
・通常有すべき性能の問題(いわゆるバグの存在)
・基本契約書と個別契約の関係

(3)ライセンス(使用許諾)契約

a 著作権譲渡契約との相違

・使用許諾契約の場合、製作してもらったソフトウェアについて細部の修正が必要になった場合に、いちいちもとのプログラムの外注業者に許諾を求なければならないことになりかねず煩雑
・これを別の外注業者に依頼するような場合には、元の外注業者から勝手に改変してもらっては困る等のクレームが発生する可能性があり、その場合には対応不能となる
・後日外注業者との関係で紛争が生じた場合にはそのサービスを一方的に打ち切られてしまう危険性あり

b 契約上の留意点

契約書においては、抽象的文言を避け、できるだけ具体的な利用形態を明記して  おくことが必要。また、許諾料なども明示して承諾を求める必要あり。

(4)シュリンクラップ契約、クリックオン契約

a 契約の有効性・法的構成

b リバースエンジニアリング禁止条項、非保証条項

3広告、表示を巡る問題

(1)不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件(平成10年12月25日公告、平成11年2月1日施行)

・不当景品類及び不当表示防止法第2条第2項に規定する表示とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に関する事項について行う広告その他の表示であって、次に掲げるものをいう。五 情報処理の用に供する機器による広告その他の表示(インターネット、パソコン通信等によるものを含む。)

(2)表示関係

イ)景品表示法第4条第1号(優良誤認) 〜内容についての不当表示

・コンピュータソフト販売業者は,コンピュータウイルス対策ソフトの販売に当たり,インターネット,商品パッケージ等において,「ウイルスを自動監視」,「検知率100%」

,「未知ウイルスも撃退」等と記載し,あたかも,当該ソフトが完全にコンピュータウイルスを検知し駆除するかのように表示していたが,実際には,日々進化する新種のウイルスまでも完全に検知する機能を有するものではなかった(平成13年3月13日警告)

ロ)景品表示法第4条第2号(有利誤認) 〜取引条件についての不当表示

・本間ゴルフは,インターネット上のショッピングサイトであるYahoo!ショッピング及び楽天市場にそれぞれ掲載していたゴルフクラブ16 品目の広告において,例えば,「HONMA BIG−LB NTCM40定価380,000円 特価(又は特別価格)138,000円」と記載するなど,「定価」と称する価格を実際の販売価格に併記する二重価格表示を行っていた。しかしながら,当該「定価」と称する価格は,それぞれの商品の販売開始時における自社の直営店での販売価格であって,同社により最近相当期間に販売された実績のある価格ではないことから,これらは,実際の価格が著しく安いかのように見せかける表示をしていたものである(排除命令、平成13年(排)第1号(13.2.28))。いわゆる二重価格表示。

(3)瑕疵担保責任免除特約


4.おわりに 〜予防法務の時代

(1)iMac事件

1999年9月20日、東京地裁は、アップルコンピュータの「iMac」の形態が争われた不正競争仮処分事件(平成11(ヨ)第22125号)において、「審理に関して付言する」として、「一般に、企業が、他人の権利を侵害する可能性のある商品を製造、販売するに当たっては、自己の行為の正当性について、あらかじめ、法的な観点からの検討を行い、仮に法的紛争に至ったときには、正当性を示す根拠ないし資料を、すみやかに提示することができるよう準備をすべきであるといえる。」と判示しており、裁判所は、法的リスクのある問題については、十分な調査、検討を尽くしておくことを要求しているという点については注意が必要。

(2)最新法律情報

・最高裁知的財産権判決速報

 http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/$About




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「考えたことや見聞きしたことを書き留めるのは、商人が棚卸しをするのと同じだ。それをしないと、自分の店に何が置かれていて、何が足りないかさっぱりわからないじゃないか」(名医ジョン・ハンター)


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